ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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またまた長くなってしまったので前編後編で分けます。あんまりダラダラ修行編をやってもダレるかもしれないので次で終わらせる予定です。たぶん。

某笑顔動画で黒白のアヴェスターの序章をサウンドノベル風にしている爪牙の方がいましたが一瞬本物かと思うくらい出来が良かったので黒白のアヴェスターを知りたいという方はぜひ。


幕間 修練の時間 前編

「ユナ……私を、鍛えてほしい」

 

 ユエが蓮弥の隣に座っていたユナに対して行った懇願から、物語は始まる。

 

 

 そもそもなぜユエが自分を鍛えてほしいという話を出したのかというと、このままでは置いていかれるという漠然な不安を感じていたことに起因する。

 

 

 ユエは感じていた。共に旅をしている一行の中でパワーバランスが傾き始めていることに。ハジメはアーティファクトによって強さが変わるので例外にしても、まず蓮弥がパーティー最強だろうとわかる。悪食戦での戦闘を見た限り、今のユエでは真正面から戦って勝ち目があるとは思えない。

 

 

 次につい先日合流した八重樫雫である。正直ユエからしたらわけがわからないという意味では彼女はダントツだろう。何しろホルアドで別れた時と再会した時ではまるで別人である。よほど手に入れた魂魄魔法の相性が良かったのか、もしくはハジメが言うところの忍術とやらが原因かはわからないが、彼女の戦闘力も頭一つ飛び抜けていると言わざるを得ない。ユエではあのパーティー随一の敏捷についていけずに一方的になます斬りにされるだろう。遠距離から攻撃すればいいという考えも、悪食戦で見せた伸びる刃や飛ぶ斬撃がある以上確実とは言えない。

 

 

 香織も正直侮れない。ユエの個人的感情では認めたくないが、魔力使いという意味では彼女は自分より格上であると認めざるを得ない。つい最近じゃれあいレベルの戦闘を彼女と行ったが、彼女に魔法で挑むのは分が悪いとわかった。どういう魔法かは教えてもらえなかったが──香織曰く、言えないようになっているとのこと──どうやら相手の魔力に干渉することができるらしい。雷龍の制御を奪われてはね返された時は驚愕せざるを得なかった。とはいえ一度に多数の魔法に干渉できないことは戦っていてわかったので香織相手には質より量という感じでやれば苦戦しつつも勝てるだろう。だが治癒師が本職の香織に自分が戦闘で手こずることがわかってしまった。

 

 

 纏めると、ハジメを含むパーティーの地球人が総じてチートすぎるということだろうか。ハジメ曰く、魔法などはなく、魔法の代わりに科学というものが発展した人間しかいない世界とのことだが、事ここに至ってそれはかなり怪しいとユエは睨んでいる。ハジメが嘘をつく理由はないのでおそらく表では知られていない何かがあるのではないのではないかと思っていた。

 

 

 もし今後もあの悪食のような怪物や本格的に神の使徒が動き始めるのなら個人的なパワーアップは必須である。だからこそ、このパーティーの中で一番自分の戦闘スタイルに近いユナに指導を依頼し、空いている時間でいいのならとユナから了承の返事受け取ったのだ。話を聞くとどうやらシアも同じ考えに至ったらしく香織から魔力の使い方を教わるらしい。

 

 

 だからこそ、ユエはユナと。シアは香織と。東へ向かう道中の合間に訓練を行うことになったのだ。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 そしてユエはユナの作った内界の神殿らしき場所にいた。突然この世界につれてこられた時は何事かと思ったが、どうやらユナが本気で戦うための空間だそうだ。神殿の外を見るとそこには森林地帯が広がる広大な土地が広がっていた。この空間が作られた空間という時点でどういう仕組みか非常に気になる。

 

「ではまずはユエ、あなたの力を見せてもらいましょうか」

「わかった。本気で行くから」

 

 力を見せろと言われたのだからその期待に応えなくてはならない。同時にユエはユナの実力も知りたいと思っていた。たしかに膨大な魔力を持ち、ユエが認めるだけの魔法の技量を持っていることはわかるが、一体どれくらい強いのかはステータス上の数値でしかわかっていないのだ。あの数字をそのまま鵜呑みにするのなら化物としか言いようがないが、戦闘はステータスだけでは決まらない。

 

 

「"緋槍"」

 

 まずは小手調べというわけでユエの得意な上級炎魔法で攻撃してみる。これをどう対応するかだけでも、相手の技量、戦闘スタイルなどがわかるものだ。だが、その攻撃をユナは微動だにせず受け止める。ユナは……傷一つついていない。

 

「ッ!」

 

 ユエが少し動揺する。何もこの魔法がユナに通じるとはユエも思っていなかった。いなかったが、それは避けられるか防御されるかだと思っていたのだ。まさか微動だにせず無防備に受け止めて無傷とは思わなかった。

 

 

「一つ助言を。私に生半可な神秘による攻撃は効きません。香織が以前言っていた神秘の強度の問題です。今の私に攻撃を通したかったら弱所を突くか、最低でも神代魔法を絡ませないと意味がありませんよ」

 

 つまり神代魔法より格が低い魔法は問答無用でレジストされるということか。それだけですでに反則クラスの技能だ。なぜならそれだけでこの世界に生きるものの大半はユナに傷一つ付けられないということになるのだから。

 

「"雷龍"」

 

 雷属性上級魔法"雷槌"と重力魔法を組み合わせたユエの最近の十八番になりつつある魔法を使う。ユナの理屈ならこれならダメージが通るはずだ。

 

聖術(マギア)2章1節(2 : 1)……"謐水"

 

 だがユエが生み出した雷の龍は、ユナによる純水のレーザーにより真っ二つにされて消滅する。

 

「"禍天"」

 

 続け様にユエが重力場を作ってユナを押し潰そうとする。だが対して効果があるように見えない。通常の十倍の重力がかかっているはずなのに。

 

「この程度では足止めにもなりませんよ。……構いません。殺す気で来なさい」

「……どうなっても知らないから」

 

 その言葉に軽く頭にきたユエが、なら本気を出してやろうとさらに禍天の威力をあげる。三十倍まで上昇した重力がユナにかかり、足元を潰していく。

 

聖術(マギア)4章1節(4 : 1)……"雷光"

 

 その状態を気にせずユナが前方に手をかざし雷を放ってくる。それをユエは一旦魔法構築を中断して横に落ちることで躱す。ユナはその聖術の行使を続け、ユエを追い続ける。雷が神殿内を自由自在に駆け回り、ユエはそれを躱しつつ魔法を構築していく。

 

(生半可な攻撃は効かない。真正面から攻撃しても迎撃して潰される。なら、防御不可能の攻撃を行う)

 

 少し時間はかかったが魔法式は完成した。

 

「"千断"」

 

 空間魔法"千断"。簡単にいえば空間の位相をずらすことによって生まれる空間修正力を利用した攻撃であり、言わば空間のギロチンだ。理屈上防御不可能の攻撃。正直エグすぎて仲間に使っていい魔法ではないが、殺す気でこいと言ったのはユナだ。

 

 

 だが、ユナはその防御不可能の空間攻撃の際に発生した歪みを、手で握り潰して破壊してしまう。

 

「…………は?」

 

 起きた現象が理解できずにユエは固まる。防御不可能のはずの攻撃を防御されるという矛盾。自信のある魔法だっただけに隙を晒してしまう。

 

「"千断"」

 

 ユナは戦闘には聖術を基本的に使用するが、それは使い慣れたものであるが故であり、この世界で習得した魔法が使えないわけではない。

 

 

 お返しとばかりに放たれた空間のギロチンがユエの右腕を巻き込んで炸裂する。

 

「ぐっ!?」

 

 当然ユナのような理解不能の防御手段を持っていないユエは右腕を切断されるしかない。

 

「おかしい、なんで……ユナが空間魔法を?」

 

 自動再生による右腕の再生時間を稼ぐために、疑問をユナに投げかける。だがユエの疑問も当然だろう。蓮弥はグリューエン大迷宮を攻略していない。なので当然、空間魔法を習得していないわけだが、なぜ蓮弥と一心同体のユナが空間魔法を使えるのか。

 

「なぜって。今ユエが使って見せてくれたではありませんか。空間制御の術は聖術にもあります。それを応用すれば、再現することは決して難しいことではありません。それより……今の攻防でユエの現状を理解しました。()()()()()()()()()()

 

 ユエの視界からユナが消失したのと同時に眼前に出現した。

 

「ッ!?」

 

 その動きにユエが反応する間もなく、ユナが振るう掌底の一発がユエの肺に叩き付けられる。

 

「がは!?」

 

 肺を絶妙に圧迫され、体内の空気を全て強制的に排出される。息苦しさからユエが反射的に大きく息を吸い込んだところに鳩尾に膝蹴りを叩きこまれ、再び呼吸を妨害される。空気を吸うことすらできないユエはわけもわからず今度は顎を再び掌底で跳ね上げられ、伸び上がった体勢のままユナの回し蹴りで神殿の外まで吹き飛ばされる。

 

 扉を突き破りながら吹き飛んでいき、最終的に一本の樹に叩きつけられることで停止した。

 

「げほ、げほ、げほ」

「武術の心得がある者は、術者が相手ならまず術者の思考能力を奪ってきます。考えることができなければ魔法は使えませんから。これから取るあなたの選択にもよりますが、いずれにせよ、この程度の体術は例え魔法使いでも必須項目です。どうやらこれも教える必要がありそうですね」

 

 

 ユエは吸血姫であり、普通の食事を取らなくても血の補給さえあれば生きていけるという特殊な生物だ。まして、先祖返りにより自動再生という技能に目覚めた彼女の不死性は悪食ほどではないかもしれないがトータスの生物の中でも一級品と言っていいだろう。

 

 

 だが、それでも生物であり呼吸をしている都合上、酸素の供給を断たれるのは致命的だ。吸血鬼も脳に酸素が行き渡らない状態だとまともな思考能力を失うことに変わりはない。いくらユエが天才と言えど、そんな状態で魔法など使えるはずもなく、場合によっては失神に追い込まれることもあるだろう。

 

 

 優れた武術家ならば、場合によっては不死身の吸血鬼に何もさせず無力化することができる。

 

「"蒼龍"」

 

 苦し紛れに放った蒼龍がユナに向けて顎を広げて迫る。その蒼き龍の猛りにたいしてユナは手をかざす。

 

聖術(マギア)1章1節(1 : 1)……"聖炎"

 

 同じく蒼い火球をぶつけられることで蒼龍が相殺される。

 

 

 まただと思ってしまう。ユエは気づいていた。直接本人から聞いたわけではないが、ユナの使う聖術が節の番号が大きくなるものほど効果が高くなるということは、見ていれば察しが付くというものだ。それを踏まえて考えるなら、少なくともさっきからユナは空間魔法を除けば一番初級の聖術以外使っていない。

 

 

 こちらは上級魔法に神代魔法まで絡めて使っているのに、それを相殺するのに使うユナの聖術は初級術一発だけである。

 

 

 この理不尽な現象の原因は考えるまでもない。魔法に込められた魔力の差である。

 

 

 ユエの現在の魔力量は約1万。それに対してユナの魔力量は125万。これは本来比較対象にすらならない圧倒的な差だ。ユエの魔力量はユナの魔力量の1%にすら満たないということなのだから。

 

 

 これだけ魔力の差があると、例えユナにとっての初級魔法がユエの最上級魔法に匹敵するということは十分にあり得る。ここに蓮弥かハジメがいれば、ユエのメラ◯ーマがユナのメ◯に相殺されていると表現したかもしれない。

 

 

 つまり、まともな魔法戦でユエに勝ち目だと最初からないのだ。

 

 

「では……少し本気を出しましょうか」

 

 ユナが纏う魔力量が爆発的に増大していく。それは本能的にユエを後退りさせてしまうほどの威圧。

 

 

 その威圧を受け、ユエはこれが訓練であることを忘れて、逃げ出すしかなかった。

 

 

 走る。走る。走る。

 

 

 深い緑が美しい森林地帯をユエは全力で逃走する。重力魔法や風魔法を利用して全力で飛んでいるその姿にいつもの優雅さや余裕といったものは一切存在しない。

 

 

 これは謂わば鬼ごっこなのだ。彼女が逃げる役でユナが鬼役。普通の鬼ごっこと違うことは、この両者の関係が変わることがないということと、これが遊びではないということだ。

 

 

 ユエの後ろから膨大な魔力を纏った光の槍が飛んでくる。炎、風、水、雷。様々な属性が付与された魔力の槍が音速域の速度で飛んでくるのだ。それをユエは重力で横に落ちながら躱す。着弾地点が爆発し、その粉塵がユエの服を汚すが一切気にしない。

 

「"絶禍"」

 

 避けきれない魔法を重力球にて防御する。ユナの攻撃は神代魔法を使って初めて相殺できる。だが、神代魔法を使うたびにユエの魔力の負担が増えていく。

 

聖術(マギア)1章5節(1 : 5)……"聖焔操火"

 

 鬼役のユナが追撃を行う。一発一発がユエの蒼天に匹敵する魔力量が込められている数百の魔力球がユエを襲う。しかも誘導性があるようで軌道が読みにくい。どうやら今度は弾幕ごっこらしい。

 

「もう一度ッ、"絶禍" それに"禍天"」

 

 重力を使い、ユナの魔力球を吸い込んだり、撃ち落としたりして対応する。ひたすら耐え続けるがいつまでもこんなことができるわけがない。神代魔法は普通の魔法より魔力消費量が桁違いなのだ。ユエは現在、常に全力疾走を強いられているような状況に陥っていた。

 

 

 苦悶の表情を浮かべるユエに対して、ユナはどこまでも余裕の態度を崩さない。使っている魔法の規模は似たようなものであるにもかかわらず。

 

聖術(マギア)1章3節(1 : 3)……"聖練炎槍"

 

 目の前の激しい攻撃を捌くのに全力を費やしているユエは、だからこそ横から超高速で近づいてくる炎の槍に対応出来ず、直撃した槍により胴体以下、下半身をまるごと消し飛ばされる。

 

「ッッ!!?」

 

 残った上半身が飛び散る。幸い、技能の一つである痛覚操作のおかげで痛みを感じているわけではないが、これではまともに逃げることすらできない。

 

(治れ治れ治れ治れ治れ治れ!!)

 

 急がなくてはならない。このままだと殺される。ユエは自動再生の技能を全力で使って身体を修復しようとしているが、胴体がまるごと消し飛んでいるのだ。かすり傷を治すのとはわけが違う。

 

「……治るのが遅いッ。そんな悠長に構えていては、何もできずに死ぬだけです。いえ……」

 

 

 

「一度死んでみましょうか」

 

 

 ユエが上空を見上げると冷酷な眼差しとともに新たな魔法を展開するユナ()がいた。

 

聖術(マギア)1章1節(1 : 1)……"聖炎"

 

 

 ユナは未だに身体の半分も治せていないユエに対して自分の魔力の()()()1()%()だけこめた聖術を向ける。その炎の球はユナが掲げる指先に現れ、ゆっくり膨張していく。

 

 

 時間が経つにつれ、その脅威は目に見えて強大になっていき、その圧倒的な熱量の塊が直径二十メートルを超えるころには周辺の森が自然発火して炎上し始めた。そしてそれを向けられたユエは……

 

(あっ、これやばい。死んだ)

 

 どこか他人事でその絶望が降ってくるのを待つしか無かった。

 

「ユエ、魂を震わせなさい。譲れない想いを抱くのです。そうすれば、きっとあなたはこの危機を乗り越えられる。さあ、受けてみてください!」

 

 

 ユナが指を傾けるのと同時に絶望が降ってくる。その炎魔法はそれ単体でユエの総魔力量を超える魔力が込められている。その光景は魔法戦は魔力の総量だけでは決まらないというユエの経験則を凌駕し、戦慄させるには十分すぎるほどの圧倒的な威圧感を醸し出していた。

 

 そして、その太陽は炸裂し、地上半径数百メートルを跡形もなく燃やし尽くすと共に、ユエを塵にして消滅させた。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

 声が聞こえる。

 

 

 随分昔に聞いたような、つい最近聞いたような不思議な声だ。

 

 

 この空間が意外と居心地が良いせいか、まるでゆりかごの中の赤子をあやす様な優しい歌声に聞こえる。だがいまいちはっきりとしない。光が射している部分があるので手を伸ばしてみる。

 

 

 届かない。あと少しで届きそうな気がする。あれを掴めば声がはっきり聞こえるはず。なぜか聞かなければならない。胸の内からそんな衝動が湧いてくるのだ。

 

 

 やっとのことで手を伸ばして光を掴み取る。そしてそこから聞こえてきたのは。

 

 

「■■■■■。ア■ーテ■ア」

 

 

 

 

 飛び起きるように意識が戻る。そして慌てて周囲を見渡し状況判断を行う。

 

 

 そこは深い森の中にある神殿の中、そこのベッドの上に自分だけが横たわっていたのがわかる。周りには広間があるだけで何も物は置いていなかった。

 

「目が覚めたようですね。ユエ」

 

 声が聞こえてきた方向に耳を傾けるとそこにはユナが立っていた。そこで自分が今まで何をやっていたのか思い出す。

 

 ユナに修行を依頼し、そして力試しとばかりにユナと戦闘になり、そして……

 

 

 頭上に迫りくる蒼き炎を思い出した。

 

 

「ッ!?」

 

 慌てて身体を触って確かめる。そこにはいつもの白いブラウスに黒いスカートを履いた自分の姿。身体にはどこにも異常は見られない。

 

「気分はどうですか。何かあったら教えてください。何しろ全身丸ごと再生したのですから何か異常がないとも限りません」

 

 そこまで言われたことで、どうやらあの最後の光景は夢ではなかったと思わず身震いする。

 

「……死んだと思った」

「けど死にませんでしたね」

「……ためらわなかった……」

「おそらく復活できるだろうと思っていました。これでユエの不死身は()()()()()()()()()復活できるレベルだと判明しましたね」

 

 悪びれもなくしれっとそう言うユナ()

 

 

 昔ハジメには一瞬で塵にされたら助からないと説明したことを思い出したが、実はその説明の文頭におそらくとか多分などの言葉がついていた。当たりまえの話、過去の女王時代にユエが自動再生の固有技能に目覚めた時、じゃあ自動再生がどこまで有効なのか実験してみようなんて狂気の発想を言い出す者は一人もいなかった。だからこそユエ自身にも正確な限界値がわかっていなかったのだが……

 

「……もし死んでたら?」

「この空間は致命傷を負って死んだとしても復活できるようになっています」

「………………そんな話聞いていない」

 

 思わず涙目でユナを睨みつけるユエ。実際死んだと思ったのだ。そのせいかよくわからない夢まで見たような気がする。そんなことをいくら復活する仕掛けになっていたとしても普通やるだろうか。いいや、やらない。

 

「説明不足だったのは謝ります。けどどうしてもユエ自身の技能を確認したかったのです。あらかじめ復活するとわかっていたら本気になれないかもしれないと思いました」

 

 

 さて、と言いながら。ユナはなぜこんなことをしたのか説明を始めた。

 

「これからのユエのパワーアップに向けて、いくつかプランを考えてみました。一応確認しておきますが、ユエの目的は端的に言えば、私や蓮弥に追い付くことで合ってますか?」

 

 正確にはそれだけではないが、うんと頷くユエ。確かにその想いはユエの中にある。というよりさっきの戦いでその想いはますます大きくなっていくのを感じていた。

 

 

 ……完敗だった。

 

 

 かつてユエの祖国であるアヴァタール王国がまだ存在していた時代において、世界最強と呼ばれていたプライドなんて粉々だ。なぜならユエは神代魔法をもってしても、ユナの力の一割も使わせることことができなかったのだから。

 

「最初に言っておきますがユエ。あなたは間違いなく魔法の天才です。私達のパーティーには私とユエと、それに香織という魔法を主体として戦う術者がいますが、その中でも魔法を扱うセンスという意味では間違いなくあなたは群を抜いている。ですが……あなたにはいくつか欠けているものがあります。これからの訓練ではそれらを補うような修行を行うことになるでしょう」

 

 ユエは姿勢を正してユナの話を傾聴する。ここで負けたことをうじうじ悩むのは二流だ。本物であるなら失敗を糧として即座に自分のものにする気概がなくてはならない。もともと勝てないのは承知の上だ。だからこそ、ユナに教えを乞う意味があると言える。

 

 

 ユナはどこからともなくホワイトボードのようなものを取り出し、三つの項目をかけ始めた。講義のつもりなのか今まで掛けていなかった眼鏡をいつのまにか装着している。

 

 ホワイトボードには

 

 ・自動再生の制御

 ・体術orそれに変わる防衛手段の会得

 ・魔力量の増大(新技)

 

 と書かれている。

 

「主にこの三つが焦点になります。一つ目は自動再生の制御。……はっきり言わせてもらえれば再生速度が遅すぎます。腕を再生させるのに30秒以上、下半身を再生させるに至っては二分以上経っても再生できていませんでした。全身再生に至っては30分以上かかっています」

「……そんなこと言われても困る」

 

 自動再生は"自動"再生なのだ。自分の意思で制御できるわけではない。少なくとも今まではそうだった。

 

「できないと決めつけるのはいけませんよ。いえ、出来てもらわなければ困ります。例えば半身を吹き飛ばされた状態でライセン大峡谷やエリセンの海の底にでも沈められたらそれだけでアウトです」

 

 ちょっと想像してみる。下半身が吹き飛ばされたのならまだ魔法で抵抗できるかもしれないが、上半身がなくなった場合、全く抵抗できなくなる。それだと魔力阻害効果のある大峡谷や、エリセンの深海に沈められたら終わりだろう。

 

「理想を言えば全身を塵に変えられても1秒以下で再生するのが望ましいですね。少なくとも私と蓮弥ならそれくらいできます」

 

 それなんて化け物、とユエは思わざるを得ない。今となっては人の事を言えないが、塵にされたら流石に死のうよとか考えてしまう。

 

「次に体術……というよりこれは懐に入られた時の対策になりますね。先ほどの模擬戦でも私の動きに全く対応できていませんでした。例えばユエと相対しているのが雫だった場合、ユエが視認不可能の速度で近づかれて、いつのまにか細切れにされていたなんてことも十分考えられます」

 

 これも事実なので何も言い返せない。ユエ自身も想像したことだ。

 

「これに関しては体術を覚える以外の別の方法もあります。要は自分の身を守る手段を手に入れたらいいので。私の知る術者の中には、自作のゴーレムや使い魔に身を守らせるものもいました。その方面はむしろ私が言わなくてもユエ自身で解決できると思うので私は最低限の体術を教えます」

「……そんな付け焼刃みたいなものが通用する?」

 

 シアみたいにハジメが適当に伝えただけの武術を勘で再現するような格闘センスを持っているならともかく、ユエはその体格の都合もあり、体術には向いていない。

 

「それに関してはこちらに秘策がありますのでユエは心配しなくても大丈夫です。そして最後の魔力量の増大ですが」

 

 ホワイトボードになにやら名前と数字を書き始める。見たところ魔力値について整理しているらしい。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 勇者:1000(最大値は1500だと想定される)

 

 魔人族カトレア:720

 

 メルド:350

 

 王国騎士:100~200

 

 冒険者:50~100

 

 一般人(トータス):10

 

 一般人(地球):1

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ここまではこの世界の基準値だろう。ユエが見た限り中々妥当な数字だと思われる。

 

「そしてこれが私達と敵の数値です」

 

 ユナが続けてその上に注釈付きで追記していく。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ユナ:1250000

 

 香織:55000(悪食戦前は5000)

 

 蓮弥:30000(形成時の数値、創造時は相手次第で上昇することを確認)

 

 雫:24000(悪食戦後)

 

 ハジメ:21000(現在上昇中、香織のマッサージによる影響か?)

 

 神の使徒:12000(姿形が一緒の使徒は今のところ均一。ただし例外個体も存在)

 

 ユエ:9400

 

 ティオ:5000

 

 シア:4000

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…………なるほど」

 

 これはわかりやすい。上位全てを地球人が独占してしまっている。ユナは規格外だとしても地球人の中で一番魔力値が低いハジメでもユエの倍以上ある。

 

「魔力量が戦いの全てを決めるとは限りませんが、少なくとも魔法主体で戦うユエは魔力量が戦闘力に大きくかかわるということを否定できません。現状だと神の使徒相手にはやや不利を強いられるということでもあります」

 

 魔力の数値が大きいほど一度に使える魔力量も大きくなる。現状だとバックアップで無限の魔力を得られる神の使徒相手にユエが単騎で撃破するのは難しいと言わざるを得ない。

 

「とはいえ、この訓練は一番最後に回すことになります。まずは自動再生の制御と体術の訓練から始めましょう」

 

 休憩は終わりですと言う言葉と共にホワイトボードを消して外に出るユナとユエ。

 

 

「具体的にどんなことをするの?」

 

 何も具体的なことを聞く前に外に出てしまったが何をすればいいのだろうか。

 

「逆に聞きますが、ユエはどんなことをしたらいいと思いますか?」

「どうって……」

 

 ユエは少し考えてみる。思い返してみれば自動再生の制御訓練を行うなど初めてなのだ。ユエは女王だったので基本的に単騎で敵陣に突っ込んで無双するといった戦い方をしてこなかった。中には常に最前線で戦い、兵士を己の武勇で引っ張っていくタイプの王様もいるのかもしれないが、少なくともユエはそのタイプではない。

 

 

 基本的に大規模殲滅魔法による遠距離攻撃が主体だったし、戦争に出陣する際には必ずユエの周囲には、王国の中でも腕利きの精鋭が護衛として常に側についていた。つまり基本的に傷を負うことなどなかったし、近接スキルが必要になったこともない。

 

 

 その上で少しユエが考えてみて……思い至った自分の考えにぞっとした。

 

「そうですね。何事も反復が大切です。習うより慣れろという言葉もあるくらいですし」

 

 自分の考えを読み取り、肯定するかのようにユナの気配が変化していく。そしていつの間にか取り出していたアンティークの砂時計を空中に拡大転写し、この空間のどこからでも見えるようにする。

 

「あ……あ……あ」

 

 その行為でユエは自分の考えが正しかったことを理解した……いや、理解できてしまった。

 

 まさかそんな、冗談はやめてほしい、もっと他にも方法があるはずだ。と、恐怖と焦燥がない混ぜになった思考がユエの頭の中を満たしていく。

 

「要は自動再生を何度も経験して慣れてしまえばいいのですよ。よって……今から私はあの砂時計の砂が落ち切るまで、ひたすらユエを殺し続けます。大丈夫、この空間ならいくらでもユエに魔力を与えられますし、仮にユエの再生限度を超えるダメージを負ったとしても、その時は私が治します。もちろん抵抗するのもありです。こういうことは反骨心があったほうが成長も早いと思うので、だから……」

 

 ユエの頬を、冷たい汗が流れる。これから起きる惨劇の予感に身体の震えを止めることができない。

 

 

「安心して……死んでください」

 

 

 その様子を見たユナ(悪魔)が右手に極大の劫火、左手に極寒の冷気を纏わせ、ユエに対して天使のような悪魔の笑顔を向けたのだった。

 




今話ではユエとユナしか出ないので誤変換してないか不安。

次回はシア編とユエ編のまとめです。

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