今回キャラ崩壊というか性格改変? 的なことになってしまったのでそう言うのが苦手な方は注意してください。
濛々と立ち上がる噴煙が辺りを包み込む。
未だ震えの収まらぬ空間に身体を震わせながら、ベルは足を引き摺りながら爆心地へと向かった。
パラパラと砂が降り、燻る煙を払いながら進めば、そこには巨大なクレーターと一振りの槍。
可視化できるほどの魔力を垂らしながらバチバチと火花を上げるソレの近くには、拳大の魔石とミノタウロスのものと思われる赤黒い角が転がっている。
ベルそっと魔石とドロップ品を拾い上げ、目の前の槍をまじまじと見つめる。
その槍は異常なほど熱を持っているのか、先端が突き刺さっている地面は赤く燃え、触れてもいないのに肌がじりじりと焼けるように熱かった。
「……ぁ」
どうやって回収しようか迷っていると、その槍は目の前で音もなく半ばから砕け、砂塵となって宙へと消えていってしまった。
ベルがしばらく砂塵をぼぅっと見つめていると、煙の向こうからアイズとリリがやってきた。
リリはエリクサーによって傷が消えているものの、何処か辛そうに顔を歪めたままベルへと突撃した。
「リリ、だいじょう――――わっ!?」
大丈夫? そう尋ねようとしたベルだったが、それよりも早くリリの頭突きが腹部に直撃した。
全身がひどい鈍痛に襲われていたベルは苦悶の表情を浮かべながらもリリを抱き留め、尻餅をつく。
そんなベルのお腹に顔を埋めながら、リリは叫んだ。
「ベルさまのばかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「えぇ……」
死闘を繰り広げた自分にそれはないのではないか…そう思わなくもないベルだったが、空気を読んで口をつぐみ、ぐりぐりと頭を押しつけてくるリリを優しく撫でる。
するとそれが気に入らなかったのか、リリはバッと顔を上げ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらベルを殴った。
「なんであんな無茶をしたんですか!? 命が惜しくないんですか!?」
「えっと、そうしないとリリが」
「またリリですか!? ベル様はへなちょこの大馬鹿野郎です!! いつもレフィーヤ様の尻に敷かれてる軟弱な男です!!」
酷い言われようである。
というか尻に敷かれるとはどういうことなのか。
ベルとしては良きパートナーであると思っていたのだが、人によって認識が若干違うようで…ベルは苦笑しながら首をかしげるしかなかった。
そんなベルを前に、リリは尚も大粒の雫をボタボタと溢しながら弱々しく彼の胸を叩き続ける。
「こんなボロボロになってッ、なんで逃げなかったんですか!?」
「それはだからリリを守るために――」
ベルのその言葉に、リリはカッと目を見開き叩いていた拳でベルの胸元を掴むと精一杯揺すった。
「まだわからないんですか!?!?!? あれは、あのモンスターの大群はリリのせいなんです!!!! リリがモンスターを集める罠を作ったんです!!」
ベルへ事実を教えようと叫ぶリリは、現実に圧し潰されるように崩れ落ち、泣き笑いで自傷する。
「リリがベル様をハメたんです!! ベル様とレフィーヤ様の稼ぎを当てにしてッ、二人から法外な額の報酬を盗んでいたんです!」
「ベル様たちとリリの分け前は6:4なんかじゃありません!! 5:5です!! ひどいときはドロップアイテムをくすねていた時もありました!!!」
「今までだっていろんな冒険者様の装備をくすねたり法外な額のアイテムを渡したりしていました!! リリはどうしようもない屑で役立たずな女なんです!! ベル様に守られていいような奴じゃないんです!! だからリリなんかあの時死んで――」
「それ以上は言わせないよ」
ベルはリリの言葉を遮るように、彼女を抱きかかえ自身の胸板で顔を覆った。
リリが抗議するように暴れるも、ベルは気にすることなく優しい声音で綴る。
「実は分け前のことは知ってたんだ。レフィーヤさんが気が付いたんだけどね? 僕がお願いして黙ってもらってたんだ。リリのために、って思ったんだけど……ごめんね?」
「リリは役立たずなんかじゃないよ。リリのおかげで毎日たくさん稼げてるし、レフィーヤさんも僕もモンスターに専念できる。リリの弓の援護も助かるし、モンスターの解体の速さはレフィーヤさんも驚いてたんだよ? 僕はレフィーヤさんやリリがいないと何もできないから」
「だから、死んでもいいなんて言わないで?」
血の流し過ぎで視界が霞み始めたベルは、それでも抱きかかえたリリに寄り添うように囁く。
亜久里の髪からお日様のような香りが鼻腔を擽り、ベルの重みにリリは身じろぎする。
「なんで……助けたんですか」
蹲ったまま漏れる問いに、ベルは思わずきょとんとした顔をして、
「大切な女の子で、仲間だからだよ? ――――あいてっ」
一切の迷いなく言い切った。
そんなベルの脇腹を、リリは殴る。
じくじくと痛む脇にベルが悶えていると、リリは震える声でつぶやいた。
「女の子だから助けるだなんて……やっぱりベル様はさいてーの屑野郎です」
「ハハハ……」
酷い言いようにベルは思わず頭をかいて
「なら、リリだから、かな?」
と言葉を濁した。
その答えにリリは答えず、ただ静かに肩を震わせていた。
「ほな、リリたんは今日からうちの家族やで」
「は?」
話が理解できなかったリリは思わず素が漏れてしまった。
ここはベル様のファミリア——ロキ・ファミリア――その執務室のようだ。
眼前にはソファに座る神ロキ。その傍らに、同族でありファミリアの団長を務める“いけ好かない爺”のフィン・ディムナが座っていた。
「何か失礼なことを考えていないかな?」
……爺で、すまし顔のクソ野郎。
「ハハハ。その顔で何を考えているのかはわかったよ」
心底嫌いな笑みを浮かべる爺を無視して横を見れば、古参メンバーである副団長リヴェリア様にガレス様までが並んでいた。そしてその背後にはレフィーヤ様に大切断、怒蛇、狂狼など錚々たるメンバーが並んでおり、皆一応にリリを見下ろしている。
ふいにベル様がいないことが気になったが、その疑問には目の前の爺が答えてくれた。
「ああ、ベルなら今はディアンケヒト・ファミリアのアミッドのところに預けてあるよ。数日は帰ってこれないかもしれないけどね」
彼の物言いに、おおよその事態を察した私は俯きそうになる顔を必死に持ち上げた。
「あの、ファミリアの一員とはどういう話でしょうか? リリは」
「ああ、それなんやけどな?」
言葉の続きを遮った神ロキは、どこからか取り出した酒瓶と一緒に一枚の紙を私の前に差し出す。
「ソーマんとこな? 今回のイレギュラーを起こしたっちゅう責任を負わされて一年間の謹慎処分になったんや。当然ファミリアも一時解散。子供らのステイタスも改宗待ちにされたんよ」
その紙にはその話の詳細がギルド公式の告知として書かれていた。
私が目を見開いて固まっていると、神ロキは酒瓶を一気に煽り、赤らんだ頬のままにんまりと笑った。
「だから、うちは露頭に迷う子羊を助けたっちゅうわけや!」
「感謝しい!!」と叫ぶ神ロキ。
そんな神に手刀を入れながら近づいてきたのはリヴェリア様とレフィーヤ様だ。
リヴェリア様の表情は険しく、私を敵視していた。
それも当然だ。私はベル様を危険にさらして、レフィーヤ様も騙していたのだから。
私が罵倒や拒絶に身構えていると、ふいに誰かが私を包み込んだ。
「リヴェリア様。リリルカさんのことをそんな目で見ないでください」
顔を上げれば、そこには鋭い眼差しでリヴェリア様を見つめるレフィーヤ様の横顔があった。
あのエルフが、種の王族に反抗している事実に目を見開いていると、私と同じく共学に目を見開いたリヴェリア様は困ったように眉をよせ、レフィーヤ様を見る。
「レ、レフィーヤ」
「確かにリリルカさんはいけないことをしてきたのかもしれません。もしそのせいでベルが死んでしまったら私も許せなかったと思います。でも、ベルは生きてます。それにリヴェリア様だってソーマファミリアの内情をご存じでしたよね? 今まで放置しておいて今になってリリルカさんを責めるだなんて――――!」
「あー、レフィーヤ」
早口で私を擁護するレフィーヤさんに、待ったをかけたのはフィン・ディムナだった。
「リヴェリアはアーデさんの入団には賛成だよ」
「————へ?」
「むしろ今回の案を言い出したのはリヴェリアで、それを快諾したのは僕とロキだ」
フィン・ディムナの言葉にレフィーヤ様は口をパクパクさせながら視界を行き来させる。
そして
「~~~ッッ し、失礼しました――――!!!!!」
顔を真っ赤にしながら脱兎の如く逃げだした。
扉を突き破る勢いで飛び出していくレフィーヤに、大切断や神ロキは笑い、リヴェリア様も苦笑を溢してたが、改めて私を見ると眉間の皺を揉み解しながら言った。
「フィンが言ったが、リリルカ・アーデ、君を団へ入団させようと言ったのは私だ。そしてそれは君に、自身の贖罪を探させるためでもある」
「私の、贖罪……」
俯きながら思わず呟いてしまった私に、リヴェリア様は鋭い眼差しで断定する。
「君は今、ベルに贖罪を求めているだろう」
反射的に顔を上げれば、リヴェリア様の視線と重なった。
その眼は冷たく、私を断罪しているかのようだ。
奥歯を噛み締めて黙る私に、リヴェリア様は続ける。
「もし、君が許されたいからとベルに近づくなら、私はそれを看過するわけにはいかない」
「ならっ、ならリリはこの罪を、ベル様に何を返せばいいんですか!!!! リリにはもう何も残ってないッ! 地獄に堕ちるリリが渡せるものなんて、もうリリの命ぐらいしか」
パンッ、と乾いた音が鳴った。
左頬から伝ってくる鋭い熱が私が叩かれたのだと教えてくれる。
手を振りきったまま固まるリヴェリア様は、次の瞬間、抑えきれない怒りを滲ませながら眉を吊り上げて吐き捨てた。
「恩人に救われた命を無碍にするな!」
ギュっと拳を握るリヴェリア様は、私の知る誰よりも感傷的になりながら私を叱咤する。
「確かに君のしたことは許されるべきものではない。もしベルに何かあったら、私は今頃君の首をへし折っていたかもしれない」
「だが、ベルも冒険者だ。そしてベルは騙されていると知ったうえで君を許し、君を助けようと死地へ赴いた。ならば、その覚悟を私が……何より助けられた君が、踏み躙るわけにはいかない」
彼女はそう言って口をつぐむと、なにかを堪えるように、思い出に浸るように天を仰ぐ。
いまの激情は、家族としての想いだろうか? それとも過去の————。
「だからこそ、私が君に贖罪を与える」
「……もう、覚悟はできています」
そう言った私はきつく両目を結び、沙汰の結末を待った。
「リリルカ・アーデ。君は冒険者になれ」
「———————は」
言われた意味が解らなかった。
冒険者になれ?
私が? 役立たずで戦えないからサポーターになった私が?
混乱と戸惑いの渦中にいる私を置いて、リヴェリア様は独白のように語る。
「前から感じていたことだが、今回の一件ではっきりした。ベルの生き方はひどく危うい。それはあのアイズ以上だ。ベルは心優しい青年だ。知り合いの気難しいエルフが接触を許しているのだからそれは折り紙付きだろう。
だからこそ、他者の為に平気で死地へと飛び込むそれは、尊敬されるべきものではある。が、同時に最も嫌煙され、理解されず、短命に終わる。ベルの進む道は茨の道だ」
苦い顔をするリヴェリア様にフィン・ディムナも神ロキも同じような表情で押し黙った。
「彼に救われた君に、あえて贖罪を課すならば、君にベルを救ってもらいたい。ベルに救われた生を持って、彼の窮地を救ってほしい。あいにく私は副団長。一人の団員に肩入れすることも、ベルに付き添うことも容易ではない。これが私にできるベルへの最大の保険であり、君が求める贖罪にもっとも添えるものだろう。そのためならば何でも利用すればいい。ここは天下のロキファミリア。人材も資金も、人脈もある。君がベルのために動く限り、君の全ては私が保証し私が責任を持つ」
そこで言葉を区切ったリヴェリア様は、片膝をついて私と同じ高さに視線を合わせるとまっすぐな瞳で頭を下げた。
「だから、ベルを頼む」
突如として目の前に開かれた道筋に、私の頬にはいつの間にか雫が流れていた。
思考は純白に染まり、身体は何かに打ち震えるように痺れ、目はあらん限りに見開いている。
全身を貫く衝撃から立ち直れないまま、私はただ茫然と涙の意味を考えていた。
それは絶望から来る涙か? 成れないと分かっている職に就けと言われたことへの絶望か?
いいや、ちがう。
それは感謝の涙か? 贖罪を与えてもらったことに対する涙か?
いいや、違う。
これは、歓喜の涙だ。
彼に救われたこの身。二度目の生の全てを彼の為に捧げ、彼と共に駆けていける。その至上の喜びの涙だ。
そう自覚した瞬間。涙は枯れることなく次々に溢れ、膝の上できつく握った拳に滴り落ちていった。
背中が熱い。
全身を焼き焦がすような熱が背中から発せられ、心の底から狂おしい程の衝動が私を駆り立てる。
その衝動に耐えられなくなった私は拳をギュっと握りしめたまま立ち上がり、決意に満ちた瞳で彼らを見つめる。
冒険者になれ? 言われなくともなってやる。
私は意地汚い地獄行きの決まった小人だ。ベルのためなら、どんな汚い手を使っても彼を助けよう。
利用できるものはすべて使ってやる。幸い目の前には“良い例題”がいるのだから。第一級冒険者にでもなってやる。
茨の道? 上等だ。地獄のような日々を生きてきた私にとっては草原に等しい。
ベルの邪魔をする者はだれであろうと排除する。どんな障害も壁も人も、モンスターも、ちりあくたの如く、消し飛ばしてやる。
今日この日、この時より、私の全てはベル・クラネルの為に――。
私はそう自分に誓いながら彼等へ頭を下げるのだった。
次回はベル視点も混ぜつつ、リリのステイタス更新。
そろそろfate/方面も動かないとなぁ…。