英雄の欠片は何を成す   作:かとやん

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気づけば夏も終わる/(^o^)\

今回はかなり独特回です。お気をつけください



英雄の欠片と恐威

僕たちが宿屋に入ると、丁度フィンさんたちが降りてくるところだった。

 

「ふむ。ローブに包帯を巻いた男か」

 

「おいおい、白髪の坊主、この辺にゃそんな奴ゴロゴロしてるぜ?」

 

僕がさっきの人のことをみんなに話すと、フィンさんは思案気に顎に手を当て、ボールズさんは何を馬鹿なと一笑する。ティオナさんやティオネさんも大して気にしていない様子だった。

 

「分かった。これから街の住人を集めることになったし、ベルの言う男にも気を付けておこう」

 

「ベル、もし何かあればリヴェリアかティオネ。アイズの側にいるようにしてくれ。三人も頼んだよ」

 

「分かった」

 

「はい! 団長!!」

 

「……うん」

 

三人が頷く(一人は全力で)のを確認すると、フィンさんは外の広場へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「よ~し! お前ら、脱げぇーー!!!」

 

『うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

「誰があんたらなんかに見せるもんですか!!」

「引き千切るぞ!!」

 

「は、ははは」

 

リヴィラの中央にある広場じみたところに集められた冒険者たち。

最初は集まることに渋っていた彼等も、リヴィラへの出入りを制限すると言われては集まらないわけにはいかなかった。

レベル1・2ならおのずと、レベル3以上でも。大規模ギルドであっても、ダンジョン内で物資を調達できるこの街に入れなくなるのは死活問題になるからだ。

そうして渋々集められた冒険者たちは、この街のまとめ役であるボールズの次の言葉に真っ二つに割れた……男性と女性に。

 

ヒューマンやエルフは当たり前、その手のことに緩い(寛容)なアマゾネスであっても、訳も分からずいきなり脱げと言われれば殺気立つのは仕方のないことだ。

彼女らからの殺気を一身に受けているボールズであったが、その顔には笑みが残っていた————若干引きつっている気もするが。

 

「う、うるせー! この指示はロキファミリアの団長からの指示だ!! 文句あるやつは勇者(ブレイバー)に言いやがれ!!」

 

「こんなことになってしまってすまない。男性は僕とボールズに。女性はリヴェリアとレフィーヤのところに……」

 

フィンが言い終わるよりも前に集まる女冒険者(ショタコン)たち。その眼は野獣のごとく光り輝いており、さしもの第一級冒険者でも、語尾が尻すぼみになっていいく。

 

『フィンさま~~、私の全てを見てぇ♡』

 

あんの雌豚どもがァッ!!!!!!!!」

 

「ティ、ティオネさん落ち着いて!?」

 

「落ち着きなって!」

 

暴走するアマゾネス(恋に燃える女)をティオナとベルが何とか押しとどめるも、ベルは終始引き摺られていく。

ようやくティオネが止まるころにはベルの顔面は砂埃にまみれていた。

 

「べ、ベル大丈夫?」

 

「は、はいぃ」

 

顔面が擦り傷まみれでちょっとした放送事故になっているベルに、ティオナが自前の回復薬を取り出して頭へ振りかける。

 

「ありがとうございッ……!」

 

頭から煙を上げながらお礼を言いかけたベルが動きを止める。

目を大きく見開き、ピクリとも動かないベルに首をかしげるティオナだったが、ベルは別の人を見ていた……路地裏へ消える少女とローブの男を。

 

 

 

 

 

 

「あ、ちょっとベル!?」

 

僕はティオナさんの声を振り切って彼らが消えていった路地裏へ駆け込む。

路には迷わなかった。曲がるたびに謎の不快感と恐怖が増していったから。

そして僕は目にする————女の子が男に首を絞められているのを

 

「ッ放せ!!!」

 

全身の加速力を使い、槍を男目掛けて投擲する。

 

「! ……チッ」

 

男は槍に気がつくと、女の子を投げ捨てるようにして放し跳躍でそれを躱した。

僕は更に何本か武器と投射しながら投げ出された彼女の元へと走る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ンゲホッ!ゲホ! あ゛り゛がどっ!」

 

彼女は紫色の手跡がついた首元に手をやり、涙を溢れさせてえずいていた。

僕はポーチに入っている回復薬を取り出そうと手を下げる。しかし——

 

「随分と余裕だな」

 

「ッッ!!?」

 

気づいたときには肉薄されていた。ポーチに手をかけようとしていた僕は、碌な防御もできずに吹き飛ばされてしまう。

訳も分からぬうちに何枚もの壁を突き抜け、全身が引き裂けるほどの激痛に意識が何度も飛びかける。

 

「ゥッ……ゴフゥ」

 

喉奥からこみ上げてきたのは血の塊だった。どろりとした真っ黒なソレは瓦礫に落ちるとバチャリと音をたてる。

気絶することも許されない激痛に襲われながら僕は、冒険者になってから大怪我を負ってばかりだなと頭の片隅で思った。

 

「ほう、まだ息があったか。思ったよりも丈夫だな」

 

フードの男がそう言いながら僕の方へゆっくりと歩いてくる。

僕は必死にリヴェリアさんから貰ったエリクサーを取り出そうとするが、右腕はあらぬ方向へ折り曲がってピクリとも動かないでいた。

男の影が僕の頭へかかる。男は懐からナイフを取り出すと、それを大きく振りかぶって——

 

「させない」

 

暴風に吹き飛ばされた。

霞む視界の先、僕の前にはいつの間にかアイズさんが立っていた。

 

「これ、使って」

 

アイズさんは全身に風を纏った状態で、レイピアを構えながら僕にエリクサーを渡してくれた。

僕はそれを左手で受け取ると、ゆっくりと飲み干す。なんとも言えない痛みが内側からするが、耐えられないわけじゃない。僕が薬の痛みに耐えていると吹き飛ばされた男が瓦礫の中から出てきた。

 

 

フードが破れ……顔の皮が破れた状態で!

 

「次から次へと面倒な……だが、良いものを見つけた」

 

男はそう言ってフードを取ると自身の顔を剥ぎはじめる。その下からは真っ赤な髪と黄金色の瞳が現れた。

すらりとした体に、シンプルな軽装。腰には鈍い光を放つ長剣が一本あるだけだった。

そんな彼女は首を鳴らしながらアイズさんに問うた。

 

「お前、アリアだな?」

 

「ッ! その名をどこで!!?」

 

「さあな」

 

彼女の呟きにアイズさんの様子が激変した。

暴風を纏いながら突進し力任せに薙ぎ払う。しかし、その攻撃は女性の長剣に易々と防がれてしまう。

それでも剣戟を緩めることなくがむしゃらに切りつけるアイズさん。

その鬼気迫る様子はさっきまでとはまるで別人のようだった。そんなアイズさんを僕が何もできずに見ていると、背後から足音が聞えてきた。

 

「ベル! アイズさん!!」

 

「レフィーヤさん!」

 

杖を両手で握りしめながら走ってきたレフィーヤさんは息を切らしながら僕の所までやってくる。

 

「ベル、あの人は一体? それにアイズさんのあの様子は!」

 

アイズさんとあの女性を見てレフィーヤさんが困惑と驚きに目を見開く。

僕はレフィーヤさんにこれまでの事を簡単に話す。

するとレフィーヤさんは目を吊り上げて怒鳴り散らした。

 

「何をやってるんですかベルは!!? 一人で勝手に行動して!!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

杖を振りかざし地団駄を踏むようにして怒るレフィーヤさんに僕は反射的に謝る。

しばらく頬を膨らませて僕を睨みつけていたレフィーヤさんは、諦めたように溜息を吐くと僕に精神回復薬を押し付けてきた。

 

「まったくもう……それで、あなたはなんであの人に狙われていたんですか?」

 

レフィーヤさんが先ほど僕が助けた女の子に聞くと、彼女は何度か躊躇する素振りを見せたあと渋々といったふうにしゃべりだす。

 

「実は、依頼を受けて……それを、探してたみたいで。……報酬が、良かったから...」

 

「一体! な ん の! 依頼だったんですか!!」

 

怖!

 

「ひぃ!? こ、これだよ!!」

 

そう言って泣きながら彼女が取りだしたのは————水、しょ、ぅ   ?

 

 

 

 

 

「何ですか、これ」

 

それを見た時、アイズさんが戦っていることを一瞬忘れてしまった。

あまりにも不気味な胎児が浮かぶそれに、嫌悪感が沸いてくる私は一瞬受け取るのを躊躇したが、団長の元へ持っていくために意を決して手を伸ばし

 

ドサッ

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

「え?」

 

一瞬何が起こったか分からなかった。いや、数秒経った今でも理解できない。

水晶を見たベルが、いきなり蹲りながら顔を真っ青に染め、大粒の涙を零している。その尋常ならざる形相に私は慌ててベルに近づいて肩を揺すろうとする。

 

「べ『ミつけタァ』る…?!」

 

「うわぁ!!!??」

 

しかし、突如として不気味な声が響いた。声のした方を見ると、ベルが助けた少女の持っていた水晶が宙に浮いていた……怪しい光を放ちながら

 

『アリアァ。あ、アリ@¥*;%   **はぃ、ミツケタ』

 

狂ったような声が響くと、次に聞こえたのは酷く妖美な声が響く。

胎児の瞳がギョロギョロと周囲を見渡し、私たち——ベルを捉えるとカッと目を見開いて水晶が砕け散った。

 

『私のカケラ、ようやクミツけたァ嗚呼嗚呼嗚呼アアアアア!!!!!』

 

「ッ—―――!!」

 

ベル目掛けて飛び掛かってくるソレ。

私は咄嗟にベルを押し倒して回避すると、胎児のようなものはそのまま近くにいた食人花へと張り付いた。

 

でも、それに構っている余裕は私にはなかった。ベルを押し倒した瞬間、狂ったように響いてくる謎の声に私は呑み込まれかける。

 

憎い、辛い、救けて、殺して、憎い、死なせて 生きたい 金が欲しい女が欲しい美貌を力を知識を憎憎財を名誉を忠義を憎憎憎憎憎誇りを勝利を屈辱を殺せ壊せ憎憎憎憎呪え呪え呪い呪い呪い呪い呪呪憎憎呪呪呪呪憎呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪

 

「な、何なんですか一体!!??」

 

咄嗟にベルから手を離すと怨嗟の声も途切れる。私は詰まっていた息を吐き出すと同時に座り込んだ。

ベルには未ださっきの声が聞こえているのか頭を抱えたまま呻いている。

目を見開き、悲鳴のような嗚咽を漏らすベル。

 

「ッベル! しっかりしてください」

 

私はベルを避難させるために抱き上げるとレベル3のステイタスを最大限活かして湖の方まで逃れる。女性の方は数秒迷った後涙目で追いかけてきていたが今の私にはどうでもいいことだった。

私は頭の中に吹き荒れる呪詛を無視しながら、未だ荒い呼吸で泣き続けるベルを覆うように抱き着き、耳元で言い聞かせるように囁く。

 

「大丈夫。大丈夫ですから。私がいます」

 

背中を撫でながら、ゆっくりと呼吸を落ち着かせていく。

なんだか手のかかる弟みたい。ふとそんな考えが浮かんで、私は少し笑ってしまった。

 

「あぁ、ああぁ。  ぁぁ、ぁ。れ、れふぃーや、さん?」

 

「そうです。ゆっくりでいいので、呼吸してください」

 

背中を撫でながらベルへ言い聞かせると、ベルは焦点の合わない目で私を見る。

私はベルの頭を撫でながら、汗で張り付いた前髪を梳いていく。

 

「はぁ、はぁ。 ぼくは、さっきの」

 

「今は忘れてください」

 

「でも」

 

起き上がろうとするベルを抑えて頭を私の膝へ降ろさせる。段々と意識がはっきりしてきたのか、もう一度起き上がろうとするベルを押さえつけながら、自分でもびっくりするぐらい優しい声で言う。

 

「いいから、今はゆっくり、休んでください」

 

「……はい。ありがとぅ、ございます」

 

優しく微笑えむベルに、私も微笑みを浮かべるとベルはゆっくりと瞼を閉じていく。

安全に眠ったのを確認すると、もう少し撫でていたい衝動をぐっと抑えて隣で空気になっている女性に声をかけた。

 

「ベルの事、頼みます」

 

「え! ちょっとぉっ!??」

 

 

杖を握りしめながら、私は街の方へと走る。

さっきの声のこと、ベルのこと。気になる事は山ほどある。アイズさんの事も気がかりだ。

でも今は——

 

「ベルの安眠の邪魔はさせません!!」

 

可愛い(家族)の為に、張り切っちゃおう。

 

 




レフィーヤかあいい。

次回はアイズやフィンがメイン

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