(`・∀・´)エッヘン!!
次の日、いつもの場所にはアイズさんだけでなく、なぜかフィンさんも一緒に立っていた。
僕とレフィーヤさんが首をかしげると、フィンさんが代表して話し出す。
「やあ、おはよう。突然で悪いのだけれど、今日は僕とアイズの二人で君たちの相手をしようと思うんだ」
「え!? お二人とですか!!!??」
狼狽える僕たちに構うことなく、フィンさんは続ける。
「大丈夫。僕は木刀を使うしアイズも鞘だ。それに今回はレフィーヤも使用する魔法に制限はかけない」
「そ、そういう問題じゃ」
「それに」
尚も食い下がろうとするレフィーヤさんに、フィンさんは被せるように僕らの目を見ながら告げた。
「二人ならできる。君たちの力は団長として保証するよ」
……ずるい。そんなことを言われては断れない。
レフィーヤさんも「うぐっ」と呻いたあと、口を開けては閉めてを繰り返している。
僕は一度大きく息をした後、緊張と興奮とが入り交じった表情でレフィーヤさんを見つめる。
「レフィーヤさん、やりましょう。大丈夫です。僕がレフィーヤさんを守ります」
「っっ……ずるいです。はああああぁぁぁ、分かりました! こうなったらやけです。やれるところまでやってやります!!」
何かを呟いたレフィーヤさんは、盛大にため息を吐いた後、気合を入れるように拳を握りながら闘志に燃えた瞳をフィンさんたちに向ける。
フィンさんはそれに対して、微笑みながら頷いた。
「アイズ、君のタイミングでいいよ」
「……ほんとに、ふたりで、するの?」
僕の言葉にそう聞き返すアイズの顔には、うっすらとだが憂慮の色が透けていた。
だがそんな彼女に僕は首を振って見せる。
「心配ないさ。それに彼らの強さは、君が一番実感しているんじゃないか?」
ある種の確信をもって言うと、アイズは数度瞬いた後、微笑む。
「……うん」
鞘を構えてベルたちを見つめる彼女を見ながら、僕は木刀を抜いた。
願わくば、可愛い後輩が自分の可能性に気づきますように————。
そんな風に祈りながら。
「それじゃあ、行くよ?」
ゆっくりと歩いてくるアイズさんに槍の矛先を向けながら、僕はレフィーヤさんにだけ聞えるように声をかける。
「レフィーヤさん、僕が精一杯引き付けている間に詠唱お願いします」
「はい」
レフィーヤさんが詠唱を始めるのと、アイズさんが仕掛けてきたのは同時だった。
「ッ!」
槍のように鋭い突きに対して、僕は弾くように槍を振るう。
ガァンッ と鈍い音と共に弾かれた鞘は即座に方向を変え、左脇腹へ迫る。
僕はそれを抑えつけるように下へ弾き、半歩前へ。
振り下ろしを体で捻って交わすアイズさんへ更に——
「僕を忘れてもらっちゃ困るな」
「ッッァグ!?」
畳みかけようとして、腹部からの衝撃に数メートルほど吹き飛んだ。なんとか空中で身体を捻り、衝撃を逃がしながら着地すると眼前には木刀が
顎下からの衝撃に意識が明滅するなか、王の財宝を呼び出し、目の前に無作為に放つ。
五つの波紋から投射された武器は僕の目の前にズダダッ、と突き刺さったあと光の粒子となって消えていく。
体勢を立て直したときには目の前からフィンさんは消えていて、代わりにアイズさんの剣戟が迫ってきていた。
僕はなんとかアイズさんの攻撃を弾こうと槍を引っ張って、背後からの声に凍り付く。
「ダンジョンは狡猾で残酷だ。目の前の相手にばかり気を取られていては、君はパーティメンバーを失うかもしれないよ」
「ベル!?」
「ッ! ハァ!!」
レフィーヤさんの聞いたことがない叫び声に、僕が咄嗟に振った槍は空を切る。
フィンさんは僕の振った槍を、体格を生かして潜り抜けカウンター気味に僕の右手首を跳ね上げた。
「ぅぁッ」
僕は、手先から肩先まで走る激痛に呻く。
動きを止めた僕に、フィンさんの足払いが容赦なくささる。
軽く宙を舞った僕は、背中から叩きつけるようにして地面に転がった。
「不愉快だね」
苦痛に顔を歪めながら目を開ければ、フィンさんの木刀が僕の喉元に添えられていた。
肝心のフィンさんは……瞳に憤怒を宿らせていた。
今まで見たことがないフィンさんの表情に僕が呆然としていると、フィンさんは木刀を構えたまま続ける。
「ベル、なぜ君は槍を使っているんだい?」
「ぇ?」
「なぜ他の武器を使わない? ティオネやラウル、他の団員からも武器の扱いを習っているんだろう? そのうえでなぜ槍にばかり拘る?」
「それは…」
貴方のようになりたいから。
その言葉は出せなかった。それを言ってしまっては、僕は何かを決定的に間違えてしまうと、そう思ってしまったから。
言いよどむ僕に、フィンさんは決定的な一言をこぼした。
「君は何になりたい? 何を成したい? 君の望む先は、”ここ”じゃないだろう?」
フィンさんのその言葉に、僕はハッと息を呑む。
ここ最近ずっと考えていたこと。アイズさんとの模擬戦の最中に引っかかったこと。
そう、ここ最近の僕は、”早く、フィンさんたちに追いつきたい。フィンさんたちのようになりたい” そう思うようになっていたのだ。
思わず奥歯を噛み締める僕に、フィンさんは構えを解きながら、何処か楽し気に語りだした。
「君は入団試験の時、何と言ったか覚えているかい? 無意識だったのか分からないけど、君はこう言ったんだ。『英雄になりたい』とね」
「初めてだったよ。いや、正確には
頬を掻きながら語るフィンさんは、けれどしっかりとした瞳で僕を見た。
「僕には僕の成したいことがある。そして君にも成したいことがあって、ただそれは誰かの摸倣で成せるほど、簡単なことではないだろう?」
「僕は僕の持てるもの全てをもって、ここまで這い上がった。だから、僕より高みを目指そうというのなら、そこで止まってはだめだ」
僕は、いつの間にか驕っていたのかな?
フィンさんの努力を軽く見て、同じ武器を使えばいつかはたどり着けると。
あの人に鍵を託されたのだから、僕は凄いのだと。
僕は奥歯を噛み締め、腹部の鈍痛を振り払って起き上がる。
これで何度目だろうか。
ダンジョンを甘くみて、絶望に打ちのめされた。
家族を守る力が欲しいと渇望し、ちらついた力に呑まれかけた。
そして、自身の可能性に酔った僕は、フィンさんを侮辱した。
どうしようも、本当にどうしようもない。
どれほど僕は愚かで、傲慢なんだろうか。
立ち上がった僕は、血が滲んだ拳で自身の頬を殴った。
ゴッ という音と口の中に広がる鉄の味にブレていた思考がクリアになる。
フィンさんが怒るのも当たり前だ。
僕はフィンさんが築き上げてきたすべてを馬鹿にしたのだから。
どうすればいい?
今の僕に何ができる?
レベルも足りない。技も、駆け引きも。何もかも——。
「ちがう。足りないのはそれじゃないっ」
口元の血を拭って前を見据える。アイズさんもフィンさんも僕を待ってくれている。
後ろを振り返れば、杖を握りしめたまま固唾を飲んで見守るレフィーヤさんがいる。
まだ、何も失ってない。
まだ、やり直せる。
「ふぅぅ。もう一度、お願いしますッ」
「うん」
「……いい目だね」
武器を構え直すフィンさんたち。
もう一度チャンスをくれたフィンさんに、答えるために。
「『王の財宝』」
僕の呟きに、背後に5つの黄金の波紋が浮かび上がる。
それぞれに多様な武器が現れ、警戒するフィンさんたちに僕は告げた。
「行きます!」
身体を前へ倒すようにして急加速する。
素手で向かってきた僕に対して、フィンさんとアイズさんは一瞬のためらいの後、迎撃に入る。
アイズさんが正面で迎撃の構えをとり、フィンさんが瞬時に背後へ回る。
全く隙のない二人の連携に、僕はそれでも直進し、油断なくこちらを捉えるアイズさんへと一投目を投射する。
アイズさんは光速で迫る武器を難なく弾き落とし————次の瞬間、その瞳を驚愕に見開いた。
「ッ!?」
弾き落としたはずの武器が、その軌道を変えて再度襲い掛かってきたのだ。
ジャラジャラと音を立てながら蛇のように軌道を変え、弾かれても即座に反転するソレは、意志を持っているかのようにアイズさんに襲い掛かる。
未知の攻撃に不利を悟ったアイズさんは一度引こうとするが、すでに遅い。
「ッ!! アイズ! 後ろだ!!」
「!!?」
アイズさんが一投目に気を取られている間に放っておいた二投目が、”僕の意図を組んで”アイズさんを逃すまいと鎖を何重にも重ね、アイズさんの退路を断った。
僕は走りながらアイズさんを一瞥すると、波打つ鎖に飛び掛かる様にして跳躍し空中で反転、鎖を足場にフィンさんに切りかかる!
「ッ! まさかこんな隠し玉を持っていたとはね!!」
「フィンさんが気づかせてくれたんです! だから僕は、僕の持つ全てであなたに答えます!!」
僕は両手に短刀を持ち、三つの波紋から次々と武器を投射させながらフィンさんへと切り結ぶ。
打ち合いになったら負ける。同じ土俵に立たせるなッ。数で押し切れ! 後手に回させろ!!
切り上げ、袈裟斬り、切り払い。
一手でも手を止めたらやられる!
木刀を振るい、飛んでくる武器と僕の剣戟とを的確に受け流し弾きながら、フィンさんは不敵に笑う。
「僕にはあの鎖は使わないのかな? それとも二本が限界か。それに、恐らくだけどアレは魔力を消費し続けるんじゃないかなッ!」
図星を吐かれたことに、思わず喉の奥から変な声が漏れる。
まさかこんな短時間でバレるなんて。
コレが、王の財宝の中にあることに気がついたのは魔導書を読んでしばらくしてから。
何気なしに取り出して、遊んでいたその場で気絶したのはまだ記憶に新しい。
フィンさんが言うように、この『天の鎖』は伸ばせば伸ばすほど、顕現させている時間の分だけ魔力を消費し続ける。
それも尋常ではない程に。今の僕では持って数十秒――——だからこそ、速攻あるのみ!
双剣を、投げナイフの要領で投げつけ、フィンさんが弾いている一瞬の隙に次の武器を取り出し攻め続ける。
槍、短刀、盾、曲刀、大剣。
今まで習ってきたすべての武器で、最適の攻守を選択し続けろ!
「いい攻撃だけどッ、甘い!!」
フィンさんは木刀をしならせ、大振りの隙をついて僕の手に打撃を与えた。
痺れる手元から大剣が転がり落ち、武器をなくした僕の顔面に鋭い蹴りが迫る。
今からじゃ避けられない。投射も間に合わない……なら!!
僕は身体を捻る様にして滑らせ、強引に腕を割り込ませた。
クロスさせた両腕を貫通して伝わる衝撃に、僕はのけ反りながら数十メートルほど後退した。
「グウゥゥッッ!!!」
重い身体を引っ張りながら、倒れかけた体を引っ張り直す。
明滅する視界の中、フィンさんはなぜか木刀を下ろし、にこやかに僕を見ていた。
「ふぅ。少し発破をかけすぎたかな? 大分無理をしてるみたいだね、ベル」
「フゥッ、フゥッ。まだ、行けまぁ——」
まだいけます。そう言いかけたところで、僕の視界が回った。
ドサッ、と言う音と、僕が空を見上げているのを自覚したのと、どちらが先だったか。
「限界みたいだね」
そう言ってフィンさんは木刀を腰に刺した。
僕に近づき、右手を差し出すフィンさんに僕は————
「僕たちの、勝ちです」
彼の右足を掴んだ。
「ッ!!?!!!?!?」
僕の言葉に笑みを消し、焦った様に背後を見るがもう遅い。
僕は前衛、その仕事は敵を引き付け…………
後衛の為に時間を稼ぐこと。
「今まで散々無視してくれたんです!! 団長とは言え遠慮はしませんから!!!」
僕とフィンさんの視線の先では、咲き乱れる薔薇のような魔法陣を、幾重にも展開させたレフィーヤが毅然とした表情で立っていた。
「しまっ!! このままだとベルも巻き込むよ!?」
焦った様に僕の腕を振り払おうと藻掻きながら、フィンさんは本気で焦ったような声色で叫んだ。
でも、
「僕には、これがありますから」
僕には『王の財宝』がある。
なけなしの魔力を絞って腕以外を覆うように盾を顕現させると、「それはずるいんじゃないかな!?」というフィンさんの叫び声が聞こえた。
「使用する魔法に制限をかけなかった団長が悪いんですからね!! 『ヒュゼレイド・ファラーリカ』!!!!」
「ッ!!!」
盾の隙間から紅蓮の輝きが漏れたあと、とてつもない轟音と共に僕の意識は吹き飛んだ。
ただ、最後の一瞬、一陣の風が吹いた気がした。