なかなかアイズと絡めないなと、最近焦りを感じだしています。
一応次の次ぐらいから本格的に絡む......かな?
「ふふ。だめね。もう少し我慢しようと思ったのだけれど」
薄暗い部屋の中、ソプラノのような甘い響きがこだまする。
足元に転がる亜人は、どこか恍惚とした表情をしており、焦点の合っていない目で虚空を見つめていた。
こうなった原因である人物は、フードからしなやかな腕を檻へと延ばす。
檻に閉じ込められているソレらは、鼻息荒く、しかし大人しく、成すがままに……
「さあ、あの子をもっと輝かせて?」
「それじゃ行こっか!」
陽気なティオナさんの声につられるように、僕たちはお祭りへとくり出す。
ふらふらするティオナさんをティオネさんが窘める姿はまさに姉妹で、僕とレフィーヤさんはそれを笑いながら見ていた。
冒険者で賑わうメインストリートが、今日はお祭りを楽しむ人で賑わっているのは新鮮で辺りをきょろきょろと見ていると、見知った顔を見つけた。
向うも僕を見つけたようでパタパタと人ごみをかき分けて来る。
「おはようございます」
「おはようございますニャ。ちょうどいいところにいたニャ、白髪頭」
「ベルさん。ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いい?」
そう言ってアーニャさんとルノアさんは僕に大きめのがま口財布を渡してくる。
僕とレフィーヤさんが首を捻ると、アーニャさんはふふん、と胸を張った。
「おミャーはそれをおっちょこちょいのシルに届けるニャ」
「えっと……」
「ごめんね。この馬鹿!説明不足だよ!」
「ニャ!? ニャにおう! おっちょこちょいのシルが財布を忘れてお祭りに行ったニャンて言わなくても分かるニャ!」
「……と、そういうことよ。私たちまだ仕事あるからさ、お願いできない?」
「そういうことなら、分かりました」
僕がそう言うとルノアさんは片手でごめんと謝りながらアーニャさんを引き摺る様にして人ごみの中に消えていった。
「頼まれちゃいましたね」
「あ、すいません。皆でお祭りを廻ろうとしたのに」
僕がそう言うとレフィーヤさんは苦笑しながら首を振る。
「気にしないでください……それに」
どこか遠い目をするレフィーヤさんが「私もあの二人を探しますから」と言った。
あの二人? ……あ。
「ティオナさんとティオネさんは!?」
「人ごみの何処か、ですよ。あの二人は私が探しますから、ベルは行ってください」
また後で回りましょう? と言うレフィーヤさんに僕は頭を下げてから、シルさんを探すために人ごみの中へ飛び込んだ。
「いないなぁ。シルさーん!」
あれからしばらく探し回ってもシルさんは見つからない。
ガネーシャファミリアの催し物が始まったようで、人が若干少なくなった通りを走りながら僕はそうこぼした。
「どこかですれ違ったのかな?」
闘技場からは熱狂的な声が響く。
ただシルさんがあそこにいくのは何処か想像できなかった僕は、もう一度探し直そう……そう思った瞬間。
「きゃああああ!!!」
「ッ!」
誰かの叫び声が聞こえた。半ば無意識的に声の方に切り返し、姿勢を低くして人混みを疾駆する。
声がしたのはダイダロス通りの方?
声の方向を予想しながら人波をかき分け裏路地へ。
二つ目の角を曲がった先には、蹲る子供に棍棒を振りかざすオークの姿が!
「ッ、このぉ!!」
即座に魔法を発動させて武器を飛ばす。高速で飛来する武器はオークの胴体を切り裂き大きくのけ反らせる。
その間に僕は子供との間に割り込み、ほぼゼロ距離で胸元へ槍を投射した。
ゥゴォォッ
僅かなうめき声をあげたあと、オークは魔石を残して灰になった。
「……ふぅ。大丈夫?」
「うっ、ひっく。うん。だい、じょうぶっ」
パッと見特に外傷はなかったことに安堵しつつ、僕は念のために腰にぶら下げておいたポーションを手渡す。
「これ、飲んでおいてね?」
「うんっ。……お兄ちゃん、ありがと!」
目元をぐしぐしとこすった後、笑顔でお礼を言う男の子に、僕は破顔しつつ、立ち上がる。
遠くから聞こえる避難を呼びかける声に、僕は男の子にそちらへ行くように言い、未だ悲鳴のする方へ駆けだした。
「……ベル、さん?」
ダイダロス通りの壁を駆け上がって屋根に上ると必死に周りの音を聞く。
人々の悲鳴や怒声に交じって聞こえるモンスターの鳴き声を聞き取ると僕は恩恵を最大限活用して屋根の上を駆ける――——と自分の中の第六感が危険信号を鳴らす。
僕は速度に乗った体を無理やり後方へ飛び退かせるのと、目の前に大きな鎖が振り下ろされたのは同時だった。
「ッ……シルバーバック?!」
白い体毛の大猿は、攻撃が外れたことが面白くないのか胸を叩いて雄叫びを上げる。
そのまま両手につけられた鎖を巧みに操り中距離攻撃を繰り出してきた。
僕は慌てて槍を取り出して受け流すも、滑りやすい場所では上手く体制を取れずに吹き飛ばされてしまう。
屋根や壁に数度体をぶつけ、小さな広場に落ちる。
「ゴフッ」
口の中に広がる鉄の味を感じながらも僕は体を起こす。
両手両足の感覚はある。大丈夫、まだ戦える。
僕は大きく息を吐いて槍を構える。
屋根上から飛び降りてきたシルバーバックは槍を構える僕を見て鼻息をさらに荒くして叫ぶ。
ウガアアアァアァァァァ!!!
右の大ぶりを掻い潜るようにして回避して肉薄、切り上げるも浅い傷しか生まれなかった。
僕の力じゃ決定打にならない。
そう考えた僕は即座に魔法メインに切り替えて剣と槍を投射する。
飛来する二つの攻撃にシルバーバックは鎖を振るわせて対応した。
キィンッ!
硬質的な音と共に槍が弾かれる。側面からの攻撃に容易に弾かれた槍は、近くの壁に突き刺さると魔力の残滓となって消える。
しかし剣の方は弾かれずにシルバーバックの右肩へ深々と突き刺さった!
ガアアァァァァァ!!!!
絶叫をあげるシルバーバックの隙を見逃さずに駆け出し、振り回される腕を掻い潜って懐へと侵入し——
「フッ!!」
顔面目掛けて斧を投射した。
ハルバード状の斧は先端を顎下から脳天にかけて突き刺さる。
口から血を吹き出すシルバーバックに、僕は斧の柄を握りしめた。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」
力の限り振り下ろす!
深々と刺さった斧は頭蓋骨を破壊し首を斜めに断切した。
シルバーバックは膝から崩れ落ちると魔石と拘束具を残して灰になる。
僕は尻餅をつくように地面に落ちた。
「……やった。僕一人で……やったんだっ」
確かな格上に勝利した実感が沸きあがる。
僕は噛み締めるように拳を握り、次いで襲ってきた悪寒に顔をあげた。
「ッッなに、この感じッ」
何か、嫌な予感がする。得体のしれないその感覚が、僕をどこかへと突き動かす。
僕は精神回復薬を一本飲むと悪寒のする方へ走る。ソレに近づくにつれて僕は更に加速した。
徐々に大きくなる破壊音に鼓動が早くなる。
僕は槍を握り直し、路地を曲がると…………
瓦礫にめり込み口から鮮血を溢れさせる彼女に、僕の思考は真っ赤に染まった。
ベルが駆けつける数分前、ティオネ、ティオナ、レフィーヤは脱走したモンスターを討伐中に、地中から現れた何かに襲われていた。
「ッくぅ!! 何よコイツ! 硬すぎ!」
「ウルガがあればなぁ!」
突如として現れた未知のモンスター。触手のような見た目のモンスターはヒリュテ姉妹の力をもってしてもビクともしない強靭な硬さを持っていた。
魔法職であるレフィーヤは二人が苦戦を強いられるモンスターを前に、委縮していた。
あの二人が苦戦する相手に、自分の魔法が通用するはずがないと。半人前の魔法では二人に迷惑をかけるだけだと。
震える足で戦闘を見ていると、二人が叫ぶ。
「レフィーヤ! ちょっと助けて!」
「魔力馬鹿のあんたが何縮こまってんのよ!! それでもロキファミリアかお前!!!」
「ッ……わ、私だって」
仲間の
そうだ、私は、私の役目は!
自らへの叱咤を力に変え、目を吊り上げる。
「詠唱入ります!!」
力強く叫ぶ後輩に、先輩は頬を吊り上げた。もう彼女は心配ない。そう思って二人は戦闘に集中し、レフィーヤは詠唱へ……そして
「え」
レフィーヤは眼前に迫る塊を見た。
地面を潜って接近していた触手の一撃がレフィーヤの腹部に直撃する。
「ッッゥ!!?」
レフィーヤの身体から、メキリと生々しい音がする。
そのまま吹き飛ばされるようにして建物へめり込む仲間の姿に、姉妹は決定的な隙を見せる。
「レフィーヤァ?! ってあぐぅ!」
「ちょ、きゃあ!!」
腕ごと縛られるティオナと足を掴まれ投げ飛ばされるティオネ。
ギリギリと締まり続ける触手に、ティオナは汗を垂らす。
「っこんのぉ! レフィーヤ!! レフィーヤ!?」
「クソ野郎がぁッ!!!」
何とか抜け出そうともがく間にも、触手が壁にめり込むレフィーヤへと再度迫り………………腹部を貫いた。
二人はもがくことも忘れレフィーヤを見た……腹部に突き刺さる触手を真っ赤に染め、吐血する家族を。
『ッッ!!』
二人が激情にかられ触手を引き千切る。ティオネのスキル「
そして二人による蹂躙が——————始まらなかった。
極限まで上がった激情は、背後からの
第一級冒険者の二人ですら恐怖を感じるその存在感に、触手モンスターも金縛りにあったかのように動けなくなる。
二人は顔を青ざめ小鹿のように体を震わせ、後ろを振り返った。
そこには、全身から金色のオーラを迸らせるベルの姿があった。しかし、彼から放たれるソレは、威圧とは生ぬるい程の圧力だった。そう、まるで、神威のような…………。
悩みに悩んでの次話へ持ち越すという......。
どうもっていこうかなぁ(゜゜;)(。。;)