そしてカヌゥ率いる冒険者がクズ過ぎてつらい
どうか、どうか神様――――どうか。
オークにシルバーバック。ハードアーマードの群れに囲まれた白髪の少年を見下ろしながら、リリは心臓が引き裂かれるような痛みを感じる。
冒険者が下卑た笑い声が耳に張り付き、少年の叫び声が心臓を穿つ。
数の暴力。少女の知る少年であっても、覆ることのない暴力に……
少年をそんな窮地に追い込んでしまった少女は、自らの心臓を抉り出してやりたかった。
しかし、冒険者に折られた両腕は思うように動かない。
無力な少女は己を呪い、ただただその場に蹲って懺悔の涙を流した。
――どうか、リリを殺してください。
あれから、四日。
広場につくと、濁色に沈んだ瞳のリリが噴水に腰かけるようにして待っていた。
「リリ」
「ぁ、ベル様」
僕が声をかければ、リリは笑顔の仮面を張り付け僕の元へと駆けてくる。
勤めて明るく振る舞う彼女に、僕は無意識に拳を握りしめた。
僕の顔が強張っていたからだろうか。りりは訝し気に首を傾げてお僕を見上げる
「ベル様?」
「ううん。なんでもない。リリ。行こうか」
「 はい」
罅割れた仮面をつける少女の手を引いて、僕はダンジョンへと潜っていった。
「カヌゥの旦那。あの餓鬼が来ましたぜ」
「おぅ」
霧の立ち込める中、数人の冒険者が岩場から乗り出すようにして辺りを見渡せば、命令通り白髪の少年を連れたリリがこちらへ歩いてきていた。
それを確認した冒険者は下卑た表情を隠す事も無く、前もって用意していたモノを取り出す。
ソレは拳大の肉塊で、本来はモンスターの注意を逸らすためのトラップだった。
「へへ、精々俺たちの為に稼いでくれや」
男はそう言うと持っていたボウガンの先端に拳大の肉塊を付け、少年ら目掛けて引き金を引いた。
ヒュッッ
風を切り、放物線を描く矢はベルのすぐ近くに着弾、先端の肉が弾けた。
本来、数時間をかけて分泌される匂いは殻が破れたことで一気に溢れ出し、モンスターの嗅覚を刺激する。
騒々しくなる霧の中、冒険者たちは追加と言わんばかりに数本ほど矢を放つと、足早にその階層を後にするのだった。
「何、今の音?」
槍を構えて辺りを警戒するベルを前にしながら、リリは頭を抱えて蹲る。
絶望の香りが、リリの鼻を撫でた。
血の気の引いた顔で足元を見つめれば、そこには何かの肉の破片。
それに覚えのあった――いや、自らが作ったトラップに、リリの顔から色が消えた。
なんで? おびき寄せたモンスターをぶつけるだけじゃなかったの!?
パニックになって自問自答している間にも、何度か風を切る音が耳を撫で、不快な肉の匂いが鼻をくすぐる。
「だめ、だめぇ」
「リリ? リリ?」
「ベル様逃げて――――」
オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!
その瞬間、空気が揺れた。
「ッ何!?」
「ㇶっ」
階層中から響く雄叫びに、ベルは異常を理解しリリは絶望に飲み込まれる。
リリは半狂乱になりながらもベルの足へ縋り付く。
「ダメ、ダメです。ベル様だけでも直ぐに逃げてください!!」
「ッ……リリだけを置いてなんていけないよ。それに、もう来る」
ベルが油断なく見据える先には、5体のオークの姿が。
棍棒を引き釣り、涎を垂らすモンスターは標的をベルへと定めた。
更に、それ以外にも至る所から飛んでくる殺意に、ベルは薄らと冷や汗を垂らす。
何十体いる? 僕に捌ききれるのか? 逃げ切れるか? リリは?
迷ったのは一瞬だった。
ベルは迷いなく宝物庫を開くと”天の鎖”を伸ばす。
鎖はベルの意志に従いリリに巻き付くと、彼女を可能な限り遠くへ運びあげた。
「え!? べ、ベル様!! 待って!!」
ゴリゴリと削れていく魔力に、しかしベルは笑みを浮かべた。
「リリ、待っててね」
「ベル様!!!」
霧の向こうから聞える叫び声を背に、ベルは武器を構える。
引くな、怯えるな、前を見ろ!
ここで逃げれば、このモンスターが全てリリに向かう可能性だってある。
女の子を、リリを守るんだッ
「ハアアアアッ!!!!」
自らの咆哮と共に、ベルは眼前のモンスターへと突撃した。
これ・・・ベルか?
近々タグに「性格改変」を追加しようかなと検討中です