ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

97 / 196
黒白のアヴェスター。

魔王の配下は最低でも大隊長クラスが18人いる模様。神座シリーズ自体でどんどんインフレが起きていく。そしてそれでも神格には届かないという恐ろしさ。

そんな神座シリーズに負けないよう、今回はシアとハジメの見せ場です。


覚醒と新兵器

 再びジャバウォックとの戦いが始まった。

 

 

 その巨大な腕を振り回すことで行われる攻撃は、単純ゆえに強力無比だった。今のハジメでは当たればただでは済まない攻撃力であることは間違いない。その攻撃を空力を用いた立体機道により躱していく。

 

 

 ハジメは躱しつつ、メツェライやシュラーゲンによる攻撃を行う。眉間、うなじ、胸、みぞおち、股間など効きそうなところや普通は効かなさそうな場所にも満遍なく銃弾を撃ち込んでいくが、たいして効果が見られない。

 

「どりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 ギガントモードに切り替えたシアのドリュッケンがジャバウォックの頭に直撃するものの、対して効いた様子を見せずすぐ体勢を整えた神獣は拳を翻し、シアに襲い掛かる。

 

「わわわ、今直撃するのはまずいですぅ」

 

 とっさにドリュッケンのショットシェルを利用して急激に落下して攻撃を躱すシア。これらのやり取りが数分以上に渡って続けられていた。

 

 

「ちっ、特撮怪獣に挑む自衛隊の気分だな」

 

 オルカンによるミサイルの雨をジャバウォックに浴びせつつも効いてないことを確認して愚痴るハジメ。ハジメが例えた通り、今のハジメ達の様子は特撮に出てくる怪獣に対して必死の抵抗を試みる自衛隊の戦闘機と言ったところか。攻撃自体は当たっているものの、それが全くダメージになっていないどころかろくに体勢も崩せない。

 

「どうにかしてこいつを王都の外にまで追い出したいんだが」

 

 ハジメには切り札がある。おそらくそれならこいつを倒せると半ば確信を得ているが、如何せん威力が強すぎる。ここで使えば王都ごと吹っ飛ばしてしまう。

 

 

 本当にどうしようもなくなったら躊躇うつもりがないハジメだったが、突然始まった戦争にまだ住民の避難が完了していないのは見て明らかだった。可能なら、虐殺は行いたくないと考えているので特撮怪獣を追い出そうとしているのだが、中々効果が出ない。

 

 

 ハイリヒ王国民には悪いが、ここで使うかと決断しようとしているハジメだったが、シアがハジメに近づいてくる。

 

 

「ハジメさん。やっぱりあいつ生半可な攻撃は効かないみたいです。……ちょっと試したいことがあるので少しだけ時間を稼いでもらってもいいですか? 30秒ぐらいで構いません」

「……それは構わないけど、敵はあのでかいのだけじゃねぇぞ。それはわかってるな」

「はい、もちろん。油断するつもりは全くありませんよ」

 

 ジャバウォックが生み出したワイバーンは現状、真・竜化したティオが一人で相手取っているが、合間合間に魔人族が遠距離から攻撃を仕掛けていることを無視するわけにはいかなかった。先に撃ち落とそうとするとジャバウォックの影に隠れるように移動するのでタチが悪い。

 

 

 だが、シアがそれを承知で時間が欲しいと言っているのなら応えてやるまでだ。シアの周りにクロスビットの部隊を準備する。

 

 

「ありがとうございます、ハジメさん。では……」

 

 シアが目を閉じ、深呼吸を始める。なにやらトランス状態に入ったらしく意識を集中させていることが伝わってくる。

 

 

 ハジメはそのシアを置いて、一人ジャバウォックに攻撃を行うとするが、そのジャバウォックが羽を広げて飛ぼうとしていることに気付く。

 

「!? 背中の羽は飾りじゃないってか」

 

 空中に飛翔したジャバウォックは速くないとはいえ、遠距離から一方的に攻撃していたハジメに肉薄してくる。あれの突撃が何をやっても止まるわけがないことはわかっているので、再び軌道を変えて躱そうとするが……

 

「こいつ!? くっ、”金剛”」

 

 その巨体が振るう拳が静止し、翻して尻尾を叩きつけようとしてくることに気付いたハジメは金剛でガードする。

 

 

 だが、そんなものは紙の盾だと言わんばかりにハジメを地面に向けて叩きつけた。

 

 ”ご主人様よッ! ”

 

 ティオが纏わりつくワイバーンを丸ごと吹き飛ばし、ハジメが落下した地点まで飛んでくる。思いっきり地面に叩きつけれたハジメは流石にノーダメージではなかった。

 

 ”大丈夫か、ご主人様よ。早く神水を”

「大丈夫だ、ティオ。香織の『調律』によるステータスの上昇がなければ危なかったけどな」

 

 そう言うと、ハジメは以前より増した自己回復能力を発動し、治療を開始する。

 

 

 まだハジメが潰れていないことを察したジャバウォックは足を振り上げ、踏みつぶそうとするが、ハジメはティオの背中に乗って飛行することによって難を逃れる。

 

「ティオ、このままあいつの周りを飛んでシアから引き離せ。後少しでいい」

 ”了解したのじゃ”

 

 ティオがジャバウォックの周りを飛び回り敵を翻弄する。羽があると言ってもティオほど速く飛べるわけではないらしい。その巨体もあってティオに追い付いていない。

 

「ここで撃ち落としてくれるッ!」

「殺された仲間たちの仇ぃ!」

 

 

『”雷斧”』

 

 

 付かず離れず飛んでいた魔人族が雷系中級魔法”雷斧”をぶつけて撃ち落とそうとしてくる。だが、今のティオの耐魔力の前では、そんな攻撃は効かない。

 

「なっ!?」

「あの化物がいい気分で暴れてるから気が大きくなったか。あいつが強ぇのは認めるが、だからと言ってお前たちが便乗して強くなるわけじゃねーだろ」

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ハジメの射程距離に入ったが運の尽きとばかりに、撃ち落とされていく魔人族。攻撃をしのぎ切ったと感じた直後、眼下のシアから蒼い光が立ち上るのを目撃する。

 

 

 

 

 竜人族の賢者の力は魅せてもらった。ならばこそ今度魅せるべきなのは、ただ一人魔力をもって生まれたハウリア、シアの真価である。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

 ある日の香織との修行中、シアは両手を合わせて瞑想を行っていた。

 

 そのシアの修行の様子を見守りながら、シアが挑もうとしている現象の難易度の高さを香織が改めて説明する。

 

魔素(マナ)内気(オド)、基本二種類の魔力が人の操れる力だということは説明したと思うけど、具体的な特徴について改めて説明するね。まずは魔素(マナ)、これは元々自然が宿している力を精神力で従えた力だと説明したけど、そのせいで外に逃げようとする性質があるの。だから放出するのには向いてるけど身体強化に使うと無駄が大きいのはこのため。一方の内気(オド)はその逆、元々身体の中にある力だから、身体の内側に籠ろうとする性質がある。魔法を使うには向いてないけど身体強化に向いてる力だね」

 

 その説明の続きをシアが口にする。

 

「だからこそ、その反発する二種類を上手く混ぜて使えば膨大なエネルギーが生まれる、でしたよね?」

「うん、その通り。本来水と油に近い関係にある二種類の魔力を均一に混ぜることで生まれる新しいエネルギー。場所によっては単純に気と魔力の合一とか呼ばれてるみたいなんだけど、私の場合は……」

 

 

「『蓮華(パドマ)』……そういう名前で教わった力だよ」

 

 

 シアは己の内に篭り、二種類の力を意識する。

 

 

 最初は苦労した。慣れない闘気という力をやっと使えるようになったかと思えばいきなり闘気と魔力を同時に使い分けろなど言われても困ってしまう。

 

 闘気と魔力、二つの力を同時に使うということは、右手と左手を同時に動かして別々の動作をすることに等しい。当然より繊細な動きを求められれば求められるほど、より制御は難しくなっていく。

 

 

 なのでまだ未熟なシアは蓮華(パドマ)を練り上げるのに少しの時間無防備を晒すことになってしまうのだ。

 

「食らえ、化物!」

 

 当然そんな隙だらけのシアを無視する魔人族ではなく、次々と魔法やその他攻撃を行うが……

 

「な、なんだこれは?」

「くっ、これもあの男のアーティファクトか!?」

 

 殆どの攻撃はハジメが用意したクロスビットによって迎撃されて防御される。オルクスで香織達を救出した際に使っていたものより、バージョンアップしているクロスビットは殆どの魔法を弾くことができるまでになっている。

 

 

 だが、全ての攻撃を防ぐことはできない。放たれる魔法に紛れ込ませる形で撃たれていた石の針までは完全には防げず、いくつかの針がシアの肩や腕に突き刺ってしまった。

 

「やったぞ! コートリスの石針が刺さっている!」

「これで終わりだ!」

 

 石の針自体はそれほど大きなダメージではないのに、シアが石針を喰らった事で魔人族達が一様に喜色を浮かべている。魔人族が喜ぶ理由はすぐに判明した。針の刺さった部分から徐々に石化が始まったのだ。

 

 石化は、状態異常を解くために特定の薬を使うか、光系の回復魔法で浄化をしなければならない。だからこそこのまま回復させなければこれで終わりだと魔人族達は思っていた。

 

 

 だが、それでもシアは集中を乱さない。自分が徐々に石化する中でも身体の内側の二種の力、精神エネルギーである魔力と身体エネルギーである闘気を練り上げ。

 

 

 目を見開く。

 

 

 その瞬間、シアの身体から蒼い闘気が立ち昇る。今まで纏っていた闘気は白い光のようなものだったが、今のシアは鮮やかな蒼い光を纏っていた。

 

「なっ、何がッ?」

「そんな!?」

「石化が……解けていくだと!?」

 

 見た目が鮮やかになっただけではない。その今までとは比較にならない力の波動もさる事ながら。通常回復手段では治療困難の石化が一瞬で解除された。

 

 シアはそんなことを一切気にすることなく、身体を巡る蓮華を勢いよく流していき、より深く身体構造単位で強化していく。

 

 筋肉、脂肪、骨格、内臓、神経。

 

 細胞の一つ一つを包み込み保護することで今まで以上の戦闘にも耐えられるようになったシアの新たなバトルスタイル。

 

 

 細胞極化(アルテマセル)──

 

 

 筋力・体力・耐久・敏捷の基本パラメータを大幅に向上させるだけでなく、五感の超化や耐熱・耐寒・耐毒などの各種耐性をつけることができる魔術界の究極技法(アルテマアーツ)

 

 

 全身蒼いオーラを纏ったシアが軽く腰を落とす。

 

「……行きます」

 

 さらに一度身体を沈めた後、シアの姿が消えた。

 

「!!?」

 

 周りで警戒していた魔人族どころか、瞬光を使っていたハジメの視界からも消えたシアは、ジャバウォックの顔の横に現れ……

 

「でりあぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 その頬に全力の右ストレートを叩き込んだ。

 

 

 その攻撃の衝撃が空間を走り抜け、王都上空を広がるように拡散していく。そして、その攻撃をまともに食らったジャバウォックのその巨体が、少しの間浮き上がり地響きと共に地面に叩きつけられた。

 

『…………ッッ!?』

 

 その光景を見て魔人族は戦闘中にも関わらず口を開け呆然とするしかなかった。否、それは魔人族だけでなく、ハジメやワイバーンの殲滅を終え、竜化から戻ったティオですら同様だった。

 

 

 誰もが目を疑う光景。ハジメが近代兵器を山ほど打ち込もうともビクともしなかった推定体重数万トンの怪獣を、ウサミミ少女が殴り倒したのだから。

 

「ああ、しまった。町のほうに倒してしまいました。……良かった。どうやら人の気配はなさそうですね」

 

 

 オーラを纏い、()()()()()()()()()シアはそんなある意味場違いのセリフを放つ。

 

 

 そして、そんなセリフが聞こえたのか、ジャバウォックが身を起こしてシアを見る。その目は血走った憤怒の様相をしている。

 

「むむ、流石に頑丈ですねー。だけどそれでこそです。さあ……」

 

 

 パンと手と拳を合わせるシア。巨大怪獣に全力の殺意を向けられる中、こちらのバグウサギもやる気十分だった。

 

 

「喧嘩をしましょうか」

 

 

 そうして始まった戦いはまるで怪獣大決戦だった。ジャバウォックが振るう拳に対して、シアは迎撃を選択し拳を撃ち返す。その衝突で空間が揺れるほどの衝撃が発生するが、両者とも壮絶に笑い合うだけでノーダメージ。

 

 

 再びシアが消え、今度は左フックをジャバウォックのこめかみに叩き込む。たまらずたたらを踏むジャバウォックだが、今度は倒れず、翻した尻尾でシアを叩き落とした。

 

 

 すさまじい速度で叩き落され、王都の大地がひび割れるほどの衝撃をもろに受けたシアだったが、ほぼノーダメージでがれきの山から飛び出し、そのままジャバウォックの顎にアッパーをかます。負けじとジャバウォックが拳を振り回し攻撃し、シアはその攻撃を飛び回りながら避け、頭上に踵落としを叩き込む。

 

 

 巨体や尻尾を生かしたパワフルな戦いを繰り広げるジャバウォックに対して、シアはその小さい身体と敏捷を生かしてジャバウォックを翻弄しつつ、少しずつ確実にダメージを与えていく。

 

 

「怪獣かあいつは……それに飛行靴をいらないと言ったのはこういうことか。あいつ……界〇拳だけじゃなくて、とうとう舞〇術まで習得したのか……」

 

 ようやく正気を取り戻したハジメが自分の役割を全うするべく準備を始める。

 

 

「シア! そのままそいつを外まで飛ばせるか?」

「やってみますぅ」

 

 シアが空中でジャバウォックと殴り合いをしながら答える。

 

「そうはさせるか!」

「化物めッ、これ以上貴様の思い通りににはさせん」

「喰らうがいい。我らの合体魔法!」

 

『”大嵐浪”!!』

 

 

 町を覆う程度に圧縮された小型の台風がシアに向かって襲い掛かる。建物を巻き込みながら突き進むその災害級の魔法に対してもにっと笑顔を見せ、拳を構える。

 

「まだ名前がないんですけど適当に、シア……インパクト!」

 

 ただの正拳突き。されどそこで発生した空気の砲弾は小型台風を吹き飛ばし、延長線上にいた魔人族を丸ごと空の彼方まで吹き飛ばす。

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!』

「そしてぇ……はぁぁぁぁぁぁ!」

 

 振り返り、ジャバウォックの足元まで高速で移動し、腹部を連続で蹴り上げる。

 

 

 蹴る、蹴る蹴る。蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る。

 

 

 ちょうど鳩尾に発生した激痛に溜まらず悶絶するジャバウォック。

 

 

 飛行能力関係なしに浮き上がった身体を通り抜け、シアはジャバウォックの尻尾を掴む。

 

 

細胞極化(アルテマセル)……出力最大!」

 

 

 シアが纏う蒼いオーラの量が増し、それに伴いシア足元の地面が陥没していく。

 

 

「おいおい、まさかシアの奴……」

「……信じられぬ……」

 

 流石のティオも呆気にとられる光景。シアがジャバウォックの尻尾を掴み……

 

 

「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 しばらく振り回した後、思いっきり王都の外まで……投げ飛ばした。

 

 

 推定数万トンの肉体が浮き上がるというそのあり得ない光景。その巨体は王都の外で援軍として待機していた魔人族の援軍と魔物数千匹を巻き込み……

 

 

『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!』

 

 地響きと共に押しつぶした。

 

 

 その光景を見届けた後、シアがハジメの元にまで戻ってくる。その瞬間、シアが纏っていたオーラが消える。

 

 

「はぁ、はぁ、流石に……しばらくはこの技は使えませんね……消耗が半端ないですぅ」

「見事じゃ。まさかあの巨大生物を投げ飛ばすとは。ほれ、ご主人様特製栄養ドリンクじゃ」

「ありがとうございます」

 

 シアがハジメ特製栄養ドリンク型回復薬を飲む。モットーを見て作ろうと思い至った珠玉の逸品である。

 

 

「よくやったシア、お前は休んでろ。……ここからは、俺のターンだ!」

 

 

 ハジメは天空に手を掲げ、再び超兵器を動かす準備に入る。

 

 

 

 

 その兵器を作ろうとしたのは蓮弥がきっかけだった。再生魔法習得後、今後魔人族が絡んでくるなら大量殲滅兵器が必要になるだろうと考えたハジメは、太陽光収束レーザー『ヒュベリオン』の作成に取り掛かっていたのだが、当初ハジメが思ってたよりヒュベリオン作成の作業が難航していたのだ。そこで何かいいアイディアがないか蓮弥と話し合って出てきたのがこの兵器だった。何でも蓮弥自身、雫の伯父にそういうものがあると聞いたことがあったらしい。

 

 

 その兵器はヒュベリオンと違い、弾道計算を行う必要があるのものの、仕組みとしてはヒュベリオンより遥かに簡単に作れそうだったので──もっとも、蓮弥はこの兵器がそんな簡単に作れるわけないだろ、とハジメにツッコミを入れた──作ってみた結果、悪食戦時には既に完成していた兵器だった。悪食の時は、運動エネルギー利用兵器の究極系であるこの兵器よりも、指向性エネルギー兵器であったヒュベリオンの方が有効だったため、使うことがなかったのだ。

 

 

 だが、今回は違う。ハジメはあの神獣ジャバウォックをできれば喰いたいと思っていた。そのためには、丸ごと消し飛ばしてしまうわけにはいかない。今回はジャバウォックを形を残して倒すレベルの使用でとどめなくてはならない。

 

 

 その兵器は、アメリカにて核兵器に代わる戦略兵器として開発されているとされており、簡単に言えば、宇宙空間から地表に向けて超重量の金属の塊を落とす、極めて大規模な一種の運動エネルギー弾である。仕組みとしてはシンプルだが侮ってはならない。推進ロケットにより加速された大型金属棒は落下中にマッハ10にも達し、激突による破壊力は核爆弾に匹敵するだけではなく、地下数百メートルにある核シェルターを破壊可能だとされている。

 

 

 今回ハジメが使うのはそこまで大規模なものではない。せいぜい超高度から金属棒を落とすくらいの規模だが、ハジメには重力魔法と空間魔法がある。これにより、ミハイルを撃ち抜いた規模まで威力と範囲を絞ったり、逆にハイリヒ王国王都を一撃で壊滅させる核兵器クラスの出力を出したり調節することが可能になった。

 

 

 この世界とは近いようで遠い、かつてあり得たかもしれない可能性。そこである一人の憲兵は言った。

 

『読まれようと関係ない一撃』

『まるで神の裁き』

 

 

 遥かなる天空から裁きの神が一本の杖を放つようなその光景から、この兵器にはこう名付けられている。

 

 

 その名は……

 

 

 

 

「ロッズ・フロム・ゴッド!!」

 

 

 

 ハジメの掛け声をコマンドに、その超兵器が駆動する。

 

 

 事前に打ち込んでおいた周辺環境データを元に、発射台に仕込まれた生成魔法によるプログラムが計算を開始。その結果を持って、遥か上空から最適な角度、速度にて神の杖が放たれる。

 

 

 超音速にて迫るその脅威に対応できるものがいるはずもなく、体勢を崩したままのジャバウォックの魔石を目掛け、真っすぐ突き刺さる。

 

 

 響く爆音、シアが放った拳圧以上の衝撃。

 

 

 いかなる攻撃であっても、致命打になることを防いできたジャバウォックの頑強な肉体は……その超兵器をまともに受けたことにより声を上げる暇もなく爆発四散した。

 

 

 最低限に威力を絞ったとはいえ、核兵器に匹敵されると言われる超兵器。その影響は怪物の撃破だけで済むわけもなく、その余波にて外に待機していた魔人族の援軍は哀れ、巻き上がり飛散する土石に飲み込まれて壊滅した。

 

 

「かなり威力を絞ったはずなんだがな。……こりゃ本気で使うと大陸くらい割れるかもしれないな。気を付けねぇと」

「うわ~。あの大きいのが粉々になってますぅ」

「流石のあ奴もこの攻撃には耐えられんかったようじゃの」

 

 

 頑丈さが売りだったためか、再生することなくそのまま肉片を飛び散らせるジャバウォック。狙い通り食べられそうな部分を残すことに成功した。

 

 

「シア、はちょっとまだ厳しいか。ならティオ、あいつの肉片を集めるの手伝ってくれ。後で香織と相談しながら喰うから」

 

 もはや全長40メートルを超えた怪物程度ではハジメにとって強化素材でしかないらしい。それに呆れるやら頼もしく感じるやらしながら、ハジメとティオはジャバウォックの肉片を集めた後、シアの回復を待ちながら、未だ戦っている仲間の中でも手薄そうな香織のところへ向かうのだった。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 王都の南の戦線戦況

 

 

 ハジメ、シア、ティオVS神獣ジャバウォック&魔人族

 

 勝者:ハジメパーティー

 

 再起不能:神獣ジャバウォック(肉片は後でハジメがおいしくいただく予定)&王都外で待機していた魔人族の増援部隊数千。

 

個別状況--

 

 ハジメ:新兵器の実戦テストができたことと強化素材を手に入れてホクホク。ほぼ無傷のまま香織の応援に向かう。

 

 シア:細胞極化によりジャバウォックを圧倒する。しかし、現在闘気と魔力を大量に使ったことによる疲労を回復中。

 

 ティオ:真・竜化により灰竜よりちょっと強いワイバーンをまとめて殲滅。竜としての格の差を見せつける。現在真・竜化を使ったことによる精神の汚染を回復中。

 

 




>真・竜化
ティオの新たなる竜の進化形態。以前の竜化を遥かに凌駕する力を行使できる反面、竜の本能ともいうべき破壊衝動も同時に引き出すので現状では長時間使用すると暴走する危険がある。
ドMのティオがドSよりになってくると危険信号。そうなると再びドMに戻すことで魔力のチャージとカルマ値の調整を行うのが正しい処方。なお、ちょうどいい中間地点にはいかない模様。

>細胞極化(アルテマセル)
究極技法。魔力と闘気と言う二つの相反するエネルギーを混ぜ合わせることで蓮華(パドマ)という高純度のエネルギーを生成。その高純度エネルギーを用いて細胞の隅々まで強化することで、別次元の戦闘力を発揮できるようになったシアの新たなる戦闘形態。この形態になるだけで各種パラメータの劇的な上昇はもちろん、耐熱、耐寒、耐毒、その他の耐性を付けてくれる。さらにこの形態時のみ魔力と闘気をコントロールすることで空中を飛べるようになるといういいことずくめ。欠点は消耗が激しいので今はまだ長時間使えないところ。活動時間は修練で伸ばすことが可能。元ネタは界王拳やら咸卦法やら肉体強化技。ちなみに蓮華(パドマ)は別名チャクラともいう。

>ロッズ・フロム・ゴッド(神の杖)
ハジメがヒュベリオンと共に開発した某光の魔王が大好きな超兵器。メテオインパクトと違うところは兵器として作ったので環境の変数さえ入力すれば、精密射撃が可能である点と、攻撃範囲や威力を調節できる点。最小火力で使えば人をぴちゅんできるし、最大パワーで使えばハイリヒ王国王都を一撃で壊滅させられるという運動エネルギー兵器の究極系。ヒュベリオンより構造はシンプルなので量産可能。欠点は最小火力だと狙いを付けるのが難しくなる点と最大火力だと近場では使えない点。

次回は香織視点……ではなくユエ視点です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。