ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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遅れてしまい申し訳ありません。書いても書いても終わらず、気が付けばとんでもない分量になったのでいくらか削除した上で二話に分かれる形に……

今回はユナ編で、次回は雫編です。


アニメ最終回。

クロスビットさんと蒼龍さんまさかのリストラ。そしてある意味作中一番の見せ場(笑)を奪われた光輝。あんなに潔い光輝なんて勇者(笑)じゃなく、ただの没個性の勇者じゃないか。

あと二期もおめでとう。なんだかんだありふれ二次創作書いてる身からしたら嬉しいです。けど二期はもう少し戦闘描写を頑張ってほしい。フリード戦とかノイント戦とかあるんだから。


幕間 彼女とのデート~ユナ編~

 大災害悪食を討伐し、エリセンを後にしたハジメ、蓮弥一行。

 

 

 そんな日々の合間に生まれた、穏やかな日々を満喫するために、蓮弥は現在、早朝からエリセンの隣に位置するアンカジ公国の広場にて一人佇んでいた。服装はいつもの黒円卓の軍服ではなく、この世界でも悪目立ちしないような落ち着いた私服姿だ。

 

 

 早朝とはいえ、この時間なら既に働き始めている人々がちらほらと出てくる時間帯であり、特に現在アンカジでは疫病や発生した大災害を乗り越えて、復興している最中。住民たちは皆、少しでも町を以前の活気に戻すために精力的に働いていた。

 

 

 蓮弥はその光景を見て、人間の逞しさというものを改めて実感する。つい先日、この隣接する町エリセンにて天を突くような怪物が現れたというのに。

 

 

 もちろんすぐにここまで精力的になったわけではないらしい。結界の外側では悪食は超巨大生物の影のように見えていたらしく、それを見たアンカジの住人はこの世の終わりが来たのかと思ったらしい。明らかにエリセンの方向から異質な魔力が漂ってくるのもそれに拍車をかけた。

 

 

 中には先日の疫病騒ぎといい、今回のことと言い、近頃王都の方で噂されている神の加護が失われたという話が事実であると思ったエヒト教の信者が絶望して命を絶とうとしたこともあったそうだ。幸いにもその人物は周りの人物に止められて一命をとりとめることができたが、下手をすると大惨事一歩手前になったということだ。

 

 

 そんなことがあってなお、この町は活気を取り戻そうとしている。それもこれもこの地に降臨した"星の女神様"のおかげだった。

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 蓮弥はもうすぐ集合時間になることを把握していた。元々万が一にも彼女よりも遅く来ることがないようにわざわざ別れた後、早く出て待っていたのだからそれなりの時間待つことになってしまった。だが、そんなものを苦にするわけがない。

 

 

 なぜなら、これから恋人との楽しいデートが始まるのだから。

 

 

 

 

「お待たせしました、蓮弥」

 

 

 そして蓮弥の恋人、ユナが待ち合わせ時間5分前に到着した。ユナが歩くその姿にアンカジ中の男が恋人のあるなし関わらず一度は振り返っている。

 

 

「遅くなりましたか?」

「いや、そんなことはないよ。それより……」

 

 

 ユナはいつもの黒いブレザーの制服姿ではなかった。

 

 

 白いフリル付きのノースリーブのカットソーにライムグリーンのロングスカートの組み合わせ。

 

 

 いつもの黒主体の制服もユナの銀髪が映えるからいいとは思っている蓮弥だったが、ユナが白い服を着ると一層清楚な雰囲気が増すと実感する。その雰囲気はまさに聖女。容姿だけでは表せないオーラのようなものを纏っているように見える。彼女の一挙手一投足に周りが注目している。

 

「いつもの黒もいいけど、やっぱり白は清楚感が増していいな。……ひょっとしたらユナは気にしてるのかもしれないけど、俺の前ではもっと自由でいてくれたら嬉しい」

「ありがとうございます。蓮弥がそう言ってくれるなら、私も選んだ甲斐があります」

 

 

 ユナは自分を裏切り者だと日頃から言っている。最初にオルクス大迷宮で服を作る際に、ユナは色は黒がいいと言っていたのだ。ひょっとしたら記憶がなくても聖女の頃に着ていた白い服は避けていたのかもしれない。

 

 

 けど、どうやらもうその心配も無用らしい。蓮弥に向けて微笑みかけてくるユナの顔に険は見られない。これからはどんどん、こういう雰囲気のユナも見れるようになってくると思うと蓮弥も楽しみになってくる。彼女の新しい一面を発見するのは彼氏の楽しみの一つなのだ。

 

「じゃあいくか、ユナ」

「はい」

 

 蓮弥とユナのデートが始まる。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 蓮弥とユナは以前は通り過ぎるだけで終わったアンカジの町を順番に見て回る。

 

 

 アンカジ公国は、中立商業都市フューレンを超える高さの外壁に囲まれた全体が乳白色の都だった。外壁も建築物も軒並みミルク色で、外界の赤銅色とのコントラストが美しい町だと言える。砂漠の町なのに近くにオアシスがあるおかげで町には幾本もの河が敷かれており、小舟がひっきりなしに動いている。思ったより緑も多い。

 

「改めて見ると綺麗な町だよな」

「そうですね。区画の割り振り方といい、結界の構成といい、土地の龍脈を損なうことなく上手く使っている場所だと思います。きっと非常に腕の立つ魔法使いが設計に関わっているんでしょうね。この分だと豊かな龍脈の影響をうけて育った名産の果物も期待できそうです」

 

 蓮弥の感嘆の声に対して、途中で買った飴を食べながら聖術使いであるユナらしい返答が来る。見る視点は違えども、この町が気に入ったのは両者とも同じだった。ひょっとしたらユナの過ごした町の雰囲気にも似ているのかもしれない。

 

「なあ、ユナ。ユナは昔こういう町に来た時にはいつもどうしてたんだ?」

「そうですね。やはりまずは我が師の使命の支えとなるべく、兄弟子たちと共に困窮に喘ぐ人々のところに出向いていました」

 

 蓮弥はこれを機会にユナのことをもっと知りたいと思っていた。所謂新約聖書に刻まれている彼女ではなく、ありのままの彼女のことが知れたらいいと蓮弥は常々思っていたから。

 

「観光とかはしなかったのか?」

「師はあまり同じ場所に長くとどまることはありませんでしたので、あまり観光などはできませんでした」

「豪華絢爛の旅とはいかなかったわけだな」

「師は元々無欲な方だったので。決して余裕がある旅ではありませんでした」

 

 ユナ曰く、かの救世主は善人でありすぎたがゆえに、貧しい者からは金銭を受け取らないこともよくあることだったらしい。だけどその行為は、旅の一行の会計として金庫を預かる身であった、かつてのユナを悩ませる行為だったらしい。

 

 

 あたりまえの話だが旅をするためにはどうしても先立つものが必要になる。何事もタダでなんとかなるほど世の中は甘くはなかった。そういうことを現実問題としてわかっていたユナは師や兄弟子に隠れて金策を行ったりしていたのだという。尤も師にはバレていたのではないかと後になってユナは思ったらしいが。

 

「もっとも、その行為が後世において私が強欲であり、一行の金を横領していたと言われる謂れになっているのかもしれませんが」

「それは……」

 

 ユナは新約聖書の中身を知っている。ユナが眠っていた約二千年の間、

 聖遺物”罰姫・逆神の十字架(ゴルゴタ・プロドスィア)”は幾度も十字軍の旗印として戦のたびに掲げられていた。その際に死んだ者の魂は十字架に吸収されている。そしてそれの魂が持つ知識が間接的にユナの知識となっているのだ。だからこそ、後世において自分が、イスカリオテのユダがどのような描かれ方をしているのかわかっている。

 

 

 ここまで来て話題選びを間違えたかと思った蓮弥だったが、気にした様子を見せることなく、途中で買ったカステラのようなお菓子を摘まみながらユナが少しだけ興奮気味に捲し立てる。

 

「しかし、それは仕方なかったのです。師はともかく、兄弟子たちはとにかく金銭感覚というものがない方ばかりでして。私が何とかしなければ一行の旅は途中で立ち往生しなければならないところでした。……特に兄弟子の一人が女性の色香に惑って質の悪い、値段ばかり高い香油を買わされて師に使った時は本気で怒りました。そんな無駄なお金があるなら貧しい人に寄付でもしてくださいと」

 

 暗い雰囲気ではないのは良かったが、何やら昔を思い出してヒートアップしているらしいユナは、蓮弥にとって新鮮だと言えた。特にマグダラのマリアという人には少し思うところがあるらしい。師を誘惑したあの人は許しませんと熱く語っている。

 

「はっ、すみません、蓮弥。こんな話を聞いても楽しくないですよね」

「そんなことはないよ。ユナの新たな一面が見られたからな」

「……ありがとうございます」

 

 少し照れたのかミックスジュースのような飲み物を飲みつつそっぽを向くユナがひたすら可愛かったと蓮弥は満足気に思っていた。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「私の話ばかりじゃなく、蓮弥の話も聞かせてください」

 

 商業区の半分くらいを周った頃、自分が話してばかりだと七色に光るサクランボのようなものを蓮弥と分けて食べつつユナが言ってきた。

 

「俺の話を聞いてもつまらないと思うぞ」

「そんなことはありませんよ。私も蓮弥の話を聞きたいです」

 

 期待しているユナの目を見つめつつ、どうしたものかと考える蓮弥。

 

「とはいっても本当に面白い話なんて何もないんだ。……俺はここに来る前までユナみたいに他人を助けようとか考える余裕なんかなくて、いつか来る日に対してずっとどうにかしなきゃっと思って空回りしていたばかりだったな」

「それは十七歳の誕生日に聖遺物を授かると言うあの女神の予言のことですか?」

「予言じゃなく必然だな。誕生日の前日にこの世界に飛ばされたあたり、仕組まれていたとしか思えない」

 

 そして蓮弥は話した。幼い頃に自分が殺人鬼になる運命だと知った時から、蓮弥の日常はその日に備えるためのただの準備期間に成り下がってしまっていたこと。そのために色々なことをしたこと。結局全てにおいて並外れた結果など出せずに、半分諦めの境地でその日を迎えたこと。……今回は雫の話はしない。納得済みとはいえ、デート中に他の女の話はするべきではないだろうと判断した。

 

「だからユナには感謝しているんだ。きっとユナじゃなかったら、今も俺の悩みは消えてなかっただろうからな」

 

 聖遺物の使徒は慢性的な殺人衝動に襲われるとされている。その理由は聖遺物の使徒が生きているだけでも魂を消耗していくからだ。聖遺物の使徒は老化しない。第二次世界大戦時代の人間が21世紀になっても皆若々しい姿を保っているのだ。その分膨大な魔力を使っていると言っていい。だからこそ静かに暮らしていても定期的な補給は必要になってくる。ただしそれは他の使徒の話であり、他とは違い蓮弥にはユナがいる。ユナから蓮弥に魂の力の供給がされている限り、蓮弥が殺人衝動に悩まされることはない。そしてユナの魂は、至高にして究極、永劫不滅の代物だ。

 

「あとはそうだな……ハジメと同じく結構アニメとか漫画とかは好きだったな。これは前世からそうなんだけどな」

「アニメと漫画……ですか?」

「そうだな……ちょうどあんな感じに近いかもしれないな」

 

 蓮弥は偶々町の一角で紙芝居のようなものを持った男を見つける。どうやら芝居が始まるみたいで周りにはそこそこ人が集まっている。蓮弥とユナは水飴のようなゼリーのような不思議な食べ物を貰いつつ、見学することにする。紙芝居とはいえどうやらアーティファクトの類が使われているらしく。中のイラストがしっかり動いて観客を楽しませる機能が付いているらしい。

 

 そして話が始まる。

 

 

 

 

 これはこの地に降り立った女神の話。

 

 

 昔、昔。この大地には砂漠の妖精という伝説があった。赤の大砂漠には迷い人を守り安全な場所に送り届ける妖精がいる。その妖精は他の地からやってきた同胞と共に、かつてこの地を襲った災いを退け、この地を守ったのだと言う。

 

 

 その伝説からこの地は格別の神の愛を授かった土地だとされていて、この地に危機が訪れた時、天から救いの手は差し伸べられると伝えられてきた。だが時代が進み、そんな噂を信じるものも少なくなり、妖精伝説もすっかり廃れてしまった現代。再びこの地に災いが訪れることになる。

 

 

 この町に突如広がる疫病。水さえ満足に手に入らず苦しむ砂漠の民達。

 

 

 これは土地の神への信仰を失った民達の罪なのか。それとも民達を見限った神の罰なのか。

 

 

 この大地に救いはない。

 

 

 民達は誰しも絶望し。もう駄目だと思ったその時。

 

 

 この地に、女神が降臨したのだ。

 

 

 その女神は聖なる光でもって民達の苦しみを和らげ、この病に効く薬を生み出して民に分け与えたのだ。

 

 

 それにより回復した民達は喜んだが、脅威はそれだけでは終わらない。大火山にて封じられていた邪龍が復活したのだ。

 

 

 だが、女神は再び立ち上がる。民達を救うため、癒しの力を持ちし女神が最も信頼し、そして相思相愛の仲でもある最強の力を持つスタイリッシュな白髪眼帯の錬成騎士とその追っかけの金髪少女とその仲間達と共に邪龍を打倒して見せたのだ。

 

 

 こうしてこの町に再び舞い降りた女神は町のオアシスを癒した後、この地を去っていくことになる。

 

 

 混沌に落ちようとしているこの世を救うため、白髪眼帯の錬成騎士、そしてその仲間達と共に。

 

 

「……」

「……」

 

 芝居が終わっても蓮弥とユナは無言だった。周りの人達はこの地に訪れた奇跡を思い出したのか。香織様、香織様と祈りを捧げ始めるものが現れる始末。白髪眼帯の錬成騎士の躍動感ある戦闘シーンのイラストは子供たちに大人気だ。なお、女神と白髪眼帯の錬成騎士以外の仲間達の出番は非常に少ない。

 

 

 思いっきり知り合いの話だった。どうやら既に紙芝居になっているらしい。というより心なしか優遇されているキャラとそうでないキャラの差が激しいような気がする。

 

「……そろそろいくか」

「そうですね」

 

 とりあえず近い未来、般若と雷龍を背負った女二人の血みどろの戦いが起きそうだと蓮弥は思わずため息をつきたくなった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「この後はどうするんですか?」

「まだ予約の時間まで余裕があるから露店でも見て回らないか?」

 

 

 蓮弥とユナは露天商が並ぶエリアに来ていた。ここではアンカジ公国の特産の土産を売っている場所であり、客は皆明るい顔でショッピングを楽しんでいた。

 

「何か欲しいものとかあるか?」

「気持ちは嬉しいですけど、あんまり無駄遣いは感心しませんよ」

 

 どうやらこういう場ではついつい相場以上の値段のものを買わされやすいということを熟知しているらしい。商人の娘だったからか、店主の顔を見て良心的な商売をしているかそうでないかを見極めようとしている。

 

「いいんだよ。使うべき時に使う。誰も金を使わなかったら経済は回らない。幸い金はあるんだ。たんまりとな」

 

 ハジメ達が疫病を治療した件、エリセンを襲った大量の魔物と大怪物の襲来。そして香織により直されたオアシスの件のこともあり、ここまで恩を受けておいて、このままタダで返しては領主一家が末代まで笑い者にされると、割と強引に報奨金が与えられていた。

 

 

 およそ平民が何十年も遊べるような額と代表者のハジメなどには爵位を与えるなどど言う話になったがハジメは必要な分だけ報奨金を受け取り、爵位の件は丁重に断った。この世界に長居する気のないハジメにとって、そんなものあっても重たいだけだからだ。

 

 

 代わりにかつてフューレンギルド支部長イルワにやったように、有事の際にハジメ達の後ろ盾になって貰えることで合意した。その際に蓮弥がすでに異端認定されていることも話したが快く受け入れてくれた。曰く、これほど尽くしてくれた恩人を異端者だからといって差し出せと迫ってくるようなら、それは教会がおかしいとのことだった。どうやらアンカジ公国にも現在の教会の混乱は聞こえてきているらしい。

 

 

 そんなわけで、蓮弥にもそれなりの額の纏まった金額が渡されている。

 

「それはそうですけど……わかりました。蓮弥がいいと言うなら……」

 

 ユナが本格的に露店を覗き始めたので、蓮弥もさっさと買い物を済ませる。そして悩んだ結果。

 

「これなんて素敵だと思います」

 

 ユナが選んだものは美しい金と銀の装飾の入った砂時計だった。アンティークとしても良いものだと蓮弥にもわかるし、中々良いチョイスだと思う。

 

「お、そこの綺麗なお嬢ちゃん、お目が高いね。これは古代のちょっとしたアーティファクトでな。その砂時計に時間を告げるだけで砂の落ちるスピードが変わるんだ。それに時間が経てば音を出して教えてくれる機能もついてる。製作者はわからないんだが、この作者が作ったアンティークのシリーズを集めるマニアも結構いるらしい」

 

 そこでユナが後ろを向けてそっと蓮弥に見せる。

 

(これは……オルクスの証。ということはこれを作ったのはオスカー・オルクスなのか)

 

 ミレディから聞いたオスカーの情報は眼鏡が本体のメイド服好きというものだけではない。ミレディ曰く、どんなアーティファクトも作れてしまう希代の錬成師だったという。アーティファクトもそうだが、それ以外のものでも彼が作ったものは全て超一流の代物だったという自慢話をミレディが誇らしげにしていたので覚えている(ただし、ミレディは彼のネーミングセンスだけは酷評していた)。何千年前から現存しているのはもしかしたら神代魔法の力なのかもしれない。

 

「ならこれを貰うよ。これで足りるか?」

「なっ、新金貨。それもこんなにたくさん。ああ、いやこんなにいらない、これで十分だ。……ところで兄さん、さぞかし名のある資産家とお見受けするが、他にもオススメが……」

「じゃあ行こうか、ユナ」

「はい。では、おじさま。ありがとうございました」

「あ、ああ」

 

 どうやら店主は、蓮弥から感じるお金の気配に商売魂に火がついたようだったが、ユナの極上のスマイルに見惚れている隙に退散させてもらった。

 

 

 ユナ曰く、無駄遣いは感心しないということだから。

 

 

 そして昼時より少し早い時間、蓮弥とユナはこのデートの目玉ともいえる場所に来ていた。

 

「お待ちしておりました、藤澤蓮弥様、それにユナ様。こちらへどうぞ」

 

 この地では例によって顔が効くこともあり、中々予約が取れないレストランの特別席を用意してもらった。無茶をしたかもしれないが、ピークの時間と少しズラしたし、それなりの額の心遣いも渡したので文句はないだろう。

 

 

 そこで出てくる料理は果物と共に収穫されている香辛料を使ったスパイス料理が中心であり、母親のおかげで中々舌が肥えていた蓮弥をして満足だと言えるものだった。

 

「確かユナは料理もできるんだよな」

 

 確か過去の記憶を見た際に、料理を作ってるユナのシーンもあったので蓮弥はこれを機会に聞いてみることにした。

 

「この世界で同じように作れるかはわかりませんが一応。これも同じく周りにできる人がいなくて。私はマルタさん……かつての親友に教えて貰いました」

 

 だから大量に作る料理なんかは得意だと、少し懐かしげにユナは語る。

 

 

「マルタというと、もしかして竜の聖女マルタのことか。邪竜タラスクを素手で調伏したという」

「そうらしいですね。……その時にはすでに私は聖遺物の中だったので、親友の偉業を直接見ることができなかったのは残念です」

 

 ユナにとって彼女は貴重な同性の親友であり、姉のような人であり、さらに拳法の師匠でもあったらしい。姉御肌で面倒見が良くて、同性にもモテるところは雫に似ているという。少ししんみりとした空気を出すユナだったが、親友のことを語るユナの顔は穏やかだった。きっと彼女との想い出はユナにとって素敵なものだったのだろう。また一つ、ユナの新たな一面を知ることができた。

 

 

 そして昼食がほぼ済み、残るはデザートだけとなった。だがむしろ、ここにきた真の目的がデザートと言っても過言ではない。

 

「お待たせしました。これがアンカジ名物、アンカジフルーツを使った虹のゼリーになります」

 

 それは七色に輝く美しいゼリーだった。中にはアンカジ名産のフルーツが贅沢に使用されており、その一つ一つが一級品だとわかる。

 

 

 そして特徴はそれだけではない。とにかくそのサイズが巨大だった。

 

 

 まるでバケツをひっくり返したような大きさは高さにして約三十cm以上はあるだろうか。サイズは選べたのだがどうせならたくさん食べたいというユナの希望で一番大きいサイズを頼んでいたのだ。

 

 

「これ……ユナ、食いきれるのか?」

 

 思い返してみればユナはここに来る道中にも結構つまみ食いしていたのだ。ランチとして食べたスパイス料理もそれなりの量があったと蓮弥は思っているのだが。

 

「大丈夫、まだまだいけます。……いただきます」

「……いただきます」

 

 一口食べただけで数種類の水菓子の果汁が口の中で弾けるようだ。食べるごとに味が七色に変わって飽きることがない。これならこの量を食べてしまう人がそれなりの数いるのは納得だろう。尤も、そういう人はランチは食べないらしいが。

 

 蓮弥が美味しいが中々減ってくれないゼリーを自分のペースで食べている間、ユナは上品ながらも、かなり早いスピードでゼリーを平らげていく。その顔はこのデートで一番幸せそうな顔だった。ここで蓮弥はユナは結構大食漢だったことを思い出した。これだけ食べても太らないのだからある意味女性の天敵だろう。

 

「ユナ……食べるのが好きなんだな」

「はっ、いえ、その……さきほど言った通り、私達の旅には娯楽が少なくて、師はともかく弟子の中では何か一つ娯楽を定めて偶に楽しむという暗黙の了解が広がっていまして」

「それがユナにとって食べることだったと」

 

 ユナは少しだけ恥ずかしそうにコクンと頷く。

 

「そうか、ならこれからもっと色々なものを食べて回ろう。これでも母さんの影響で俺も食べるのは好きだしな。……地球に帰ったらユナの時代にはなかったものもいっぱいご馳走するからさ」

「はい!」

 

 笑顔と共に、蓮弥とユナは再び帰郷の意思を固めたのだった。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「今日は楽しかったし、美味しかったです、蓮弥」

「そうか、それなら良かったよ」

 

 昼食が終わり、ここで蓮弥とユナのデートは終わりとなる。

 

「ごめんな。本当は二日に分けれたら良かったんだけど、どうしても予定が今日しか合わなくて」

「いいえ。私は満足ですよ。じゃあ、私は……」

「ああ、ちょっと待った」

 

 聖遺物に戻ろうとするユナを呼び止める。一つ渡したいものがあったから。

 

「これをユナに……」

「これは……パールのネックレスですか?」

 

 蓮弥が箱を広げて見せるとそこには一粒の真珠が付いたネックレスが入っていた。ユナが露店を物色している間に買ったものだ。

 

「雫にはあの雫型の宝石の髪留めを送ってるからな。いつかユナにも何か送りたいと思ってたんだ」

 

 何でも、ある方法以外では天変地異でも起きない限り滅多に姿を現さない貝からとれた珍しい真珠らしい。いわば自分が掘り起こしたものなので色を付けて買った代物だ。

 

「これ、結構高かったんじゃ……それに砂時計も買って貰いましたし……」

「気にするな。俺が贈りたいから贈るんだから」

 

 この世界に永住するならともかく、そうでないならこの世界の通貨を溜める必要などない。使うべきときに使うことが一番だろう。

 

「真珠には無垢、純潔という意味と愛情の象徴でもある。……ひょっとしたらユナは過去の自分のことを気にしているかもしれないけど、俺は気にしない。どんなユナでも受け入れる。……好きだよ、ユナ。これからもありのままのユナを俺に見せてほしい」

 

 ユナが宝石に興味があるかどうかはわからない。嵩張るものでも派手な物でもないし、ハズレはないだろうと思って贈ったのだが果たして。

 

「…………蓮弥、これを私につけてくれますか?」

「ああ」

 

 少しかがんでユナの首にネックレスを付ける。そして付け終わったことを知らせようとした時。

 

 

 ユナの唇が、蓮弥の唇に軽く触れる。

 

 

 それは数秒の接触ではあったが、その柔らかい感触は確かに蓮弥に伝わってきて……

 

「ユナ…………その……聖約は?」

 

 驚きすぎてそんな気の利かないことしか言えない蓮弥。確かユナは雫と過剰に蓮弥と接触するのを禁じられていたはずだが。

 

「ふふふ、聖約を結んだのは私ですよ。抜け道の一つくらい用意しています」

 

 少し顔を赤くしながら悪戯っぽく笑うユナは魅力的だとしか言えなくて。

 

「ありがとうございます。これはずっと大切にしますからね、蓮弥」

「ああ」

「本当は名残惜しいのですが、後は雫に譲ります。少なくともこれくらいは進展できるように頑張ってくださいね」

「ああ」

 

 まだ正気に戻り切っていない蓮弥に対してお礼を言いつつ、蓮弥に発破をかけながら、ユナは満足げな笑顔と共に聖遺物に戻っていった。

 

 

「……やられた。……大丈夫か、これ。この後、雫と予定があるのに」

 

 

 間違っても紅くなった顔で雫の前に立つわけにはいかない。午後の予定まであと少し。

 

 

 蓮弥は何とか緩みそうになる顔を整えるのに全力を使うのだった。

 




おまけ
 蓮弥がデートを行う数日前のハジメ一行の出来事

 ユエ「さあ、香織。あのガチムチでテカテカな男たちの期待に応えてあげて」

 香織教信者その1「香織様、万歳ァァァァィ!!」
 香織教信者その2「香織様ぁぁぁ!! ぜひ、ぜひあなた様の伝説を舞台にぃぃぃ!!」
 香織教信者その3「はぁ、はぁ、香織様がこちらを見てくれた。お、俺……もう死んでもいいかも」
香織教信者その4「今、女神と目が合ったか。……ああ、今なら胸を張って言える。……私は今、生きている!!」

 香織「ちょっと待ってユエ! 重力魔法を使ってまであの人達のところへ行かせないで。あああ、助けて──ッ! ハジメくーん!!」
 ハジメ「ユエ……」
 ユエ「大丈夫。香織はたくましいから二時間くらいは放置しても平気なはず。さあ、ハジメ……今から私達はデートの時間」
香織信者ブラザーズ「香織様……万、歳ァァァァィ!!」
 香織「覚えてなさいよ、ユエ──ッ! 私を放置したこと、ぜっっったいに後悔させてあげるんだから──ッ!」

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