英雄の欠片は何を成す   作:かとやん

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別段悪い意味とかじゃなく、ベルの頑張りと天然による周囲(主にエルフ)への影響です。


英雄の欠片と爪痕

白髪の少年が眷属の仲間と18階層から帰還してはや一週間。

 

「9階層!!!??」

 

「ヒィッ!」

 

ギルドの受付、そこでいつものように白髪の少年から近況報告を聞いていたエルフの女性は彼から聞かされた到達階層に手元の資料を引き裂いてしまう。

しかしエルフの女性はそんなことが気にならないほどの怒りを少年へとぶつける。

 

「私はあれほど! 冒険者は冒険しないようにって言ったよねぇ!!!!!!!!!」

 

「ごごご、ごめんなさいい! でも僕あれからステイタスもだいぶ伸びたんです!魔力なんてAですよ!!」

 

「……は?」

 

A。彼はステイタスの一つがAになったと、そう言ったんだろうか。

 

そんなバカなとエルフの女性は少年の言葉を虚偽と一喝しようとするが目の前の少年が嘘を言うような性格にも見えない。

暫くの葛藤の後、エルフの女性は少年の手をひったくるようにして掴むとそのまま個室の相談室へと向かう。

 

「ベル君、ちょっといいかな」

 

「へ、あのエイナさん!?」

 

エルフの女性は少年の慌てようなど意に返さずに突き進む。

……同僚や他の冒険者の視線に気づかずに。

 

 

 

 

 

 

「うそぉ……ほんとにAになってる」

 

エイナさんに個室に連れてこられた僕は、半ば強制的に上着を脱がされ(一応は自分で脱いだ)ステイタスを見られている。ステイタスに掛けられたロックはギルドが管理している薬で解除された。

エイナさんはあり得ないといったような声を上げると、僕の背中に手を触れて食い入るようにステイタスを見ている。

 

僕はというとエイナさんの細い指がくすぐったくて悶えるのを必死に我慢しているところです。

 

 

「こんなに早く……でも嘘じゃないし……………ああ、もう!!」

 

エイナさんはソファーに座り直すと疲れたように頭を押さえながら言った。

 

「確かに、ステイタス的には問題ないけどベル君はまだ冒険者になって一月の新人なんだからね!! それと10階層から下に降りるのはパーティを組んでから! これは絶対だからね。わかった!?」

 

「は、はいいぃ!!!」

 

エイナさんの有無を言わせない目に、僕は泣きながら頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました。あれ、神様? どうかしたんですか?」

 

僕がホームに戻ると神様はリヴェリア様の目の前で突っ伏すようにして床に倒れていた。

僕の疑問にリヴェリアさんは眉間を抑えながら手を振る。

 

「気にするな。二日酔いだ」

 

「あぁ、いつものですね」

 

倒れた神様から「ちょ! ベルまで辛辣すぎへんかぁ!!?」という声が聞えたがスルーした。

 

四日連続で二日酔いになってたらきっと優しいアミッドさんでもこういう反応になると思いますよ? 神様

 

「それでベル。この駄神に何か用だったか」

 

「えっと、僕のアドバイザーのエイナさんからパーティを組むようにって言われて」

 

「ふ。エイナらしいな」

 

「そういう話やったらうちに任せときい!!  頭いたぁ

 

そう言って神様は青い顔で頭を押さえながらどこかへ行ってしまった。

リヴェリアさんは神様が出ていったあと、もう一度ため息を吐いて「薬を買ってくる」といって出て行ってしまう。

 

リヴェリアさん、そういう所が母親(おかあさん)って呼ばれる原因だと思いますよ

 

「じゃあ僕も訓練場に行こっと」

 

ダンジョンから戻ってきてから、僕はいろんな人にいろんな武器の使い方を教えてもらっている。これはフィンさんに言われたことでもあるし僕自身、もっと強くなりたいからだ。

今日は誰から教えてもらおうか。そんなことを考えながら僕は訓練場へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

「レフィーヤたん。おるか~?」

 

うちが扉をノックすると中から「はーい。今行くので待っててください」と声が聞えた。

中を覗いてみようかとも思ったがママが恐いからやめておく。

 

しばらくしてキィっと音を立てて扉が開く。そこからちょろっと顔を出したレフィーヤは周囲をせわしなく確認した後ゆっくりと出て来た。

 

……やばい。ごっつう可愛い

 

「どないしたんや、ベルはおらへんで?」

 

うちが「ベル」といった瞬間、レフィーヤが跳ねた。物理的に

 

耳を限界まで立て、顔は真っ赤に染まる。

そのままレフィーヤは手で顔を仰ぎながら早口に言い訳を始める。

 

「べべべっべつにベルがいるかどうかなんて関係ないですよ?! た、ただそう! 虫! 虫がいるかなって思っただけで」

 

「あ、ベル」

 

バタンッ!!!

 

なんやこれ、ちょーおもろいやん!!

 

「冗談やて、レフィーヤ。ベルはおらんて」

 

数秒後、ドアがゆっくりと開き、隙間からレフィーヤが顔を覗かせながら

 

「……天界に送還しますよ?」

 

「ヒッ!!!」

 

と呟いた。

 

あかん。目が本気(マジ)や!

 

二日酔いなんか吹き飛んだうちは、そのままジャンピング土下座を繰り出して謝る。

 

「ほんますいません!」

 

「……次はないです。それで、いったい何に用ですか」

 

隙間から覗く目がとても冷たい。じゃが丸くん取り上げたアイズたん並みに冷たい。

うちは土下座のまま本題を切り出すことにした。あの目を見てなんか話せへんで。

 

「実はな? ベルと」

 

カッッ!!

 

首元にナイフが刺さりおったーー!!!

 

顔を上げると二本目を投擲しようとしているレフィーヤと目が合う。うちは反射的に飛び退きながら壁際まで逃げた。

 

「ままままってくれーなレフィーヤ!! 話は最後まで聞いてんか?!」

 

「……」

 

「実はベルとパーティを組んでほしいんや! ベルも成長できるしレフィーヤも誰かとマンツーマンで組んだことないでちょうどええやろ?! な? な? な?!」

 

うちが第二射がこないことを祈りながら用件を伝えるとさっきまで漏れ出ていた殺気が消えていた。

 

恐るおそる正面を向いてみても扉は半開きでレフィーヤの姿は見えない。

いや、レフィーヤの部屋のベッドが盛り上がっとる。

うちはそっと扉に近づいて中を覗くとレフィーヤは全身をシーツに包んでごそごそと動いていた。

 

「む、無理です! だ、だって……ベルの顔が見れません!!」

 

「うわぁ」

 

うわぁ……むっちゃ弄りたいねんけど、弄ったら殺されてまう。

 

「と、取り敢えずは考えるだけでええから、頼むで?」

 

触らぬ神に祟りなしというか、触ったら殺しに来る乙女やなぁ。

そっと扉を締めながら、うちはそんなことを考えていた。

 

 

自室に戻ってから、レフィーヤの部屋をもっと見とけばよかったと後悔したんは内緒や

 

 

 




悶えるレフィーヤは可愛い。

次回は訓練の様子を見せた後ステイタスの更新、そしていよいよ裏路地での事件へ

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