英雄の欠片は何を成す   作:かとやん

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はい。後半です。

いろいろキャラ崩壊とかあります、はい。


英雄の欠片とお酒 下

「ベ~ルさん♪」

 

「うぅ、シルしゃん?」

 

くッ、ベルさんそんな弱々しい姿を見せないでください! 思わず襲いたくなってしまいます。

でもだめよシル、ここは我慢して愛でるだけにしないと。

 

「はい。リヴェリアさんからお酒を取り返してきましたよ」

 

「なッ??!!!!」

 

「わぁあ!!」

 

あぁ、そんな笑顔で……

 

私は手に持ったジョッキをベルさんへ手渡そうとした。でも、あとちょっとのところで横からスラリとした手が伸びて掴まれてしまう。

 

「シル、それ以上はいけません」

 

私の親友であるエルフ(生真面目)が若干眉を寄せながら私を止めてきた。

 

「リュー」

 

「お酒の弱いクラネルさんにそれ以上飲ませるのは危険だ」

 

真っ向から正論でこられたら反論が難しいじゃない。

 

そう思った私だったがここに第三者……というか当事者から思わぬ攻撃が始まった。

 

「りゅーしゃん。だめなんですか?」

 

「クラネルさん……そんな顔をしないでほしい。これはあなたのためです」

 

あの滅多に表情を変えないリューが、ベルさんの涙目を前に、眉を下げ心底困ったような表情をした。

リューの決死の説得のおかげか、若干ふてれくされながらも承諾するベルさんを前に、リューさんは疾風の勢いでお酒を戻していく。ゆっくりやっていたらまたベルさんが駄々をこねるかもしれないからだろう。

そんな風に高速で動き回るリューを涙目——というか泣いてる——ベルが見つめているとリューがお酒を戻しきり、ベルの元へと帰ってくる。

と、ベルが突然リューに抱き着いた。

 

「りゅーしゃん」

 

「ッ……?!」

 

他の誰かがやれば一瞬で叩き潰しそうな行動を前にしてもリューは動かない。いや、動けない。

ベルさんを払い落さなかった自分自身に驚いて未だ状況がつかめていないリューに対して、ベルさんはリューの細い腰に手を回しお腹辺りにぐりぐりと頭を擦り付けている。

 

……羨ましッッッんん! 羨ましすぎです!

 

「ク、クラネルさッこ、こういうのは……困ります

 

状況を段々と理解してきたリューが耳まで真っ赤にしながら首を振ってもベルさんは止めません。

 

「ちょ、ちょっとリュー!? 抜け駆けはだめよ!!」

 

「そうにゃ! その白髪頭のお尻はミャーのものにゃ!!」

 

「クロエは黙ってて!」

 

「シル……わ、私はどうすれば」

 

目をぐるぐると廻しながら私に助けを求めるリューだがその右手はしっかりとベルさんの頭に乗せられている。

思ってもみない伏兵に私が地団駄を踏んでいると山吹色の風がベルさんのところに舞い降りた。

 

「ちょ、ちょっとベル! いい加減にしないとだめですよ」

 

そう言ってウィリディスさんがリューからベルさんを引きはがそうとする。

流石のベルさんもランクが上の冒険者と云う事もあってすぐに引きはがされていた。

ウィリディスさんはベルさんの首根っこを掴んだまま、引き摺っていく……ウィリディスさんの頬が若干膨れているのは気のせいでしょうか?

 

ずるずると引き摺られていくベルさんは現状をあまり理解できていないのか「えへへぇ」と笑っていた。そうこうして先ほどベルさんが座っていた位置まで戻されたベルさんは

 

「りゅーしゃんって、いいにおいがしますね~。れふぃーやしゃんみたいれふ」

 

盛大に爆弾を投げつけた。

 

「「なッッ!!?!?」」

 

ボンッ  と音を立てて固まるエルフ二人。ベルさんはウィリディスさんの手からするりの抜けるとウィリディスさんの頬をつつく。しばらくしてにへらっと表情を崩すとブレた瞳が私の方を見た。

言動がさっきよりも不安定になってきたベルさんが一歩一歩近づいてくるたびに、先ほどとは違った雰囲気を感じた私はゆっくりと一歩後ずさる。

 

「しーるしゃん」

 

ベルさんは私の前に止まってニコニコにへらっと笑うと、

 

「おねーしゃんってよんでいいですか?」

 

と言った。

…………刺さった。今、私の中の何かに、手遅れなほど深く刺さった。

私は鼻の奥から何かが垂れてくるのを感じながら意識を手放した。

 

 

 

 

赤い雫を垂らしながら撃沈したウェイトレスを見て、ロキファミリアの団長のフィンは暫くは出禁かな。などと半ば思考を放棄していた。

軽く見渡せばベルの言動によって主に女性が気絶し、店内は混沌に満ちている。ベルにはお酒を飲むと発動するような魅了スキルでもあるんじゃないかと疑うレベルだ。まぁ、それはスキルなどではなく天然のものだが。

ちなみに、当の本人は自分の席に戻るといつの間にか手にしたお酒をクピクピと飲み、しばらくすると満足したのか満足そうな寝顔で寝ていた。

 

その後、事件の首謀者は店主に物理的な説教を食らい眷属からは一週間の禁酒が言い渡され、ベルへの飲酒は少女と同様禁止されることになった。

が、今後も隠れて誰かしらがお酒を飲ませることになるのは、また別のお話。

 

 

 




次回は真面目にストーリーが進みます。

次回は小人族の少女との再会です。


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