英雄の欠片は何を成す   作:かとやん

25 / 58
久々の投稿……ちょっと違和感があるかも

もうすぐUAが10万を越えますね。
良くここまで伸びたものだと自分でも驚きです。
…………特別編みたいなのしようかな。ネタみたいなやつw


英雄の欠片と殺人事件と

「ここが、18階層。迷宮の楽園(アンダーリゾート)……」

 

辺り一面の緑に、太陽のように輝く結晶(クリスタル)がこの階層には満ちていた。

この景色を奇麗だと感じる一方で、どこかやるせなさを感じている自分もいた。

……自分の足でここまで来ることができたのなら、と。

顔を見て、僕が考えていることを察したのかフィンさんとリヴェリアさんが苦笑する。

 

「いつか自分の足でここまで潜れるようになれば、また違った景色に見えるさ」

 

フィンさんは、アイズたちと合流しようかと言ってここから見える湖畔のそばにある町へと歩き出した。

 

 

 

 

有り合わせの素材で作られたかのような看板に「リヴィラ」と書かれた門へ近づくと、なぜか胸の奥がチリチリと燻った。

門のそばで慌ただしく動いている人たちを見て、フィンさんたちもなにかを感じとったのか真剣な表情になる。

 

「何かあったのかい? 町の雰囲気がいつもと違うけれど」

 

「あ? お前知らねえのかって、ロキファミリア!?」

 

ギョッとした男性は、若干顔を青くしながら慌てて、今この街で起こっていることを話始めた。

 

 

 

「殺人事件、ですか」

 

表情を曇らせながら、そうこぼすレフィーヤさんにフィンさんも顔を険しくしながら言う。

 

「取り敢えずはボールズの所まで行こうか。アイズたちとも合流しないといけないからね」

 

町のなかに入っていくフィンさんに続きながら、僕たちはアイズさんたちを探し始めた。

 

 

 

幸いにもアイズさんたちはすぐに見つかった。ボールズさんという人がいる宿屋の前にいたからだ。

しかしティオネさんが片目を失った男性(この人がボールズさんらしい)と揉めているようで、僕たちは慌てて駆け寄る。

 

「――てめえらのその腐った物引き千切ってブタに喰わせんぞ!!」

 

「まぁまぁ、落ち着いて!」

 

「ティ、ティオネさん?!」

 

物凄い形相で男性に食って掛かろうとするティオネさんを、ティオナさんが宥めようとする構図。

というかティオネさんの様子がいつもと全然違うんだけど。

フィンさんたちは見慣れた光景だったのか、二人――フィンさんはティオネさんを避けてる気がする――を無視してボールズさんに話しかける。

 

「やぁ、ボールズ。きな臭いことを聞いたんだけど、詳しく聞いても良いかな?」

 

勇者(ブレイバー)⁉ ちょうどよかった! コイツを止めてくれよ!? 怒蛇(ヨルムガンド)、悪かったからちょっと落ち着いてくれ!」

 

フィンさんが片手を上げ、静止の合図を送るとピタリと止まるティオネさん。さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返り、普段の様子に戻るティオネさんにティオナさんはげんなりとした様子で肩を下ろす。

ボールズさんは冷や汗を垂らしながらもどこか安堵した様子だった。

 

「それでボールズ、聞かせてくれるかな」

 

「お、おう。ついてこいや」

 

そう言って宿屋に入っていくボールズさんに僕たちは続いて入っていく。

案内されたのは宿の一室のようで、床には男性が無惨な姿で横になっていた。

まだ匂う血の匂いに、僕は眉を顰める。村で生活をしていたので血の匂いには慣れているが、人が殺されたことに対して僕の中で黒い感情が蠢く。

——と、僕の背後でレフィーヤさんが顔を背けた。

 

「フィンさん」

 

僕は、顔色が悪くなったレフィーヤさんの前に立って死体を見えないようにしてからフィンさんに声をかける。

フィンさんも僕の意図に気づいたようで、小声で「頼むよ」と言ってきた。

 

「レフィーヤさん、行きましょう」

 

僕はレフィーヤさんの肩をそっと触る……触ってしまう。

途端にレフィーヤさんの肩が跳ねた。青かった顔が一気に真っ赤になり驚愕に目を見開く。僕は一瞬の間をおいて自身が何をしたのかに気づいた。

 

レフィーヤさんの、エルフの、肩を、抱いた。抱いてしまった

……語弊が生まれた気がする。ってそうじゃなくて!!

 

「な、ななな!?」

 

「ご、ごめんなひゃい!!!」

 

僕が慌てて謝るのと、レフィーヤさんの平手が飛ぶのは同時だった。

 

 

 

 

「あ、あの、ごめんなさい」

 

宿屋の外へ出ると、尖った耳を垂らし、顔を真っ赤にしながらレフィーヤさんが頭を下げてきた。

僕はじんじんと響く右頬を抑えながら、歪に笑い返す。

 

「いへ、だいしょうぶでふ」

 

大きく腫れた頬の所為でうまくしゃべれない……。流石Lv3の力。魔法職でも馬鹿にできない。

僕は宿の近くにあった広場の石段に腰掛けてから、ポーチに入っている回復薬を取り出して少量口に含む。

 

ゆっくりと引いていく痛みに心の奥で安堵しながら、僕はもう一度レフィーヤさんに謝る。

 

「急に触ったのは僕ですし、レフィーヤさんが怒るのは当然ですよ」

 

「いや、別にいきなりでなければッッて!??!!」

 

エルフはそういうことに敏感だってリヴェリアさんにも教えてもらったのにね。

と、一人反省していると隣からボンッ、という音を立てて湯気を噴いているレフィーヤさん。

僕が慌てるとレフィーヤさんは、ブンブンと頭を振り、

 

「何でもないです!!」

 

という言葉と一緒に僕の左頬に平手が飛んできた......。

 

なんでですかぁ。

 

「ああ?! すいませんすいません!!」

 

正気に戻ったレフィーヤさんに謝られる。

僕はさっきと同じように回復薬を飲みながら痛みが引くのを待つのだった。

 

......エルフの女性って恐い。

 

そう思った僕は悪くないと思う。

まぁ、僕の知ってるエルフの人は皆いい人ばかりだから、怒らせるようなことをした僕が悪いんだけど。

 

 

そんなときだった。その『人』が視界に入ったのは――

行き交う人の中、深く被ったフードから包帯を垂らしているその人に。

 

「ッ......」

 

理性がその人を不気味と判断し、本能が過去最大の危険信号を発する。

 

僕は咄嗟に武器を取り出そうとした右手の動きを止めた。

魔力の動きを感じて何人かが僕を見る。大概の人は訝しげに見るだけでそのまま去っていった。

ただ、レフィーヤさんにも当然察知されて驚いたような表情で僕を見ている。

でも僕はその人が路地裏に入っていくまで身じろぎできなかった。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

僕の突然の様子に、どこか不安げなレフィーヤさんの顔を見て漸く体が動くようになる。

僕はスッと立ち上がるとレフィーヤさんの手無意識に掴んだ。

 

「へ?」

 

「フィンさんのところに戻りましょう!」

 

あの人のことを早くフィンさんに伝えないと。

僕は呆けるレフィーヤさんを引っ張って宿へと戻った。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。