ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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あけましておめでとうとございます。
今年もよろしくお願いします。


残された者達

 響き渡り、奈落の底に消えていくベヒモスの断末魔。ガラガラと騒音を立てながら崩れ落ちていく石橋。

 

 そして……

 

 瓦礫と共に奈落へと吸い込まれるように消えていく蓮弥とハジメ。

 

 

 その光景を、世界が止まったかのように、クラスメイトはただ見ていることしかできなかった。

 

 

 雫の隣で香織が悲鳴をあげる。

 

「離して! 南雲くんの所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! 離してぇ!」

 

 飛び出そうとする香織を()()()()()必死に羽交い締めにする。

 

「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲と藤澤はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

 蓮弥の名前が出てきた際にピクリと雫が反応する。

 

 

 それは、光輝なりに精一杯の言葉だったのだろう。しかし、今この場にいる()()の少女には聞かせるべき言葉ではなかった。

 

「無理って何!? 南雲くんは死んでない! 行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

 その普段からは考えられない香織の言葉に龍太郎や周りの生徒もどうすればいいか分からず、オロオロとするばかりだった。

 

 

 その時、雫が香織に静かに歩み寄り、問答無用で香織の首筋に手刀を落とした。ビクッと一瞬痙攣し、そのまま意識を落とす香織。

 そのまま香織を抱きかかえ、側にいたメルド団長にその身を預けた。

 

「……」

「雫?」

 

 突然のもう一人の幼馴染の行動に光輝が動揺したように言う。

 ここにいる他のクラスメイトも、メルド団長含む騎士達も何もいえない。ただひたすら彼女の行動を見ているしかなかった。

 

 

 この工程は雫にとって必要なことだった。

 もちろんこのままだと心も体も壊してしまう香織を気遣った面もある。だが、雫の真意はそこにはなかった。

 

 

 この優しい壊れそうな少女に、これからやることを見せるわけにはいかなかっただけである。

 

 

 無言で俯く雫。

 流石に様子がおかしいことに気づいた光輝が雫に近づく。

 

「……してやるッ」

「雫?」

 

 光輝がいつものように雫の肩に触れようとする。

 

 そしてそれは起こった。

 

 

 

 

「────殺してやるッッ!!」

 

 

 

 

 その言葉と共に光輝が数メートル弾けとんだ。彼女の体から薄っすら魔力らしきものが立ち上がってそれの影響を受けたようだった。

 

 

 明らかに異常な現象。つまり暴走しているのは香織だけではなかった。

 

 

「──答えろッ!!」

「──蓮弥に魔法を撃ったのは誰だッ!!」

 

 雫は剣気と殺気と憎悪が乗ったどす黒い意志を、味方であるはずのクラスメイトに叩きつけた。

 

 

 最初の一発は誤射だろうと思う。誰がやったかはわからないが、魔法の操作を誤ったのだろうと。だが誰もが再び誤射を起こさないよう気をつけていたはずの環境でおこった二発目は……誰かの悪意があるとしか思えなかった。

 

 

 誰も答えられない。

 クラスメイトは普段頼れる雫の豹変に……

 騎士達はもともと争いのない平和な世界で生きていたとは思えない剣気と殺気に怯んでいたからだ。

 

 

 メルド団長ですら、近づけもしなかった。

 今の雫は、何か得たいの知れないモノを纏っている修羅だった。

 

 

 初めて向けられる人からの殺気に、それも仲間であるはずのクラスメイトの殺気に当てられて誰も動けない。中には引きつけを起こし倒れるものも出始めた。

 

 

 このままではまずいと誰もが思ったが、ここで空気を読まない勇者が動いた。

 

「落ち着け雫。南雲達が死んで悲しいのはわかる! だけどこの中にわざと南雲達に攻撃した奴がいるわけないじゃないか! 俺たちは仲間なんだ! これ以上仲間を失うわけにはいかない。今は脱出することだけを考えるんだ。じゃないと懸命に南雲を助けようとした()()の勇気が無駄になってしまう」

 

 雫は無言で剣に手をかける。これを光輝(ナニカ)に向けて全力で振るえば、耳障りな騒音が止まるだろうか。

 

 

 だが雫が行動を起こす前、耳障りな騒音の中に蓮弥の名前が出ると、雫の脳裏に蓮弥の最後の場面が蘇る。

 

 

 

 雫の殺気が…………止まった。

 

 

 

 理由はわからないが、雫の殺気が止まったことを確認したメルドはこの機会を逃すものかと、尻込みしている生徒達に発破をかけ、なんとかオルクス大迷宮から帰還を果たした。

 

 

 その間、クラスメイトはもちろん、幼馴染の光輝すらも雫に近寄ろうとしなかった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 八重樫雫にとって、藤澤蓮弥は不思議な存在だった。

 

 

 きっかけは祖父が開いている道場。雫を連れた祖父は蓮弥の剣をよく見るようにと雫に言った。祖父の意図がわからず、言われたからという理由でとりあえず観察することにする。

 

 

 そこで雫は、美しい(恐ろしい)ものを見た。

 

 

 正直、未熟な雫の目から見ても、蓮弥に剣の才能があるように感じなかった。だが、その雫の目からみても、彼の剣は誰よりも本気(異質)だった。

 

 

 一振り一振りに全霊をかけているような。()()()()()()()()()()()()()、そんな様子に綺麗だとも怖いとも感じた。

 

 

 思えば祖父は、才能はあれどいまいち本気で剣に打ち込んでいない雫が、彼を見て刺激を受けてくれることを望んだのだろう。雫は彼のことが気になった。

 

 

 彼の剣に対する原動力はなんなのか。

 気になった雫は一度試合を申し込んだことがある。

 だがその時の雫は恥ずかしながら、彼の気に圧倒されて泣いてしまったのだ。

 

 

 その時蓮弥はあの気を放った張本人とは思えないほど動揺した。まるで近所の子供を泣かせてしまったおじさんのような慌てようだった。そんな彼が、差し出したのは一つのキーホルダー。猫だかリスだかわからないデフォルメされたかわいいマスコットが付いた何の変哲もないものだった。

 

 

 だが、剣道をやらされ、雫が好きな可愛いものを遠ざけられていた当時の雫はそのかわいいマスコットに惹かれ、すぐに泣き止んで機嫌を直したのだ。

 

(我ながらチョロインだったな)

 

 その時のことを思い出した雫は、親友が想い人と仲良くなるために覚えた言葉を心の中で思い返したものだ。そして今もそのキーホルダーは大事にしまってある。

 

 

 だがそのすぐ後、もう一人の幼馴染である光輝が入門してきたのをキッカケに、蓮弥に近づけなくなってしまった。光輝はその当時から今のような歪の片鱗を見せており、雫が蓮弥の元に行くことを嫌がったこともあるが、光輝のカリスマに惹かれた女の子達が巻き起こすトラブルを、当時から備わっていた世話焼きの性格と苦労人気質から放って置けなくなってしまったのだ。

 

 

 その後、光輝との試合で負けたのを境に、彼は道場を辞めてしまう。光輝なんかは中途半端だとか逃げたとか言っていたが、雫はそうは思わなかった。去り際の彼の目はまるで望んでいたものはここでは手に入らないと悟ったようだった。

 

 

 その後中学も別になり、蓮弥との繋がりが無くなったと割と本気で落ち込んだ雫だったが、思わぬところで繋がりがあることが発覚する。蓮弥と雫の母親同士が幼馴染の親友だったのだ。その縁もあり、雫は蓮弥と学校が別にも関わらず順調に関係を深めることができた。

 

 

 そんな蓮弥だが、中学時代は突拍子もなく何かを始めては、ある程度できるようになるとやめるということを繰り返していた。ある程度は付き合っていた雫だったが、エスカレートして危ないことに手をだし始めると流石の雫も堪忍袋の尾が切れ、それらの行動をやめないと蓮弥の中学校に無理やり転校して常時見張ると脅してやめさせた。今となってはいい思い出だ。

 

 

 そして高校が一緒になり、幼馴染だがそれ以上の関係には一歩届かないという微妙な関係に収まったのだった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 雫達は大迷宮に潜る前に世話になったホルアドの町の宿に泊まっていた。そこで雫は隣で眠る親友の顔を見る。

 あの時、香織を気絶させたが、何時間も眠るほど強くやったわけではない。家で習得した技だ、失敗したりはしない。

 

 

 となるとやはり精神的なものかと雫は考える。彼女のことを思えばこのまま目を覚まさない方がいいのではないかと考えもした。

 

 

 それに香織は気づいていないかもしれない。クラスメイトの中に悪意を持って蓮弥達を攻撃したものがいるということに。

 

 

 そのことを考えただけで、再び殺意と憎悪に飲まれそうになる。

 実を言うと雫は犯人に()()()()()()をつけていたが、決定的な証拠はないと自分に言い聞かせて殺意を鎮めるということを繰り返していた。もっとも当人を観ると抑えられる自信はなかったが。

 

 

 今雫は大迷宮攻略の際についた破損などを調べるという建前で、武器を没収されていた。それだけでなく部屋には剣士である雫が武器として使えそうなものはなくなったし、気配を探って見るとドアのすぐそばにメルド団長の部下が護衛についている。

 

 

 ようは雫や香織が()()()()()()()()()()()()()見張りを立てているのである。二人は貴重な戦力だ。高々()()()()()()()のために失われるわけにはいかないという上層部の思惑もあるかもしれない。

 

 

 それに今や雫も少し特殊な事情があった。雫は自身のステータスプレートを確認する。大迷宮に入る前と比較して、それ相応にステータスは上がっていたが一番目立つのは技能欄に一つスキルが増えたことだった。

 

【魔力操作】

 

 本来なら魔物しか持ち得ないはずのスキルをなぜか雫は身につけていた。場合によっては厄ネタになりかねないそれをメルド団長は上層部に……報告しなかった。

 

 

 ホルアドに帰ってきたあとメルド団長は雫に忠告していた。

 そのスキルは普段は必ず隠すこと。もし体に異常が起きたら必ず報告してほしいこと。

 

 

 場合によっては教会の意向に逆らうようなメルド団長の行動に雫は素直に感謝していた。

 

 

 雫はベットに横になりつつ自分を修羅から呼び戻したキッカケを思い出す。もちろん光輝の言葉に説得されたわけじゃない。

 

 

 あの時、雫は耳障りな騒音を掻き鳴らす光輝(ナニカ)殺す(壊す)つもりだった。相手が誰かも理解していないし関係ない。邪魔するものは全て斬り捨てる、それだけの思考で行動に移した。

 

 

 ではなにがキッカケになったのか……それは落ちる蓮弥の最後の行動にあった。

 

 

 十字架を握り締め、自分の目を見つめながら落ちていく蓮弥を思い返す。あの時の蓮弥の目は、絶望に染まった目でも、助けを求める悲痛な目でもなかった。強い決意を込めたかつて幼い頃見た本気の目だったのだ。

 

 

 蓮弥の行動に対して、雫は彼が伝えたかったメッセージを正確に受け取っていた。

 

 

(必ず生きて戻る)

 

 

 そのメッセージが、色々振り切れそうな雫の心をかろうじて繋ぎとめていた。もし彼のメッセージがなければ、今頃雫は人を斬り殺す殺人鬼になっているか、文字通り蓮弥の後を追っていたかもしれない。

 

 

 再び隣の親友を見つめる。

 もし、雫の予想通りの人物が、あの事件を起こした犯人なら目的には見当がつく。()()()()()()()()。もし今殺してしまったら蓮弥の仇討ちになってしまう。雫の中でまだ蓮弥は死んでいない。だからまだ討つべき仇はいないのだ。

 

 

 けれどその犯人は既に人を二人も殺している。それが原因で理性のタガが外れているかもしれない。もし、その人物が蓮弥にとどまらず親友にまで手を出すようなら。

 

 

 その時は殺す! 

 

 

 雫は静かに殺意を漲らせる。その時が来た時迷わないように……

 




雫強化その1、とりあえず持たせとけ魔力操作。この世界での特権階級へのパスポート。穏やかな心を持って純粋な怒りによって目覚めたみたいに見えますが、一応理由はあります。

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