ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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ありふれアニメ9話。

日笠は流石だった。変態をやらせたら右に出る者はいない。後は優花達の表情がコロコロ変わるのも見てて楽しかった。


正田卿がついに復活の時を迎えたそうです。Entyにて神座シリーズ最新作『黒白のアヴェスター』開発中。イラストはもちろんGユウスケ。支援の状況次第では書籍化以上もあるそうなので一層楽しみになりました。毎週連載するらしい正田卿に負けずに頑張りたい今日この頃。


紅い海からの使者

 その光景はある意味幻想的と言えるのだろう。

 

 

 海が真っ赤に染まり、世界が豹変した中で現れた光の妖精。もともとクリオネという生き物が流氷の妖精と呼ばれていることもあるのだろう。それはまるで神の国からの使者のようにも見えなくはない。……奴の正体を知らなければ。

 

「ちっ、個体一体一体は小せえが、数が鬱陶しいな」

「あれ、一体どれだけいるんですかぁ~」

 

 ハジメが冷静にあれらに対する対策を考え、少しシアが涙目になって弱音を吐いている。シアの気持ちはわからなくもない。もともとシアとは相性が良くないことに加え、やっとの思いで勝ったと思った敵が、大群になって襲い掛かってきたのだ。

 

「まずはどう考えてもあいつらを陸地にあげるわけにはいかないな。あれに対処できる人間は限られている」

 

 正直言って並みの冒険者レベルでは対処が難しい。炎系の魔法が使える人間ならまだ戦えるかもしれないが、魔力を持たない海人族などどうすることもできないだろう。

 

「ユナ、ここは異界だと言ったな。……俺の創造で破壊できると思うか?」

「……正直難しいです。蓮弥の創造は確かに強力ではありますが、効果範囲は広くありません。仮に異界に穴をあけてもすぐに修復されてしまうと思います」

 

 要はこの異界の原因となったものを排除しない限りここからでることは難しいということだ。自分達だけなら逃げられるかもしれないが、間違いなくエリセンの住人はこの地獄に置き去りにしなければならない。

 

「なら、やることは一つだな」

 

 蓮弥はユナを聖遺物に戻し、創造を展開する。蓮弥の手に大剣が現れ、再生破壊の概念を宿していく。

 

聖術(マギア)5章6節(5 : 6)……"疾風蒼華"

「丸ごと、殲滅するぞッ!」

 

 神滅剣を横薙ぎに振るうことで視界一杯の悪食と呼ばれる太古の怪物を薙ぎ払った。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「こいつら、一体どれだけ湧いてくるのよッ!」

 

 蓮弥が開幕に悪食をまとめて薙ぎ払ったことでエリセン防衛線と呼べるであろう戦いが始まったわけだが、雫は思わず愚痴を漏らしてしまう。

 

 

 蓮弥が風属性の魔法を使ったことで悪食の大群と共に、この諸悪の根源のように思える霧も一瞬吹き飛ばされたが、ほどなくして赤い海の向こうから補充されていく。そして霧の中から無限に湧き出してくる悪食と呼ばれる怪物。大きさは人間と同じぐらいだが、巨大クリオネと同じく魔力を溶解する能力や再生能力を備えていることは確認済みだ。正直小さくなった分一体一体はたいしたことがないのだが……

 

「鬱陶しいわね。”火焔”」

 

 雫が咒法を用いて、遠距離から触手を伸ばそうとしていた悪食を炎上させる。その勢いで背後に迫っていた悪食の攻撃を飛び跳ねて躱し、炎を纏った斬撃で跡形もなく燃やし斬る。

 

 

 既に戦闘開始から30分が経過している。最初は蓮弥が海から湧き出てくる悪食を広範囲殲滅魔法で丸ごと消滅させていたのだが、それを学習したのか数を増やし、出現範囲を大きく広げて迫ってくるようになると流石に一人でカバーしきれず上陸を許してしまう。

 

 

 現状ではうまくやっていると言っていいだろう。蓮弥は心配する必要もないくらい大量殲滅を行っている。

 

「どうやらミュウのところには行ってねぇみたいだな。本当にレミア邸を要塞化してて良かった」

 

 ガトリンググレネードランチャーというちょっとよくわからない兵器で焼夷弾を打ち続けているハジメも同様だ。

 

 ”これでは埒が明かぬな。まとめて燃え尽きよ”

 

 元々相性が悪くない竜化したティオは炎のブレスで空中の悪食をまとめて燃やす。空中から攻撃できるというのは何気にありがたい。雫も空中を飛べなくはないが、地上戦より得意というわけではない。このまま空中の悪食の殲滅は彼女に任せるしかない。

 

「"蒼龍"」

 

 ユエも蒼龍を上手くコントロールしてできるだけ広範囲の悪食を巻き込んで倒している。

 

「どりゃああああああ──ッッ!」

 

 メルジーネ大迷宮では相性が悪いため遅れをとったシアも既に対策は済んでいる。雫が刀に炎を纏わせて戦っている光景を参考に、ハジメによって炎魔法をエンチャント可能になったドリュッケンを振り回し、悪食の群れをまとめて焼き潰している。

 

 

 だが、それもいつまでも続かないと雫は予想していた。当たりまえの話だが雫達はほぼ全力疾走に近い形で殲滅作業を行っている。そうなると息切れを起こすのは当たり前の話だ。それでも息切れを起こしていないのは……

 

「"位相大廻聖"」

 

 香織による仲間達への魔力譲渡が実行されているからだ。

 

 

 そう、未だに息切れせずに戦えているのは一重に、香織の献身的なサポートがあるからだった。香織自身は攻撃魔法に適正がないらしく、悪食を直接倒すことより周りのサポートすることを優先していた。その香織の貢献は計り知れないだろう。邯鄲の夢の仕様上、魔力消費量は少ないとはいえ、無限に魔力があるわけではないのだ。まして殲滅に大量の魔力を使わざるを得ないユエなどは何度も香織による魔力譲渡により救われている。

 

 

 その香織自身は魔力切れを起こさないのかというと、どうやら心配いらないらしい。

 

 

 雫は蓮弥と再会する前、オルクス大迷宮攻略中に香織に直接聞いたのだが、どうやら香織は空気中の魔素を一度体に取り込まなくても魔力として使うことができる技能を持っているらしく、空間を漂っている魔素を直接魔法陣に取り込んで魔法を発動できるという話だ。香織曰く、大迷宮のような魔素濃度が非常に濃い環境下であれば、自身の魔力をほとんど消耗することなく魔法を使えるのだという。その反面魔素濃度が薄い場所だとそういうことはできないようだが。蓮弥から聞いたライセン大峡谷などの環境では香織は真価を発揮できないかもしれない。

 

 

 とはいえこれもいずれは持たなくなる。香織は無制限で魔力譲渡ができるわけだが、無限であるわけがない。集中力だって持たないし、体力にも限界がある。

 

 

 そして、この悪食討伐で無限に湧き出してくる敵以外にも厄介な要素があった。

 

 

 

 

ウゥゥウゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウゥゥウゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウゥ

 

 

 

「ッ、またこの声ッ!」

 

 この海の向こうから聞こえてくるサイレンのような叫び声が否応なしに集中力の欠如と不安を煽ってくる。雫が魂魄魔法を使ってガードを試みたところ上手くいったあたり、どうやらこれは魂に干渉する類のものであるらしい。ガードできる雫はともかく、魂魄魔法を習得していないメンバーはどうしても一時的に止まらざるを得ない。

 

「ちっ、鬱陶しい音だな!」

「これ聞いてると頭がおかしくなりそうですぅ」

「障壁も意味がない。突き抜ける」

 ”妾もこの音は駄目じゃな。心が落ち着かぬ”

 

 一応ハジメがこの悲鳴対策を試みているのだがいまいち効果が薄い。やはりこれはただ音を響かせているわけはないらしい。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

「!? 待ちなさい! そっちは駄目よ!」

 

 ここで戦っているのは雫達だけではない。最初わけもわからず呆然としているしかなかった者達も、雫達が戦闘をしている光景を見てようやくこれが未曽有の危機だと判断したらしい一部の冒険者が協力を申し出てくれたのだ。

 

 

 時間がないので手短に炎に弱いことと、何でも溶かすことができるから武器による攻撃はやめた方がいいとだけ伝えてある。基本的にその忠告を聞いてくれて炎魔法による遠距離からの援護射撃を行ってくれる彼らだが、このサイレンのような鳴き声を聞いて恐慌に駆られた一部の者たちがパニックを起こしながら無謀な行動に出てくることが度々発生した。雫は戟法を用いて全力で救助に向かおうとするが……

 

 

「がふ……」

 

 冒険者の一人と思わしき男は雫の忠告虚しく、悪食が出した触手に腹部を貫かれる。そしてそのまま溶解液を流し込まれたのか、男が目の前で赤いスープになって溶けだす光景を目撃することになる。

 

「ッ、はぁぁぁぁああああああ──ッッ!!」

 

 無駄だとはわかっていても雫は戟法によって強化された敏捷性をフルに使い、男を襲った悪食を討伐する。そんなことをしても男が生き返らないことなどわかっているのに。

 

(急いで蓮弥! このままだと持たないわよ!)

 

 現在、一人エリセン防衛から外れ、この異界の根源を探すために奮闘しているであろう蓮弥に希望を託して、雫は悪食の群れに斬りかかっていく。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 紅い海の上空。蓮弥は四方八方に出現する悪食をまとめて葬りながら上空を飛び回っていた。

 

 

 蓮弥は当然わかっていた。このままではいずれ全員力尽きると。いくら香織によって魔力体力共に回復可能だといっても限界はあるだろう。脳医学的に人間が集中できる時間は九十分前後なのだという。しかもそれはおそらく安定した環境下での話であり、戦時下での計測など行われてはいないだろう。一時的にアドレナリンでハイになるかもしれないがそれも長時間持たないだろうことは想像にたやすい。休息ができない状況である以上、そろそろ限界が近い。

 

「ユナ、まだ見つからないのか!?」

 

 ユナは精一杯感知を行ってくれているとわかっていても、声の口調が厳しいものにならざるを得ない。現状ユナの感知によりこの異界の根源を見つけることだけが、この状況を乗り越えられる唯一の方法なのだ。

 

『この空間に悪食の魔力が満ちているせいで探知が上手くいきません。せめて何か手がかりや目印でもあればいいのですが……』

 

 どうやら周り全てを悪食の吐き出す魔素で覆われているせいで上手く感知ができないらしい。蓮弥は幾度も風系の聖術で霧を吹き飛ばしているのだが、数秒で元の環境に戻ってしまう。

 

「手掛かりっていっても周りには何もないぞッ!」

 

 

 蓮弥がまとめて悪食を吹き飛ばすがすぐに補充されてしまう。蓮弥とて無限に戦えるわけではない。通常の覇道型の創造とは違い、その特性から求道並みの展開時間を誇る蓮弥の創造だがそれも持って数時間くらいだろう。

 

 

 何か手がかりはないかとユナ任せにするのではなく蓮弥も考える。そして一つ情報を持っているかもしれない存在に行き当たる。

 

 ”おい、リーさん。聞こえてるか? ”

 ”その声は蓮坊か、どうした何があった? ”

 

 そもそも蓮弥達はこの悪食という怪物についてリーさんより情報を得たのだ。なら彼ならば有力な情報を持っているかもしれない。現状唯一の情報元に等しいことにようやく気付いたのだ。

 

 ”この状況を覆すためには情報が足りない。何か悪食の正体についてわかることはないか”

 ”……俺の先祖から受け継がれている伝説では、元々悪食っていうのは海の神と崇められていた存在だったらしい。だが海への敬意を忘れ、海の資源を荒らし始めた人間に怒りを覚えた悪食は、人間達に天罰を下すために大津波などの災害を起こし始めたそうだ”

 

 自然を敬わなくなった人間に自然の神は怒り、天罰を与える。蓮弥の世界の神話にもよくある話だった。

 

 ”その際人族の王は悪食の怒りを鎮めるために、定期的に現れる島に生贄を運び込んで怒りを鎮めていたってな話だ”

 

「生贄を捧げる。現れる島……」

 

 蓮弥は周りは海ばかりだと思っていたが、その時になってようやくそれだけではないことに思い至った。当然の話だがエリセンにも離れ小島くらいある。

 

 

 もしリーさんの言う伝説が事実なのだとしたら、生贄を捧げる島というのは現れるものらしい。ならそこに悪食の核があるとみて間違いないだろう。

 

『蓮弥。異変が起きる前にはなかった島を発見しました』

「!? 本当か?」

 

 蓮弥と同じくリーさんの念話を聞いていたユナが何か異常を発見したらしい。蓮弥はユナが指し示す方向を見る。そこに存在しているのは何ら変哲もない普通の島だった。それほど大きくもなく目立つ存在ではないが、もしそれが擬態だとしたら……

 

『どうやらあれで正しいようです! あれから霧が発生しているのを確認しました』

「ならあれを壊せば霧は止まるのか?」

『まだわかりません。しかし試してみる価値はあると思います』

 

 蓮弥は周りに浮かんでいた悪食を吹き飛ばし、一度大きく距離を取る。神滅剣を上段に構え聖術付与を行う。

 

聖術(マギア)1章7節(1 : 7)……"神浄紅炎"

 

 神滅剣が炎を纏い、収束して炎の柱へと姿を変える。見た目を偽装していても、もしあれがゼリーでできたものであるなら燃えるはずだ。

 

 

 蓮弥は炎の柱と化した剣を振り下ろす。それは道中に存在した悪食の大群ごと燃やしながら島を両断する。

 

 

 蓮弥の予想通り炎上する島。それはこの異界を照らすほどの熱量を発しながら燃え続ける。

 

 

 これで決着がついたか、蓮弥がそう思った時。

 

 

 大怪異悪食は──姿を誤魔化すのをやめ──その真の姿を現したのだ。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「これ……悪食がいなくなっていく……」

 

 蓮弥が島を攻撃した時、全ての悪食は海に溶けるように消滅した。一応雫は周りを警戒していたのだが、あれほどおびただしい数が浮かんでいたのが一匹も姿を現さない。

 

「やったの、かな?」

 

 香織が砂浜に膝をついて息を整えながら呟く。いくら魔力が枯渇しないとはいえ魔法を使う際の精神力の消耗までは免れない。おそらく相当な疲労がたまっているはずだった。

 

「わからない。蓮弥が何かやったみたいなんだけど」

 

 本当にこれで終わりならいいと思う。だが雫は嫌な予感が止まらない。見渡す限りの悪食を倒したというのに粘つくような異界の空気は何も変わらないのだ。

 

「雫さ~ん、香織さ~ん。大丈夫ですか~」

「大丈夫だよ、シア」

「私も大丈夫よ。シアこそ平気かしら?」

 

 シアがこちらに駆け寄るのと同時に竜化を解いたティオ、兵器の砲身を冷却処理しているハジメとハジメに付き添うユエがこちらに集まってくる。

 

「こっちはなんとか大丈夫ですぅ。正直もうくたくたですけど」

「確かにな。流石にこれだけ長時間ぶっ続けで同じ兵器を駆動させるとしばらくは使えねぇな」

 

 倒れ込みそうなシアが何とか返事を返し、ハジメが冷静に今自分が使える装備を改めて見直している。

 

「それでどうなったのじゃ。蓮弥から連絡はあったかの?」

 

 ティオが状況確認を行うが誰も返事をしない。そもそも蓮弥を含めてここにいるメンバーでは情報が足りていない。悪食という怪物が何なのかもよくわからないのだ。正直わけもわからずひたすら戦い続けていたに等しい。

 

 ”ねぇ、リーさん。これで終わったと思う? ”

 

 よって、この悪食について一番詳しそうな人面魚のリーさんに聞くことになる。ユエの質問に対し、リーさんが考えるそぶりを見せるが水槽の中で首を横に振る。

 

 ”ユエの嬢ちゃんには悪いが、俺にもわからねぇな。ただ……”

 

 リーさんが言い難そうに念話を区切る。その雰囲気にどうやらリーさんがこれで終わったと思ってないことが伝わってくる。

 

 ”構わねぇよリーさん。今は正しい情報が知りたい。それから戦うなりここから出る方向にシフトするなり決めればいい”

 

 もしかしたらハジメの中にはミュウとレミアだけつれて逃げるということも考えているのかもしれない。雫とて邯鄲での修行で兵法やその他戦場での心得については学んでいる。時に全てを守ることはできない時もある。その時救い出す優先順位がないといざという時何も守れなくなる。

 

 

 ”そうだな。正直俺の勘は終わったとは言ってねぇ。なぜならかつて悪食は、この世界に現れた七人の光の使徒によって封印されてたからだ”

 ”七人の光の使徒? ”

 ”太古の昔、追い詰められていたこの世界の人間達を救ったという伝説の英雄たちさ。確かそのうちの一人は人族が崇める神になってたはずだ”

 ”それってもしかして……”

 ”神エヒト? ”

 

 ユエのつぶやきにリーさんは頷く。

 

 ”ああ、今はろくでもないことやってる神様だがよ。昔はそれなりにちゃんとしてた時期もあったってな話だ。その神エヒトが封印することしかできなかった怪物がこの程度で滅びるとは思えねぇんだ”

 

 どうやら神エヒトがろくでもないということを把握しているらしいリーさん。その話が本当なら、確かにこの程度で倒せるなら封印ではなく討伐していたような気がすると雫も思う。

 

 

 

 

 

 そして──

 

 

 その不安が現実になるように──

 

 

 それは現れるのだ──

 

 

 

 

 

 再び海からサイレンが鳴り響く。そしてその鳴き声に引かれるように、周囲に漂い続けていた魔瘴の霧は海に集まっていく。

 

「これは……おいおい、嘘だろ!」

「どうしたの、ハジメ?」

 

 ハジメの様子を見ていると頬から冷や汗を流している。いつでも傲岸不遜な彼にしては珍しい反応。だがその反応が同時に今異常事態が起きていることを全員に伝える。

 

「……今俺の右目の魔晶石には、()()()()()()()が赤黒く染まっていくように見える」

 

 魔物の核を見通すことができるハジメの右目がそのような光景を捉えたとしたら、それは一体何を意味するのだろう。

 

 

 その結論を誰かが思い至るまでにそれは姿を現した。

 

 

 霧が集まり、大海原は蠢きながら一部の場所を盛り上げていく。仮初の姿を暴かれた怪物は矮小な人間達に向けて牙を向ける。

 

 

 どんどん集まっていく魔瘴の霧。何万年経とうとも母なる海の化身である自らに敬意を払わないどころか、恐れ知らずにも攻撃を仕掛けるその者達を、それは許すことはない。

 

 

 海の異変はさらに加速し、矮小な存在をあざ笑うかのように天に向けて天井知らずに膨張していく。

 

 

 

 

 

 さあ──母なる海を称えるがいい、矮小な人間達よ。

 

 

 あれこそが、魔将の一角。

 

 

 海の化身だと崇め奉られた神秘の形。

 

 

 この世界に降り立った神エヒトとその仲間たちが、封印するしかないと匙を投げた特級の大権能。

 

 

 ──大災害『悪食』である。

 

 

 

 

 

 既存の悪食と姿は同じなれど、全長千メートルを余裕で超える山のごとき巨体を持って。

 

 

 真なる絶望は人々の前に姿を現したのだ。

 




どうあがいても絶望

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