ありふれた日常へ永劫破壊   作:シオウ

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少し時間がかかりましたが最新話です。




王都戦線~ユエサイド~

 王都の西にて、ここに二つの戦力がぶつかろうとしていた。

 

 

 天頂に輝く月が見えなくなるほどの灰竜の群れは優に数百体は超えているだろう。そして、その中心には白竜の背に騎乗する仮面を付けたフリード・バグアーの姿。

 

 

「悪く思うな。敵戦力の分断は戦いの定石だ」

 

 

 それに対するは空間魔法〝界穿〟が作り出した転移ゲートに巻き込まれ、王都の西側に飛ばされたユエ。

 数百対1。そんな戦いが始まる前に、フリードは宙に佇むユエに語りかける。

 

「この状況、いかに貴様が無詠唱無陣の魔法使いなのだとしても攻略することは不可能だと言っておく。だが、これは仕方がないことだ。すべては神の意志の元に決められたことなのだから」

 

 そうやって自分に酔った語りを行うフリードを尻目に、ユエは周囲を観察していた。

 

 

 敵の数は想像していたよりも多かった。現在王都攻めを行っている最中でありながら、この量は異常だと言えるほどに。魔物の中には蓮弥によって潰された亀の魔物が複数存在している。以前とは違い、双頭になっているあたり、おそらく強化個体だろうと推測できる。魔力を吸収できる固有技能を持った魔物が十体以上、これは明らかに魔法主体で戦うユエを狙ったものであることを察する。

 

「気持ち悪い語りはもういらない。さっさと本題に入ったらどう? ブ男」

 

 ちなみに、フリードは十人中十人が美男子と評価すると言っても過言でないほど整った容姿をして()()。だが現在、フリードの顔の半分を覆っている仮面の下は醜く爛れてしまっている。その傷は香織の堕天によってつけられた傷であり、いかなる回復魔法でも治療不可能とは香織のお墨付きである。つまり、ユエの言うブ男という指摘は的外れではなくなってしまった。周りの魔人族、特に女性魔人族は殺意の目を込めてユエを睨むが、ユエは鼻で笑うだけだった。

 

「そうだな。単刀直入に言わせてもらう。……俺と一緒に来てもらうぞ女。貴様に拒否権はない。喜ぶがいい、貴様は異端者の身でありながら我が神によって選ばれたのだ」

 

 その言葉の意味を考えるユエ。魔人族が崇める神はアルヴ神と言い、エヒトとは対立している関係にある神である。エヒトがクソ野郎なのだとしたら、そのクソと対立しているアルヴ神とやらは善神なのかというと絶対違うとユエは断言する。仲間達との予想では、両方の神はエヒトの創作、もしくは本人ではないかという結論に達している。

 

 

 つまり、フリードの提案は論外だ。

 

「断る。私は神の木偶人形の言葉をまともに聞くほど正気を失ってはいない」

「勇ましいな、この状況でもそれだけの啖呵を切れるとは、だが言ったはずだ。貴様に拒否権はないと。これはアルヴ神の天命であるがゆえに絶対なのだ。もし拒否すると言うのなら、痛い思いをすることになる。知っているぞ、貴様には自動再生という技能があると言うことを。つまり多少乱暴に扱っても死なないと言うことであろう」

 

 どうやら絶対優位な立場にいることで増長しているらしい。既に展開している魔法の存在にすら気づいていないのに呑気なものだ。ユナが相手なら、この時点でフリードは10回以上死んでいる。

 

 

「”嵐帝氷華”」

 

 ユエの魔法が発動する。それは絶対零度の大気の渦。それはたやすくフリード、そして数百体の灰竜を丸ごと飲み込み、氷漬けにする。その光景はまるで氷でできた大輪の薔薇。氷華が咲き乱れ、魔人族はあっけなく壊滅した。

 

 

 その光景にユエは警戒する。あまりにもあっけなさ過ぎた。魔法を使う自分に対する対策が魔力吸収の魔物だけではないはずだ。そしてその判断は正しかったことを悟る。

 

「無駄だ」

 

 氷の薔薇の中心で膜のようなものが展開されると、フリード周辺を覆っていた魔法が跡形もなく消滅する。

 

「貴様の魔法などもはや私には効かん。これぞ我が神アルヴより授かったアーティファクト『絶魔の指輪』、これを装着したものはあらゆる魔法を無効にすることができる。これがある限り、貴様は私に傷一つ付けることはできん」

「なるほど、それがお前の強気の秘密。でもいいの? 魔人族の部下も魔物も全滅したけど」

 

 フリードは無敵でも、周りはそうではない。今生き残っているのはフリードと白竜のみである。ユエに逃げられるとは思わないのだろうか。

 

「我らの同胞は神に殉ずる覚悟などとっくにできている。それに……」

 

 フリードが手を掲げると、複数の転移門が開かれ、そこから再び灰竜と魔物群が出現した。

 

「魔物ならいくらでも用意できる」

 

 同胞が死んだにも関わらず顔色一つ変えない。大方これは神からの天命であり、そのために死ぬことは名誉なことなのだと教え込まれているのだろう。ユエは理解不能すぎて鳥肌が立ってくる。

 

「一斉掃射せよ。あの規模の魔法をそう何度も使えるわけがない。相手に魔法を使う隙を与えるな。多少傷つけても構わん。どうせすぐに再生する化物なのだからな」

 

 数百体の灰竜が四方八方上下、あらゆる方向から極光の乱れ撃ちを行った。ユエはそれに対して絶禍で対応するが……

 

「我が神から授かったアーティファクトは絶魔の指輪だけでない。昇華せよ!」

 

 別の指にはめられていた指輪が光を放つと光線の出力が桁違いに増大していく。

 

「これは……ブレスを強化している?」

 

 ユエは絶禍で飲み込み、禍天で逸らしながら分析する。おそらく魔法の威力を上げることができるのだろう。強化された極光によって絶禍でも吸収しきれなくなっていることを悟ったユエは、足に魔力を纏って高速で移動を始める。

 

 

 すかさず追ってくる光線があちこちに照射され、王都の街並みを破壊していく。この場所に人の気配はない。避難が済んでいるか、或いは……。だが今はそんなことを気にしている場合ではない。どちらにせよ足手まといがいないのは幸運だ。

 

「”氷槍弾雨”」

 

 空中に展開した雨雲から無数のつららを落下させる。地上にいる魔物を一掃するために放った魔法だが、アブソドには魔力を吸われて無効にされる。ユエはその光景を動きながら観察することで能力を把握する。

 

 

「意外にすばしっこいな。だが、無駄だ。灰竜よ、その爪で八つ裂きにせよ!」

 

 フリードの命令により灰竜が行動を開始する。フリードの指輪によって強化されているのか、グリューエン大迷宮で戦った時とは動きが違う。

 

「”蒼天荷砲”」

 

 蒼天を数発分を圧縮した砲撃にて灰竜を焼却する。だが、そんなものはお構いなしにユエに迫ってくる。ユエは上を見上げると魔法陣は常時展開されており、そこから途切れることなく魔物と魔人族の部隊が呼び出されていく。現在ユエは一人で大隊規模の数の軍隊を相手していることになる。

 

(あいつがいる限り魔物は増え続けると言うことか)

 

「”極大・天雷槍”」

 

 天灼3発分を 槍状に圧縮して繰り出す。まっすぐフリードに向かっていった魔法はバリアのようなもので防がれた。

 

「無駄だと言っただろう。いかな魔法とて、この絶対防御は超えられん」

 

 魔物を倒してもキリがない。それを操るフリードには魔法が効かない。つまりユエはこのまま永遠に増え続ける魔物を一人で相手にしなければならないということだ。

 

 

 所謂弾切れを狙ってみることを考えるが、すぐに否定した。あの余裕の態度ならきっとまだまだうんざりするほど用意していることは想像に容易い。

 

「”雷龍”」

 

 ユエが雷の龍を召喚し、魔物を一掃しようと指揮を振るう。灰竜は次々と焼かれて地に落ちていくがフリードの余裕は崩れない。

 

「無駄だ。その奇怪な魔法の対策もできている。アブソドォ!」

 

 フリードの声に応えて複数の双頭の亀の魔物が口を開き、雷龍を吸収していく。どうやら頭が複数になったことで複数の魔法を吸収できるように進化したらしい。流石の雷龍も複数の強化されたアブソドの吸収能力の前では、たまらず消滅する。

 

 

 それだけでは終わらない。吸収した魔法を自身の力に変え、撃ち返してくる。

 

 

 ユエは飛行魔法を発動し、空中で避けるがその避けた先には数十の灰竜がブレスを待機させていた。

 放たれるブレスを絶禍で防ぐが、強化されている上に数が一向に減らないその灰竜のブレスにより、ユエは被弾してしまう。

 

「やったか!」

 

 閃光に飲み込まれた魔人族の一人が勝利を確信して声高らかに叫ぶ。

 

 彼らからしてみればこの結果は当然だ。

 

 フリードの空間魔法によって召喚される魔物は、まだ数百万という単位で存在している上にそれが強化されているのだ。相手がこれに対抗するには、フリードを直接狙うしかないが、フリードは神のアーティファクトにより魔法が効かない。いかに強力な魔法を使えるとは言っても、無尽蔵の数の暴力と絶対魔法耐性の前では無力に等しい。

 

 

 砂ぼこりが晴れた場所には、左半身を失い、血まみれで息を乱しているユエの姿があった。

 

「ふん。愚かなことを。抵抗しなければ痛い思いをしなくても済んだのだ」

「お前は……何のために……私を狙う? 汚らわしい……異教徒じゃ……ないの?」

 

 ユエは必死に声を絞り出すように言う。そのユエの決死の行動に対して、既に決着がついたと判断したフリードが、ユエを上空から見下しながら傲慢さを隠そうともせず言う。

 

「本来なら異教徒など死以外の道などないのだがな。我が主であるアルヴ様はどうやらお前が必要だと判断したらしい。ならば神の使徒である私が逆らうわけにもいくまい」

「そう……結局私がなぜ必要なのか知らされていないんだ……ならもう用はない」

 

 その言葉と共に半身が無くなっていたユエが調子を取り戻し……

 

「なんだと!?」

 

 肉体を一瞬で再生させる。再生操作と超速再生。この二つの技能を組み合わせれば、所謂死んだふりといった真似も可能になる。

 

「あれほどのダメージを一瞬で再生させることができるのか!? まさか神代魔法を使ったのか?」

 

 なにやら勘違いしていることをいいことに、ユエは周りの状況を把握する。

 

 

 倒しても倒しても魔物は再現なく増え続け、もはや大軍隊をユエが一人で相手しているような状況になっている。このまま削り続けてもいずれユエが力尽きる方が先だろう。そして生半可な魔法ではフリードには届かない。

 

(まだ未完成だけど仕方ない。使ってみよう)

 

 ハジメ達に援軍を頼むという選択肢もユエにはあったが、それではあまりに不甲斐ない。まだ試していないことがある以上、それを試した後でも遅くはないだろう。

 

 

「”黒龍”」

 

 上空に一匹の龍を撃ち出す。それは今までの雷龍とは異なり、全身炭のように真っ黒な姿をした龍だった。呼吸するだけで周囲の魔素を吸収し、膨張していくその龍は雷龍より一回り以上大きい。

 

 

 まだこれだけの魔法を使えることに驚愕する魔人族だが、フリードの余裕は崩れない。当然だ。それが魔法である以上、フリードには届かないのだから。

 

 

 これが最後の抵抗なのだと勝手に判断したフリードがそれを放った後、無防備をさらしたユエを撃ち落とすために周囲の魔物に命令を下す。

 

 

 そして十分以上に肥大化した黒龍は落ちていった……ユエの頭上に。

 

「なに!?」

 

 ユエのまさかの自爆行為に流石に虚を突かれたフリードは反応することができず、ユエは自身が召喚した黒龍に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「憑依共感体質?」

「そう、それがユエや我が師のように、『神子』と呼ばれる人達が持っている共通の体質です」

 

 ユエはユナとの修行中に、自身の体質についての説明を受けていた。

 

「百聞は一見にしかずです。実証してみましょう」

 

 そう言ってユナは側に一体の角うさぎを召喚する。

 

「これ……魔物?」

「はい、その通りです。ですがご安心を。この子は既に魂の浄化が終わっているので害はありません。そしてこの子を……”固着(セキュア)”」

 

 そしてユナの呪文と共に、角うさぎが分解され丸い球状の光の珠になる。

 

「今からこの子をあなたの中に押し込みます。ちょっと意識が飛ぶかもしれませんがたいして害はないので安心してください」

「えっ、いや、ちょっと!?」

 

 いきなりのユナの行動により、ユエが動揺する中、自身の中にその光る珠を入れられるのを見守るしかなかったユエは意識を暗転させた。

 

 

 パン! 

 

 ユナが手を叩く乾いた音と共にユエが正気に戻る。そして口の中に広がる青臭い味と匂い。

 

「げぇ、ぺっ、ぺっ、これ、雑草ッ?」

「目が覚めましたね。さて、ほんの数秒でしたが、自身がどうなっていたのか見てみましょうか」

 

 ユナが出したスクリーンに映し出されたのは、空ろな表情をしたユエが地面をぴょんぴょん跳ねながら、直接草を口で食べる光景だった。

 

「これ……本当に私が?」

「はい、あなたは魂だけの存在であるこの子に取り憑かれ、身体を乗っ取られていたのです」

 

 

 全く記憶にない行動を見せられ、ユエは動揺する。つまり魔物の魂が自分の中に入り、自分の身体を好き勝手動かしていたということをユナは言っているのだから。

 

 

「本来人間は他の魂に対する順応力が低い生物です。しかしそれは言い換えれば抵抗力が高いということでもあるので、仮に他の人間に同じことをしても弾かれますし、無理に入れると自我が壊れてしまいます」

 

 人間は本来他の魂を受け入れられるようにはできていない。小妖に憑かれただけで負荷がかかり、人の魂など入れようものなら自我が崩壊してもおかしくないのだ。だけど何事にも例外はある。

 

「憑依共感体質……その体質を持つ人は他の魂を受け入れる容量が人よりも大きいのです。もちろんその体質にも霊感があるというレベルから悪魔憑きや神の器と呼ばれるレベルまでピンキリありますが……ユエの容量は非常に大きい。おそらく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

「それが大きいと……どうなるの?」

「本来、何らかの霊的媒体がなければ顕現できないはずの神魔達が、こぞってその体質の人間の身体を奪おうとしてくるでしょうね。私達の時代では憑依体質を制御できない人達は保護対象でした。つまり幽霊に取り憑かれやすいと言えばわかりやすいでしょうか」

「けど自分は今まで一度も、そんなことになったことはない」

 

 ユエは王国時代を振り返ってみるが、そんなに危ないことになったことはない、と思う。もしかして自分の記憶がないだけで、知らないところで先ほどのような醜態をさらしていたとは思いたくない。

 

「そもそも取り付けるほどの力を持った霊魂が中々いないですから。私達が出会った中で一番強力だった魂だけの存在といえば……ミレディ・ライセンでしょうか」

 

 ユエはあのウザイ存在を思い出し、自分がミレディのようなウザイ存在になることを想像した。……それもやっぱり嫌だとユエは思う。

 

 

「とはいえそれは、自身の体質を理解できず制御できていない者達のことであり、その体質を上手く利用できる人を神子と呼びました。……かつて、我が師はその体質を用いて、聖書に記された聖人や天使、そして父なる神の現し身を召喚し自身に憑依させることで、人知を超えた力を振るうことができたのです」

 

 

「古の時代から受け継がれ、あの人の代で完成することになった神霊憑依術式体系のことを……

神ノ律法(デウス・マギア)』と呼びます。そしてそれが、これからあなたが習得しなければならない技です」

 

 

 神ノ律法(デウス・マギア)。ユナの話をユエなりに噛み砕いて解釈してみると、どうやらユナの師匠は自身の憑依体質を利用して神様などの超常存在の力を借りることで強力な力を行使することができたということらしい。

 

 

「……私にそんなことできる?」

「同じことはできないと思います。以前にも言いましたが、我が師とユエでは属性が正反対です。聖人の中の聖人だったあの人とは違い、ユエは吸血鬼なので。属性の都合上、邪神や悪魔なんかとは相性がいいかもしれませんが、あまりお勧めはできませんね」

「……私も邪神や悪魔に身体を乗っ取られたくない」

 

 ユエは気を付けなくてはならないと思う。ユナ曰く取り憑く力のある霊魂はそんなにいないらしいが、逆に言えば全くいないわけではないのだ。そんな得体のしれない存在に身体を奪われるなどごめんである。

 

「まずは霊的存在に肉体を乗っ取られないように()()()()を付けることから始めましょう。それが終わった後、本格的な修行に入ることになります」

「……味方になってくれる神様なんてアテがないけどどうするの?」

 

 ユエの印象では憑依する対象が強力でないと意味がないように思えるのだが。

 

「問題ありません。確かにユエは神霊を宿すことはできませんが、ユエには代わりに素晴らしい才能があります……魔法という才能が」

「それってどういう……」

「知ってますか? 膨大な魔素で編まれた魔法は時に別の名前で呼ばれることがあります。すなわち……精霊と」

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

固着(セキュア)

 

 ユエが呼び出した魔法の黒龍……いや、人工精霊と呼ぶべきものを固定して掌に集める。

 

 これはまだ完成ではない。本来精霊とは高位の魔法だけでは成り立たず、魔法に宿る魂を理解することで初めて成立する上位存在。なので真の意味で完成させるには魂魄を深く理解する術が必要ということもあり、修行の完了は魂魄魔法を習得してからという話だったのだ。とはいえ、今も全く意味がないわけではない。それをこれから証明する。

 

憑依(アニマ)!」

 

 掌で固定された魔法を握りつぶすことで自身に憑依させる。

 

 

 変わる。ユエの気配が変わっていく。ユエの中で増幅し、暴れ出す魔法がユエの体質によって体内に魔力の増幅回路を生成する。

 

 

「これは……いったい何が起きている!?」

 

 フリードの動揺も当然だった。絶対に生きて確保しなければならない対象が自殺したことで焦りを覚えていたところに、無傷でユエが現れたのだから。さらにそれで終わらずユエの気配が変わっていくのだ。その感じる膨大な魔力は天井知らずに増大していき、その姿は闇色のオーラを纏っていく。

 

 

神ノ律法(デウス・マギア)……初伝『闇纏う者の衣』」

 

 

 準備を終えたユエは、闇色に変わった瞳をフリードに向ける。そしてそのまま目を逸らさず、ユエは拳大の暗黒の球体を呼び出し空中に放り投げる。

 

 

「”黒縄大天窮”」

 

 

 上空高く浮かび上がるその球体が突然弾けて小型ブラックホールになる。その引力により空中に飛んでいた灰竜を始めとした魔物群はたまらず吸い込まれていく。貪欲に、まるで穴から水が抜けていくかのように吸い込み続けるその黒い穴は空中に浮かんでいた約千体にまで数を増やしていた魔物群を丸ごと消滅させた後、黒い穴自体も消失する。

 

 

 重力魔法奥義”黒縄大天窮”

 

 

 かつてミレディが行使した黒天窮の上位魔法であり、これに吸い込まれたものは何ものであろうと生還することはできない闇の穴を生み出す魔法。通常状態のユエでは制御できない魔法だが、今のユエなら使用できる。

 

 

「くっ、まだこれほどの力を残しているとは!」

「まだこれで終わりじゃない。”覇王雷龍”」

 

 空中に手を伸ばすユエに引きずられるように天候が変わる。局所的に発生した黒い積乱雲から大型の龍が出現する。

 

 大きさは数百メートルを超えているだろう。以前よりより形がはっきりしており、長く伸びた鋭い牙、生えた角、そして巨大な魔力は以前の雷龍とは比較にならない。今度こそ攻撃されると思ったフリードは急ぎ命令を下す。

 

「アブソドォォ!! 全力で奴の魔法を吸収するのだ!」

 

 その命令を受けた十体のアブソドが覇王雷龍を吸収しようとしてくる。だが、そのうちの一体が魔法を吸収している過程で、甲羅に罅が入るという異常を訴えた。

 

「まさか……吸収しきれないだとぉ!?」

「これで、終わり!」

 

 ユエが手を下ろすことで覇王雷龍が落ちてくる。その威圧感すらある姿はそれだけで魔物や魔人族に恐怖を与える。圧倒的な暴力の化身が全てを飲み込み、地上にいた魔物全てを一掃した後、フリードを飲み込まんと迫る。

 

「おおおおおおおおおお!!」

 

 フリードは全力で絶魔の指輪に魔力を注ぎ込んで防御する。まるで大自然の暴威をその身一つで受ける所業に流石のフリードも動揺を隠せない。

 

 

 もし、もし絶魔の指輪で防御できなければ……自分は跡形も残らない。

 

「おおおおおおおおおおおおお!!」

 

 しばらく光の渦に飲み込まれていたフリードは、その甲斐あり無事に乗り切ることに成功する。

 

「フ、フフ、フハハ、アーハハハハハ。今のは中々肝が冷えたがどれだけ強力でも魔法は魔法。私には通じぬ」

「なら、これならどう?」

 

 威圧と焦燥と緊張、それから解放されたフリードは乾いた笑みを浮かべる。だからこそ、間近にまで迫っていたユエに対応できなかった。

 

 

 神ノ律法(デウス・マギア)は魔素を多分に含んだ魔法(精霊)を自身に憑依させることで爆発的に魔力を増大させる技術だが、何も上昇するのは魔力だけではない。上昇した魔力分、当然のように身体能力も上がっている。上昇した身体能力でフリードに接近し、ユナ直伝のヤコブの拳をフリードに繰り出す。

 

「はぁぁぁぁ!!」

「ごはぁ、ごふ、おご、がはぁ!」

 

 鳩尾、肝臓、肺、心臓、顎と言った急所を的確に撃ち抜いていくユエ。それに悶絶することしかできないフリード。

 ユエは修行にてユナから教えられたことがある。魔法は考えることができないと使えない。

 

 

「このアーティファクト。自動で動くんじゃなくて魔力を流さないと使えないんでしょ。それなら」

 

 ユエは手刀を振るう。ユナに発動が遅いと指摘され、それを踏まえて射程が短くなる代わりに初動の遅さを改善した空間魔法。

 

「”千断刀”」

 

 手刀から伸びた空間断絶の刃は指輪がついたフリードの右手を切断した。

 

「があぁぁぁぁぁぁぁ──ッッ!!」

 

 指輪型アーティファクトごと、王都の地に落下していくフリードの腕。

 

 

「これなら、魔法は通じる……”覇王雷龍”」

 

 再び召喚された光の龍王。身を守る術が無くなったフリードの白竜はブレスで抵抗するが、焼け石に水だ。ブレスを物ともせずにフリードを飲み込まんと迫る。

 

「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 怨嗟の声を上げ、光の龍の中に消えていくフリードだったが。

 

「ちっ、逃げ足の早い」

 

 ユエは飲み込まれる直前にゲートを開いたのを見逃さなかった。どうやらまだしぶとく生き残るつもりらしい。

 

 とはいえ決着はついた。周りにいた魔物は全滅。外野から援護していた魔人族も主の不利を悟り、どこかに逃げたであろう主と合流するために行動を開始していた。

 

 

 ユエは戦闘が終わり鎮まり返った地上に降り立つと、消し飛んだフリードの腕につけられていた指輪が光っているのが見える。どうせだったら回収しようと考えるユエ。敵が持っていったら厄介だし、ハジメに渡せば喜んでくれるかもしれない。

 

 

 早速ユエがその指輪を拾い上げたその瞬間。

 

「えっ?」

 

 ユエが光の檻に包まれた。

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

「やれやれ、フリードも使えませんね。……もっとも、神子の力が想像以上だったことは認めますが」

 

 確かに予想以上の力だったと戦場から少し離れた場所で観察していたエーアストは思う。とはいえユエの力は驚嘆に値するものではあったが、同時に想定内のことでもあった。策とは、二重三重に仕込んでこそ価値があるのだ。例えフリードが失敗しても、神子を捉えられる仕掛けは準備していた。

 

「捕らえましたよ、神子。……その光の檻は我が主の()()の力が宿っている。どれだけ強くても同じ概念による攻撃以外で逃れることはできません。唯一破壊できそうなアンノウンは足止めを受けている。なら後は神域まで転送するだけのこと」

 

 

 作戦に抜かり無し。エーアストとて伊達に神の使徒のまとめをやっていたわけではない。主に対する土産ができたことにほくそ笑むエーアスト。その様子を一人の黒いコートを着た影だけが見守っていた。

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 王都の西の戦線戦況

 

 

 ユエVS神代魔法の使い手フリード&護衛部隊&魔物数千体

 

 再起不能:護衛部隊&魔物数千体

 再起可能:フリード(右手とアーティファクト喪失)

 

 ユエ:フリードを新技にて退けるもアーティファクトの罠にかかり捕獲される。

 エーアスト:概念術式により捕獲したユエを神域に転送するための術式を構築中。

 ??? :エーアストの行動を観察していたが、何者かにある指示を受ける。




>神ノ律法(デウス・マギア)
旧約聖書の時代の聖人から受け継がれ、救世主の代で完成した神霊憑依術式体系。ユエの場合は神霊ではなく精霊化した魔法を取り込むことで魔力量を爆発的に増大させることができる。現状未完成であり、本来ならもう一段階特殊能力があるとはユナの談。

デウス・マギアを習得して得られるもの。
①魔力量の上昇
②???
③悪意のある霊体に対する憑依耐性

>黒龍
蒼天と重力魔法を使った魔法。構成は蒼龍と同じだが、重力魔法の割合が多く、周囲の魔素を吸収して成長する性質がある。
実は飛び道具ではなく、ユエがデウス・マギアを使用するために作った人工精霊の試作型であり、つまりは吸収されること前提の栄養剤。
……完全に余談だがこのネタがわからない世代がいるのだろうか。

>覇王雷龍
進化した雷龍。元ネタもそのまま進化したバオウ・ザケルガ。漫画にすると超カッコいい。

というわけでユエ回でした。本格的な技の完成は魂魄魔法習得後ということです。

気になるところで終わりましたが、次回は香織とクラスメイトサイドです。

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