今回は殆どリリの視点です
「それではベル様のその槍も魔法によって生み出したものなのですか?」
「うん。本当はもっといろんな武器を試したいんだけど何だか癖で、まず槍を出しちゃうようになったんだ」
僕はリリルカさんの疑問に肯定いながら槍を霧散させる。此処はダンジョンの1階、既にダンジョンの出入り口が見えてきたので問題ないだろう。
「……そうですか。……残念です」
「え? 何か言ったリリルカさん?」
「いえ、それよりもリリの事はリリと呼んでください。それとさん付けも不要です」
「でも」
「でももへちまもございません!」
へちま?
「ま、まぁリリル……リリがそう望んでるなら」
「えっと、私はリリさんと呼んでもいいですか? 呼び捨てというのがどうにも慣れなくて」
「はい。構いませんよ」
僕とレフィーヤさんは終始リリに話題を回してもらいながらダンジョンから帰った。
『17万ヴァリス!!?』
ベル様とリリの声がホールに響き渡りました。慌ててリリたちは口を抑えますが顔がにやけるのが止まりません。
ウィリディスさんは流石に平然としていてどこか微笑ましいものを見るような雰囲気になっていました。
「すごいです! これもベル様とレフィーヤ様のおかげですね!!」
私がいつものように冒険者様を持ち上げるとベル様とウィリディス様は予想外の事を言ってきました。
「いえ、リリさんが効率よく魔石を拾ってくれたおかげですよ」
「そうだよ! リリのおかげでこんなに稼げたんだ!」
一瞬、何を言っているのか理解できませんでした。
リリのおかげ? 何のことでしょうか。……ああ、さては私を持ち上げて気分を良くして報酬は無しという事でしょう。
私は崩れ落ちそうになる仮面をかぶり直しなるべく角が立たないように今日の分け前を要求してみます。まぁ殴り飛ばされて終わりでしょうけど。
「え、えっとですね。それで今日の分け前の方を」
「ああごめんね。 えっと、はい!」
そうしてベル様は3つに分けた袋の内一番
「え?」
わ、渡す相手を間違えていませんか?
そう思っているとベル様がしまったというような顔をされました。やはり渡し間違えでしょう。
「レフィーヤさん。今日はリリに迷惑かけちゃったから大目に渡そうと思ったんですけど、だめですか?」
ナニヲイッテイルンデスカ?
「まったくベルは」
そ、そうですよね! ベル様の独断で
「それじゃあベルが一番少ないじゃないですか。私が一番少ないのでいいですよ」
は?
「は?」
「いえ、今日は僕が迷惑をかけたんです。それにレフィーヤさんはわざわざ僕に合わせてもらってるんですから」
私は慌てて二人に声をかけます。
「い、良いんですか私がこんなに貰って!?」
「うん。さっきも言ったけど僕だけじゃこんなに稼げなかったから。だから」
ベル様は私にお金の入った袋を手渡しながら、
「明日からもよろしくね!」
と言って笑った。
その笑顔に、私は何も言い返せずに頷くことしかできなかった。
それから一週間、私はベル様とウィリディス様と一緒にダンジョンに潜りました。
潜り始めて数日で、ベル様は大変なバ……お人好しであることが分かりました。
そしてウィリディス様も換金の際や分け前の分配についてはベル様に一任しているようで少々ちょろまかしてもバレません。
最初はベル様から金目のものを巻き上げるつもりで近づきましたがこれは飛んだ誤算。既に数十万ヴァリスは稼げています。
そして今日も今日とてダンジョン10階層。
初日のベル様の連携は酷い物でしたが最近は随分とウィリディス様との息もあってきました。
ベル様が前衛としてモンスターの注意を引きながら、後衛に流れそうなモンスターや危険度の高いモンスターを積極的に倒します。そしてその間にウィリディス様が魔法を詠唱し、タイミングを見計らってベル様の正面へ魔法を叩き込む……これが最近では板になってきました。
特にここ数日はベル様の動きが格段に良くなり、ウィルディス様が詠唱している魔法のタイミングを見て、瞬時に後退したりと熟練の冒険者のような動きを見せたりもしています。
ただ、少しひやりとするのはベル様が槍以外の武器を使い始めた時です。
素人のリリから見ても槍捌きは中々のもので、一本の槍で複数体のモンスターを相手取れるほどです。
なのにベル様はたまにいきなり武器を捨て、全く別の武器を取り出します。
片手剣を持ったと思ったら次の瞬間には大剣、なんてこともありました。
モンスターとの距離感や状況に合わせて、武器をとっかえひっかえするなんて正気の沙汰とは思えません。
それでもうまくいっているということは、それがベル様にあっているという事でしょうか?
……まぁ、毎回ひやひやさせられるこちらの身にもなってほしいものです。
「まったく、ベル様のような戦い方を見せられたらこちらの命が幾つあっても足りません」
「あはは、ごめんね」
「そう言っても聞かないので、私は諦めましたけどね」
ウィリディス様、できれば諦めないでほしかったです。私のためにも。
私は換金所前の椅子に座っているウィリディス様にジト目を送りながら、そんなことを私は思いました。
「リリさんは、私たちと潜るのにも慣れましたか?」
「え? ええ、まぁ」
いきなりのウィリディス様からの質問に、私は曖昧な返答しか返せませんでした。
「最初はリリさんも暗い顔をしていたんですけど、最近は笑えているようなので良かったです」
笑う? 私が?
何を言っているんだろうと、言い返したかった。
私は作り笑顔を浮かべながらウィリディス様の方を見る。
「私は別に——」
「ただいま戻りました。今日は19万ヴァリスですよ! 新記録です!」
私の言葉はベル様にかき消され、ウィリディス様に届くことはありませんでした。
「ほーん。犬人の女の子なぁ」
「はい。ベルが連れてきたんですけど、ちょっと様子がおかしくて」
ロキファミリアのホームの一室。ファミリアの主神であるロキは子供からの相談に糸目を更に細める形で反応を示す。
「そん子のファミリアは?」
「ソーマファミリアだそうです」
その言葉に、ロキは苦虫を噛み潰したような表情になった。
「ソーマかぁ……ソーマかあ」
その神に思う所のあるロキは首をがくりと倒す。一方のレフィーヤは訝し気に眉を顰めるだけだ。
「ソーマ様の眷属には何かあるんですか?」
「んー。ちょーっとな?」
「……はぁ。ベルに何もなければいいんですけど」
「ふーん。ベルになぁ」
「な!!?!? し、失礼しますッ!!!!」
ニヤニヤしながらこちらを見つめてくる主神にレフィーヤは顔を真っ赤に染めながら退散する。
その後ろ姿を見つめながら、主神は渦中の少年を思い浮かべるのだった。
次回、英雄の欠片と本