「はぁっ…はぁっ…はぁ…」
立っているのもやっとな体を槍で支えながら、僕は荒い呼吸を繰り返す。
後一歩でも動けば僕は倒れこんで気絶するだろう。
しかし、
「はぁ、はぁ、倒し、きったッ」
血にまみれた槍。
僕の眼前には、真っ赤に染まった大地と大量の魔石のみ。
数時間にも及ぶ死闘の末、僕は————
「ッッ――――!!!!!」
瞬間、背筋を凍らせるような悪寒が全身を貫き、僕は気力を振り絞ってその場から離れた。
ヒュッッ――――――――ドゴォォォオオン!!!!
視界を掠める何か。
それを知覚するよりも速く、僕が寸前まで立っていた場所は轟音を立てながら爆発――いや、抉れ飛んだ。
爆風に流されて地面を転がる。
「な、なにがッ」
砂埃が晴れると、そこには見たことのない大剣がクレーターを作って突き刺さっていた。
柄の部分から切っ先まで全てが刃に覆われていて、まるで剣と斧を合わせたような外見のそれは、はたまた岩塊を削りだして作られたかのような武骨さを持っていた。
どこから飛んできたのか。そう思うよりも早く、ソレはやってきた。
「フゥゥゥゥゥッッ」
「ッ!? な、なんで」
巨大な体躯に全身を包み込む赤黒い毛皮。天を穿つように鋭い角を携えたそいつは傷だらけの身であっても僕を見ていた。
ミノタウロス
見た目は確かにそれだった。だがしかし、本能が警笛を鳴らしている。
あれは戦ってはダメだと。あれは人の勝てるものではないと。
真っ赤に染まった眼光は血を求める殺人鬼のように貪欲にベルを狙っていた。
自らが投げたであろう剣斧をやすやすと引き抜き、僕を見据えるミノタウロス。
『死』
その言葉が頭をよぎった瞬間、
「貴様の価値を示せ」
何処からか声が聞えたと思うと、僕の目の前に今度は見たことのある小瓶が落ちてきた。
「え、えりくさー?」
なぜこんなところに、誰が?
そんな問答をしている暇はなかった。
今まさにこちらに踏み込もうとしているミノタウロスを前に、僕は気力を振り絞って――――――――エリクサーの入った瓶をかみ砕いた。
口に広がるガラス片に口内が血に染まる。
痛みをこらえながらガラスを吐き出し、僕は立ち上がる。
身体中から上がる悲鳴が再生を告げ、魔力が溢れんばかりに精神を満たす。
僕は内に溢れる恐怖と戦いながら、目の前のモンスターを見据え槍を構えた。
目の前の個体が何なのかはわからない。
さっきの声も、このエリクサーも。でも
「まだ僕の後ろにはリリがいる」
ならば倒そう。この脅威を。
彼女を守るため、英雄になるために。
僕が疾駆したのと、モンスターが咆哮を上げたのは同時だった。
次回は丸々戦闘かな?
もしかしたら先に地上に映るかもです。