英雄の欠片は何を成す   作:かとやん

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大分はっちゃけたぜ☆

そして収まりきらんかった


英雄の欠片と本

ダンジョンからの帰り道、リリから明日の探索には来られないと言われた僕は仕方がないと言ったふうに眉を下げた。

 

「そっか。それじゃあリリもなんだ」

 

「も? ウィリディス様も明日は来られないんですか?」

 

リリがこてんと首をかしげる。その様子にレフィーヤさんは苦笑すると申し訳なさそうに話した。

 

「はい。明日は杖の整備にいかないと行けないんです」

 

「そうですか。なら明日はベル様も一日お休みになられたらどうでしょうか」

 

「……うん。そうだね。久しぶりに読書でもしようかな」

 

そんな会話を僕たちはしながら、帰路についた。

 

 

 

 

 

翌朝、いつもと同じように目が覚めてしまった僕は軽いトレーニングの後、街へと繰り出していた。

 

「オラリオにきて大分経つのに、本屋の一つも知らなかったな」

 

そう呟きながら僕は大通りを歩く。

オラリオについて神様の眷属になってからは街の散策なんてしてこなかった僕は、これを気に色々な場所を巡ろうと足を動かした——————はずだったんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かりましたベルさん♪」

 

「なんで僕がジャガイモの皮むきを!?」

 

あれから街を探索していた僕は、豊穣の女主人の前を通り過ぎようとしたときに困り顔のシルさんと鉢合わせてしまった。

僕を見つけて喜色満面で近づいてくるシルさんに、嫌な予感を感じた僕は逃亡しようとして失敗。厨房の裏手でジャガイモの皮むきをさせられていた。

シルさんはこの前の僕たちが宴で来たとき以降、こうしてジャガイモの皮むきをさせられているらしい。

 

この前の宴で何かあったのかな?

 

涙目で僕を見つめてくるシルさんを突き放すこともできずに、僕が仕方なしにジャガイモの皮むきを進めていると、シルさんも僕の隣に腰を下ろして同じように皮むきを始めた。

 

「あの、ありがとうございます。手伝ってもらっちゃって」

 

「あはは、気にしないでください」

 

僕がそう言って笑うとシルさんもほんのりと頬を染めながらはにかむ。

その顔が余りにも可愛くて、一気に顔が赤くなるのが分かる。僕はパタパタと仰ぎながら話題を逸らそうと必死になった。

 

「ええと、そうだ! シルさん。この辺りに本屋さんってありませんか?」

 

「本屋さんですか?」

 

キョトンとするシルさんに僕は、非番なので久しぶりに読書がしたいと伝えると、両手を合わせて花が咲いたように笑った。

 

「それならいいものがあります! ちょっと待っていてくださいね?」

 

そう言って立ち上がったシルさんはパタパタとホールの方へと駆けていくと、しばらくして両手で抱えるほどの分厚い本を持ってきた。

 

「これ、お客さんが忘れていったものなんです。よかったらどうぞ」

 

「え? 悪いですよそんな」

 

「読んですぐ返してもらえれば大丈夫ですから、ね?」

 

本を盾にこちらを覗き込むようにして上目使いをするシルさんに、僕は頭を掻きながら敵わないなと零す。

 

「すぐにお返しします」

 

「はい。お待ちしています」 

 

それからジャガイモを1かご剥き終えた僕は、シルさんにお礼を言ってホームに戻った。

 

 

 

 

 

ホームに戻ってきた僕は自室に戻ると机のランプに火をつける。オレンジ色の光が部屋を照らし、ベッドに置いた本を明るく照らし出す。

僕はベッドに腰かけるとシルさんから預かった本を手に取った。

 

「えっと、『ゴブリンにもわかる古代魔法』?」

 

はたしてゴブリンにも文字が読めるのだろうか、という疑問は置いておいて、僕はページをめくっていった。

 

 

 

 

『じゃあ、始めようか』

 

真っ白な空間で、何処からともなく聞こえてくる声に、僕は英雄王さんと対話する空間みたいだなと思った。

 

『僕にとっての魔法って何?』

 

御伽噺に出て来るような、不思議なもの。

窮地を脱する一発逆転の手。

 

『僕にとって魔法って?』

 

どんな強敵でも、どれだけ数で負けていても、家族を守るため(・・・・・・)の絶対の力。

どんな時でも使っていいわけじゃない。決して譲れないからこそ輝く光。

 

 

『欲張りだなぁ……でもそれが————』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう。これがこの世界の魔導書か? なんとも矮小な」

 

真っ白な空間に響く高飛車な声に、僕は思わず眉を捻り上げた。

 

…………んんん?

 

「ん? ハハハハハ!! なんだその顔は! 我を笑わせようとしたならば大いに成功したぞ?」

 

僕は「どれ、褒美は何がいい?」などと言いながら笑っている英雄王さんを二度見してから目を見開いた。

 

「なんでここにいるんですか!?」

 

「俺の玩具に手を出そうとする神風情がいたのでな」

 

が、玩具……?

 

苛立ちげに顔を歪めた英雄王さんだったが、次の瞬間には髪をかき上げて笑っていた。

 

「だが、それを赦すのも王としての度量よな」

 

度量……なのかなぁ?

 

「何か言ったかベル?」

 

なんでもありません!!

 

「ふん。まあよい」

 

英雄王さんからの流し目に冷や汗を垂らしていると意識がぼんやりとしてきた。

 

「む? もうそんな時間か」

 

僕の様子を見た英雄王さんは露骨に眉を顰めると「やはりこの程度の本では長時間の会話は無理か」と呟いた。

 

どうかしたのだろうか?

 

僕がそんなことを思っている間にも意識は遠のいていき、辺りの景色も見えなくなってくる。

英雄王さんには僕の意識がどういう状況にあるのかわかるようで苦々しい表情になると、

 

「許せとは言わん」

 

と呟いた。

 

どういう意味なのか聞こうとしても、既に僕の意識はそこになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル、ベル。何時まで寝ている」

 

「ぅん……リヴェリアさん?」

 

いつのまにか寝てしまっていたのか、僕は本を抱き枕にして眠っていた。

僕が目元をこすりながら体を起こすと、リヴェリアさんは苦笑しながら僕を小突いてきた。

 

「既に夕飯の時間だ。いったい何を読んでいたんだ?」

 

「ふぁああ。えっと、シルさんから「なぁっ!!!!!??」どどど、どうしたんですか!?」

 

リヴェリアさんのいきなりの叫び声に僕は飛び退きながらそちらを見る。そのリヴェリアさんはというと、僕が読んでいた本を掴みながら目を有らん限りに見開いていた。

 

「べ、ベル。お前これをどこから持ってきた?」

 

「え、えっと......シルさんに」

 

借りました、と言いきる前にリヴェリアさんに腕を捕まれ、引きずられるようにしてつれていかれてしまう。

 

突然の事態に、僕はなにか不味いことをやってしまったのでは、と顔から血の気が引いていった。

 

 

 

 

 

 

「ロキ!!!」

 

バァン!! という音と共にリヴェリアが食堂へと入ってくる。リヴェリアにしては珍しく切羽詰まった顔を隠そうともしないことに、僕は思わず溜め息をついていた。

 

先程から親指が疼くのはリヴェリアに連れてこられた(ベル)が原因かな......。

 

彼が入団してからこういうことには本当に事欠かないね、などと僕が思っている間にも事は進み、リヴェリアはロキの元まで行くと一言、

 

「ベルが魔導書(グリモア)を読んだ」

 

と呟いた。

食堂の空気が凍りつき、団員たち――特に上級冒険者に成ればなるほど――が一斉にベルを凝視する。そして一瞬の静寂のあと絶叫がホームに響き渡った。

 

『はああああ!!!??』

 

「ひぃ!!? ごごご、ごめんなさいぃ!!」

 

「ベル! 一体どこでそんなもの拾ってきたんですか!!」

 

「ティオネー。グリモアってなんだっけ?」

 

「......あんたねぇ」

 

 

本当に、ほんとーに、彼がいると問題が次から次へと......あぁ、今度ロキに胃薬を分けてもらおうかな。

 

他の団員たちも騒然としているなか、天を仰ぎ続けているロキに、リヴェリアの諦めと疲労の混じった声が投げ掛けられた。

 

「ロキ、すまないが今すぐにベルのステイタスを更新してくれ」

 

「......ベルはほんとにおもろいなぁ」

 

「現実から目を背けるな」

 

リヴェリアは空いている手でロキを掴むと、ベルと同じように引きずっていく。

 

そうしてリヴェリアが食堂の入り口から出る寸前、僕の方に視線を飛ばす。その目には「お前も来い」と言いたいのがありありと伝わってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行きたくないなぁ。

 

僕はロキと同じように天を見上げ、深い溜め息を溢すのだった。

 

親指の疼きは収まらない。




次回、ベルのステイタス公開!

なんやかんやあってしばらくステイタスを出せていなかったので(話数で見るとそうでもないか?)公開。

レフィーヤたちとパーティを組んでからの成長具合やいかに


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