ひぐらし業のキャラデザをオマージュした、上田と山田との事。とても素晴らしい。
本当にありがとうございました。山田がちゃんと貧乳です。ありがとうございます。
突然突きつけられた爆弾発言に、やっと二人は聞く耳を持ち始める。
「な、な、なんで私たちが、タイムスリスリスキャットして来たと!?」
「だからスリットォッ!! 何年言わせるッ!?」
「そもそもタイムスキャリントンってなんなのです?」
「お前もか!」
山田の質問には、梨花は腕組みをし、してやったり顔を見せ付けてくるのみ。
その沈黙は「信じてくれたら教えるぞ」と主張しているかのようだ。
どう判断すべきか迷った上田は、野球などでやっている、両手でTの字を作る「タイム」のハンドサインを出した。
「ストリウム光線なのです」
「タイムだッ!! 作戦タイムッ!!」
「認めるのです」
上田は山田を引き連れ、次郎人形と首のないオニ壱と共に、部屋の隅に行く。
梨花に背を向け、声を顰めて相談し合う。
「な、なんであいつ、俺たちがタイムフライヤーっての知ってんだ!?……言ったかYOU!?」
「言う訳ないじゃないですか! 言っても仕方ないですし!」
「んまぁ、そうか……」
「てか、タイムフライヤーってなんです? 時を揚げる?」
「それはfryerッ! これはflyerだッ!」
「…………何が違うんですか?」
もうその話は終われと、次郎人形の腕をぶんぶん動かして気を取り直す。
「とにかくだ!
「羊のショーン?」
「話を続けるぞ!……あの子が、俺たちが時を超えた事を知っている……この件については、どう対処すべきか」
「めっちゃ自然に話されたから、めちゃくちゃ自然に返してしまった……」
「どうする山田?」
山田は一頻り考える。考えた末、渋い顔を見せたまま首を縦に小さく振る。
「……梨花さんの話。信じてみる価値はあるのでは?」
「ソウルブラザーとタカノンが死んじゃうって話か!?」
「あと梨花さんも……何にせよ彼女、私たちの知らない情報を握っている事は確かです。予言かどうかはともかく」
「そうかもしれんが……」
「現状、もう私たちの情報が尽きて来てもいるんですし……」
「それもそうだが……」
一緒に唸った後に、「仕方ない」と互いに目配せし合う。
「……信じましょう」
「……信じるか。一旦な」
「決まりましたね」
「信じてくれるのです?」
いつの間にか真後ろで座っていた梨花に、二人は飛び上がって驚く。
滑稽な二人の姿を梨花は、いつもの口調とは裏腹に少し不安げな表情で見つめている。
「盗み聞きすんじゃねぇッ!」
「別に隠すほど重要な話じゃないのです」
それでどうするのかと、梨花はジーっと山田を見やる。
返答を待つ彼女の前で、意を決したかのように頷いた。
「……信じます。とりあえず……です、けど……?」
一応上田を一瞥し、同意見かを確認する。
上田は目を丸くしつつも、次郎人形を頷かせて同意してくれた。
「信じる」の言葉を聞くまでは気を揉んでいる様子の梨花だった。やっとホッと息をつけたようだ。
「……ありがとうございますのです。ちょっと、安心したのですよ」
「でも、話は始まったばかりです。予言の詳細と、あとどうして私たちがタイムスキャットを」
「スリット……」
「して来たと分かったのかも……全部話してください」
「……そうなのです」
梨花は途端にしおらしくなり、やや俯いた。
「けど、どこから話したら良いものか……いざとなったら迷うのです。こんな事を打ち明けたのは……初めてだから……」
彼女自身も信頼して貰えるのか、不安だったようだ。肯定の場合の事を考え損ねていた。
言葉を探そうと
「なら、質疑応答の形で話そうじゃないか。それなら良いだろ?」
「……分かったのです」
提案を受け入れた後、颯爽上田から質問が開始された。
「まず、山田も言ったが……なぜ、俺たちがタイムフライヤーだと分かった?」
「時を揚げてどうするのです?」
「あいつと同じボケをかますなッ!」
「小粋な冗談なのですよ……でも、その答えはまだ控えさせて欲しいのです」
突然の回答拒否に、山田も上田も拍子抜けな様子を見せた。
「あのなぁ……やらかした芸能人の答弁じゃないんだぞ?」
「いずれ話しますです……今はボクが、二人が時を超えた事を知っていると言う事実で十分なのです」
「一番重要なんだが……」
「じゃあ質問を返すようなのですけど、その質問に答えたら二人はどうするのです? さっさと未来に帰っちゃうのですか?」
気まずそうに山田と上田、ついでに次郎人形とオニ壱は顔を見合わせる。オニ壱にもはや頭はないが。
ただ梨花からある種の意志を感じ取れた。どうしてもこの先の出来事を回避したいと言う、執念にも思えた。
山田から、仕方なく別の質問をする。
「……犯人は、分かりますか?」
「……分からないのです。それをボクと一緒に、明かして欲しいのです」
「殺される理由についても?」
「……分からない事ばかりで、ごめんなさいなのです」
「……なら、分かる範囲で構いませんので、殺される状況とか、方法とか場所とか……」
やっと答えられる質問が来たのは良いが、決して気分の良い完璧な回答を持っている訳ではない。
梨花は表情を曇らせつつも、「分かる範囲なら」と語り出す。
「死体発見は祭りの後。場所までは把握出来ないのですが……鷹野は焼死」
「なんだとぅ……!?」
「ドラム缶に入れられて焼き殺されるのです」
「タカノンが!?……犯人許すまじ……!!」
「上田分かりやす過ぎるのです」
怒りに震える上田の横で、今度は富竹の方の死因を話す。
「次に富竹なのです……けど」
「……けど? どうしたんです?」
「……そうなのです。その話の前に、二人には話しておく事がありますです」
いつになく神妙な顔付きだ。
次にはやや身体を前のめりにし、彼女は必死に懇願した。
「今から話す事を聞いても、絶対に村や村の人たちを不気味に思わないで欲しい。そして二人も気を確かに持って……絶対に誰にも、言わないで欲しいのです」
真剣な彼女にやや圧倒されながらも、二人はやっと頷けた。
梨花は数秒ほど言い辛そうな顔を見せた後、深呼吸と共に吐き出すようにして話し出す。
「…………『雛見沢症候群』」
聞き慣れない言葉に戸惑い、上田は眉に皺を寄せて聞き返した。
「なに……? 雛見沢……Syndrome?」
「英語にするな。嫌味か!」
「雛見沢症候群は名前にある通り、この村独特の風土病みたいなものなのです」
彼女の口から発せられた「雛見沢症候群」の説明は、およそ二人の想像を絶する内容でもあった。
「……この村に住む人間。生まれながらの村人とか、村外から引っ越して来たとかは関係なく……この地に一定期間滞在する事で発症する病気なのです」
「未来でも聞いた事がないが……病気と言う事は、なんだ? 熱っぽいとか、神経痛とか?」
梨花は首を振り、否定する。
「そんな『誰が見ても病気』みたいなものじゃないのです。この村の人たちみんなを見て、何か病気にかかってそうだなって思ったのですか?」
「俺の知る限りじゃ全員、健康そのものだったが……」
「そうなのです。発症しているって言っても、普通にしていたら症状なんて何もないのですし、そのまま生を全う出来るのです」
「それ病気か? ホクロみたいなもんだろぅ?」
「………………」
二人を愕然まで陥れたのは、その症状についてだった。
「……二人はもう。症状が悪化した人間の様を見ているのです」
「は?」
「……昨日までのレナが、恐らくそうなのです」
レナの名前が出た途端、山田と上田の脳裏にはレナの主張と鷹野のスクラップ帳がよぎった。
まさか察し、鳥肌が立つ。
目を見開き、ぱくぱくと口を開閉させる事しか出来なかった。
驚くまいと踏んでいた山田でさえも、言葉を詰まらせる。
「え、じゃあ……!?」
寄生虫、レナの様子、変貌した性格。
これまで得た情報が、梨花のたった一言によって繋がった。
二人の様子を見て、ある程度の情報を持っていたのだなと気付いた梨花は、ゆっくりと話す。
「……家族や親友さえ信じられなくなるほどの────強い敵意と妄想を、その人間に植え付ける病……なのです」
衝撃の事実だ。
動揺した上田は、次郎人形を落としそうになりながらもやっぱり床に落とし、身体を崩して梨花に話しかける。
「じじじじ、じゃあ、タカノンの話や、スクラップブックにあった内容は合っているのか!? 寄生虫症の一種!?」
「そうなのです。と言うか合っているも何も、鷹野と入江はその、雛見沢症候群について研究している第一人者なのです」
「なんぞ!?」
「鷹野は嫌な性格だから、怖がらせて反応を確かめる為にちょっと事実を変えて言ったのだと思うのです。上田はビビリだから格好の餌食なのです」
「!?」
「確かにただのオカルト話にしか聞こえないのですが、それでレナの発症を起こしたのだから自粛して欲しいのです」
呆然とし、思考がショートした上田は、ただ一言呟く事しか出来なかった。
「ばんなそ」
「ばんなそかな!?」
「!?」
山田にその台詞を盗られた上田。
そんな二人の動揺は、勿論の事だが梨花の予想通りだ。
「……望むのなら、入江に説明するようにボクからお願いしておくのです」
心配なのは動揺させた事より、その後。入江らの名前を出したので事実確認の保証を作った。なので嘘だと思われる事はないだろう。
危惧すべきは恐怖。
前置きしたとは言え、本当に二人は村人に恐れを抱かないものか。
その恐れによって、二人から意欲を削ぎ取ってしまったのではないか。
病気の事を明かしたのは時期尚早だったかと、そう後悔した時だ。
事情を何とか飲み込めた山田から、質問が入った。
「……それが、冨永さんの死因とどんな関係が?」
「そろぞろ覚えようぜ山田」
上田はともかく、山田は及び腰にはなってはいない。そんな姿に安心したのか、梨花は後悔を打ち消して説明した。
「……雛見沢症候群は、最初こそ人間の精神に影響を及ぼすのです。しかし症状が進行する毎に影響は精神を通じ、身体にも与えるのです」
「精神を通じて?」
「いわゆる……『自傷』か?」
上田の推理に、梨花は首肯してみせた。
途端に山田はある事を思い出した。昨日のレナの発言だ。
「……! レナさんが言っていた、『首を掻き毟って死ぬ』って奴ですか……?」
「く、首ぃ!?」
怖がり、自身の首を掻きながら怯える上田。
彼を無視しながらも、梨花はまた頷く。
「強い心労と妄想の果てに……最後は自分で自分を傷付け、死ぬ。それが雛見沢症候群の、最悪な末路」
悲しげに目を細め、噛み締めるように梨花は続ける。
「富竹は、まさにそうやって死ぬのです」
吹いた風が窓際の風鈴を虚しく鳴らす。
済んだ青の晴天だ。
だが今、ここにいる者たちの心は決して、晴々とはしていない。
暗雲が立ち込めているような、そんな気がした。
上田と山田はやっとの事、この雛見沢村にある根の深さに気付いて行く。
気付くだけではない。踏み込んで行く。
彼女の口から未来の話を聞いた時から、もう二人は後戻り出来ない所にまで背を押された訳だ。
風鈴の音が止む。
同時に声を発したのは、上田だった。
「そ……そんな……ははは!! 例え自傷だとして、死ぬ勢いで自分の首を掻き毟りなんざ出来る訳がない!」
現実逃避にも似た否定だ。だが梨花は至って真面目だ。
「詳しくは入江に聞けば良いのです。それでも信じなくても、どうせ明後日に思い知るのです」
「こ、怖い事を言うなよ……」
「それにここまでの話は、上田の大好きな科学の話なのです。富竹と鷹野が死ぬかどうかは別にして」
「だが……人を操る、寄生虫なんてそんな……」
「上田、聞いて欲しいのです」
困惑する上田を嗜めるように、梨花は諭してやった。
「……様々な病気や災害を、古代の人々は神の怒りや悪魔の仕業だと恐れていた」
でも、と言葉を続ける。
「実際は目に見えない細菌が病気を作り、災害は目に見えない自然の摂理で引き起こされていたのです」
「………………」
「神のせいでも、悪魔のせいでもない……ただ、人間が『知らなかっただけ』なのです」
梨花のその言葉は説教と言うよりも、祈りに近かった──少なくとも、山田はそう感じていた。
「……断言出来るのですか? 何でも科学で証明出来る時代だからって……何も見落としがないと」
「……!」
梨花の言葉には、上田も思う事があり、つい山田の方を見つめてしまう。
あれは黒門島の分家に山田がある孤島へ連れ去られた時だ。
上田は彼女を救うべく、単身島に乗り込んだ。
隣にいる本人はまだ、記憶にはないだろう。
だが山田の口から突き付けられたあの言葉は、今でも上田の心に突き刺さっていた。
「ただ、上田さんたちは────自分たちの説明出来ない事を認めたくないだけ」
あの時はあまり気にしてはいなかった。
だが梨花のその言葉を聞いた時、不意に思い出してしまう。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………なんですか? 私の顔に何か付いてます?」
「昨日の晩ごはんに食べたお味噌汁のワカメは付いているのですよ」
「え、マジですか」
そのまま上田は、山田を見つめたまま。
あまりに長く見て来るので、山田は怪訝な表情で尋ねる始末。
ハッと我に返り、上擦った声で梨花の問い掛けに対し「いいや?」と否定はしてみせる。
「そ、そうだな……見落としはない、とは言い切れない。人類が知らない、未知の病気や現象があっても良い……とは、思うぅ〜…………よぉ?」
「雛見沢症候群も、その一つに他ならないのです。でも確実に研究は進んでいるのです……少なくとも、未知では無くなってはいますです」
「分かった分かった……認める。そう言う寄生虫がいてもおかしくない、とな」
難色を示していた上田を、何とか諭せた。
ひと段落置いてから、山田が口元を袖で拭きながら質問する。
「と言う事は……富竹さんが」
「だから富竹だと……合ってる!?」
「その病気がもう進行している状態、なんですよね?」
彼女の質問への明確な回答を、あいにく梨花は持ち合わせてはいなかった。
その上で梨花は、お願いをする。
「だからこそ、調べて欲しいのです。富竹にその兆候はないのか……誰が鷹野を、殺すのか……」
ずっと膝の上で握っていた拳を開き、腕を上げた。
するりと伸びた彼女の手は、縋るように二人の前で差し出される。
「これから起こる事件も、これまでの事件も…………ボクと一緒に、明かして欲しいのです」
決意に満ちた目で、二人を見つめていた。
「…………そうしなければ、この悪夢の夏は終わらないのです」
太陽が昇るにつれ、じわじわと上がる気温。
その暑さを待っていたかのように、蝉がまた鳴き始めた。
言い切り、梨花はやっと話を終える。
ただ山田らにしてみれば、すぐ咀嚼し切れるような話ではないだろう。綿流しの日に鷹野と富竹が死ぬと言う予言に、人を疑心暗鬼に陥れる寄生虫症、更には梨花と言う少女の正体についてなど。
事実、二人はまだ飲み込めていない様子ではあった。寧ろ、この情報量を飲み込める方がおかしい話ではあるが。
「……しかし、何と言うか……」
上田はやや困り口調で話す。
まだ疑っているのかと、梨花は語気を強めにして問う。
「……あれだけ言ってもまだ半信半疑なのです?」
「いやいやいや……言われてみれば、みたいなのはある。確かに入江先生ほどの医師が、こんなド田舎に診療所を構えているって事が妙なんだ」
「入江たちを責めないで欲しいのです。どうせ言っても信じない話なのですし……広めるには気分の良い話でもないのです」
「あともう一つだけ質問したいが……なぜ、この話を聞かされてんだ? 園崎家は知っているのか?」
「知っているのはボクたち古手家だけなのです……詳しくはまた、追々」
「気になるが、話してくれるのなら……しかしまぁ、園崎家は余所者に厳しそうだからなぁ」
「と言うのもあるのですけど、一番は組織として巨大な事もあるのです。どれだけ結束力があると言っても、秘密は必ず漏れてしまうものなのですよ」
この間起きた、園崎三億円事件での一幕がそうだろう。
金と情で口説けば、例え組織に貢献して来た者と言えども、綻びを作ってしまう。
確かに園崎のように組織的な一派に知らせるには、リスクは高い。村への影響力があるだけに、その影響力が邪魔になり得る。
「雛見沢症候群の話題は慎重にすべきなのです。二人だって突然、『あなたの頭の中には寄生虫がいるのですよ〜』とか言われたら、ショックガーンでしょう?」
「確かにショックガーンではあるが……ショックガーン?」
「……レナの一件もあるのです。だから入江たちも、情報の出し方には気を遣っているようなのです」
「……鷹野さん、結構俺に話してはいたが……」
「驚かすつもりに含めて、村の外から来たから研究を狙う輩じゃないか確認したかったんだと思うのです。一応症候群の存在自体は、専門家の界隈じゃ知られているそうなのですから」
「つまり俺は信用されていなかったと?」
「上田のどの部分を見れば信用出来るのです?」
毒舌を浴びせられ、上田は無表情でフリーズした。
代わりを務めるように山田が口を開く。彼女はあくまで、これから起こる事件についての話題に徹していた。
「……なぜ、鷹野さんは殺され、トミーは……病死? するんでしょうか」
「それを調べなきゃいけないのです……」
「……これもやっぱ、『鬼隠し』と言う事になるんですか? 男女とも遺体で見つかってはいますけど」
山田の疑問には、梨花も同意するように頷いた。
「その通りなのです。失踪はしていないものの、今年の鬼隠しはまさにその二人が被害者なのです」
「鬼隠しの被害者はどれも、ダムの建設を支持していた人たちばかりでした。沙都子さんのご両親と、叔母とお兄さんに、古手家の──」
「お、おい山田……!」
考えを捲し立てる山田の肩を、上田は気まずそうな表情で小突く。
「いってーな! なにすんだ上田!」
「いや察しろッ!! しかも痛くしてねぇッ!」
「は?」
「お前ッ、あのなぁ……その話を梨花の前でするのは、その、デリカシーに欠けるだろ……」
憚るように言い聞かされ、やっと気付いた山田は「あっ」と口を塞ぐ。
上田の忠告通りだ。鬼隠しの被害者には、「梨花の両親」も含まれている。
この話題をみすみす、本人の前で突き付けるのは如何なものか。
しかし梨花は二人を真剣に見据えたまま。気にはしていない様子ではある。
「大丈夫なのですよ」
「す、すいませ……」
「謝らないで欲しいのです、事実なのですよ……だから、気にせず話すのです」
「ですよね。分かったか上田」
「少しは気にしろYOUッ!」
あっけらかんとし過ぎな彼女に、上田はツッコミ。
とは言え梨花本人の鶴の一声で、気負う必要はなくなった。
山田は次郎人形をふらふら操る上田を無視し、また話し出す。
「でも、ダム戦争は先日終わりましたし……何より、そのお二人方がダムを容認している訳じゃなさそうで……」
「……ボクもずっと、そこが気になっているのです」
「いや気になっているって……まだ起こってすらいないだろ?」
上田の横槍を「分かった分かった」と、梨花は口パクと手つきで封殺。
まるで面倒臭い奴を嗜めるような彼女の挙動を前に、上田は素直にフリーズする。次郎人形で顔を隠して。
「じゃあ何が目的で、殺されるんでしょうか? それに何が原因で発症するのか……」
「そうなのです。そもそもダム戦争は『一年目の事件』で既に終結し…………あ」
「ん?」
梨花は焦った様子で口を塞ぐ。
何か言いかけた彼女を、山田は気にかける。
「えと、一年目の事件で? 沙都子さんのご両親のでしたっけ?」
「…………ちょ、ちょっと、こんがらがっちゃったのです。にぱ〜☆」
「でもダム戦争とか何とか」
「気にしなくて大丈夫なのです! ほら、続けて続けて」
「は、はぁ……?」
煙に巻かれた気分ではあるが、おずおずと山田は続けた。
「まずなぜ、鷹野さんはドラム缶で焼かれるのか……どうして、その方法を……」
「……みぃ。思った以上以上に複雑なのです」
そもそも、予言と言う形の不確定な未来を題材に話を進めているのだから、どこかで頭打ちになってしまうだろう。
互いに押し黙ってしまった山田と梨花の横で、上田は仕方ないと言いたげに提案する。
「ならば、一年目の事件の現場から調べよう。情報を得ない分、どうにもならない」
考え込むように顎を撫でながら、これからの行動を幾つか挙げてくれた。
「まずは、今日中に矢部さんたちの協力を仰ぎ 一年目の現場に行こう。当時の資料も入手出来るだろうしな。事件が起きた場所は分かるか?」
「みぃ……白川自然公園ってところなのです」
「後は入江先生に、梨花さんのお父さんの事を聞かないと。出来れば鷹野さんにも」
「上田。鷹野と……富竹には話さないで欲しいのです」
「え?」
梨花は静かながらも、ひしひしと伝わる必死さを以て頼み込む。
「その……二人は、四年目の被害者……に、なるかもしれないのです。無闇にあれこれ話したり働きかけたら……寧ろ、墓穴を掘るのです」
「墓穴を掘るってそんな……」
意見しようとする山田を制し、梨花は続ける。
「話は情報と証拠が揃ってからにしたいのです。第一今は、みんながみんなまだ疑わしい状況なのです……ボクは、確信が欲しいのですよ」
山田と上田、オニ壱と次郎人形は互いに見合わせ、どうするかを目線で相談する。
その内上田の方から「仕方ない」と首を振った事で、梨花の主張を受け入れる形となった。
「……分かった。だが鷹野さんと富竹さんにも会う必要はあるな。特にマイブラザーは発症する可能性があるのなら……メンタルケアをしてやらねば」
「マイブラザーって誰ですか?」
「よぉし……なんか、めちゃくちゃ捜査って感じで興奮するなぁ?」
「不謹慎なのです」
手を擦り、若干楽しげな表情で上田は立ち上がった。
そして二人を一瞥した後、拳を作って胸の前に待って来る。
「ここからが俺たちのステージだッ!!」
「おぉ。上田さんが珍しくやる気だ……!」
「まぁちょっと、梨花にはもう少し色々聞きたいが……そもそも俺たちは、『雛見沢大災害』の真相を暴く目的で来たんだッ!!」
「………………ん?」
上田の発言を聞き、梨花は唖然とした様子で小首を傾げた。
「俺たちは未来を変え、そしてこれから来る大災害からッ!!」
「え? 大災害?」
「村民を守るのだッ!! 今ここに、日本科技大もう少しで名誉教授たる上田次郎が宣言するッ!!」
「待って上田待つのです。え? 災害?」
「どんと、こぉ〜〜いッ!! 超常現象ッ!! どんとこぉ〜〜いッ!! 鬼隠しッ!!」
「てか声がデカ過ぎる!! 静かにしなさいって!?」
「御唱和ください、この言葉をッ!! どんと、こぉ〜〜〜〜いッ!!!!」
高らかに宣言に、胸の前の拳もまた高らかに振り上げた。
困惑する梨花を他所に、山田も拳を振り上げて上田に合わせる。
「どすこーーいッ!!」
「どんとこいだッ!!」
「ミッドサマーッ!!」
「!?!?」
外にいる謎の北欧人集団が、家の前で三人に向かって叫ぶ。
その声に全員が身体をびくつかせた事は言わずもがな。
「……上田」
「なんだ梨花?」
「……詳しく、話すのですよ」
「え?」
そして梨花もまた、二人に言いたい事が出来たのも、言わずもがな。
「……大災害、とはなんなのです?」
「オヤシロ・ミッドサマぁぁあーーーーーーーッ!!!!」
ここから先は、遥か未来の話だ。