ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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戦争の始まり始まり。


王都襲撃

 大陸の南の果ての王国にて、凄まじい光景が広がっていた。

 

 それは魔物。それも大迷宮深層クラスの魔物が数十万体規模で整列して並んでいるというその光景はそれだけで敵の戦意を削ぐには十分すぎる効果を発揮するだろう。

 

 

 そんな大軍勢の上に一体の白竜が舞い降りた。自らこそが最大最強の生物であると名乗るかのように威風堂々とした姿を晒している。

 

 

 そしてその背中に騎乗する男がいる。赤い髪をなびかせたその男の顔には、左半分を覆う仮面がつけられている。

 

 

 彼の名はフリード・ハグアー。かつてハジメ達と戦い、重症を負ったものの生きて生還を果たした神代魔法の使い手。

 

「諸君、我らが同胞諸君。長らく待たせたな。つい先ほど神の代理人である我らの魔王陛下から天命が下った──異教徒を滅ぼせと」

 

 その言葉に熱狂する魔人族達。

 

「見よ、この軍勢を……かつて存在したこともないであろう大軍隊を……それだけではない。我らが魔王陛下は、我らが神より、神の眷属と神代のアーティファクトを授かり、我らに貸し与えて下さった。これだけの加護を受けている我らが、神の意志によって選ばれた種族であることは疑いようもない。今こそ、我が物顏で北大陸を支配する愚かな人族に、身の程というものを教えてやろうではないか」

 

 狂気の絶叫と共に、その場の空気が震える。

 

 

 

 

 

 

「忘れないでくださいね、フリード・ハグアー。例えお前達の同胞がどれだけ死ぬことになったとしても、()()()()()()()()()()、必ず果たさなくてはならないということを」

 

 魔人族の大熱狂を少し離れた位置で見守るのは神の使徒エーアスト。神の使徒最後の生き残りである彼女は、神エヒトの真の天命を果たす為に、魔人族に手を貸していた。

 

「私が直接動くわけにはいきませんが、あのアンノウンの足止めは必要でしょう。なにしろ彼が動くだけで、魔人族が丸ごと滅ぼされてもおかしくないのだから」

 

 だからこそ、こちらも手駒を送り込むことにする。本来なら過剰すぎると言ってもいい戦力を。

 

「だからこそ、あなたも役目を果たしなさい。あなたは、エリセンでの失敗を取り返す必要があるのだから」

 

 

 

 

 

「ええ、十分承知していますともエーアスト。もっとも、私が主と約束したことは足止めであり、倒すことではないので、特にエリセンでのことも失敗したわけではないのですがねぇ」

 

 ライセン大峡谷、大迷宮がある場所とは遠く離れた果てにある隠し空間の中にダニエル・アルベルトはたった一人で潜んでいた。その空間は魔力阻害効果が外の数百倍まで膨れ上がっており、少しの魔法を発動させることすらできない。代わりに魔物もいないわけだが、物理トラップは生きている。そのトラップを固有技能にて躱しながら神父は先へ進む。

 

「これが『群体』の封印ですか。……これはまたなんとも素晴らしい。これほど複雑で精巧な封印は見たことがない」

 

 そこにあったのは宙に浮かぶ四角いキューブ。その表面にびっしりと細かい魔法文字が刻まれており、その一文字一文字に意味があることがわかってしまう。

 

「とはいえ、壊すのは簡単……というより、もう壊れかけていますね。なるほど、どの道、放置していても後十年くらいで世界は終わる予定だったということですか。これは果たして偶然なのか、それとも仕組まれたものなのか。ふむ、中々興味深いですね」

 

 神父がキューブに細工を施した後、魔力阻害を阻害するアーティファクトの保護の下、転移のアーティファクトを発動した。これでまもなくこの谷底から地獄が溢れてくるだろう。

 

「さて、皆さん用事があるので出払っているわけですが、私はどうしますかね」

 

 今この場所にはいない、ようやく自我を取り戻すまで聖遺物に馴染んだ黒騎士を思う。彼の調整はここからが本番だ。上手く、丁寧に、彼を自分が望む方向に()()()()()()()()()()()()()

 

「なら私は……皆さんが各々祭りを楽しんでいる間、あなたの仕上げの準備に取り掛かるとしますかね」

 

 彼が神父の手で完成し、潜在能力を引き出された時、一体何が生まれるのか。その成果をこの目にする時はそう遠くないはずだ。

 

 

 各自の思惑が絡み合い、これより異世界トータスは大きな歴史の転換点を迎えることになる。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 王都にて、色々散策しながら移動していた蓮弥だったが、日が完全に落ちきったところでユナと雫と合流した。

 

「全くもう、蓮弥は異端者認定されてるんだから大人しく留守番してなさいって、言ったわよね」

「まあ、そうなんだけど……クラスメイトの様子も気になったし、少しくらいならいいかなと思ってな」

「蓮弥、隠れて移動したい時は、私か雫と一緒に行動してください。私と雫なら蓮弥の存在を隠すことができるんですから」

 

 現在、勝手に行動していた蓮弥は、ユナと雫に注意を受けていた。もちろんユナも雫も本気で蓮弥に怒っているわけではない。二人とも蓮弥をどうこうできる存在が現れて気づかないほど鈍くもない。ただ、蓮弥をきっかけに騒動が起きないとも限らないのだ。それに……ユナと雫には別に思うところもある。

 

「それに蓮弥は放っておくと……意図せず女の子を引っ掛けそうで心配です」

「おい、ユナ。流石にそんなことはないぞ。ハジメじゃあるまいし」

 

 ユナの心配の声に対し、蓮弥はハジメを引き合いに出して否定する。ハジメが怒りそうな言葉を使うが、雫には通じない。

 

「どうかしらね。たしかに蓮弥は鈍いわけじゃないけど、言ってから気づくってパターンも多いし」

「うっ」

 

 そう言われて蓮弥は優花やリリアーナ、そして愛子のことを思い出す。そういえばいつもやりすぎたと思った後、内心慌てて誤魔化すことが多い気がする。

 

「こうなったら雫、私と一緒に対策を練りましょう」

「そうね。私たちの関係の都合上、問答無用で否定するというのも難しいし、これ以上増えないようにしないと」

 

 悪くいえば、蓮弥に公然と二股を掛けられている二人だが、そんなことは関係ないとばかりにお互いすっかり仲良くなったようだった。今もユナと雫は蓮弥そっちのけで、どうしたら蓮弥にこれ以上女が寄ってこないか考えている。

 

 

 ユナと雫が何を気にしているのかというと、蓮弥の三人目に名乗り出る女が現れないかどうかだった。並みの相手だったらユナと雫の存在に萎縮して近寄ってこないだろうが、それでも蓮弥に言いよる女はいるかもしれない。

 

 "二人と付き合ってるなら、三人でもいいじゃない"

 

 そう言ってくる女に対して、ユナと雫は大きく出れないのだ。もちろんユナと雫が気に入らない女は断固拒否したらいいが、蓮弥と二人の関係は日本の常識では歪な関係であることを否定できない。それにつけ込んでくる女がいるのではないかと思っていたりするわけだ。もしくはトータスだとその辺が緩い可能性もある。

 

「あのな、ユナ、雫。たしかに俺は二人と付き合ってる。それは少なくとも日本の常識で考えるなら、たしかに歪な関係かもしれない。だけどな、俺も生半可な覚悟で二人を選んだわけじゃないんだ」

「それは……たしかに蓮弥を信じてるけど……」

「蓮弥が言い寄られるところを……見たいわけじゃありませんし……」

 

 たしかに気合の入った本気の女の子が蓮弥の三人目を目指すと宣言することを、きっぱり断りにくいという境遇ではあるが、それも二人を同時に愛すると誓った試練だと思って乗り越えたいと蓮弥は考えていた。

 

 そんなに二人が心配なら……蓮弥にも考えがある。

 

「そうだな。二人がそんなに心配だって言うなら……今夜、行動で示してもいいぞ」

「えっ、なっ、ちょ!?」

()()()()()()なら、まずは雫としてください。ここで雫が初体験をしていただければ、私としても最後の聖約が外れるので助かります」

「ユナまでそんな!? だって……でも、その……心の準備があるというか……」

 

 蓮弥とユナが何を指し示しているのか理解した雫は、顔を赤くしてもごもご言っている。

 

「雫……まさかとは思いますが、蓮弥と結婚するまでそういうことは一切しないつもりなんですか?」

「べ、別にそこまで頑なに考えてはいないわよ。というか、ユナはなんでそんなに積極的なのよ。貴女、元とはいえ聖女だったんでしょ?」

「私は裏切り者なので。それに……姦淫の罪は意外と溢れているものなのです。なぜならかつての私達は……たいそうモテましたので……」

 

 遠い目をしてユナがかつての一行での旅を語り始める。

 

「処女であることが極めて重要だった聖女はともかく、聖人はそういう縛りはありませんでしたから。我が師はともかく、兄弟子達とぜひ一夜を共にしたいという女性は意外と多かったのです。……私も具体的な中身まで知っているわけではありませんが、私は唯一の女性だったので、兄弟子目当ての女性のそういう相談を受ける過程で、それはそれは生々しい女性の情欲を、知りたくもないのに知るはめになったものです。本当に、罪深い者たちが多いものですね」

 

 当時のことを知る人間の中々貴重な意見である。宗教家や歴史家なら聞く価値はあるかもしれないが、蓮弥達には関係ない。要はユナが意外とそういう行為に過剰に神聖さを持っていたり、逆に忌避感を感じてるわけではないということが重要だ。もっともそういうことに厳しければ、開幕速攻なんて発想は浮かばないだろうが。

 

「雫は嫌か?」

「嫌じゃない! 嫌じゃないけど……」

 

 蓮弥とて半分くらいは冗談で言ったのであり、そこまで今夜に拘るつもりはないが、正直蓮弥の本音としては近いうちにはとか思ってたりするわけで。

 

 

 ある意味これも平和なのかと思っていた蓮弥だったが、雫が決心を固める前に、それは起こった。

 

 

「!?」

「ッ蓮弥、これ!」

「ああ、どうやら今夜はゆっくり休む時間はないらしい」

 

 

 まるで砲撃でも受けたかのような轟音が響き渡り、直後、ガラスが砕け散るような破砕音が王都を駆け抜ける。衝撃で大気が震え、街を揺らしている。

 

 

 

 王都の結界が……破られた。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 蓮弥はまず現状の正しい情報を確認するために、ハジメ達と連絡を取ろうとするが、同じことを考えたのであろうハジメから念話が飛んでくる。

 

 

『おい、蓮弥。把握してるか?』

『ああ、どうやら王都の大結界がまとめて二つ破壊されたみたいだ』

『ご主人様、それに蓮弥よ。王都の南方一キロメートル程の位置に魔人族と魔物の大軍じゃ。大火山で遭遇した白竜もおるぞ。結界を破壊したのはアヤツのブレスじゃ。しかし、主の魔人族は姿が見えんの』

 

 どうやらいきなり戦争が始まったらしい。こんな近距離まで魔物の大群が近づいていることに気付かなかったあたり、おそらく空間魔法による大規模転移であろうと予測がついた。

 

『ハジメ……私達は例の竜使いを追う』

『特訓の成果も試せますし……香織さんにやられた方とは逆側の顔を変形するまで殴ってやるですぅ』

 

 ユエとシアのやる気十分な念話が飛んでくる。どうやら例の魔人族とやらに相当ご立腹らしい。

 

『なら私は町の人達を助けてくるね。……もし私の力が必要ならいつでも言って。王都内だったらどこでも空間転移で駆け付けられると思うから』

 

 そして香織は、これから発生するであろう怪我人の治療に入るつもりらしい。

 

『蓮弥、お前今どこにいるんだ?』

『俺と雫は、王都の東側だな。ハジメは?』

『俺は南側にいる。……面倒だが仕方ない。売られた喧嘩は買うのが礼儀だ。俺達がいる時に襲い掛かったのが運の尽きだと魔人族に教え込んでやる』

『なら俺達は……』

 

 

 だがその先を言う前に、蓮弥と雫は後方に跳び、数瞬後、その場所が爆発する。既にユナは聖遺物に戻り、蓮弥は形成した十字剣を、雫は村雨丸を創形して上空を見る。

 

「これは、また……」

「相手もやる気十分ということね」

『一体一体に蓮弥が道中倒した個体と同等の力を感じます。決して油断はしないように』

 

 そこにあるのはある種の神聖な光景。客観的に見れば神の祝福が舞い降りたと思うかもしれない。だが、この場にいる者はそんなことを思うことはない。

 

 

 なぜなら空を覆い尽くす同じ顔をした無表情の天使が、眼下の蓮弥に対して、明確な殺意を向けているから。

 

 

 エーアストが用意した量産使徒五百体。それに囲まれているという普通なら心が折れる絶望的な状況に対して、蓮弥は闘志を高めていく。

 

「上等だ。何体でもかかってこい。神の木偶人形が、俺を超えられるって言うならな!!」

 

 

 ここに、蓮弥とユナと雫、そして神の使徒五百体の戦いの舞台が幕を開けた。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 一方、ユエとシアと合流したハジメは、王都の結界が破られたことで大量に侵入してきた魔物群をあいてに無双ゲーを行っていた。

 

「まとめてミンチになっとけッ!」

 

 ハジメのメツェライによる毎分12000発の弾丸が魔物をまとめてミンチにしていく。ハジメ達にとって不本意な形ではあるが、なぜか明確にハジメ達を狙って魔物が襲いかかってくるのだから迎撃しなければならない。

 

「どうやらあの白竜使いは俺達を相当鬱陶しいと感じてるらしいな」

「ん……上等。向こうから来てくれるなら、探す手間が省ける」

 

 ユエが発動した蒼龍が魔物を飲み込みながら戦場を暴れまわる。それだけで魔物の数がみるみる減っていくが、相手もここが決戦と見越して魔物を投入しているのだろう。途切れる様子がない。

 

「全くこうも魔物がいるなんて、相当気合入れてきたんでしょうね」

「ふむ、ご主人様の言う通り、妾達がいることも想定しての攻撃のようじゃな」

 

 ギガントフォームに変えたドリュッケンを振り回してまとめて魔物を潰していくシアは、闘気(オーラ)を纏って活動している。香織との修行により、身体強化を闘気(オーラ)で、ドリュッケンを使う際には魔力をという風に分担して使うことにより、負担が以前より桁違いに軽くなっていた。今まで2回しか使えなかったギガントフォームを自由に使えるくらいには燃費が良くなっている。

 

 

「いたぞ、奴らだ!」

「おのれ、よくもフリード様を!!」

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

 この無双劇に魔人族も黙ってはいない。ハジメ達の存在を確認した途端向かってくるが、

 

「知るか、そんなもん。黙って死ね」

「よくも、はこちらのセリフ。はやくあいつの居場所を教えろ」

「顔面ボコボコにしてやるですぅ」

 

 まさに歯牙にもかけない瞬殺劇。中々の精鋭だと思われた魔人族は、ハジメ達が軽く暴れるだけで撃ち落とされるか、焼き殺されるか、地面のシミになるかしかなかった。

 

「ご主人様よ! 竜の気配が近づいておる。おそらくあの白竜じゃ!」

 

 一人同族の気配を探ることに集中していたティオが本命を発見する。そして……

 

「ハジメさん……後ろに退避してください」

「ああ」

 

 シアの冷静な忠告を受け取ったハジメは疑うことなく後方に飛び退いた。直後、何もない空間に楕円形の膜が出来たかと思うと、そこからハジメを狙った特大の極光が迸った。極光は、地面を抉りながら突き進み町の一区画を薙ぎ払う。

 

「やはり、予知の類か。忌々しい……」

 

 

 男の声が響くと同時に、楕円形の膜から白竜に乗った赤髪の魔人族フリード・バグアーが現れた。以前見た時には付けていなかった仮面とは逆側の顔は、忌々しいと感じる表情を隠そうともしていない。

 

「よう、白竜使い。しばらく見ない間に随分男前になったじゃねーか」

「ダサい仮面」

「そんなもの付けずに、自慢(笑)の顔を堂々と晒したらいいですぅ」

「ふん、ご主人様のように仲間を守るために負った傷ならともかく、そうでないなら哀れなものよのぉ」

 

 ハジメ達は、フリードが香織によって顔の左半分を回復不能のケロイド状態にされたことを知っているので盛大に煽っていく。

 

 

 このことにむしろ反応したのは、フリード本人ではなく周りにいた魔人族だった。彼らにとって英雄であるフリードがあの日、顔に大やけどのような醜い傷を負って帰ってきたことは悲劇以外の何物でもなかったのだから。周りの魔人族の殺意が増していくが、当の本人であるフリードは冷静だった。

 

「ふん、なんとでも言うがいい。直にそんなことを言ってられなくなるのだから。聞けぇッ、これより我が部隊は、神からの天命を果たすための任務を開始するッ。各自そのための行動を開始せよ!」

『はっ!』

 

 そう言うとフリードは眼前に超巨大魔法陣を展開する。

 

「いでよ、ジャバウォック。神の眷属の力にて、異端の使徒に裁きを与えたまえッ!」

 

 ハジメがとっさに妨害しようとフリードを狙撃するが、巨大な盾を持っている仲間の魔人族に攻撃が弾かれる。レールガンを受けてもびくともしていないあたり、アーティファクトの類かとハジメは怪しむが、直後にそれどころではなくなる。

 

「!? ハジメさんッ! 左ッ!」

 

 先程とは違い切羽詰まったような声を出すシアの指示に従い、ハジメは金剛にてガードを行う。そしてハジメは魔法陣から出てきた巨大な腕にガードしたにも関わらず吹き飛ばされた。

 

 

 ハジメが吹き飛ばされることを予見していたシアが纏う闘気の量を増やしながら飛び出すことで、全力でカバーに入り、ハジメを城壁に叩きつけられる前に確保することに成功する。

 

「ハジメさん。無事ですか!?」

「大丈夫だシア、助かった。……それで、一体どんな化物を召喚したんだあいつは?」

 

 その正体はすぐに現れた。超巨大魔法陣から現れたのは全長四十メートルを超えるであろう魔獣。

 

「グオォォォォォォォォォォ──ッッ!!」

 

 巨大な角と翼、それにふさわしい狂相はまさに魔王の幹部と言われても納得できるだけの威圧と魔力をみなぎらせていた。

 

「皆の者、我は()()()()金髪の術者を狙う。作戦通り、神の眷属を援護し、あの異教徒どもを排除せよ」

「了解!」

 

 その言葉と共に状況が動く。いつの間にかハジメ達とユエを分断するかのような立ち位置に入っているジャバウォックと呼ばれる魔物を中心に、隊列を整え、魔人族が一斉に攻撃を始めたのだ。

 

「ユエ!」

「私は一人で大丈夫! こいつは私が殺っておくから、ハジメ達はこのデカブツをお願い」

 

 その言葉と共に、空間魔法による転移でフリードと取り巻きと共にどこかに転移されていくユエ。その顔には焦りはなかった。ならユエを信じてハジメは王都に現れた怪物をどうにかするために行動する。

 

「シア、ティオ。気合を入れていけ。周りの魔人族はともかく、あのデカブツは相当やばい。流石に悪食は喰えなかったからな、それを除けば……久しぶりの喰い甲斐のありそうな大物だ」

「上等ですぅ。ここで特訓の成果を見せてやるですよー」

「どれ……妾もここは本気で挑むとするかの」

 

 獰猛な表情を浮かべるハジメ、気合十分のシア、そして真剣な表情のティオは神獣『ジャバウォック』に対し、己が武器を向けた。

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

 ここで蓮弥達とハジメ達は四つの戦線に分かれることになった。

 

 

 王都の南にてハジメ、シア、ティオはフリードが召喚した神獣『ジャバウォック』と魔人族の部隊を相手取り──

 

 

 王都の西にてユエは一人で、魔人族の神代魔法使いフリードとその護衛部隊と対峙する。

 

 

 王宮付近では香織がハジメ達と別れ、光輝達クラスメイトと合流しながら、負傷者の治療に当たる。だが香織は自身を狙う一人の影にはまだ気づいていない。

 

 

 そして王都の東にて、五百体の神の使徒に囲まれることになった蓮弥とユナと雫。

 

 

 さて、これからその四つの戦線について、順番に観察していくことにしよう。

 

 

 彼女はマルチモニターにて、戦線を笑いながら見守っている。

 

 




蓮弥達以外「【絶望】いきなり最終戦争が始まった件について!」

次回から同時間の別視点による物語が展開されます。

まずはハジメ視点。

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