「ッ……そんな」
レフィーヤの驚愕と悔しさの混じった声を耳にしながら、フィンは頬に垂れる冷や汗を意識せずにはいられなかった。
「危なかった……助かったよ、アイズ」
フィンは目の前に立つアイズにそう告げると、半ばから炭化した木刀を手放す。
先のレフィーヤの攻撃、アイズが咄嗟に
フィンは幸か不幸か、ベルの
ただ、それでも完全に防げたわけではなく、結果的にフィンの持つ特注の木刀が消し炭になったが。
フィンの言葉に、魔法を解除したアイズは拾った細剣を鞘にしまいながら首を振った。
「ううん。私も、ベルの鎖が消えなきゃ動けなかった」
あの瞬間、フィンはレフィーヤの存在を忘れていた。いや、ベルに注意を向けすぎていた。
本来指揮官であるはずの自分が、ベルという存在に確かに釘付けになっていたのだ。
そのことを今更ながらに自覚したフィンは、苦々しい想いを飲み込み、嘆息した。
「僕もまだまだ、か……後輩の成長は早いものだね」
アイズはフィンの言葉に頷きながらも、気絶したまま倒れているベルへと視線を向ける。
……あの鎖、本気で振り払ったのにビクともしなかった。
少年の今しがた見せた強さと、その未来になんとも言えぬ思いを残しながら、アイズは瞼を閉じた。
いつか少年が自分たちと共に戦う日も、そう遠くないのかもしれない。
防がれた。
私はその事実に奥歯を噛み締めた。
自分が情けなくてしょうがない。ベルが必死に稼いだ時間を無駄にしてしまったのだから。
「レフィーヤ」
私が自分を責め立てていると、憧れの人からの声がかかった。
俯いていた顔を上げると、頬を伝って何かが滴り落ちた。どうやら気づかない間に泣いていたらしい。
そんな私の様子に動揺したアイズさんは、瞳を揺らし「え、えっとね」と呟いた。
「レフィーヤの、魔法。すごかったよ? 私でも、抑えきれなかったから」
「え?」
アイズさんの言葉に私は目を見開いて固まる。
どうして? だって私の魔法は防がれたはずじゃ…
「アイズの言う通りだよ。ほら、こことここ」
いつの間にかアイズさんの隣にいた団長の方を見ると、右肩と太もも辺りの衣類が若干焦げてなくなっていた。
「レフィーヤ。君の事だからまた自分を卑下していると思うからあえて言うよ。君は誇るべき
「うん。私も、全力で防御したよ」
フィンさんの言葉に私は目を見開く。
団長の言った言葉が信じられなくて、憧れた存在からの賞賛が嬉しくて。
私はふっと足から力が抜け、ぺたんとその場に座り込んでしまう。
何も考えられなくなった頭で、それでも、私は囁く。
「……るでしょうか」
「……」
「私も、ベルや皆の役に、立てるでしょうかっっ!?」
小さな囁きは叫びへと変わり、私は不安を先輩へぶつけた。
ずっと不安だった。私なんかがリヴェリア様の後釜になれるのか。王族の後釜だと言われるのが恐かった。
ずっと嫌だった。ただ守られるだけの私自身が。なんの役にも立たない私自身が。
でも、羨ましかった。
どこまでもまっすぐ前を見続けるベルが。
何度でも食らい付くその姿が。
小さな背中で抱えきれないほど大きな夢を追う彼が。
とても——――
「既に僕らは何度も君に助けられてきたよ。君の魔法のおかげで僕らは窮地を脱してこれる。君がいてくれるからアイズやティオナは安心して前に出れるんだ。それに」
そう言って、団長は楽し気に頬を掻いた。
「僕らは家族だ。役に立つ立たないじゃない……ベルならそう言うと思うよ」
「……ぁ」
その言葉が、何故かすとん、と音を立てて自分の中に嵌まるのを感じた。
そして、私は笑いをこらえられなかった。
「っぷ、あはは。あははははははは!」
全く尽きることのない笑いに、涙が止まらなくなる。
暖かな表情で見守る二人に気づかないまま、私は暫く笑い続けた。
ふいに、何かが髪の毛に触れる感触で僕の意識は戻ってきた。
どうなって、頭の後ろが柔らかい?
まだはっきりとしない思考のまま、重い瞼を持ち上げてみる。
「あ、起きましたか?」
ずれた焦点が定まってくると、僕の視界にはレフィーヤさんの顔が映った…………ものすごく近くに。
「ぅわぁッ!? いっつぅ!!??」
「あわわ、動かないでください! 精神疲弊で倒れたばかりなんですから」
慌てて飛び退こうとするも、酷い頭痛とレフィーヤさんの拘束によって僕は起きた時と同じ体制に戻されてしまった。
え? え? え? 何これどうなったの僕どうしたのなんで膝枕!!?!?!!?
頭の先まで一気に血が上る。
意識が沸騰し顔中から蒸気を吹き出す。
突然の出来事に、僕が錯乱しているとレフィーヤさんの細い指が僕の髪に触れた。
妙に艶っぽい笑みを浮かべ、髪を弄るようにして遊ぶレフィーヤさんに、僕は上ずった声色で呼び掛ける。
「あ、あの、れ、レフィーヤさん?」
「ふふふ、ベルの髪、ふさふさですね」
「あぅあぅぅ・・・そ、そう言えばフィンさんたちとの模擬戦はどうなりましたか?」
なんとか羞恥心を紛らわせるために話を逸らすと、レフィーヤさんは満面の笑みで言った。
「負けました」
「え」
あまりにもきっぱりと、清々しく言うものだから変な声が漏れてしまう。
「かすり傷もつけられなかったです。ベルも倒れてしまうし、私は魔法を撃った後で役立たずでしたから」
「うっ」
「だから」
そこで言葉を切ったレフィーヤさんは、朗らかな、それでいて熱い闘志を燃やした瞳で僕を見た。
「一緒に、強くなりましょう?」
団長たちをぎゃふんと言わせてやるんです! そう宣言するレフィーヤさんの顔は何処までも前を見つめていた。
だから、
「はい!」
僕も力強く頷いたのだった。
次回からリリとの話が動き出します。
べ、別にリリの事を忘れてたわけじゃないよ?