ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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アニメ8話。もしかして、このペースなら雫達との再会までいくのか?
たしかにそこまで行けばキリがいいといえばいいが、切り捨てた大事なものも多いような……

後、Einsatz~zugabe~という曲を聴いてテンションを上げている作者です。言わずと知れたDiesiraeの初代OPのアレンジ。神アレンジすぎてすでに何回もループしてたりします。


堕天使と愉快な変態達

 そして、時は少しだけ遡る。

 

 場所はグリューエン大砂漠の外れ。そこにはその場所に似つかわしくない人物が複数人佇んでいる。

 

 

 一人は銀髪の天使。今やたった一人残された神の使徒のナンバーズであるエーアスト。

 

 

 もう一人は大砂漠の熱射の中、暑苦しいカソックをきっちり着込んだ背の高い神父、ダニエル=アルベルト。

 

「案内ご苦労様でした、エーアスト。神の封印がある場所までどのようにして行こうか考えていたので助かりました」

「……あなたの為に案内したのではありません。あくまで主の命に従ったまで。主に命じられた以上、主の期待に全力で応えなさい」

「もちろん、最善を尽くすことをお約束しましょう」

 

 この二人は神エヒトの命で、大災害の封印がある地点まで来ていた。いや、正確には二人ではないが。

 

「それで、後ろの者たちは役に立つのですか? 封印がある場所まではそれなりの妨害もあるのですが」

 

 エーアストがダニエル神父の後ろにいる人物たちに目を向ける。そこには黒いコートを着た人物が複数人立っている。黒いコートにフードを被っているため、エーアストからは男か女かも判別できないだろう。それどころか魔力すら感じていないはずだ。

 

「御心配には及びません。あの者達は我々の協力者ですよ」

「……そうですか。では、主の命じた勤めを果たしなさい」

 

 聞いてきた割にはさほど興味がないという体を示すエーアスト。

 

「それはそうと……お身体の方は大丈夫ですか?」

「…………何の話です?」

「いえ、少し身体を庇っているようでしたので。()()()()()()()()()()()ような動きでしたよ」

 

 その言葉に少しだけ顔をしかめたエーアストだったが、この男のペースに乗せられては駄目だと意識を切り替える。この男に大昔の不覚を知られるのは癪に障る。

 

「あなたには関係ありません。では、私には主より授かった別命がありますので」

 

 そうして空間転移を利用して神域へと帰還した。

 

 

 その様子をしばらく見ていた神父はおもむろに後ろに控えている人物に声をかける。

 

「どうやらもうこちらを見ていないようです。フードを取って魔法を展開しても結構ですよ」

「言われなくてもやるわよ。あーッ、暑──いッ! なんだってこんな場所で、この私が魔法もなしで行動しなきゃいけないわけ?」

 

 そう言っていの一番でフードを取り、耐熱、耐塵用の魔法を展開する使徒フレイヤ。時間経過と共にほぼ元の姿に戻っている彼女の顔は不満を隠そうともしていない。

 

「申し訳ありませんねぇ。そのコートは魔力も気配も誤魔化す優れもののアーティファクトなのですが。代わりに魔法を使うと気配隠蔽を無効にしてしまう仕様でして」

「アーティファクトの仕様なんて聞いてないわよ。私が言ってるのは、どうして私が隠れなきゃいけないのかってことよ。いまさらエーアストごときに後れを取るとでも思ってるのかしら?」

 

 使徒フレイヤは既に自身の力の八割を取り戻していた。それだけの力があれば、エーアストなど簡単に殺せる。神父は困ったように笑い説明が必要かと思う。

 

「今エーアストにいなくなられるとこちらにも色々都合が悪いのですよ。だからといってあなたの存在を知られるのもまた悪手。だからこそこのような手段を取ったまでで」

「全く、クソ天使は相変わらずうるさいな。少しはおとなしくできないわけ?」

 

 そこで第三者が神父とフレイヤの間に割り込みをかける。フレイヤよりかなり小柄な影は同じく黒いコートにフードを被っている。そのフードを外し、同じく耐熱、耐塵用の魔法を()()()で展開する。

 

「これだから神の使徒は。いいところで育っているから我慢というものができないんだね。みっともない」

「あら、ゴキブリ女。自分がいかに劣悪な環境で育ってきたかの自虐なんていらないのよ。それとも、ゴキブリだからどんな場所でも快適に過ごせるのかしら?」

「あ?」

「あ?」

 

 フレイヤとフードを取った少女、中村恵里がメンチを切っていがみ合う。この二人は出会った当初からこのような態度だ。どうやら相当馬が合わないらしく。暇があればお互いを罵って威嚇し合っている。フレイヤに恵里を攻撃してはならないと制約をかけていなければ血みどろの戦争になっていたかもしれない。

 

「お二人ともおちついてください。はぁ、なぜいつもこうなってしまうのでしょうね」

「こいつの存在が気に入らないから」

「こいつがうざいからに決まっているでしょう」

 

 この大砂漠の熱射ゆえかどうかはわからないが、ヒートアップし続ける二人に神父もため息をつかざるを得ない。

 

「場所はわかりましたし、いっそ先にエリセンに避暑にでもいきましょうかねぇ。エリセンはいいところですよ。青い海、白い砂浜。輝く太陽。そして無邪気に遊ぶ海人族の子供達。子供達が無邪気に遊ぶところを見ると、なんとも癒され……どうかしましたか? お二人とも」

 

 

 神父の熱い語りに対して思いっきり恵里とフレイヤは顔をしかめる。そして二人で顔を近づけ、聞こえる内緒話をしはじめる。神父はさきほどまでいがみ合っていた二人の行動に疑問を浮かべる。

 

「ねぇ、ゴキブリ女。あれどう思う?」

「そうだねクソ天使。あれ、絶対初犯じゃないよね」

 

 何やら神父にとって不名誉なことを言っているような気がしたので、一応訂正する。

 

「あのですねお二人とも。私は何もやましい気持ちがあるわけでは……」

「うるさいよ変態」

「顔がキモイのよ変態」

 

 先ほどまでの仲の悪さはどこへ行ったのか、息があった調子で神父を変態扱いする恵里とフレイヤ。

 

「失敬な。一体私のどこかがキモイというのですか」

「海人族の子供たちの話をし始めたころからよ。いったい今までその子たちでどんな悪戯をしてきたのやら、このド変態」

「あの……神父さん。……正直気持ち悪いので近づかないでくれませんか?」

 

 酷い言われようである。フレイヤは直球で神父を幼児に悪戯をするド変態だと決めつけているし、恵里などはわざわざ余所行きの猫を被り直して神父を拒絶するありさまである。実年齢はともかく、見た目年若い二人の少女に汚物を見るような目で見られ、ダニエル神父は心の中でそっと涙を流した。

 

「……それはもういいです。それよりこれから封印のところまで行くのですが、準備はよろしいですか」

「私はいつでもいいけど後ろの奴はいいわけ? ……あんたに言ってるのよ、このパシリが!」

 

 フレイヤがさらに後方でボロ布を纏い、ヘロヘロになりながら各人の荷物を背負っている檜山に声をかける。その姿はかつての姿とは違い、疲弊しきっていた。

 

「げほげほ、せめて……水を……」

「しょうがないわね。ほら、行くわよ。”氾禍浪”」

「ちょ、流石にまっ、ああぁぁぁぁぁあ──」

 

 檜山の願いを聞き届けたフレイヤが、檜山に向けて砂漠で大津波を起こすことでたらふく水を飲ませてやる。最も、あまりに量が多すぎて、檜山は下の方まで押し流されてしまっているが。旅が始まってから檜山の扱いは大体こんな感じだ。フレイヤも殺してはいけないが攻撃してはいけないとは言われていないので、特に理由もなく檜山に暴力を振るうことが頻繁に起きている。小悪党としてカースト下位の人物を影でいじめていた主犯格もここではカースト最下位の洗礼を受けていた。

 

「ちくしょう。ちくしょう。なんで俺がこんな目に」

「まあ、これも試練の内です。がんばってくださいね」

「ひぃぃぃ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。口答えしませんから、もう痛いのは嫌だぁぁああ!」

 

 檜山はいつのまにか近くにいた神父から距離を取るように全力で元の場所まで登る。神父はその様子をみて調教が無事に進んでいることを感じていた。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 グリューエン大砂漠の僻地にある小さな洞窟。その中に神父一行は来ていた。

 

「で? どこに封印なんてものがあるのよ」

「もう少しのはずなのですが……フレイヤ、もう少し辛抱していただけませんか? これでその質問は三度目ですよ」

「私はさっさとこの砂まみれの場所から出たいのよ!」

 

 イライラしつつも、襲ってくる魔物を適当に魔法で倒すフレイヤ。魔物自体は真の大迷宮の魔物ほどではないのだが、数が多い。

 

「というか本当に今までの道で合ってるの神父さん? 僕が見た限り隠し扉とかもあるみたいなんだけど」

 

 初めてきたはずの場所で地図もなしに迷いなく進む神父に疑問を浮かべる恵里。実際、恵里が魔法で感知したところ、いかにもな隠し扉などがいくつもあり、神父はそれに一暼することなくルートを選択しているように見える。

 

「問題ありませんよ。もうすでにこの洞窟の仕組みは掌握済みです。思っていた通り、ここは天然の洞窟ではないようですね」

「あんた程度に仕組みを暴かれてるんじゃこの洞窟の仕掛けも大したことないわね。そんな場所に大災害の封印を置いてあっていいのかしら?」

「ふむ、ならここで恵里さんとフレイヤに問題です。あなた方の手元には宝物があります。それを誰にも取られたくないし、壊されたくない。ならどうすることが一番その宝を守る上で安全かわかりますか?」

 

 突如始まったその問題に虚を突かれつつも、単純なダンジョンで暇をしていた二人は考えてみる。宝を取られたくない、壊されたくないならどうするか。

 

「やっぱり隠し場所を堅牢にするんじゃないかしら。罠を張ったり強力な魔物を設置したり」

「それだと時間と共に攻略される危険性が高まりますよね。……それにあまり堅牢にし過ぎるとそこにそうまでして隠したい物があるのが明白。なら時間も資金もかけて攻略しようとする輩がでてくるかもしれません」

「…………チッ」

 

 フレイヤの案に対して神父がダメ出しをする。フレイヤは別にどうでもいいはずなのにダメだしされるのは腹立つという態度を隠さない。舌打ちされた当たりで再び神父さんが心の中で泣いた。

 

「……偽物を用意しておくとかじゃないかな。それらしいものをわかりやすいところにおいておけば、案外その奥に本命があるなんてわからないものだよ」

「確かに悪くありませんね。しかしそれだと奥深くまで探求しなくては気が済まない人間には気づかれてしまう恐れがあります。世の中には例え恐ろしいものが入ってるかもしれないとわかっていても、奥の奥まで知らないと気が済まない人種というものが存在するのですよ」

「…………」

 

 まるで何かの例えのように恵里の回答に対してコメントをつける神父。その答えに思うところがあったのか沈黙を返す恵里。

 

「まどろっこしいわねッ、正解は何なのよ!」

「そうですね。この場合、宝物を守るために一番いい方法というものは、隠したという事実を悟らせないことなのですよ」

「……どういう意味よ?」

 

 どうやら意味がわからなかったらしいフレイヤがイライラしているのを隠しもせずに神父に問いかける。

 

「つまり、そもそも隠したという事実を誰も知らなければ誰も探しにこないってことでしょ。探す人がいなければ誰にも見つけられるわけがないしね」

「その通りです。この洞窟にはそもそも人が近寄れない工夫がいくつも施されています。例えば道中の砂漠地帯では蜃気楼を利用してこの場所に近づかないように人の無意識に働きかけています。大災害の話はエヒト教で語られてはいますが、誰も真実は知りません。よって知っているもの以外は絶対に入れないような仕掛けになっているわけです。……大災害の封印に限らず、もしかしたら世界中探せばそのような場所は他にもあるかもしれませんね。……おっと、どうやら奥まで辿り着いたようですよ」

 

 神父一行は洞窟の奥にある大広間に出ていた。明らかに何かあると言わんばかりの場所に、ようやくストレスの解消ができるとフレイヤは息巻くが……

 

「フレイヤ、少々お待ちを……」

 

 神父が前に出て足元にある魔法陣を観察する。ある一定距離まで近づくと魔法陣が中央だけでなく周囲にも展開され、魔物が大量に姿を現す。

 

「ふむ、やはりこの程度ですか。ならちょうどいい。恵里さん。()の準備をお願いします」

「なるほど~。ここであれを試すんだね。良いよ、”来い、黒騎士”」

 

 その言葉と共に、恵里が装着していた空間収納系のアーティファクトが光を放ち、側に一人の騎士を召喚する。

 

 

 その全身黒いフルアーマーを装着した騎士は、同じく黒い魔剣を携えながら一言も喋らず恵里の命令を待っている。

 

「僕が命じてあげる。……ここにいる魔物を全て殺せ」

「■■■■■■■■■■■■ッッ!!」

 

 その命令と共に、声にならない叫びを上げ、目にも止まらない速度で魔物を狩り始める黒騎士。魔物はオルクス大迷宮で見た魔物もいれば見たこともない魔物もいる。中にはかつての恵里達クラスメイトの宿敵であるベヒモスに似た魔物も出現するが……

 

「■■■■■■■■■■■■ッッ!!」

 

 今の黒騎士相手には肉壁にすらならない。ベヒモスはただの一刀にて真っ二つに切り裂かれて消滅する。そこからも止まらず石化光線を出すトカゲ、巨大蝙蝠、金属でできたゴーレムなどを次々と薙ぎ払っていく。

 

「へぇ~、少しは見れるようになったじゃない。最初は弱かったのに、今なら没個性の量産品(神の使徒)とも戦えるんじゃない?」

 

 その様子を見ていたフレイヤが少し驚いたように神父に声をかける。フレイヤにとっては何でもない雑魚の集まりなのだが、少なくとも少し前の黒騎士には単独で殲滅するには厳しかったはずだ。

 

「いえいえ、()()()神の使徒と互角レベルでは話になりません。とはいえ、恵里さんのおかげで進捗自体は順調なので、このままいけば次の段階に進むのもそう遠くはないでしょう」

 

 そうこうしている内に、どうやらここの親玉が出現したらしい。明らかに今までとは格の違う、巨大なドラゴンだった。だが、黒騎士の勢いはなおも止まらない。

 

「黒騎士! 限界を超えろ!」

「限■突■!!」

 

 恵里の命令を受けて、エコーがかった言葉を叫びながら黒騎士が膨大な魔力を纏い始める。その魔力値は使徒を吸収する前のフレイヤを優に超えている。

 

 

 ドラゴンも爪やブレスを駆使して追い詰めようとしているのだが、縦横無尽に動き回る黒騎士を捉えられない。業を煮やしたドラゴンが角を光らせながら口にブレスを溜める。今までにない規模の魔力にそろそろ動いた方がいいかと思ったフレイヤだったが。

 

「黒騎士、一刀で斬り捨てろ!」

「覇■・■刹!!」

 

 恵里の命令を受け、黒騎士が魔剣に膨大な魔力を収束していく。魔力量が今のフレイヤにすら迫る勢いで増大していく。魔剣を上段に構えて真っ向から迎え撃つ構えを見せる。

 

 

 ドラゴンのブレスと魔剣の収束斬撃が衝突する。洞窟が崩れかねないせめぎ合いの末勝ったのは、黒騎士。

 

 

 その勢いのまま、ドラゴンに向かって真っすぐに伸びた黒光の斬撃はドラゴンに断末魔の悲鳴を上げさせる。

 

 

 そして、その場に動くものはいなくなった。

 

「すばらしい、上出来ですよ。恵里さんもご苦労様でした」

 

 恵里に労いの言葉をかけるがうっとりしたような目で黒騎士を見ている。

 

「はぁ~、やっぱりいいな、この死体。ねぇねぇ神父さん。これ()()()()()()()()()僕に譲ってよ。絶対に大切に使うからさ~」

「残念ながら彼は替えが効かないのですよ。それにまだ死んではいません。色々馴染ませるために仮死状態にしているだけですので、間違えないように」

「ちぇっ、気に入ってるのにな~」

 

 恵里が不満を言いつつも、黒騎士を亜空間に戻す。現状、仮死状態という都合上、神父より恵里の方が上手く扱えるので彼女に操作させているが、未だに所有権は自分が持っている。

 

(ふむ、どうやら恵里さんの方もちゃんと忘れているようですね)

 

 同時に恵里に掛けた魂魄魔法の掛かり具合もチェックする神父。もっとも、狂気が薄れた表情を見ていればわかるような気もするが。

 

「さあ、この奥に封印がありますので皆さん。急ぎましょう」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ねぇ、似非神父」

「……私はこれでも正式な神父なのですがねぇ。なんでしょうかフレイヤ」

「……あんなことで本当に封印は解けたわけ?」

 

 一行は既に洞窟を抜け出し、再びグリューエン大砂漠の真っただ中にいた。フレイヤの張っている風の結界のおかげで快適に過ごせてはいるが、足元の砂だけはどうにもならない。この感覚に慣れないフレイヤが顔をしかめつつ神父に問いただす。

 

「おや? 何か疑問でもあるので?」

「疑問だらけよ。奥の部屋には変な球体しかないし。その球体を壊して見せれば出てくるのはただの水だったし」

 

 先ほど部屋で封印らしきものを壊したフレイヤだったが、その封印の中身は魔力の籠っていないただの水だったのだ。それで封印が解けたと言われても納得しがたい。

 

「いいえ、あれで間違っていませんよ。あの水はあの洞窟に封じられている魔力と交ざることで真価を発揮するみたいなので。時期にエリセンの海に溶けだしていくでしょう。……惜しいのは、もしかしたらもう今後、エリセンにはいけないかもしれないということですかね」

 

 悲しんでいるように見えるが、それを実行した張本人が言っていい言葉ではない。フレイヤは未だに何を企んでいるのか皆目見当がつかない神父を警戒していた。

 

 

 あたりまえの話だが、トータスにいる以上、大災害がトータスを滅ぼすようなことがあれば神父だって困るはずなのだ。おまけにそれを藤澤蓮弥達に差し向けるにしてはやる気が感じられない。まるで大災害が蓮弥達に倒されることが前提のようにフレイヤの眼には見える。それならば、この行為のどこに神父のメリットがあるのかわからない。封印を熱心に観察していたようだがそれだけだ。

 

「ひゅー、まぶい姉ちゃんはっけーん」

「ちょっと物足りないけど中々可愛いロリもいるな。男は殺すけど女だけは助けてやるよ〜」

 

 そんなことを考えていたら目の前にモヒカン頭のヒャッハーが湧いていた。見た目からどうやらここらを縄張りにする盗賊らしい。もしかしたらここに来ているという商隊の荷物を狙っていたのかもしれない。

 

「おや、まさか盗賊ですか。……いいのですか? 私は神父、神に仕える身ですよ。私を襲えば教会が本格的に動くと思うのですが?」

「そんなことどーでもいいんだよ。知ってるぜ。教会の上層部は悪神に魂を売った邪教徒だったんだろ~」

「ならその邪教徒を退治する俺達って正義の味方じゃーん」

「まあ、女の子にはお世話になるけどな、ひひひ」

 

 どうやら教会の信用も地に落ち始めているらしい。こうなるといつも誰かしらの神の使徒が介入して調整するのだが、今地上で活動できる神の使徒は一体もいない。全く誰のせいでこうなったんだかとフレイヤはまるで他人事のように考えている。

 

 

 それにどうやらお世話になる対象の女は自分らしい。さきほどから全身を舐めまわすように視姦されて鳥肌が立っている。

 

「クソ天使……あいつら、殺そうか」

「珍しく気があったわね。正直視界に入れるのもいやだから消し炭に変えてやるわ」

 

 そしてフレイヤが数十人の男達を消し炭に変えるために魔法を待機させるが……いつの間にか召喚されていた黒騎士がフレイヤ達の前に立っていた。

 

「ということです黒騎士さん。先ほど戦闘したせいでお腹が空いているでしょう。……存分に喰らうといいですよ。いつも通り気にする必要はありません。この者達は生きる資格のない屑。まぎれもない悪なのです。なら、あなたこそが絶対の正義に間違いはない。それをただ遂行するだけです。……殺しなさい」

 

 そこからは一方的な虐殺だった。黒騎士が頭領らしき人物を天辺から股にかけて真っ二つに切り裂くと、目にもとまらぬ速さで男達を蹂躙していく。

 

 広がる叫び声、それが少なくなるにつれ流れていく大量の血。そして数十秒が経過したころには、末端であろう一人だけが残っていた。

 

「あ、あああ、あああああ。た、頼む、見逃してくれ。俺には病気のかーちゃんが故郷で待ってるんだよ。誓う、もう二度と悪いことはしない。真面目に心を入れ替えて働く。だから、だから、頼む!!」

 

 フレイヤが魂魄魔法で相手の心を読み取ったところ。どうやら言っていることは本当らしい。この盗賊団には入ったばかりでまだ手を悪事に染めていない。これが初犯であり、魔が差しただけ。本当に反省しているようだ。ここで見逃せば本当に更生できるかもしれない。

 

 

 フレイヤ的には自分を襲おうとした段階で全員ギルティなのだが、目の前の黒騎士がどうするのか興味が出てきた。以前の彼なら十分見逃す可能性もあったが……

 

 

 だが、ここにはそんな慈悲深き存在はいない。彼が悪だと判断した以上、やることは一つだった。

 

「■■■■■■■■■■■!!」

「ぎゃあああああああああああああああ!!」

 

 哀れ、男は慈悲もなく殺され、その魂は魔剣に吸い上げられていく。あの中に吸われた魂がどうなるのかをフレイヤは知らないが、きっとろくな目には合わないだろう。藤澤蓮弥のような有情のある処置が行われているとはとても思えない。

 

「すばらしい。その調子ですよ。……迷うことなどないのです。あなたは、あなたの正義に従って行動するだけでいいのだから」

「■■■■■■■■■■■■!」

 

 雄たけびを上げる黒騎士にほくそ笑む神父。その黒騎士をうっとりと陶酔した顔で見つめる恵里。目の前で起こった惨劇に次は我が身かとガタガタ怯えているパシリ。

 

(あれ?)

 

 ふと思いついたことがあり、目の前にいる面子を一人一人確認していくフレイヤ。

 

 何を考えているかわからない変態神父

 考えることを放棄した基本意思疎通不可能の狂った変態黒騎士

 死体愛好(ネクロフィリア)の趣味がある変態ゴキブリ女

 存在自体がキモイ変態パシリ

 

(……ひょっとしてこのメンバーの中で一番まともなのって……私なんじゃ……)

 

 自分も大概ひどいとは思っていたが、こいつらのキャラの濃さに負けている気がするのはなぜなのか。

 

 

 どうしてこうなったと。少しだけ今頃海で試練に立ち向かうことになるであろうあの人に、少しだけ会いたくなったフレイヤだった。

 




自分も相当あれなキャラだと思っていたら周りの方が変態で相対的にまともになったフレイヤの図。

次回は蓮弥視点に戻ります。

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