そもこれシリアスか?
もうシリアスという言葉がゲシュタルト崩壊しそう。
10階層。霧の立ち込める草原のような空間で私は声を大にして叫んだ。
「ベル! 前に出すぎです。サポーターや後衛の事もちゃんと考えてください!」
「ッすいません!」
私は突出しすぎたベルを叱咤しながらリリルカさんを守る様に立ち、杖で迫りくるインプを吹き飛ばす。
慌てて元の定位置に戻るベルを見ながら、私は苦い顔を隠せずにいた。
今のような叱咤がすでに4回は起きている。初めてパーティを組んだのだから仕方がないし一緒に潜るにつれ連携も整ってくると思う。しかし、ベルの動きにはどこか違和感があった。
どことなくベートさんに近いものがあるのだ。いや、ベルとベートさんでは似ても似つかないが。
仲間を信じていないというか、仲間を頼りにしていないというか。
決してベルやベートさんが仲間に頼らないと言っているわけじゃない。
ベートさんだって遠征の時や
でも、今のベルの戦闘はすべてを自分が請け負っているようにも見えた。おそらくそれは、ベルが私たちを守ろうという心からくるものだとは思う。
それでも、ちらつくのだ。遠征の時のように役立たずだった私の後ろ姿が。まるで守るべき、守られるべきものだと言われている気がして。
「レフィーヤさん、すいません。大丈夫でしたか?」
「ッ……」
「お、お二人ともお強いですね!」
インプの群れを倒し終わったベルはそんなことを私に言ってきた。私は思わず杖をきつく握りしめる。
リリルカさんは私が杖を握りしめたことに気がついたのか、慌てて話を逸らそうとするが私は構わずにベルを睨みつける。
「えっと、レフィーヤさん?」
「……どうして」
「え?」
「どうしてベルは、私を頼ってくれないんですか? 私は守るだけの存在なんですか?」
睨んでいた瞳に熱がこもる。
私自身、どうしてこんなに感情的になるのか分からなかった。
「私だって戦えます。ベルよりレベルだって高いし、ベルの魔法の先生です」
「……」
「どうして黙ってるんですかッ! 私、わたし」
「うれしかったんです。ベルにすごいって言われたとき」
思い出すのはベルが私に魔法を教えてほしいと頼んできたとき。あの時、ベルのまっすぐな瞳が私を救ってくれた。
ごく普通の言葉だったけれど、半ば諦めていた心に火をつけたのは間違いなくベルの言葉だ。
「だから、18階層でもリヴェリア様に負けないぐらいの魔法が撃てたと思います」
「なのにっ」
ぽたぽたと零れる涙に、ベルは黙って私を見ていてくれる。
私は、ぽつりとつぶやいた。
「悔しいんです」
瞬くような速さで強くなっていくベルに追いつけないのが悔しかった。
苦しんでいるベルを救えなかったのが悔しかった。
守られるだけの存在だと、なによりも
私がスカートを握りしめ、俯きながら嗚咽を堪えているとベルの優しい声が響く。
「僕は、大切な家族を失いました」
私は顔を上げた。ベルは変わらず私も見つめている。
それは、今まで聞いたことがなかったベルの過去だった。
「あの人の手は優しくて、あの人の背中は何よりも大きかった」
自分の手を見つめながら笑うベルは酷く寂しそうだった。
「ある人は僕の夢を笑ったけれど、それでも僕の夢に賭けてくれた」
胸元にある鍵のようなものを触りながら可笑しそうに笑うベル。
「そんな人たちに笑われないように、誇れるように、頑張るって決めたんです」
もう一度私を見つめるベルの瞳には、ゆるぎない決意が輝いていた。
「皆を守る英雄に、僕はなるんです」
あぁ、あの時と同じ。まっすぐな瞳。
私は握りしめていた手から力を抜くと涙を払う。
「あの、レフィーヤさん」
先程と打って変わっておどおどとした調子のベルに私は指を突き付けながら宣言する。
「だったら私はベルを守る英雄になります!」
「ええ!?」
「勝手に私を守ったんですから私だって勝手にベルを守ります。ベルも守られる側の気持ちを知ればいいんです」
私の言い分に苦笑いを溢すベルに満足した私は、
「だからベル。一緒に強くなりましょう?」
そう言って手を差し出した。
一瞬キョトンとしたベルは満面の笑みで私の手を握り返した。
「はい!!」
「夫婦喧嘩は終わりましたか?」
「ふっ!!??」
「な!? 何を言ってるんですか!! わ、わたしがべべべべベルとなんてッ!?」
リリルカさんの事、すっかり忘れていました。
ま、まだまだあげるぜぃ
次回は換金を終えて+1週間をダイジェスト的なやつ……かな?