ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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第五章後半開始です。


第5章 後編
旅路の再開


 グリューエン大砂漠を抜けた平野。そこは基本的に荒野となっていて殺風景極まりないが……このトータスを旅する上では既に慣れた光景。そんなこの世界の住人にとってはありふれた光景を行くは二台の自動車。この世界に存在するいかな乗り物よりも、早くて快適な移動を可能にする乗り物に乗っているのは、もちろんハジメと蓮弥だ。

 

 

 彼らは数日前に1か月ほど滞在したエリセンを後にした。ハジメもミュウとの別れをすまし、いざ次の大迷宮へと一同、気持ちを改めて旅を再開したのだ。

 

 

 そして旅を再開するにあたって、一つの問題が発生した。現在、一行の人数は合計8人。ハジメが運転を行っているブリーゼは基本的に5人乗りなので、3人余ることになる。蓮弥が動かす自動二輪ヴァナルガンドは二人乗りだ。となるとどうしても聖遺物に戻ることで消えることができるユナが自然と省かれることになるわけだが……

 

「意義を申し立てます。……雫だけ後ろに乗るのは不公平です」

 

 私だって蓮弥の後ろに乗りたいとユナが珍しく強い口調で主張してきたのだ。最近まで聖約により蓮弥との過度な身体的接触を封じられてきた──抜け道は用意していたが──ユナだったのだが、やっと蓮弥と雫の関係が進展したことで身体的接触を解禁されたのだ。それなのに移動中は聖遺物の中にいるしかないというのは、ユナにとって文句の一つも言いたくなる境遇だったらしい。元々雫が合流するまではユナの定位置だったこともあり、意外なほど蓮弥の後ろの席に座ることをユナが主張してきた。

 

 

 そこでハジメにより、蓮弥のヴァナルガンドにサイドカーが取り付けられることになった。ハジメこだわりの素材により乗り心地もいいその席に……今は雫が座っている。雫とて蓮弥の二人乗りが解禁されてからは後ろの席が定位置だったのだのだが、交渉した結果、定期的にユナと場所を交換するということで落ち着いた。

 

 

 そんな感じで旅を続ける一行が向かう先はハルツィナ樹海……ではなく、神山の近くにあるハイリヒ王国王都である。

 

 

 本来は、教会という組織を敵に回すことになる神山の攻略は、魔人領にあるとされるシュネー大迷宮と同じく後回しにする予定だったのだが、最近の情勢を見てルートを変更することになった。

 

 

 アンカジ公国でも話題になったのだが、最近聖教教会の総本山が混乱しているという情報が入っていた。曰く、内部の問題を片づけるので精いっぱいで外の問題にまで手が回っていないとのことだ。

 

 

 そこで蓮弥は自分が神山の上層部を丸ごと消し飛ばした影響が思ったより大きいと判断し、この混乱に乗じてバーン大迷宮の攻略を行うべきだとハジメに提案し、ハジメは了承することで一行の行き先は決定した。

 

 

 そして一行がホルアドに通じる街道に差し掛かる頃、蓮弥達は、魔物に襲われている商隊と遭遇することになる。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「あん? なんだありゃ?」

 

 ハジメが魔物に襲われている商隊を見て怪訝な表情を浮かべる。この世界で商隊が襲われるなどよくあることである。ハジメ達がフューレンに向かう際に受けた依頼中にも魔物の群れが襲いかかってきた。もっともその時はユエの雷龍一発で型がついたわけだが。

 

 

 それだけならハジメは見向きもしなかっただろう。だが、その襲っている魔物が異質だった。

 

「なんですか、あれ。気持ち悪いですぅ」

「全身真っ黒」

「ふむ、フォルム自体は見たことがある魔物が大半じゃが……影のように暗い色をした魔物なぞ初めて見るな」

 

 そう、その商隊を襲っている魔物が黒いのである。それもただ黒いだけでなくまるで影が浮かび上がってきたかのような異質な気配を漂わせているのだ。

 

 

 その中で目だけが赤くぎらぎら光っているので一層不気味に映る。

 

 

 だが、疑問を浮かべているのはハジメ一行だけであり、蓮弥と雫は別の反応を示している。

 

「蓮弥ッ、あれって……」

「ああ、間違いない。以前俺達が倒した魔物と同じ気配だ……となると、あのままじゃまずいな。ハジメッ、悪いけどあいつらを助けるぞ。ここで放置すると後々面倒になるかもしれない」

「……お前がそこまで言うならいいけどよ……なら、このまま突撃するか」

 

 ハジメは犯罪者と魔物を見たらアクセル全開にするのが交通ルールと言わんばかりに魔物の群れに向かって突進をかましていく。

 

「犯罪者と魔物を見たらアクセルを踏め……教習所で習うことだろ?」

「習わないよ! 勝手に交通ルールを歪めないで! ほら、ユエ達がそうなのかって頷いてるよ!」

 

 案の定ギャグをかましながらハジメが魔物の群れを引き潰していく。その魔物は一定のダメージを負うと影に溶けるようにして消滅する。

 

「消えた?」

「まるで溶けるみたいに消えたね。……何この魔素の気配……なんというか、気持ち悪い」

 

 プリーゼから降りたハジメと香織が溶けた魔物について感想を言う。

 

「気持ち悪いって、どんな風にだ?」

「なんというか……ドロドロのヘドロをさらに煮詰めたような粘っこい感じ、あんまり触りたくない気配かも」

 

 どうやら香織にとって黒い魔物が放つ魔素は歓迎したい代物ではないらしい。蓮弥は黒い魔物が再発しないことを確認した後、助けた商人の方を窺う。

 

「あんたら大丈夫か?」

「ああ、ありがとうございます。一時はどうなるかと思いました。どうやらまだ私の運も尽きてはいないようで……おや、あなた方は?」

 

 そこで蓮弥達は襲われていた商隊の人物に見覚えがあることに気付く。

 

「確かあんた……モットーさん、だったか?」

「はい、お久しぶりでございます藤澤様。あの時はお世話になりました」

 

 蓮弥達が助けた襲われていた一行とは、ブルックの町からフューレンまでの護衛を務めた隊商のリーダー、ユンケル商会のモットー・ユンケルだった。思わぬ偶然もあったものである。

 

「南雲様もお久しぶりですな、息災……どころか随分とご活躍のようで」

「栄養ドリンクの人……」

「は? 何です? 栄養ドリンク? 確かに、我が商会でも扱っていますが……代名詞になるほど有名では……」

「あ~、いや、何でもない。久しぶりだな、あんた」

「ええ、覚えていて下さって嬉しい限りです。ユンケル商会のモットーです。危ないところを助けて頂くのは、これで二度目ですな。アナタ方とは何かと縁がある」

 

 どうやらハジメも彼のことを覚えていたようだった。あの時はシアと宝物庫に手を出しかけて蓮弥が軽く脅すだけで済ましたのだが、今もハジメの手を握りつつさり気に指輪にふれているあたり未練があるようだった。商人だったら仕方ないのかもしれないが。

 

 

 そして話を聞いたところ、モット―はアンカジからホルアドに向かっている最中だったとのこと。どうやらアンカジの騒ぎに乗じて商売をしていたのは彼も同様だったらしい。モットーのホクホク顔を見れば、かなり儲けることが出来たとわかる。

 

 

「皆さんはどちらへ?」

「俺達は一度王都に向かう予定だ」

「それは残念。もしホルアドを通るなら警護を依頼したかったのですが……最近物騒になってきましてな。さきほど襲われていた魔物をご覧になったでしょう。あのように全身真っ黒の魔物に襲われたという声が多くなっているのですよ。おかげで中々有力な冒険者の手を借りることができない次第でして……」

「あの魔物の目撃例が増えてるのか?」

 

 蓮弥はモット―に尋ねてみる。モットーはホクホク顔から一転して真剣な表情に切り替える。

 

「そうですね。……これは道中の噂話でしかないのですが、何でも神の愛が途絶えたせいで発生した災いではないかという話なのですよ。……嘘か本当かはわかりませんがね。そんな民の不安をぬぐうべき教会も内部での派閥争いが起きて対処している余裕がないという現状だそうです」

 

 そうそう、とついでのようにモットーが続ける。

 

「もし王都に行かれるのならお耳に入れておきたい情報が。現在どういう訳かは知りませんが、王国の兵士が大量に行方不明になっているとか。そのせいで王国は足りない戦力を補うために冒険者の傭兵を集めているそうです。……なにやら訳ありのようですし気を付けたほうがいいですよ」

「ああ、ありがとう。助かったよ。ユナ」

聖術(マギア)7章2節(7 : 2)……"聖円"

 

 情報料だということで、ユナにモットーの荷馬車に聖術による守護をかけてもらう。あの程度の魔物なら、これだけでしのげるはずだ。

 

「おお、感謝いたします」

「あんたも引き際は弁えとけよ。前も言ったけど、商売は生きててこそだ。儲けても死んだら意味がないんだからな」

「肝に銘じておきます。我が商会は十分儲けを出すことができましたし、あなた達に出会ったことが天命だと思ってここで引かせてもらうと致しましょう。では」

 

 そうしてモットーはホルアドの方へ去っていった。

 

 

 そして再び旅を再開した蓮弥はハジメに事情の説明を求められる。

 

「蓮弥……あの魔物にあったことがあるのか?」

「ああ、お前達と別れた後、教会の依頼で魔物を討伐することになってな。その時に俺と雫が討伐したのがあの魔物群だ。俺達は勝手に『レギオン』と呼んでいる」

 

 そして蓮弥はあの時、クーランの町で起こった事件について説明した。正確に言えば起きるかもしれなかった事件だが。

 

「ユナ、あれを見てどう思う?」

 

 その当時ユナは眠っていたので不在だった。なのでここでユナの意見を聞いてみることにする。

 

「……あれは、澱みです」

「澱み?」

「はい、あれらから非常に濃い負のエネルギーを感じました。魔物の形をしていますが……むしろ現象と言った方がッッ!! 蓮弥!」

「ああ、わかってる。ハジメッ!」

「こっちも感知した。なんか後ろにいるな!」

 

 ハジメと蓮弥が自動車のギアを上げながら後ろに注意する。そしてほどなくしてそれは現れる。

 

 

 それは黒い波だった。

 

 

 魔物を溶かして流動化させたらこうなると言わんばかりの姿をしたそれは、いきなり滲み出すように地面から現れたと思えば、かなりのスピードで蓮弥達を追いかけてくる。以前出会った魔物の集合体、レギオンの再来だった。

 

 

「なんだ!?」

「魔物の塊みたいですぅ」

「どう考えても、あれに巻き込まれるのはまずそうじゃな」

「ハジメ君は運転に専念して、私が守りを担当するから。ユエッ」

「わかってる」

 

 ハジメ達が止まることなく迎撃の準備を始める。

 

「こっちも準備するぞ。ユナ、雫。任せたぞ」

「はい」

「わかってるわ」

 

 こちらも後ろに乗っているユナとサイドカーの雫が準備を始める。ユナが横向きになり、雫がサイドカーの上に立って村雨を構える。

 

 

 時速八十㎞近くの速度で行われる戦闘。普段の戦闘スピードからしたら、たいしたことがないように思えるが、乗り物を運転している中だとまた勝手が違う。途中で止まるわけにもいかないので蓮弥とハジメは直接参加できない。

 

「ちぃ、鬱陶しい。まとめて消えろ」

「”蒼龍”」

 

 ハジメがプリーゼのガジェットを、ユエが蒼龍にてレギオンを攻撃する。飛んでいくミサイルと龍が激突し、大爆発を起こして、レギオンを吹き散らす。だが……

 

「なっ、こいつら」

「再生した?」

 

 一時的に波に大穴を空けたかと思えば、すぐに元通りに戻るレギオン。またこの手の再生持ちかとハジメは思う。これらに有効なのはヒュベリオンだが、まだ調整が完全ではない。だからこそ……

 

「蓮弥。悪いがここは任せるぞ」

「おう、ユナ」

聖術(マギア)4章5節(4 : 5)……"白天雷光"

「咒法──”雷華招来”」

 

 ユナと雫がそれぞれ雷の閃光をレギオンにぶつけるがほどなく再生されてしまう。

 

「ユナ……どうだ?」

「これは……実体があるわけではありません。どちらかというと高密度の淀んだ魂の集合体のようなものです。だから普通の魔法攻撃ではこれらを倒せないみたいです」

「魂……なら、魂を攻撃したらいいわけね」

 

 ユナが魂に干渉する聖術を、雫が刀身に魂魄魔法を纏わせていく。

 

聖術(マギア)10章3節(10 : 3)……"鎮魂聖歌"

「"魄崩"」

 

 ユナが透き通るような美しい歌声を上げる中、雫が、魂魄にダメージを与える魂魄魔法『魄崩』に対し、さらに解法・崩を加えることで威力を増大させる。

 

 ユナの聖歌は黒い波に向けて放たれ、ちょうど波を打ち消すかのように黒い波の動きを固定し、その黒い塊を雫が飛翔する斬撃にて切断する。

 

 

 大波型のレギオンが消滅したことを確認した蓮弥達は運転を止め、本格的に戦闘態勢を取る。

 

 

「こいつのどこかにコアがあるはずだ。後、ユナ曰くこいつらは高濃度の魂の集合体らしい。だから通常攻撃では吹き飛ばしたり、散らしたり、一時的に消すことはできてもダメージは与えられない。これから魂への攻撃手段を持ってる俺と雫が前に出るから、お前達は援護を頼む」

『了解!』

「くるぞ!」

 

 一行の役割が決まった後、荒野に現れる黒いコア。それを取り囲むようにして現れる魔物の軍勢。それは数千体の魔物で出来た黒い竜巻だった。

 

「これはすごいな……」

「でっかいですねぇ」

「流石の妾もこれに飲まれたいとは思わんのぉ」

「私が言うのもなんだけど、みんな結構余裕だよね」

「ん……来る!」

 

 ユエの言葉に反応したわけではないだろうが、コアがこちらに向かってレギオンの砲弾を放つ。それは黒い魔物の形態を取り、ハジメ達に襲い掛かる。

 

 

 ハジメは飛来する黒い魔物の弾丸をドンナー・シュラークで撃ち落とし、シアがドリュッケンで黒いシミに変える。ユエが極大・蒼天でまとめて吹き飛ばし、ティオが竜巻で粉みじんにしていく。各自上手く迎撃できているように見えるが。

 

「やっぱり駄目みたいだね。周囲にあれの魔素が散らばっただけ。また再構成されるよ。紋章起動──”聖絶”四重展開!」

 

 襲ってきたレギオンの砲弾を聖絶で受け止める香織。次々砲弾を叩きこまれて罅が入る香織の聖絶。

 

「くぅ、この気持ち悪い魔素のせいであんまりうまく魔法が使えない。だったら……」

 

 どうやらこのレギオンが発している魔素は香織とは相性が悪いらしい。普段通り魔法を使っていたら潰されると判断した香織は、魔法の動力源を魔素から体内の魔力に切り替える。以前ならこの規模の相手にこの選択は取れなかった香織だったが、幸い悪食戦にて劇的に増大した体内魔力量なら早々息切れは起こさない。

 

「ちっ、本当に効いてねぇみたいだな」

「最近こんなのばっかりのような気がしますぅ」

「これは相性の問題。ここは蓮弥達に任せるべき」

 

 ハジメ達が攻撃を、香織が守りに専念している間。蓮弥と雫は別の角度で攻めていた。

 

「ハァァァァァァァ!!」

 

 雫が八重樫流抜刀術・飛乱閃より発生させた細かい無数の斬撃の刃がレギオンを切り刻む。以前は首飛ばしの颶風を使わなければダメージを与えられなかったが、今回は魂魄魔法の習得と邯鄲の夢への覚醒のおかげでたいして苦戦することなく順調に切り刻んでいく。

 

 

 舞うように刀を振るう軍帽に軍服姿の雫の横に立つのは、武装親衛隊の軍帽と軍服を着用した蓮弥。纏う衣の国籍は違えども、それは戦場において非常に様になる光景だった。元よりエイヴィヒカイトにより魂への攻撃能力が最初から備わっている蓮弥は、魔物を切り刻みながらコアに向けて進む。

 

 

 前回はコアを斬ったは良いものの、手応えを感じることなく逃げられた蓮弥だったが、邯鄲の夢に目覚めた雫と同じく、蓮弥には前回戦った時にはなかった力がある。

 

 

Briah(創造)──」

女神転生・神滅の剣(アトラス・グラディトロア)

 

 

 十字剣は大ぶりの大剣へと姿を変え、その黒い軍服の上に白いコートを羽織った蓮弥はレギオンのコアに向けて進む。

 

 

 どうやら危機を感じたらしいレギオンがその身体を竜巻から蛇のような細長い形態へと変化させ、まずは御しやすいと判断したハジメ達に狙いを切り替えた。

 

「させるか!」

聖術(マギア)9章6節(9 : 6)……"悪鬼甲縛"

 

 しかし虚空より現れた黒い鎖に絡めとられる。

 

「おおおおおおおおおおおおお!!」

 

 蓮弥が鎖を操作しレギオンを荒野に叩きつけたことで、纏っていた黒い魔物が拡散したことでコアがむき出しになる。

 

「これで、終わりだ!」

 

 神滅剣によってコアを切り裂く蓮弥。今度は手応えがあった。魂を回収こそできなかったが、確実に破壊したと確信できる。

 

 

 コアが消滅したことで、辺りに漂っていた魔物群も姿を消す。

 

「蓮弥……今回の魔物、レギオンは魂の集合体って言ってたよな」

「ああ、要は俺の霊的装甲と同じで通常の攻撃ではダメージを与えられない」

「なら、なおさら魂魄魔法を入手しなけりゃいけなくなっちまったな」

 

 モット―が言うには、黒い魔物の被害は世界中で起きているとのこと。なら今回倒したレギオンが唯一の個体というわけではないことは想像にたやすい。その間、蓮弥ばかりに任せるのはハジメの主義に反する。力が足りないのなら補う。それがハジメのやり方だ。

 

 

 一行は王都へ向けて旅を再開する。新たに目的を定めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むかし、むかし。

 

 まだエヒトルジュエがこの地トータスに降り立ったばかりのころ。一部の地域は大地がひび割れ、水は足りず、栄養もないため命が育たない不毛の大地一歩寸前まで陥っていたという。

 

 

 原因を調査したエヒトルジュエとその仲間達は、原因が澱んだ龍脈であることを突き止めたが、時すでに遅く、龍脈が限界を迎え溜まっていた澱みが世界中に溢れてしまう。

 

 

 その澱みが集まってできた黒き大波は見渡す限りの地平線を埋めるような規模を誇り、大陸全てを黒いタールのような穢れが覆うという絶望の光景を誰もが想像した。

 

 

 だが、あまりの発生規模に倒しきることはできないと判断したエヒトルジュエは、すぐに発想を切り替え、その穢れに対抗するため、仲間の到達者の中でも特に技術力に優れていた者と共に封印のシステムを完成させ、その脅威を封じることに成功する。

 

 

 大地の穢れから解放された土地は蘇り、命が咲き乱れる豊潤な大地に生まれ変わった。

 

 

 そのことに感謝し、これで大地の穢れから解放されたと安心していた民達だったが、エヒトルジュエと共に封印を作った到達者は、この世界のある場所に封印の設計図をエヒトには内緒で残していた。

 

 

 それは必要以上の技術をこの地の民に残すのは、この地の秩序を乱す行為であり、結果的に民達のためにならないと反対していたリーダーであるエヒトの決定に逆らう行為だったが、その到達者はたいして気にしていなかった。

 

 

 或いは、仲間の中でも特に頭脳が優れていたその到達者は、将来のエヒトの暴走まで予見していたのかもしれない。いつか封印が壊れた時、もしくは壊された時にその時代の民達に必要になるかもしれないと。

 

 

 その設計図には、襲い来る大波が魔物の群体のような姿をとることから、澱みのことをこう記している。

 

 

 いずれ地上に現れる黒い大波。

 

 ──大災害『群体(レギオン)』と。 

 


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