TRICK 時遭し編   作:明暮10番

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6月15日水曜日 踊る竜宮レナ捜査線 その1
迷い人


 朝になる。

 出勤した大石は、興宮署内の仮眠室を牛耳る公安カルテットを起こしに行った。

 

 

「まさか宿を取っていなかったとは……皆さーん! 起きてくださーい!」

 

「起きてぃーッ!!」

 

 

 奇声をあげて飛び起きる石原に続き、菊池、秋葉の順番で目覚める。記憶喪失中の矢部は既に起床しており、笑顔のまま部屋の隅に立っていた。

 

 室内に入り、ストレッチをしている菊池に大石は話しかける。

 

 

「頼まれていた奴、どうにかなりそうですよ」

 

「おぉ! 素晴らしいッ!!」

 

「菊池さん、何か頼んでいたんですか?」

 

 

 秋葉の質問に、菊池は自信ありげに答えた。

 

 

「竜宮礼奈の捜索に協力してくれる刑事を探させた。雛見沢村を含め、近隣全てを捜索するつもりだ」

 

「各部署に声をかけましてねぇ。全く、菊池さんは人使いが荒いですなぁ!」

 

 

 やれやれと言いたげに頭を掻きながら、大石は訝しげに聞く。

 

 

 

 

「……レナさんが次の鬼隠しの被害者になる……本当なんでしょうな?」

 

 

 布団を石原らに片付けさせながら、菊池は捲し立てるように主張する。

 

 

「鬼隠しは、綿流しの日に男と女が一人ずつ……一方が死に、一方が消える事件だ。今現状、少女が行方不明ではないか」

 

「しかし……綿流しはまだ先ですよ?」

 

「今までが綿流しだっただけで、敵はいつでも良いとかならどうするのだね?」

 

「…………」

 

 

 菊池の口から出まかせも混ざっているが、その説得力は強い。

 更に彼は、大石が鬼隠しに執着している事も織り込み済みだ。その執着に付け入ってもいる。

 

 ここは大石も折れる他はない。

 

 

「……まぁ、鬼隠しと無関係と言えども、娘っ子が二日も行方不明なのは問題ですな」

 

「それで良いッ!! で、協力者は?」

 

「何とか、十三人は集めました。とりあえず全員集合したらまたお呼びしますよぉ」

 

 

 そう言い残すと大石は、そそくさと出て行った。

 布団を畳み終えてひと段落したところで、おずおずと秋葉が尋ねる。

 

 

「あのぉ……なんか色々話が進んでるっぽいんですけどぉ……そもそもなんで、その竜宮レナって子を見つけなきゃならないんですか?」

 

「警察がストーカーとかヤバいからのぉ!?」

 

「全く……そこから話させんとならんのか……」

 

 

 苛々した様子ながら、菊池はタブレットを取り出して資料を開きながら、訳を話してやった。

 

 

「ここに来る前、学校が爆破された事件の事は話しただろ?」

 

「ボンボーンじゃのぉッ!?」

 

「はい。ええと、それが?」

 

 

 察しの悪い二人に辟易しつつ、液晶画面を見せ付けた。

 資料にはしっかりと、その名が書いてあった。

 

 

 

 

「その犯人が、竜宮礼奈だ」

 

 記憶喪失状態の矢部は、明後日の方向を笑顔で眺めている。三人の話は全く聞いていないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

第六章 踊る竜宮レナ捜査線

 

 

 

・・・・・・・・・・

【卵の黄身は、橙色

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 園崎屋敷に泊まっていた上田が帰宅し、居間に行く。

 先に起きていた山田がコーラを飲んでいた。テーブルの向かい側には、例の鬼人が座らされており、コーラも用意されている。

 

 

「あ、帰って来た。おはようございまーす」

 

「……なんでそれ持って来ているんだ」

 

「譲って貰いました。ほら、挨拶しようか?」

 

 

 鬼人を自分の膝の上に起き、手を振らせる。

 そのまま二人は見つめ合い、山田は気味の悪い笑みを浮かべた。馬鹿馬鹿しくなり、上田は顔を洗おうと洗面所へ行こうとする。

 

 

 その時に彼女の手元に、百万円の束がある事に気付いた。

 

 

「俺が預かっていたハズだろ!? なんで持ってんだ!?」

 

「刺身食べたくて」

 

「刺身なら昨日食っただろッ! ほら、返しなさいッ! YOUに持たせておくといつ全部消えるか分からん!」

 

「せめて、九十九万は持たせて!」

 

「金の亡者がッ!!」

 

 

 山田から百万円を取り戻し、奥にある金庫に入れた。

 

 

「今まで金欠だったメスのホモ・サピエンスに大金は渡せん」

 

「大丈夫ですよ! 私だって、お金は大事にしますから!」

 

「いいや信用出来ん! 丁寧丁寧丁寧に閉まっといてやる!」

 

「あぁ、私()百万円……」

 

「本性表しやがったな……」

 

 

 百万円を金庫に入れ、顔を洗ってから居間に座る上田。

 カレンダーを見る。もう六月の十五日目。十九日の綿流しまで、あと四日だ。

 

 

 

 

「……結局、園崎なのか違うのか」

 

 

 魅音の話を全て、上田には話した。

 今まで黒だと思っていた園崎は、限りなく白になりつつある。

 

 

「一年目は他殺か事故か。二年目は病死か毒殺か。三年目は悟史の犯行か否か……問題は山積みだ。何一つ解決していない」

 

「思ったんですけど」

 

「なんだ?」

 

「一年目と二年目は、偶然綿流しの日だっただけで、事故と病死じゃないんですか?」

 

 

 上田は牛乳を飲みながら、考え込む。

 

 

「まぁ、ありえるな。一年目も、沙都子が『二人が落ちた』と証言したらしいし、二年目で死んだ梨花の父親は急性心不全だったらしい……入江医師から聞いた」

 

「やっぱ病死なんですね」

 

「心不全と言っても病因は様々だ。狭心症だったり弁膜症だったり……しかし、疲れやストレス、血圧が関係している場合が多い。綿流しの日は奉納演舞をするだろうし、打ち上げで飲酒もするだろう。疲労した状態でお酒を飲み、村からは日和見主義を疎まれているストレスが祟ったとすれば……心不全が綿流しの日に起こるリスクは高まる」

 

「偶然じゃないですか」

 

「あぁ、偶然だな。しかしまぁ、祟りだとかよりは信憑性はある」

 

 

 その上で彼は、「同じ日に起こる点は奇妙だがな」と付け加えて牛乳を飲み干した。

 何にせよ最初の二年は事件性が薄い。

 

 

「尤も……梨花の母親が失踪した理由は分からないが。まぁ信仰心の高さ故に、旦那の死とオヤシロ様の祟りを結び付けてしまって後追い自殺したと言うのが妥当か?」

 

「……失踪と言えば、三年目ですね」

 

 

 唯一、明確に殺人事件として存在する三年目だけが異様に思えた。

 

 

「三年目、つまり去年。誰が沙都子さんの叔母を殺し、悟史さんを連れ去ったのか」

 

「北条悟史が犯人だろ。虐待されている沙都子を助ける為なんじゃないか?」

 

「沙都子さんを大事に思っていたから放ったらかしては消えないって、詩音さんが言っていましたけど……」

 

「寧ろ大事だから消えたんじゃないのか? 事件の真相が発覚すれば、沙都子は自ずと殺人犯の家族のレッテルを貼られる。優しい性格なら、自分から沙都子の元を離れようとするハズだろ?」

 

「……まぁ、そうですよね」

 

 

 あれほど、何者かによる陰謀と考えていた鬼隠しも、一つ一つ考察して行けば、日が被っただけの悲劇に過ぎない。

 何者かが裏から糸を引く余地も無ければ、そうする意味もない。

 

 

 

 ならこの村が最後に迎える結末もまた、偶然になるのだろうか。

 

 

「結局なんで、村は滅びるんですかねぇ〜」

 

「まさか災害まで偶然な訳は……」

 

 

 首を捻る上田。

 この時代に来て六日目。小さな村なだけに、誰がどこに住んでいるのかは大体把握している。しかしそんな事が可能な人間は、園崎かジオ・ウエキしかいない。

 園崎は、魅音の話を信じるのなら関与していないし、ジオ・ウエキは既に故人。容疑者はもういない。

 

 

「ぬあー! 分からーん!」

 

 

 すっかり頭打ちとなってしまい、山田はお手上げだと諦めて、バターンと床に倒れ込む。

 天井を見ながら少し考えた後、鬼隠しとは別のもう一つの心配を口にした。

 

 

 

 

「……レナさん、まだ見つかっていないんですよね」

 

 

 今尚も姿がないレナの事だ。昨日は園崎総出で大捜索したらしいが、見つからなかったらしい。

 

 

「ジオウの一件以来、姿が見えないな……本格的に誘拐の可能性を考慮した方が良い」

 

「悟史さんの行方、レナさんの行方、綿流し、大災害……あーー! やる事が多過ぎる! 上田、寿司食いに行くぞ!」

 

「あと四日だつっただろッ!!」

 

 

 山田は倒れ込んだまま、手足をバタバタしてゴネる。食い意地の激しい山田に辟易しながら、上田は今日の予定を取り決めた。

 

 

「今日は取り敢えず、竜宮礼奈を探そう。さすがに心配だからなぁ」

 

「寿司ッ!」

 

「全部終わった後だッ!!」

 

 

 顔を顰めて上田を睨み、残念がるようにして天井を見た。

 そして言おうか言わまいか迷っていた、昨日の出来事を話す。

 

 

「……上田さん」

 

「ん?」

 

「昨日、梨花さんと帰っている時に不思議な事が起こりまして」

 

「不思議な事?……ブラックRXか?」

 

 

 彼女と歩いている時に蛍光灯が消え、暗闇の中で草を踏み締める音だけが聞こえた。

 光が戻っても、そこには誰もいない。梨花はオヤシロ様のせいだと言う。

 

 

「音ってのは、どんなのだ?」

 

「こう、靴で草を踏むような……カサッカサッって音です」

 

「それで時間は夜で、辺りには何もなかったんだな?」

 

「はい。めちゃくちゃ静かでした」

 

「全く……YOUはまた古手梨花に食わされたな!」

 

「…………寧ろ散々食わされてきたのは上田さんですよね」

 

 

 山田の意見を無視して、上田は解説を始めた。

 

 

「まず音と言うのは、空気の振動が波となって伝わるもの。それが鼓膜を震わせる事で、俺たちは『音』を認識出来る。こんくらい分かるよな?」

 

「そりゃまぁ……」

 

「だがそれは逆説的に、空気の状態によって、音の伝わり方が左右されると言う事なんだ!」

 

 

 上田の蘊蓄に興味を示した山田が、やっとな事で寝かせていた身体を起こした。

 

 

「空気の状態……ですか?」

 

「あぁ。音が伝わりやすいか否かは、地上と上空との温度差が関係している。そして音の一つの特徴として、暖かい空気の中から放たれた音は、冷たい空気の方へと引っ張られるんだ。昼間は地上の方が熱く、上空の方が冷たい為、音が空へと昇るように屈折してしまい、遠くまでは響きにくくなる」

 

「じゃあ、夜中だと?」

 

「夜になると、地上の気温が下がるだろ? つまり上空の方が熱くなるから、音は引っ張られずに真っ直ぐ遠くへ飛びやすくなる。だから実は、夜の方が音は伝わりやすいんだ」

 

 

 それがなんだと眉を寄せる山田に、上田は結論を言ってやる。

 

 

「簡単な話だ。少し離れたところに沙都子か誰かを配置しておいて、草を踏ませる。音が響きやすい夜の中なら、些細なその音も大袈裟に、しかも近い場所だと勘違いして聞こえてしまう。それに梨花は直前にオヤシロ様の話をしたんだろ? そうやって『不可視の存在がいる』って事を意識させれば……あたかもそれが、オヤシロ様の足音だと勘違いする」

 

「街灯が消えたのは?」

 

「元から消えかけだったんだろ。梨花はその街灯が消えかけだと知って、タイミングを見計らったんだ。君を脅かそうとしたかったんだろなぁ」

 

 

 飲み掛けのコーラの蓋を開け閉めしながら、してやったり顔で見つめる上田。

 確かに納得が行くし、村に詳しい上に悪戯好きなところのある梨花ならやりかねない。

 

 

「…………本当にそうなんでしょうか?」

 

 

 それでも山田は納得いかない様子だ。

 

 

「なんだ? 本当にオヤシロ様がいるってか? 俺の説の方が根拠があるだろが」

 

「そりゃあ、そうですけど……なんと言うか……勘違いにしては音が近かったような……」

 

「何を言ってんだ、ばっかばかしい。意外とビビりなんだな?」

 

「あ、ヤブ蚊」

 

「ほぉん!?」

 

 

 どこからか侵入したヤブ蚊が、上田の眼前を通り過ぎる。それに驚き、上田は大袈裟に仰け反って奇声をあげた。

 

 

「ターンアップッ!」

 

 

 山田が上手い具合に手で潰してくれた。上田は呆然と見ているだけ。

 

 

「………」

 

「ビビりなのそっちじゃないですか」

 

「……ま、まぁ。反射神経が良い事は運動神経が優れている証拠だ。こんなの、ビビる内に入らない」

 

「なんで顔をガードしてんだ」

 

 

 呆れ果て、山田はコーラの飲み過ぎ故かトイレへと立った。

 

 

 

 レナはどこにいるのだろうか。

 今日の山田は、彼女を探すつもりだ。

 

 なぜだかそれが一番大事な事だと、直感的に思えてならなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蝉と草が騒めく畦道の中、魅音が手を振りながら現れた。

 

 

「やっほー! 圭……うぇっ!」

 

「うおぉ!?」

 

 

 通学路で圭一と合流した途端、突然えずく。

 

 

「いきなりどうした……!? 風邪か?」

 

「うぅ……飲み過ぎた」

 

「の、飲み過ぎたって……な、なにを? コーラ?」

 

「お酒に決まってんじゃん」

 

「決まってんじゃんじゃねぇーよ! 普通にアウトだぞ!?」

 

 

 どうやら彼女は二日酔いのようだ。昨夜の宴会で、それこそお開きの後も茜に絡まれてしまい、随分と飲まされてしまった。

 完全な未成年飲酒の為、圭一はぴしゃりと叱り付ける。

 

 

「全く……良いか! まだ肝臓機能とかその他諸々が未成熟な少年期の内の飲酒は、大変危険だ! アルコール依存症とか〜、肝硬変とか〜、ええと……まぁ、とにかく色んな悪い事のリスクが高まるんだ!」

 

「はいはい」

 

「ウォークマンで聴き流そうとすんじゃねぇ!」

 

 

 ウォークマンを没収してやる。不貞腐れたようにむーっと下唇を突き出してから、魅音は不安そうな顔付きで別の話を始めた。

 

 

「……レナ。まだ見つからないみたいでさ」

 

「もう丸二日経つんだぞ……」

 

「そうなんだけど……けど、どこ探してもいないんだって。ホント、どこ行ったんだか……」

 

 

 父親の元に行ったっきり消えたレナを、園崎は総出で探し続けてはいた。だがそれでも、痕跡一つ見つかっていない。

 時間が経つほどに不安と焦りは募って行くばかりで、それは魅音のみならず圭一も、他のメンバーもそうだろう。同時に何も出来ない事がまた、無能感さえ募らせて行く。

 

 

「……なぁ、魅音よ……」

 

 

 圭一が口を開く。

 

 

「レナは、父親の所に行って……で、その父親が誰かに殴られて病院送りで……その父親の愛人だった奴が、姉のジオ・ウエキと一緒に死んでて、レナは消えた……」

 

「なかなか凄い、こう……なんだろ……凄い連鎖だね? 確か、その愛人ってのが間宮律子だっけ……じゃあ、あの時に通報したのって……」

 

「あ? 何の話だ?」

 

「あぁ……んまぁ、圭ちゃんも知っといた方が良いかなぁ」

 

 

 そう言って魅音は、沙都子を巡る事件の顛末について教えてあげた。鉄平の存在から、警察に捜査させた事、そして直前に間宮律子を通報する電話があったらしい事まで全てだ。

 

 

「……すげぇな。そんな事あったんだな……」

 

「めちゃくちゃ大変だったよぉ……あ。この事、誰にも言わないでね?」

 

「言わねぇけど……」

 

「で、さっき言った通り、直前に通報した人がいたんだけど……まぁ、時期的にレナのお父さんだろなぁ。そんで通報されて、その律子に後ろからガーン!……って感じかな」

 

 

 腑に落ちたように圭一は頷いた。

 

 

「……レナのお父さんも、頑張ってたんだな」

 

「そうかもね……あぁ、ごめんね、話の端折っちゃって……圭ちゃんの話の続きは?」

 

 

 少しだけ俯き、考え込むように話し出す。

 

 

 

 

「……レナにまつわる事件……俺には全部、偶然に起きたとは思えねぇんだよなぁ」

 

 

 興味を持ったように魅音は片眉を上げる。

 

 

「と言うと?」

 

「なんかこう、全部に……繋がりがあるように思えてならなくて……」

 

「んー……繋がりねぇ……」

 

「……その二つのどっちか……或いはどっちもに、レナが消えた理由がある気がすんだ」

 

 

 そこまで言うと彼は「よし」と呟き、足を止めた。

 突然立ち止まった圭一に驚き、魅音も歩みを止める。

 

 

「どうしたの圭ちゃん?」

 

「魅音……俺はな。学校をサボる」

 

「…………はい?」

 

 

 くるっと踵を返し、魅音に背を向ける。

 

 

「……あの……ウチの若い衆が探してくれているし、もし事件性があるなら圭ちゃんだけじゃ危険で……」

 

「それでもただ待つだけは嫌でさ」

 

 

 

 そのまま圭一は横顔だけを見せる。何とも、頼り甲斐のある微笑み顔をしていた。

 

 

 

 

「……やるだけやりてぇんだよ」

 

 

 レナの過去や苦しみは、捕まっている時に聞いた。全てを吐露してくれた。それだけにレナへの情は深く心に抱いているつもりだ。

 どうしても見つけてやりたい。はやる気持ちをそのままに、圭一は前を向いて駆けて行った。

 

 

「……圭ちゃん……」

 

 

 その後ろ姿を見送りながら、魅音は何とも言えない表情を見せていた。

 

 

 

 

 

 

「……ウォークマンは返して欲しいかな」

 

 

 圭一は颯爽と道を駆け戻ってウォークマンを返すと、また立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、上田はまた村を練り歩いていた。

 鬼隠しが起こる綿流しまで、残り四日。更に雛見沢大災害が起こるまでも、一週間は切っている。動かずにはいられなかった。

 

 

「それよりもまず、竜宮レナを探さなくちゃなぁ……とりあえず、警察に話でも……」

 

 

 興宮署に行くべく、興宮の街を目指して歩く。

 しかし道中、古手神社の前を通りかかった時、思わぬ人物と出会った。

 

 

「……おぅ?」

 

 

 困った様子の男性と、彼を引っ張って神社に行こうとする女性。

 見覚えのある人物だなと近付いた時に、その男女は富竹と鷹野だと気付く。

 

 

「さすがにそれはマズいよ……」

 

「今、梨花ちゃんと沙都子ちゃんは学校なの! 今がチャンスよ!」

 

 

 何やら後ろめたい事をしていそうだが、鷹野のファンの上田は意気揚々と話しかける。

 

 

「これはこれは! 鷹野さんにジロウじゃないですか!」

 

「あ、ソウルブラザー!」

 

「あら? 上田教授?」

 

 

 上田に気付いた二人は会釈し、挨拶を交わす。

 今日の鷹野は私服で、ナース姿しか見た事のなかった上田には新鮮かつ麗しく感じた

 

 

「何ですか何ですかぁ? こんな朝からデートですか?」

 

「あ、あはは……ま、まぁ、そうなりますかねぇ」

 

「私が久しぶりにお休みいただいたので……あ! 上田教授、如何でした?」

 

 

 唐突に如何でしたと聞かれ、完全に没却していた上田はポカンと間抜けな表情を見せる。

 

 

「如何でしたって、何がです?」

 

「私のスクラップブックですよ!」

 

「あ」

 

 

 思い出し、次は顔面を青くさせる。鞄が破れ、そのまま落としてしまったとは言えない。

 

 

「あーー……いや、本当に面白かったですねぇ! 実にセンセーショナルでした! ただ、もう少し読みこなしたい所でしてねぇ、返却は待ってていただけます?」

 

「それでしたらもう、いつでも! 私の考察含めて語らえたらなと思っています!」

 

「はははは! 光栄ですよ! ははははは!……はは」

 

 

 興奮気味な彼女の手前、失くしてしまったと言う罪悪感に苛まれる上田。話題を変える為、二人に何をしていたかを尋ねた。

 

 

「それはそれとして……お二人は古手神社にお参りですか?」

 

「お参りと言いますか……あの、やっぱり辞めない?」

 

 

 富竹は些か乗り気では無さそうだ。

 諭されていると察知した鷹野は頰を膨らまし、ジッと睨む。可愛らしい仕草の為、鷹野のファンの上田はご満悦だ。

 

 

「もう何千回も打診しているのに断られ続けているのよ! 私にも我慢の限界はあるわ」

 

「何かするんですか?」

 

「そうですね……上田教授も村の事を調査していますよね」

 

「まぁ、そうですが」

 

「でしたら、私の好奇心が分かるハズですよ」

 

 

 彼女は階段の上にある、鳥居を指差した。

 

 

 

 

「雛見沢村最大のミステリースポット……『祭具殿』へ忍び込むんです」

 

 

 上田は目を見開き、素直に驚いた。

 自分たちがこの時代に迷い込んだ原因、祭具殿へ入り込めるチャンスだ。


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