「神様、ステイタスの更新、お願いします」
「ベルの後は私もお願いします!」
「かまへんけど、二人ともどしたん? 傷だらけやんか」
回復薬のおかげで楽になった僕たちは、その足で神様の部屋へと訪れていた。
ただ、回復薬によって体力と精神は回復しても防具のダメージまで消すことはできない。
ボロボロの僕たちを訝し気に見つめていた神様だったが、僕らが二人して苦笑いを浮かべたのを見て「まあええけど、ちゃんと新調しときいや」とだけ呟いてベッドへと僕を促した。
「ほな、まずはベルから行こうか」
ベル・クラネル
レベル 1
力 : B 707
耐久 : A 844
器用 : A 879
俊敏 : B 738
魔力 : SS 1072
【スキル】
//憧憬願望//
早熟する。
思いがある限り効果は持続し、思いの丈で効果は向上する。
限定的条件下におけるスキル補正
・王律鍵 E
レベルに応じた宝物庫へのアクセス権
・器用貧乏
複数の武器を扱うほど、武器の扱いに補正
戦闘で得られる経験値の一部消費
【魔法】
ゲート・オブ・バビロン
詠唱破棄
宝物庫内の宝具の転送及び射出
英雄の号砲
神聖特攻宝具
全ステイタス、レベルを魔力に統合
使用後、レベルに応じた王律鍵の一時封印、及びステイタスの一時固定化
<詠唱文>
顕現せよ。今は遥か過去の偉業。時の水面に沈めども願いは劣らず、腐敗せず。民を守るは我が勤め。友を救うは我が願い。顕現せよ、世界を統べし王の残滓よ。
我求むは他の命、他の未来。血違えども一筋の灯り、絶えることなかれ。来たれ、燃えよ、幾千万の輝きもって敵、撃ち滅ぼさん。
「……トータル500オーバー」
あ、相変わらず狂っとる。
「? 何か言いましたか?」
「な、何も言ってないで。ほい、これが今回の奴やな」
どないな無茶したんか聞きたいのはやまやまなんやけど。
目の前で無邪気に喜ぶ眷属に、うちは肩を竦めるのに留め、それ以上の詮索を止めた。
家族の成長を喜ぶことはあっても訝しむもんやないわな。
「ほな、次はレフィーヤたん行こか」
「はい! お願いします」
「あ、じゃあ僕は先に食堂に行ってます!!」
ひゅっ、と扉から外へ飛び出していくベルを横目に、うちは次の眷属のステイタスを更新する作業に移った。
「……今日はベル様たち、遅いですね」
ほとんど無意識の呟きに、私は次の瞬間にはハッとし首を振った。
所詮はあの人たちも冒険者。自尊心ばかりの高い屑です。だからあの人も他の人のように————。
そこまで考えたところで、脳裏に映るのは白髪の少年と山吹色の少女の笑みだった。
「よう、アーデ」
「ッ……カヌゥ、さん」
私に影を落とすように現れたのは、やっぱり冒険者。彼らは私を囲うように佇みながら、まるでゴミを見つめるように私を見ていた。
「お前、最近ロキファミリアの奴らとつるんでるんだってなぁ。良いご身分だぜ、俺たちが必死こいて金稼いでいる間に、お前は甘い汁啜って楽しやがってなぁ?」
ずいっと顔を寄せ、ニタァ、と笑う冒険者はまるで死神のようにその鎌を肩へと這わせた。
「その金、俺たちにくれや?」
「こ、このお金は——」
必死に抗おうとする私に、死神の鎌はズズッと這い上がり、首筋を撫でる。
「俺は知ってるんだぜぇ? お前がいろんな冒険者から金品をくすねてるのをよぉ? その事実を知ったら、あのロキファミリアの冒険者たちはどんな反応をするのかねぇ?」
「ッッ……やめて! わ、分かりました。私の持ってるお金はあげますから……だから」
この時の私は、お金を失う事よりも、首筋に当てられたナイフよりも——————彼らに嫌われることを恐れた。なぜだかわからない。でも、彼らから軽蔑の目を向けられるのが堪らなく嫌だった。
自分でもわからない内に私は首元にかけた鍵を取り出し、彼等へ渡す。
「の、ノームの隠し金庫の鍵です。中に換金した宝石が入ってます」
私がそう呟くと冒険者は下卑た笑みを浮かべたまま鍵を奪い取り、嗤った。
「まだ、あるんだろ?」
「え」
「ロキファミリアと一緒にいて、これだけなわけないもんなぁ?」
「こ、これだけです! リリが持っているお金はこれで全部です!!」
悲鳴交じりに叫べば、冒険者は数秒私を見下ろした後、肩を竦めた。
「なら仕方ねえか。アーデ、ちょいと手伝えや」
「な、なにを」
「なあに、ちょいとお前の稼ぎを良くしてやるだけだよ」
怯える私を、冒険者は淀んだ瞳で見つめる。何処までも沈んでいくような光のない瞳に、私はずるずると引き摺られるように路地へと連れていかれた。
カヌゥさんがとんでもない悪人に見えてしまう。
まあ事実救いようのないやつだとは思っていますが。