英雄の欠片は何を成す   作:かとやん

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間のつなぎというか、落ちというか。なんかレフィーヤの罪悪感を取り除くために書いてたらこうなりました。


英雄の欠片と…

「なんじゃありゃあああああッ!!!!!!????」

 

「……何が起こっている」

 

ベルが放った槍の衝撃は、18階層にいる冒険者やダンジョンを管理する神にまで届いていた。

リヴィラの街を統括する冒険者は食人花そっちのけで度肝を抜かし、神はダンジョンの上げる悲鳴に幾年かぶりの冷や汗をかく。その叫びは5年前の災厄にも近いものであった。

 

また、道化の眷属たちは自身たちの家族の行った光景に目を剥いていた。

 

 

「リヴェリア、詠唱を途切れさせないでくれよ」

 

『み、三度の厳冬  終焉の訪れ』

 

「ベルすっご!」

 

「どうなってるのよ、あれ」

 

「い、いったい何の音ですか!?」

 

眼前で起きた光景に動揺したエルフを窘めながら、英雄と呼ばれる小人族は背筋を伝う感覚に冷や汗を垂らし、褐色の姉妹は驚愕を露わに。

そして山吹のエルフは叩き起こされた。

 

その中で、金色の髪を持つ少女は、何を思うのか。

 

「・・・・・・」

 

強く握りしめられた拳は渇望故か、震える瞳からは希望を幻視した喜びか、それは少女のみぞ知ることだった。

ただ、それでも件の少年は自分の家族に変わりないのだから――

 

少女は駆け出し、少年を救う。

 

 

 

 

 

アイズがベルを抱えて戻ってきた後、リヴィラの街へ向かいながら僕はベルの安否を確認する。

 

「ベル、無事かい?」

 

「はい! 精神回復薬も飲んだから大丈夫です!!」

 

ベルは笑顔で両拳をぐっと握ってみせた。しかし、その表情には疲労の色が隠しきれていなかった。それは誰が見ても明らかで、その虚勢は王女の反感を買ったようだった。

全身からうっすらと魔力を漏らすリヴェリアからそっと距離を取っておく。

 

「ベル、帰ったらフィンと一緒に説教をくれてやる」

 

「なんでですかぁあ!!!??」

 

それにフィンさんもですか!? と半泣き状態のベルに僕は苦笑いしか返せない。なぜなら自身もエルフのお怒りを受けることになったのだから。

と、そんなベルに声をかけるエルフがもう一人。

 

「……ベル」

 

「あ! レフィーヤさん目が覚めたんですね!!」

 

遠慮がちに声をかけるレフィーヤは酷く落ち込んでいる様子だ。

それも無理はない。彼女は責任感が人一倍強くて、あの時自分が倒しきれていればと今も悔いているんだろう。

 

「ごめんなさい」

 

「なんでレフィーヤさんが謝るんですか?」

 

案の定というべきかレフィーヤはベルに、僕たちに頭を下げてきた。

僕からすればレフィーヤは最善手を打ち十分な働きをした。でも彼女はそうは思っていないだろう。そして、その責任感からくる罪悪感は、僕たちの言葉で拭えるものじゃない。

 

ベルの言葉にレフィーヤは裾を握りしめる。

 

「私が、ちゃんとモンスターを倒していればッ」

 

「レフィーヤさん」

 

双眸から涙が溢れる寸前、ベルはレフィーヤの手を取った。

ベルは、優しく笑っていた。

 

あぁ、ベルは—―――

 

「レフィーヤさんがあそこまで傷をつけてくれたおかげで倒せたんです」

 

「でも」

 

「でも、僕も一人じゃ何にもできないから、だから」

 

レフィーヤの否定の言葉を遮って、少女の手を強く握りながら、少年は言った。

 

「一緒に強くなりましょう?」

 

相当の、お人好しみたいだ。

 

 

 

僕たちは先に歩いていく。

今の彼女に、あれ以上の言葉は無粋だった。

それに、背後から聞えてくる少女の嗚咽は、今の僕には純粋過ぎる。

 

「彼は、強いね……」

 

「あぁ、そうだな」

 

「どうゆこと?」

 

「あんたは気にしなくていいの」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

この日、確かに少年は一人の少女の心を救い、余多の冒険者を守った。

 

しかし一方で――――――――――底知れぬ闇もまた、育ててしまった。

 

 

 




レフィーヤ√が確定したので次回からタグを増やしておきます。

次回からは第3章「小人族の少女」編です

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