TRICK 時遭し編   作:明暮10番

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紅楼夢楽しかったです


6月16日木曜日 踊る竜宮レナ捜査線 その2
コンビ


 翌日の朝日は、沙都子に布団をひっぺ返されて浴びせられた。

 

 

「起きてくださいまし!」

 

「オフッ!?」

 

 

 山田はまだ霞む目を擦りながら、ゆっくりと身体を起こす。

 寝惚け眼で周りを見渡すと、いつか泊まった覚えのある梨花と沙都子の家だと思い出した。

 

 

「あぁ、そっか……泊まってたんだった……」

 

「ご朝食は出来ていましてよ」

 

「あー。ありがとうございます」

 

 

 わざわざ布団一式用意させて眠らせていた、オニ壱を抱き起こし、山田は居間に向かう。

 ちゃぶ台の上には、野菜炒めとたくあんとご飯に味噌汁が並べられていた。

 

 

「どうぞ、召し上がってくださいまし」

 

「いただきまーす……おおう。ワンピースだってばよ」

 

 

 たくあんは、見事に全部繋がっていた。

 

 

「お味噌汁お味噌汁」

 

 

 思わず「おう!」と声が出てしまうほど、濃い口だった。

 

 

「ご飯食べよう」

 

 

 水を入れ過ぎたのか、やけにべっちょりとしていた。

 

 

「お茶を飲もう」

 

 

 相変わらず渋かった。

 

 

「野菜炒めーん」

 

 

 特別美味くないが、不味くもない。野菜の芯が混ざっていたりはしているが、山田には無問題だ。

 

 

「お口に合いますか?」

 

「アイマスアイマス」

 

「それは良かったですわ! 山田さんは美味しそうに食べますから、作った私も気持ちが良いですわ。梨花ったら、いつも私の料理にケチつけますの!」

 

「でしょうね」

 

「え?」

 

「なんでもないです」

 

 

 沙都子用の朝食を見ると、見事に自分の食べられる野菜しか入っていない野菜炒めで、山田が色々おっ被せられたと気付かされる。

 しかし根っからの貧乏症である山田は、食べられるだけ満足だった。

 

 

「……あの、山田さん」

 

「はい?」

 

 

 食事の手を止めて話し出す沙都子に、山田は食事の手を止めずに耳を傾ける。

 

 

「昨日、お布団の中で色々と考えていたんです」

 

 

 天と地が逆さになった状態で眠っていた山田の隣で、寝ようにも眠れない彼女は思いを巡らせていたようだ。

 

 

「その、二人が全く姿を見せずに村から出ると言うのは、まずありえないと思いますわ」

 

「どう言う事ですか?」

 

「私が上田先生を最後に見たのはまだお昼過ぎの話で、あの時間帯なら農作業とか駄菓子屋のおばさんだとか、目撃者は多いですわ。この村、案外狭いですから」

 

「まぁ、それは……村の人にもまだ聞き込みとかしていませんし、聞いたら誰か見ているかもしれませんね。結構あいつ、目立つし」

 

 

 都会の瀟洒な服を着た、身長一八○センチほどの大男だなんて、だだっ広い田舎じゃ嫌でも目立つ。

 

 

「そこで……私、今日、学校をおサボりして調査する予定ですわ」

 

 

 そこで初めて、山田の食事の手が止まった。

 傍らで食事していたオニ壱が、ひっくり返る。

 

 

「おサボりするんですか?……おサボり?」

 

「上田先生と梨花には、個人的に恩があります。二人は二人で出来ることをやって助けてくださいましたから……私も、出来ることをやり尽くして見つけたいと思っていますわ」

 

 

 沙都子を叔父から救った話は、山田は聞かされていない。それでも何かしたんだなとは、理解してやれた。

 

 

「警察には任せないんですか?」

 

「探偵モノでしたら警察の方は翻弄されるのが基本ですから」

 

「あ、そう言う感じ?」

 

「結局魅音さんたちが見つけて無駄に終わっても構いません……私は、やるだけやりたいのですわ」

 

 

 真剣な眼差しを山田に向ける。

 ここまでの心意気を見せられれば、山田も協力せざるを得ない。

 

 いや、山田は元から上田を探すつもりだった。

 

 

「……私も、必ず上田さんを探さないといけません。お供します」

 

「山田さん……」

 

「あいつから百万円取り返すんです」

 

「え?」

 

 

 上田は、山田の浪費から守るべく百万円を管理し、そのまま消えた。

 だから何としても、山田は百万円(上田)を探すつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 二人が神社を出たのは、八時少し過ぎ。

 山田と沙都子とオニ壱は、捜査隊を結成した。

 

 

「まずはどこから調べましょうか?」

 

 

 沙都子の質問に対し、山田は村の地図を取り出して提案する。

 

 

「じゃあ決めましょう。これ、そこの掲示板に貼り付けてください」

 

「え? わ、分かりましたわ」

 

 

 剥がれかけの青年会のポスター上に、ランドセルから出したセロハンテープで地図をペタッと貼る。

 準備が済むと、山田はオニ壱に持たせていた画鋲を受け取り、ダーツのように構えた。

 

 

「パージェーロ! パージェーロ!」

 

 

 投げた画鋲は、上手く地図に刺さる。

 場所は学校および営林署の近辺だ。

 

 

「決まった! ここ!」

 

「…………山田さん、これ何かのマネでして?」

 

「笑っていいともですよ……あ。笑ってコラえてか」

 

 

 ともあれ二人は、学校の方へ向かう。

 既に生徒たちが続々と登校している時間だ。サボるつもりの沙都子は心なしか、気まずそうに見える。

 

 

「見つかった時の言い訳が大変ですわ……」

 

「まずは少し離れた所から調べましょうか」

 

「ええ。それに、上田先生を最後に見た場所を探すと言うのは、『的を得て』いますわ!」

 

「おお! うまい!」

 

「えっへん!」

 

 

 胸を張ってドヤ顔を見せる沙都子。その時の彼女の胸を見て、山田は妙な劣等感を抱いたのは内緒だ。

 その時に二人のそばを、何かの材料を乗せたリアカーを引く老夫婦が通る。

 

 

「……あ! 第一村人発見ですわ!」

 

「……やっぱりオヤシロ様は、おっぱいの神様だった……? オッパイヤシロ様?」

 

「山田さん! 聞き込みましてよ!」

 

「ブ・ラジャーッ!!」

 

「変な返事ですわね……」

 

 

 老夫婦に付いて行くと、山田にとっては見覚えのあるオブジェの前に到着する。

 

 

「昨日見た新宿エンドだ」

 

 

 謎のエッフェル塔と、等身大ひっきーだ。

 

 

「そう言えば上田さんとは、ここの老夫婦を手伝うと言われて別れたのが最後でした」

 

「何か知っているかもしれませんわね」

 

「聞き込みますか」

 

「あ! 待ってくださいまし!」

 

 

 沙都子はランドセルを開き、中からヨレヨレの「お釜帽子」を取り出した。

 それを頭に被って、得意げな表情。

 

 

「古谷一行様ですわ!」

 

「金田一耕助な」

 

「これなら私も、名探偵ですわね!」

 

「…………結構、形から入るタイプなのか?」

 

 

 帽子だけ金田一耕助に扮した沙都子が、意気揚々と老夫婦に話しかける。

 

 

「あの〜、すみません。少し、お聞きしたい事がありまして」

 

「む? 古谷一行?」

 

「金田一耕助な」

 

 

 上田と梨花が消えた旨を伝えると、老夫婦は神妙な顔つきで昨日の出来事を想起してくれた。

 

 

「古手の娘と、あのむくつけき男が消えるとは……」

 

「まさに」

 

「奇々怪」

 

「界」

 

「なり」

 

「だから普通に喋れっつのっ!」

 

「なぜ『奇々怪』まで来て『界』で区切るのでしょうか……」

 

 

 上田については、老父の方が答えてくれる。

 

 

「残念だが、古手の娘もむくつけき男も見ておらぬ。むくつけき男とは」

 

「そのあだ名で統一するのか」

 

「ひっくぃーんを救ってもらった後、お礼を渡して別れたのみ。こちらも消えたリアカーを探すのに気が向いておっからな」

 

「そのリアカーですか?」

 

「いや。これは盗んだ」

 

「堂々としてんな!」

 

 

 沙都子が山田に話しかける。

 

 

「恐らくその後に、私が上田先生と会ったのですわ。ここ、学校に近いですから……」

 

「んー……収穫無しか」

 

 

 ここで聞き込みを続ける事は無駄だろうと踏み、再び雛見沢全域ダーツをしようと地図を出そうとした。

 そこへ思い出したように語り出したのは、老婆だった。

 

 

「あのむくつけき男だけならば、道でおうたぞ」

 

「え?」

 

「リアカーを探しに家から戻る最中。血相変えて走る、むくつけき男を見た」

 

「上田さんが? それはいつ頃の話ですか?」

 

「学校では体育の途中だった」

 

「と言うと、私が会った後ですわね!」

 

 

 老婆は、上田が走って行ったと言う方向を指差した。

 

 

「むくつけき男は」

 

「ちょっとクドいな」

 

「この方向へ行った。まっすぐと、ただまっすぐ」

 

 

 出しかけていた地図を広げ、老婆の言う方向とこの場所とを照らし合わせる。

 仮に上田がまっすぐ向かったのならば、園崎邸に着く事になる。

 

 

「上田さんも、レナさんが園崎さんの家に幽閉されているって話を、警察とかから聞いたんじゃないですか?」

 

「じゃあ、梨花と上田先生は別々に消えたのでしょうか……」

 

「それは分かりかねますが……二人が同時に消えたのは偶然とは思えません。恐らく二人とも、同じ要因で消失したと思って良いでしょう」

 

「梨花……」

 

「心配なのは分かりますが、とりあえずは捜査を続けましょう」

 

 

 コクリと頷き、沙都子は地図を注視する。

 

 

「でも上田先生は、魅音さんの所に到着はしていないようでしたわ」

 

「となると……その前ですか? 後は民家と、山ですかね」

 

「山……」

 

 

 ここから園崎邸の間には、渓谷の方から突き出た山が存在する。

 この山が原因で、地図上では直線距離で数メートルのところを、一キロメートル程度遠回りしてしまう。それに対してボヤいていた事を、山田は思い出した。

 

 

「ここ、園崎さんの所の裏山ですわ」

 

 

 沙都子にとっては、良く知っている場所だった。

 

 

「あぁ……確かそんな事、英雄デカから聞いたような……なんか、子供たちの作った菅原文太が」

 

「トラップですわ」

 

「すげぇな良く分かったな……そうそう、それが危険だとかで、大人も入らないとか」

 

「あまり村に詳しくない方でしたら、近道だと思って入るかもしれませんわね」

 

「上田さんは、この山に入った?」

 

「可能性は高いですわ!」

 

 

 思わぬ情報で、期待以上の指標が出来た。

 上田は裏山に入ったのではないかと推理を立てた沙都子は早速、そこへ自身も向かおうと顔を上げた。

 

 

「お爺様、お婆様、ありがとうございました!」

 

 

 行く前にまず、老夫婦へ感謝を述べる。

 

 

「儂はウヌの爺様ではないッ!!」

 

「婆様ではないッ!!」

 

「厳しいなオイっ!!」

 

 

 

 

 その場を後にし、再び学校前へ。

 登校中の子供たちは見えず、恐らく殆どが到着した頃だろう。

 

 

「山田さん、裏山に行きますわよ!」

 

「ちょ……ちょっと休憩しません?」

 

 

 早々にバテ始めた山田だが、沙都子はまだまだ元気だ。

 

 

「駄目ですわよ! 善は急げって言いますわ! あと熱い杭は……ええと……アレ? 出た鉄は熱い内に叩け? ええと……とにかく急ぎますわよ!」

 

「この村結構広いんですから」

 

「休むのは後! ほらほら! 早く早くですわ!」

 

「はぁ……はいはい」

 

 

 ひぃひぃ言いながらも、何とか例の裏山への一歩踏み出した。

 その時に、山田の目にとある人物が映る。

 

 

 

 

「……あれ? 記憶を取り戻した矢部さんじゃん」

 

 

 学校の中央口から出て来る、矢部の姿だ。彼だけではなく、秋葉の姿も見受けられる。

 二人とも何かを探しているかのように、運動場の真ん中でキョロキョロと辺りを見渡していた。

 

 

「……あの、沙都子さん」

 

「はい?」

 

「先に行っててもらえませんか? ちょっと、知り合いがいまして……」

 

「お知り合いですか?…………あの、カツラの?」

 

「おお、ご明察!」

 

 

 沙都子も付いて行こうかと考えたが、今になって先生に見つかり、授業に出るのは面倒だなと考え直し、先に裏山へ行く事を決めた。

 

 

「裏山の前で待っていますわ」

 

「多分、すぐに行けると思いますので」

 

「分かりました。では、またお会いいたしましょう」

 

 

 そう言い残し、彼女は走り去る。

 山田は沙都子を見届けた後に、矢部のいる運動場へと向かった。

 

 

 そのタイミングで矢部たちとは別に、もう一人の男性が現れる。

 矢部と同じく、髪が怪しい人物だった。

 

 

 

 

 

 

「さぁ〜て! 最終決戦やで!」

 

「心が踊りますねぇ〜!」

 

 

 昨日に大恥を晒したハズの矢部は、それを忘れたと言わんばかりのやる気で校庭に立つ。

 額の上に手を当て、辺りをキョロキョロ見渡す秋葉の横に、凛々しい顔つきと地毛が怪しい髪の毛が特徴的な男が並ぶ。

 彼は怪訝な表情で、二人に尋ねた。

 

 

「どうにも、信じられないですが……」

 

「信じるか信じないかはアナタ次第ですって、『海江田先生』! これ、一回言ってみたかったんすわ」

 

 

 彼がここ雛見沢分校の校長を務める、海江田だ。

 

 

「刑事さん……私は、どうやらアナタと『同じ秘密』を持つ者としてのヨシミで」

 

「秘密と言うほど秘密じゃないようなぁ〜」

 

 

 地雷に触れた秋葉が、矢部と校長先生の同時攻撃を受けて地面に倒れ伏す。

 

 

「断じて秘密なぞありませぬ。同志としてのヨシミで」

 

「その意気ですぜ校長!」

 

「一つ協力をしますが……やはり、刑事さんのお考えには少々、疑問がございます。どうにも刑事さんは、レナさんに偏見があるようで」

 

「だからね? コレ、さっきも言うたように……」

 

 

 矢部が説明をしようとした時、二人の間にやって来た山田。

 

 

「矢部さん。ここで何やってるんですか?」

 

「おお? 山田やないかい? お前こそここで何やってんねん?」

 

「私は……あー……散歩です」

 

 

 ちらりと海江田を見る。学校関係者の前で沙都子の事を話す訳にもいかない。

 

 

「なーにが散歩や! そんな気色悪い人形肩に乗せて散歩する奴がおるか!」

 

「気色悪い言わないでくださいよ!? 大事な友達なんですから!」

 

「お前もまあまあ気色悪いな……あ! よし、分かったぁ!!」

 

「等々力警部……?」

 

 

 突然矢部は、山田の腕を掴んだ。

 

 

「え!? なんすか!?」

 

「お前、竜宮礼奈の共犯者やろ」

 

「ほぁあ!?」

 

 

 あまりに突拍子がなさ過ぎて、間抜けな声が出てしまった。

 彼は、彼からして不自然な形で学校に現れた山田を疑っているようだ。

 

 

「なんでそうなる……てか、共犯者ってなんですか!? レナさん、何もやってないじゃないですか!」

 

「悲しいかな、多分恐らくこれから近いうちにやるハズやねん」

 

「警察としてどうなんだそのフワッフワの発言は」

 

 

 腕を解こうと山田は上下に激しく振る。

 矢部はそれを離そうとせんばかりに強く握った為、結果的に一緒になって腕を振り合っているだけとなった。

 

 

「離してくださいっての!?」

 

「白状せぇ! お前はいつの時代も悪どい奴やからなぁ!!」

 

「そっちこそいつの時代も役立たずだな!!」

 

「言うたなお前!? 結局平成終わるまで売れへんかった癖に!!」

 

「そっちだって平成終わるまで出世してないだろ!!」

 

「ヘイセイ……?」

 

 

 未来の元号を聞いて何かの暗号なのかと首を傾げる海江田だったが、すぐに二人の間に割って入った。

 

 

「生徒たちも見ています、良い歳した大人がみっともありませんぞ」

 

「ほら言われてるぞ矢部!」

 

「お前の事や山田ぁ!!」

 

「両方ですッ!! それに!」

 

 

 海江田は矢部をキッと睨む。

 

 

「まだ憶測の域を出ていないのに、レナさんを犯人扱いする事は例え同志と言えど」

 

「なんで同志?…………あぁ」

 

「どこ見て納得しとんねん」

 

 

 頭を押さえた後、海江田は続ける。

 

 

「……同志と言えど、許される事ではありませんな!」

 

 

 彼の鋭い眼光と、表情より滲む風格に押され、矢部は些かしおらしくなった。

 力が緩んだと気づいた山田は、目一杯の力を込めて腕を振り払う。

 

 

 

「と言うか、レナさんが何やったんですか? ちょっと妙な事しただけで、犯罪とかはしてないでしょ?」

 

「なんや、竜宮礼奈がワシらを巧妙に騙したって知っとったんか」

 

「いや、矢部さんの記憶と毛が抜けてたせいで騙されたって」

 

「毛は余計やろがい!?」

 

「言っていい事と悪い事はありますぞッ!!」

 

「分かりやすいなこいつら」

 

 

 山田の質問に関しては、相変わらず矢部は答えてくれようとはしない。

 

 

「だが残念やな、山田。守秘義務って奴や! 捜査の事は教えられへんのや」

 

「あのですねぇ……この際、お互い隠しっ子無しにしましょうよ! 多分、目的は一緒でしょ!?」

 

「だーかーらー教えられへんっつのッ!!」

 

 

 言わぬ動かぬの矢部に痺れを切らした山田は、最終強行手段に移る事にした。

 肩のオニ壱に、矢部の頭のアレを掴ませ、奪う。

 

 

「取った!!」

 

「おおうおッ!?」

 

 

 奪い返されないよう彼から一気に離れ、ヒラヒラと揺らして煽る。

 

 

「なに恐ろしい事しとんねん山田!?」

 

「このような禁じ手を使うとは……外道に堕ちるつもりですか……!?」

 

 

 山田に対峙する矢部と海江田だが、人質を取られたからには動き様がない。

 

 

「ほら言えーっ!! 言わないと、捨てるぞーっ!!」

 

「ワシの大事な大事なカツ……やなくて、katuraやぞ!?」

 

「言いたくないからって魔女語使うなっ!!」

 

「アナタはとても恐ろしい事をしていると分からないのですかッ!? かつらを刑事さんに返しなさいッ!!」

 

「何語だそれ!?」

 

「パギンバヅサゾバゲゲ!!」

 

「リントの言葉で喋れっ!!」

 

 

 説得は不可能と諦めた矢部は、山田の要望を聞く事にする。

 彼女が血迷った行動をしないよう宥めながら、矢部の方からレナの話を持ちかけた。

 

 

「い、言えって、竜宮礼奈のする事か!?」

 

「ええ! どうして矢部さんたちがレナさんに執着するのか、全部話してください!」

 

「は、は、話せば返してくれんのか!?」

 

「返すからさっさと吐けっ!!」

 

「うぬぬ……なんと恐ろしい女性だ……!! 刑事さん、ここは応じるのが得手ですぞ……!」

 

 

 山田の強行手段に戦慄する矢部と海江田。

 背に腹はかえられないと踏んだのか、渋々と矢部は要求に応じた。

 

 

「りゅ、竜宮礼奈はなぁ!? この学校で事件起こすねん!! 菊池から全部聞いとるわ!」

 

「どう言う話でそうなるんですか?」

 

「確かな筋から聞いた話やねん!! お前、竜宮礼奈がどんな娘か知らんやろ!? 金属バットで人殴れる奴やぞ!?」

 

「あ……」

 

 

 ふと思い出したのは、興宮に行くまでの道で、上田が言っていた彼女の過去。

 

 金属バットを持ってクラスメイトを殴り、そのまま学校の窓を割って回ったと言う話だ。

 しかしタイムスキャットし、若き日のレナを見て、実は間違いだったのではと半信半疑になっていた。とてもそんな事をするような子に見えなかったからだ。

 

 

「な、なんかな!? 親が離婚だの浮気だので、えらいストレス抱えとったらしいで!?」

 

「そ、そんな過去まであったんですか……」

 

「せやからな!? 竜宮礼奈は、凶暴な一面もあるって分かっとるんや!?」

 

 

 レナの二面性を強調する矢部。

 次に、その横に立つ海江田が口を開く。彼はとても、居た堪れない表情をしていた。

 

 

「レナさんの転校当時に、彼女のお父様から私もお聞きしております。彼女も、お父様もとても反省し、後悔しておられました」

 

「…………」

 

「あれは一つの気の迷い……だからこそ……今になってレナさんが『学校を爆破する』と言う話は、私は断じて受け入れられません」

 

「……は? 爆破?」

 

 

 キョトンとする山田。

 すると矢部は彼女に手招きし、こっちに来るように促し始めた。

 一旦、手に持っていたソレをオニ壱に預からせて地面に置き、山田一人が矢部に寄った。

 

 ここからは海江田にとって未来の話の為、二人だけの内緒話となる。

 

 

「な、なんですか?」

 

「ああ、あのな山田? ワシらの時代ではなぁ、この学校吹き飛んで無くなっとるんや」

 

「え?」

 

「当時の資料をワシら、持っとるんや! そこにはキチンと、『竜宮礼奈が学校に籠城し、そのまま爆破させた』ってあるんや!!」

 

「は?」

 

 

 衝撃の事実に絶句してしまう。

 

 

「間違いやないで! 正式な、警察の資料やからな!」

 

「じゃあ、矢部さんたちがレナさんを追っているのは……!?」

 

「それを阻止する為やッ! んで今、竜宮礼奈がいつ来てもええように、学校を見張っとるんや!!」

 

 

 まず第一に、山田は「ありえない」と思った。

 あの少女が、どうしてそのような凶行に及ぶのか、検討がつかない。

 

 

「な、なんで……!?」

 

「錯乱しとったんや!! なんでも親父が美人局の被害に遭ったりだの、アホな陰謀論吹き込まれたりだので……」

 

「…………!」

 

 

 実際にレナの父親は美人局に遭い、それどころか意識不明の重傷を負わされている。

 もしかして彼女は、父親が死んだと思い込んだ事で自暴自棄になっているのではないか。

 

 

「……でも、それだけで学校を爆破なんて」

 

「今やーーーッ!!」

 

「あ!?」

 

 

 矢部は山田の傍をスルリと抜け、例の物を握るオニ壱の方へ駆けた。

 ビーチフラッグのように山田も後から駆けたものの、敢え無くブツは矢部の頭に戻る。

 

 

「よっしゃあーーーッ!! おいコラ山田ぁ!! 逮捕じゃボケ」

 

「スコーン!!」

 

 

 振り返った彼の股下を蹴り上げる。

 矢部は悲鳴すら出さず、その場で倒れ伏した。

 

 

「押忍ッ!!」

 

「見事な一撃なり……ではなくて」

 

 

 気を取り直し、海江田が話しかける。

 矢部が頻りに呼ぶ、彼女の名前を聞いて合点がいったようだ。

 

 

「今更ですが、お名前が山田と言う事は……アナタが、山田奈緒子さんですね?」

 

「え? あ、はい」

 

「魅音さんたちから、色々と伺っております……圭一くんや沙都子ちゃんを助けたと……遅れましたが、ありがとうございます」

 

「さ、沙都子さんを?……あ。いえいえ、なんて事なかったですよ」

 

 

 沙都子を助けたとは良く分からなかったが、とりあえず謙遜する山田。

 

 

「今も東京の先生と共にレナさんの捜索を手伝っていると、お聞きしております」

 

「…………はい。ええ」

 

 

 その東京の先生も梨花と共に行方不明だとは、なかなか言えなかった。

 

 

「ですので、是非とも話しておきたい……レナさんが何を考えているのかは分からないが、しかしどうにも……彼女は何かを企んでいるとは思うのです」

 

「……企んでいる?」

 

「私の直感ですから、根拠は薄いです。しかしレナさんはああ見えて、とても賢い子です。理由もなく無意味な事はしない子だとは、思っていましたもので」

 

「………………」

 

「学校を爆破するまでとは、私は絶対に信じませんが……何か思惑がある事も確かです。お探しになられているのでしたら、その思惑を考えてみてはいかがでしょうか?」

 

 

 レナは何かを企んでいる。

 ならば何を企み、何を狙っているのか。

 海江田の直感による言葉選びだが、山田にもどこか、気に引っかかるところがあった。

 

 

「……私も捜索したいところですが、この立場では色々と制約がありまして……山田さんでしたらみんなの信頼もあるようですし、任せられますか?」

 

「……は、はい。何とか、見つけてみせます…………多分」

 

 

 ここまで信頼されると、寧ろ自信を無くしてしまう山田。

 次に海江田は、ある重要な事を話してくれた。

 

 

「まぁ、爆破とかの話ですが、間に受けない方が良いですぞ」

 

「と、言うのは?」

 

「刑事さんが言うには、営林署のガソリンを使って爆破するだとかで……しかし、現状は無理ですな」

 

「……え? ガソリンないんですか?」

 

「いや、発電機用の物があったのですが……」

 

 

 困ったように凛々しい眉を寄せた、呆れた表情で溜め息を吐く。

 

 

 

 

「この間、夜分にジオ・ウエキのシンパに盗まれましてな。ガソリンは今殆ど置いておりませんし、職員の方にも厳重保管するよう警察に指導されていましてね……村中の車から抜き取らない限りは、爆破なんて無理でしょうに」


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