今回は長めです。
「……なんですか。この大所帯は」
「えっと、ごめんね?」
頬を引きつらせピクピクと痙攣するリリに、僕は苦笑交じりの謝罪しかできなかった。
なぜリリがこんなふうになっているかというと……はい。僕の後ろにロキファミリアの幹部が勢ぞろいしているからです。
僕の後ろにはパーティメンバーのレフィーヤさん以外にも、魔法の確認にとフィンさんにリヴェリアさん。
面白そうだからとティオナさんとティオネさんにガレスさん。
興味があるとアイズさん。そしてなんとベートさんまでもが付き添いとしてついてきていた。
皆さん暇なんですか?
「ケッ。俺はこんな雑魚に用はねぇよ。ただ行先が一緒だってだけだ」
「そんなこと言ってほんとは興味ある癖に」
「ア゛ァ゛!? なんだとバカゾネスが!!」
「なによ!!」
「はぁ。いい加減にせんか」
「リリさん。何の連絡もなしにすいません」
「い、いえ、リリは構いませんが」
未だ喧嘩しているティオナさんたちを横目で見ながら、そういうリリに僕とレフィーヤさんは苦笑しか溢せなかった。
と、フィンさんが徐に前に出るとにっこりと笑いながらリリに手をさしだす。
「やぁ。僕はフィンディムナだ。いつもベルたちが世話になっているね」
「……いえ。こちらこそ」
笑顔のフィンさんにリリも笑顔で手を握る。でもその笑顔は何処か硬かった。
「これからも、ベルをよろしく頼むよ?」
「はい。勿論です。リリはサポーターですから」
二人が笑顔で手を握り合っていると僕の背後からものすごい殺気が放たれた。
僕が慌てて振り返ると、そこには笑顔で全身から黒いオーラを吹き出すティオネさんが……
僕はそっと道を開ける。
おじいちゃん。笑顔の女性って怖いね。
「団長。行きましょうか?」
「……そうだね。わかったから、ティオネはその手を離してくれないかな?」
フィンさんがそう言っても、ティオネさんはフィンさんの肩に食い込ませた手を離すことはなかった。
「どこで魔法を試すんですか?」
ダンジョンに入り、前回と同じように会うモンスター会うモンスタ―が、ティオナさんたちに瞬殺されるのを見ながら僕は隣を歩いているリヴェリアさんに尋ねた。
僕がそう尋ねるとリヴェリアさんは一度思案気に目を瞑る。
「そうだな。10階層が妥当だろう。あそこならそこそこの広さがあるし正規ルートから逸れれば他の冒険者の迷惑になる事もないだろう」
「分かりました」
まぁ僕の出る幕なんてないんだけどね。
リリも案の定ティオナさんたちの無双っぷりに終始目を瞬かせていた。
そうこうしているうちに僕たちは10階層まで辿り着き、正規ルートから大分離れたところまでやってきていた。
「さて、それじゃあベル。あのあたりに向けて魔法を放ってみようか」
フィンさんはそう言って遠くの方に見える枯れ木を指さした。
「普段から魔法を使っているので問題はないと思うが、魔力制御には気を付けろよ?」
「はい。
「そうだ。……レフィーヤも最初は爆発させていたな」
何処かからかうようなリヴェリアさんの視線に、目を逸らすレフィーヤさん。
「うっ……最近はしませんよ?」
何処か気まずそうなレフィーヤさんの雰囲気に、緊張のほぐれた僕は詠唱の準備に入る。
狙いはあの木一本だけ。
他の人たちが一歩下がった位置で事の行方を見守っているなか、僕は一度深呼吸する。
「ふぅ……」
初めての詠唱に心をドキドキさせながら、僕は詠唱を始めた。
『顕現せよ。今は遥か過去の偉業』
最初の一説を唱えた瞬間。僕の中で今までに感じたことのない量の魔力が暴れまわる。
身体を突き破って出ようとする魔力を、必死に抑え込みながら詠唱を続けた。
『時の水面に沈めども願いは劣らず、腐敗せず。民を守るは我が勤め。友を救うは我が願い』
あれく荒れ狂う魔力を制御しながら詠唱していると、僕の身体から光の粒が流れ始め僕の目の前で凝縮しはじめた。
突然のことに驚きながら、なんとか詠唱を続けるとそれはだんだんと形を成し、石板のような、本のような形になった。
『顕現せよ、世界を統べし王の残滓よ』
石板は僕の手の中に納まり、光の流出は止まったようだ。しかしまだ詠唱は終わらない。
僕は額から汗を垂らしながら続きを紡いでいく。
『我求むは他の命、他の未来。血違えども一筋の灯り、絶えることなかれ』
突然、ものすごい勢いで魔力が吸いつくされていくのを感じた僕は、高等精神回復特効薬をポーチから取り出し一気に煽る。
消費と回復が拮抗するのを感じながら僕は最後の一節を
『来たれ、燃えよ、幾千万の輝きもって敵撃ち滅ぼさん』
直後、視界が白銀に染まり、僕は意識を失った。
詠唱を開始した直後は問題なかった。
初めての詠唱でしっかりと魔力を制御できていることには関心したぐらいだ。
が、詠唱が進むにつれて私の眉間には大きな皺が刻まれたいった。
まずいと思ったのは、ベルが板のようなものを手に取ってから。
そこから、普通ではありえない量の魔力がベルから溢れ始めた。レベル1が持てる魔力を優に超えた魔力の奔流に、魔力暴発が起きるのではとも思ったが、そんな様子でもなかった。
溢れ出た魔力は、ベルの背後に普段武器を取り出すときと同じような波紋を幾つも作り出していく。
それも十や二十ではない。百に届きそうなほど無数に広がる波紋に、私は喉を大きく鳴らす。
ベルの詠唱はいよいよ最後の一節だけとなり、そして————
魔法は放たれた。
波紋から放たれた黄金の閃光は、レフィーヤの「ヒュゼレイド・ファラーリカ」を彷彿させながら、只一点
閃光。そして轟音。
10層全体にかかっている濃霧を吹き飛ばし、ダンジョンが軋むほどの揺れを起こしたベルの魔法は”ダンジョンの階層を突き破る”という結果をもって終了した。
「嘘……」
レフィーヤが目を見開きながら信じられないように口元に手を当てる。
リリルカ・アーデは腰を抜かし、フィンは頬に汗を垂らしながら、アイズは目を見開いたまま硬直していた。
あのベートでさえ、今目の前で起こったことから目が離せないでいた。
「まさか、ここまでかッ」
あのベルが発現させた魔法だ。何かあってもおかしくはないと思っていたが……ここまでとは。
私は大穴の前で倒れているベルを抱き起しながら、深い溜息を吐いた。
「ベルは?」
「ただ気絶しているだけだ。しかし——」
「うん。これは僕にも予想外だよ。ロキとも相談だけど、使用は控えさせるべきだね」
フィンはそう言って頬を掻きながら「この穴、治るかなぁ」と呟いた。
……ここがダンジョンで良かった。でなければホームが消し飛んでいたところだ。
「ベルは私が連れて帰ろう。アイズたちはこのまま潜るのだろう?」
「え、うん」
「いや~、すごかったねえ!」
無邪気にはしゃぐティオナに連れられ、11層へと向かうアイズたちを一瞥した後、私は残った3人に目を向ける。
「フィンは聞くまでもないが、レフィーヤにリリルカ・アーデの二人はどうするんだ?」
「私も戻ります。ベルにも聞きたいことがありますし!」
ふんす、と鼻息を荒くしながらそういうレフィーヤに苦笑し、隣に座り込んでいるリリルカ・アーデへと視線を向ければ、彼女も「ベル様たちがお戻りになるなら私も戻ります」と言って立ち上がった。
辺りにはモンスターの気配はなく、しばらくこの階層にモンスターが沸くことはない。
私はベルを背負いながら、ダンジョンを出るべく歩き出した。
ベルの宝具(賢ギル仕様)でした。
ベルのレベル的に威力可笑しいんじゃないの、という意見が出るかもしれませんが、その辺は次回解説されます。(気づく人は気づいてると思います)