夕暮れ刻から、次第に夜へと移る頃合いとなった。
レナの気が落ち着いた段階で、山田らは山を降り始める。
奇しくも部活のメンバーがやっと、揃った瞬間でもあった。
しかしその道中は決して、晴れやかな気分ではない。それもそうだ、ここまで色々とあり過ぎた。
「………………」
「………………」
先導する形で、魅音と沙都子と梨花が並んで歩き、
「………………」
「………………」
最後尾を付いて行く形で山田と上田と、少し首の折れたオニ壱が並んで歩く。
「………………」
「………………」
そしてその二組に挟まれて歩いているのが、圭一とレナだ。
圭一がまだ、動揺を押さえ切れていないレナの手を引いている。
なぜか暗い雰囲気だ。
気まずく、鬱蒼とした気分だ。
それもそうだろう。レナが上田と梨花を監禁し、皆を騙し、圭一を殺そうとしていたのだから。
何とかレナは狂気を振り払えた、とは言え、どう言葉を投げかけるべきか。
「…………上田さん。あの」
さすがにレナに話しかけるのはキツかった為、山田は隣にいる上田にボソッと話しかける。
並んで歩いている三組だが、それぞれは若干離れている為、小さめの声で話せば会話は他の組に届かなかった。
「……なんだ」
「その……さっきは色々と必死過ぎて……言えなかったんですけど」
「……おう」
「……無事で何よりです。目立った傷とかもなくて……」
「……あぁ。だが、折角貰ったグレッチのギターがこんなザマだ」
上田は、弦が引き抜かれたギターを担いでいた。
とは言え、山田から心配と労いの声をかけて貰えた事が嬉しかったようだ。上田は微笑む。
「……とにかく、上田さんが無事で良かったです」
「あぁ……ハッ! なんだなんだぁ、YOUにしてはやけに素直──」
「百万円、落としてないですよね?」
「…………そんな事だと思った。この守銭奴め」
「あと矢部さんたちもタイムスキャットしてましたよ」
「だからタイムスリットだと……おおう!?」
いきなり矢部たちの事を話され、驚く上田。オニ壱の首がカクッと落ちた。
山田の叫びで後ろを見た後に、魅音ら三人はまた前を向く。
なんだかんだで、いつも通りの山田らを見ると、少し緊張が解れたようだ。沙都子が梨花に話しかける。
「……梨花も、なんて事なさそうで良かったですわ」
「みぃ。体操服だから、腕とか足が蚊に刺されまくりなのです。痒い痒いのです……」
「帰ったらお薬を塗らないといけませんわね」
「あと、お腹ペコペコなのです。沙都子のお料理がこれほど恋しいのは久々なのですよ」
そう言うと沙都子は丸い目になり、次には困ったように笑った。
彼女もまた、梨花の無事が何よりも嬉しいようだ。
「もう……梨花ったら! 甘えん坊さんなんですわ!」
「わぷっ」
ドンッと、沙都子が寄り添うようにぶつかる。
今度は梨花が、「甘えん坊さんなのはどっちなのですか」と、呆れたように笑う。
次にチラリと、沙都子と梨花は魅音の方を見る。
「………………」
彼女の事だ。久々のレナとの再会に、派手なリアクションをするだろうと思っていた。
だが、圭一と並ぶレナを見た彼女の反応は、気まずそうだ。小屋を離れる際も、「じゃあ、行こっか」だけと淡白だった。
「………………」
「あの、魅音さん?」
「…………ん? あっ。ご、ごめんごめん! 考え事してたっ!」
「レナさんの事でしょうか?」
「ま、まぁ、そう……なるのかな!」
沙都子に話しかけられ、取り繕うような笑みを見せる。
その際チラリと、後ろを一瞥した。
釈然としない沙都子に対し、梨花は察したようにコショコショと小さく声をかける。
「……圭一と話したいのですか?」
「うん………………ん? んん!?」
本音が出て、思わず魅音は自身の口を押さえる。
暗がりでも伺えるほど、赤面していた。
「圭一さんと話されたいのですか? なら、私が呼びま──」
「い、い、い、良い良い良いっ!!」
「え? 大事な話でもされ」
「大丈夫大丈夫!! また後で良いからさっ!」
沙都子を引き留めた後も、ついついまたチラリと、二人を見た。
「…………良い、から」
表情は切なそうだ。
彼女の目は、圭一とレナの繋がれた手に注がれている。
その様子を観測した上田と山田。
山田はオニ壱の頭部を落っことした事に気付いていない。
「……めちゃくちゃ二人を見てるな、園崎魅音」
「めっちゃチラチラ見てましたね」
「……まぁ、あの子……どうにも、少年に惚れていたっぽいからな」
「……えっ? そうだったんですか? 魅音さんが?」
「気付かなかったのか……」
上田は溜め息を溢し、口を噤んだまま首を振る。
「……人間ってのは奇妙だなぁ。殺されかけたってのに、その相手と寧ろ距離が近付いちまった。殺したいほどアイラブユーってか?」
「でもまぁ、圭一さんの性格もありますよ。圭一さんずっと、レナさんの事を気にかけていましたし。結果的に何も起きなかったのなら、良いんじゃないですか? 知らんけど」
「大阪人みたいな話の締め方やめろ」
二人もまた、圭一とレナの繋がれた手を見る。
どちらかと言えば圭一が手を引いてやっている状態だが、間違いなく二人の心的距離は縮まっているハズだ。
「失礼します」
「はい?」
「詠います」
「なんで?」
突然上田は、息を吸い込んだ後に一句詠み始めた。
「秘めて潜めしこの思い」
左手をクルクルクルと回し、おでこに当てる上田。
山田も咄嗟に真似して、なぜか頭の上まで手が行ってしまった。自分の手を二度見する。
「重ねて姫初め思い重い」
右手をクルクルっと回して、またおでこに当てる。
山田も真似するが、ペチっと自分のおでこ叩いて「なんてこった!」と顔を歪めた。
「曽根崎
「駄洒落かよっ!」
「駄洒落ではないッ! 文学だッ! 実は俺は、亀山歌の継承者なんだ。マーベラスッ!」
「てか森三中関係ないし!」
「優れた文学には遊び心があるものだよ」
そう言って上田は突き出ていた枝に頭をぶつけた。
枝には、「クレア黒沢」と文字が彫られていた。
「………………」
「………………」
「──おぉうっ!?」
背後で頭をぶつけて転ぶ上田に気付かず、圭一とレナは共に歩く。
レナを立ち上がらせ、とりあえず手を引いた。
怪我をした腕には、魅音の持っていたタオルで硬く縛り、止血している。
圭一は奇妙な感情を抱いていた。
むず痒いような、恥ずかしいような、安心するような。とにかく、初めて抱いた感情だ。
レナの手を引いていて思った。
最初はヒンヤリとしていた彼女の指が、次第に熱を帯び始めている。
血が通っているようだ。その様子に圭一は、謎の安堵を感じていた。
「…………れ、レナは……」
前方と後方の全員が話し始め、黙ったままが厳しくなって来る。
「話さなきゃ」と、強迫観念に押されて、圭一はやっと口を開く。
「……レナは、さ」
俯きがちだった彼女の顔が上がる。
ぼんやりとした瞳だ。夢から醒めたかのような風にも思えた。
「……なんでさ……その……元に、戻れたって言うか……いやあの、元に戻るって表現は変だよな……何と言うか……」
見切り発車の会話は、どこか尻窄み。
何を言ってんだと圭一は、心中で自分を責めた。
しかしレナは圭一の言いたい事を理解したようで、答えてくれる。
「……良く、分かんない」
「……え?」
「なんであんなに怖かったのか、みんなが敵に見えたのかとか……」
「………………」
レナは言い辛そうに口をモゴモゴさせた後、決心したように開いた。
「……圭一くんと一緒に死のうって思ったのかとか……分からない」
「………………」
「……でもね。圭一くんの話を聞いたり、腕から血が出ているのを見てたら……」
弱々しく微笑みながら、レナは圭一と目を合わせる。
「……圭一くんや、みんながいなくなるのがとても……怖くなってきたの」
表情に対し、その目は泣き出しそうだ。
「……鷹野さんのスクラップ帳も……なんであんな物、信じ込んでいたんだろうなぁ」
「……そう、か」
「……圭一くんは、さ」
「ん?」
「あの時、言ってくれたよね。『過去は過去だ。そんで人生、隠したい過去なんて幾らでも誰にもある。それを開けっぴろげにする事が、正しい訳じゃない。隠したって良い』……良く思い付いたね」
レナにそう言われた圭一は、少し気恥ずかしそうに頬を掻く。
「あー、あれなぁ……実は、俺が思い付いた訳じゃねぇんだ」
「そうなの?」
「レナを探しに行く前にな……魅音と、沙都子に俺のやった事を打ち明けてな」
前方を歩く、魅音と沙都子を見る。
「そしたら言われたぜ……『仲間に隠し事はしたらいけないワケ?』とか、『償いをしたなら終わり』とか」
「………………」
「目から鱗って奴だな……みんな、俺たちが思っていた以上に、優しいんだ」
レナは丸い目で、彼を見つめている。そして次には、見覚えのある微笑み顔となった。
いつも見てきた、彼女のいつも通りの笑顔だ。
「……ありがとう」
圭一はその笑顔を眺め、本当の意味で安堵する。
気付けば、森を抜けて道路に出ようかとしていた。
やっとみんなで、雛見沢村に帰れる。全員がそう思っていた。
ただ、現実はそんなに甘くはないものだ。
道路をひた走る一台のパトカー。
運転する矢部と、案内をする大石のペアだ。
「運転荒いですよ矢部さん!」
「警視庁じゃこれが標準や」
「赤坂さんは意外と丁寧でしたよ?」
「お? ここショートカット出来そうやな」
「ちょちょちょちょちょ!?!?」
掟破りの地元走りを披露してやる。
リアビューミラーにぶら下がっていた、「仁D」と書かれたスプリンタートレノのキーホルダーが揺れる。
「大体、探しましたからねぇ……可能性があるとすれば、この辺でしょうな」
「どこにおるんやぁ? 早う見つけんと、手遅れになるで……!」
大石は自身の腕時計を確認する。
「……報告を受けて、もう一時間。こりゃもう、無理ですか……」
内心、矢部も諦めが現れ初めていた頃だ。
車を飛ばして、もう五十分ほど。村内は諦め、谷河内までの道を走っている。
「……いや、まだやまだや」
アクセルを強く踏み込み、スピードを出す。
もう矢部の中では、竜宮礼奈への敵意と懐疑心は一切なかった。
必死に礼奈の発見を祈り続ける、大石と矢部。
その祈りは、とうとう届く事となる。
「……おや?」
遠く、道路沿いを歩く複数の人影。
もう暗くなっており、街灯が点々と点く頃だ。ひぐらしさえ鳴き止む時間帯。
こんな滅多に人の往来があるとは言えない場所。
大石は訝しげに思い、目を凝らす。
次の瞬間、愕然とした様子で両眼をかっ開いた。
「矢部さんッ!? いました、いましたよぉッ!?」
「おおお!? おったッ!? おったでぇッ!?」
すぐにパトカーは、その人だかりに寄せられる。
人だかりとは、山田と上田、そして部活メンバーの事だ。
山を降り、森を出て、汗でベトベトになりながら一行は、道路に出た。
ここまで来れば、村まで三十分ほどの距離。全員がホッと、息を漏らした。
しかし次には、ドキリと肝を冷やす。
パトカーが一台、こちらに寄って来たからだ。
「…………ッ」
怖くなり、表情が強張るレナ。
彼女のその様子を確認した魅音が、レナの肩を叩いてやる。
「良い? みんな。『レナは何もやっていない』。警察の目が怖くて隠れていただけ」
「え?」
魅音の言葉に驚くレナと、首肯する部活メンバーら。
「レナは、あの夜にあった事はキッチリ全部言えよ。あの間宮律子の件は正当防衛で何とかなるって!」
「みぃ。ボクらも何とか口裏合わせるのですよ〜」
「レナさんも反省していらっしゃいますし……山田さんも上田先生もそれでよろしいですわね?」
沙都子に話しかけられ、山田と上田は互いに見合わせる。
そして「仕方ないな」と、肩を竦めた。
「まぁ、矢部さんたちの勘違いのせいっぽいですし、アイコロですよね」
「相殺な?……しかし、もう二度とないようにするんだぞぉ?」
「ところで上田さんたちが消えた件は、なんて事にしますか?」
「上田のせいで遭難した事にするのです。にぱー⭐︎」
「俺のせいか!?」
レナは目をパチクリ動かし、全員を見渡した。
潤んだ瞳で微笑み、申し訳なさそうに頭を下げる。
「……ごめんね……みんな……ごめんね……!」
泣き出し、圭一の手を離して涙を拭う。
彼女の姿を見て皆は少しだけ困った顔で笑う。
レナを慰めようとする前に、パトカーは一行の前に停車。
急スピードからの急停車なので、轢かれないかと全員少し慄いた。
中から出て来た刑事は、大石と矢部だった。
意外な人物たちに、山田は驚いて声をあげる。
「あっ! 矢部さんと、リトルバスターズさん!」
「私の事言ってるんですかねぇ? 蔵人です」
「良くここが分かりましたね!」
「いや、偶然や……それよりもなぁ……」
上田の存在に気付いた。
「アレ!? 先生ぇやないですかい!?」
「本当にタイムスリットしてたのか……」
次に部活メンバーが彼を指差し、口々に言う。
「あ!? あん時の不審者じゃねぇか!? 時計屋じゃなかったのかよ!」
「色々引っ掻き回してくれた間抜け不審者じゃん!? ソウゴくんは見つかったの?」
「あのずっとニコニコしてた人……? 結局ツクヨミちゃんって誰なのかな……」
「ブツブツ言いながら神社から出て来た人ですわ!?」
「見るからに目付きがヤバい感じの変人なのです!」
「ワシは一体何をしたんやッ!?」
そんな事はどうでも良いと首を振り、すぐに矢部の視線が、レナに注がれる。
捕まえられのかと動じてしまい、レナは半歩だけ下がってしまった。
またレナを責め立てるのだろうか。
全員が矢部の言葉に注意する中、彼から放たれたのは意外な言葉だった。
「竜宮礼奈やな!? 病院まで送るから、早うパトカー乗れ!!」
「……え? 病院?」
魅音がどう言う事かと訝しむ。
対して圭一は納得した様子だった。
「レナの父さんだ。ほら、今も入院中で──」
「それやッ!! その親父さんが今、大変なんやッ!!」
「え?」
矢部が駆け寄り、焦燥感に満ちた顔でレナの前に立つ。
現場にピリピリとした空気が流れた。
「さっき、容態が急変してなぁ!? もう……保たへんのやッ!?」
全員が、胸に穴を開けられたかのような戦慄を覚えた。
蒸し暑い熱帯夜さえ、冷え込んだ錯覚に陥る。
さっきまで感じていた安堵が、一気に霧散してしまった。
息を呑み、吐き出せない。
レナは顔面蒼白で、矢部の報告を前に倒れてしまいそうだ。
「お父……さんが……!?」
突然の展開に、レナのみならず皆が追いつけずにいる。
ただ照り始めた十六夜の月光が、いつも通りにして物悲しく場を包んでいた。
パトカーが一台停車し、すぐに中から三人が降車する。出てきたのはまず矢部、大石、そしてレナと圭一だ。
「こっちや! 早く!!」
「は、はい!」
「間に合うか……!?」
「間に合うと良いんですがねぇ……!」
二人に案内される形で、レナは大急ぎで病院に入った。
その数分後に、もう二台のパトカーがやって来る。大石が残りのメンバーを回収する為に呼んだものだ。
それぞれのパトカーから出て来たのは魅音ら部活メンバー、そして山田と上田だ。
いち早く降車した上田、山田、魅音が病院に入る。
しかし矢部ら既に、エントランスからいなくなっていた。山田は必死に辺りを見渡す。
「あ、あれ!? 矢部さんたちどこ行った!?」
「多分、集中治療室だッ!! そこに行けば良いッ!」
「あっ! ほら、地図があるよ!」
魅音に示され、エントランスの壁に設置されていた院内マップを確認した。
『←集中治療室 ↑ハルケギニア リハビリステーション→』
集中治療室は矢印の先、廊下の奥にあるらしい。
「こっちみたい!! 山田さん上田先生早くッ!!」
「ギーシュと決闘ッ!!」
「どこ行く気だっ!」
上へ飛ぼうとする上田を山田は阻止し、三人は集中治療室へ走る。
ようやく標識が見え、明確な場所が分かった。しかしその前で、突如現れた医者に引き止められてしまう。
なぜか女装しており、胸に付いている名札から、名前は「アキコ」らしい。
「ここより先は、関係者と親族以外は立ち入り禁止なんですー!」
「えぇ!? そんなぁ!」
医者に引き止められ、魅音は頭を抱えた。どうにか出来ないかと、上田は彼に頼み込む。
「どうしても無理ですか?」
「当院の規則なんですー! 申し訳ありせーん!」
「彼、ここで入院されている方の娘さんの、ご友人なんです。何とかなりませんか?」
「でも、規則なんですー」
焦ったくなった魅音が上田を押し退け、直々に懇願する。
「ほんとお願い! 園崎権限って事で、そこを何とか!」
それでも無理だろうと山田は思いながら、医者におずおずと頭を下げる。
彼は難しい顔をしたまま、三人に言いつけた。
「良い〜よぉ〜!」
一転しての快諾に、一同ずっこける。
山田が首無しのオニ壱を労りながらツッコんだ。未だに山田は首無しだと気付いていないが。
「良いのかよ!?」
「良いわよぉ! 規則なんかクソ食らえよぉ!」
「な、なんかオーケーっぽいし……とにかく行くよ!」
後続の梨花と沙都子が、息を切らしながら走って来る。
上田は二人と合流しようと立ち止まるが、山田と魅音は気が焦っていたせいか集中治療室へ先々と行く。
奥にあった両開きの扉を開くと、医者や看護師が行き交う廊下に入る。
二人は無我夢中で突き進み、病室を目指す。
向かい側から頭に花冠を付け、白い民族衣装を来た北欧人の一団とすれ違う。
一人はなぜか熊の着ぐるみを抱えていた。
「サマーミッド。サマーミッド」
「メイクイーン。メイクイーン」
「ソノザキ・キョニュウ。コイツ・ヒンニュウ」
「!?」
思わず二度見する山田だが、足は止めなかった。
そのまま二人は廊下の角を曲がり、病室へ辿り着く。
後に続いていた上田に、梨花と沙都子も、集中治療室への廊下に入る。
「さぁ、二人とも! こっちだッ!」
「レナさん、間に合ったのでしょうか!?」
「せめて間に合って欲しいのです……!」
向かい側から、例の一団と遭遇する。
なぜか上田だけ彼らに絡まれ、梨花と沙都子だけが先へ行く事となった。
その間二人もやっと角を曲がり、病室へと辿り着いた。
大きな広間には多くのカーテンがあり、患者と患者を仕切っている。
レナがいたのは広間の更に奥にある、窓付きの壁一枚隔てた特殊な病室。
窓の前で、魅音と山田が立ち尽くしている。
ガラス越しで見えたのは、変わり果てた姿の父親に抱き付く、レナの姿だった。
「……あ」
梨花はピタリと、少し離れた箇所で立ち止まった。
沙都子だけ窓際へと近付き、山田らと合流する。
ここからでも良く見えた。
泣き叫ぶレナと、居た堪れない表情の圭一に矢部と大石。
そして、一本線が真っ直ぐ横へ伸びた心電図。
遅かったのだろう。そして救われなかった。
「………………」
呆然と立ち尽くす梨花。
彼女に気が付いた山田が、そっと歩み寄って来た。
「……来た頃には既に、意識を失っていたようでして……」
「………………」
「……梨花さん?」
ふらりと立ちくらみを起こし、倒れそうになる。
山田は急いで梨花を支えようとしたものの、何とか堪えたようだ。
額を押さえながら梨花は、吐き出すように呟いた。
「……思えばずっと、そうだったわ」
「え?」
雰囲気の変わった梨花に驚く山田。
そんな彼女の様子さえ無視し、梨花は父親の死体に抱き付くレナを眺めた。
「……何かがある代わりに……何かが消える」
魅音と沙都子がレナを慰めようと、病室に入って行く。
「……完全な大団円なんて……絶対にない……絶対に来ない……」
レナを背後から抱き締める魅音の姿。そっと寄り添う圭一と沙都子。
部活のメンバーは誰一人として欠けていない。
なのに漂う、悲しみと遣る瀬なさ、そして孤独。
「……だからなのです……山田……だから……」
「はい……?」
ジッと、梨花は山田の方へ視線を向ける。
その瞳には縋るような、弱々しい光を浴びていた。
「……それでも。みんなを、救えますのですか……?」
咄嗟に山田は、言葉を思い付けなかった。
悲しい目付きで見つめて来る梨花を前にただ、黙り込んでしまう。
あまりにも状況が仄暗い。
山田にもまず、整理する時間が欲しかった。
集団に絡まれていた上田もやっと到着する。隣には一人のお爺さんが付き添っていた。
「……なんてこった」
「ベニスニシスーーーーッ!!!!」
落日。