光の軌跡・閃の軌跡   作:raira

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Prologue 光のいっぽ

 七耀暦1204年 3月31日 

 

 目が覚めた時、知らない天井に迎えられた私は、自分が遥か遠くまで来てしまった事を感じた。

 

 それは、昨日のお昼に列車の乗り換えで一時的に降り立った帝国南部サザーラント州の州都、《白亜の旧都》とも呼ばれるハイアームズの侯爵様が住まわれるセントアーク市でも思ったことだが――

 

 少し重い瞼をこすりながら、カーテンを開ける。

 緋色の屋根の街並みに朝日が降り注ぐ春の日の朝。

 

――実家のある帝国南部サザーラント州の片田舎から数千セルジュ――緋の帝都ヘイムダルで感じたのは当然、それ以上だった。

 

 部屋の窓を開けて、私は外のまだ少し冷たい空気を胸に取り込む。

 

 大陸に名だたる帝国の中心にして皇帝陛下のおわす帝都!

 窓から望めるのは陛下の皇城《バルフレイム宮》!……の上の尖塔部分。

 かのドライケルス大帝の凱旋が名前の由来となった、帝都最大の目抜き通りであるヴァンクール大通り!……に続く多少は広い路地。

 

 少し景色が思うようにいかないのは、この部屋がヴァンクール大通りに面した貴族様が泊まる様な高級ホテルのスイートルームではないからだろう。

 

 帝都を訪れるのは二回目。

 祖国であるこのエレボニアに、初めて私が連れて来られた時以来だった。

 その時は私もまだまだ小さく、それ程鮮明な記憶は無いものの、この緋色の大都市に心を踊らせた事はよく覚えている。

 それまで暮らしていた所は田舎で、あんなに大きくて高い建物も、こんなに沢山の人も居なかったから――って今もサザーランド州の田舎に住んでいるのだけど。

 

 帝都の庶民的な通りの一つであるオスト地区の安い宿酒場の部屋で、自分にツッコミをしながら私はワンピースのパジャマの袖から腕を抜く。

 

 こんな所に一人で泊まった事が知れたら実家のお祖母ちゃんは間違いなく雷が落ちそうなものだ。お父さんも割と怒りそうではあるのが目に浮かぶが、相変わらずの仕事で帰って来ることはなく、結局別れの挨拶もする事無く出発日の昨日が来てしまった。

 

 鉄道の通っていないサザーラント州の辺境からパルム市まで導力車で三時間。

 パルム市から帝都まで列車で八時間。

 パルムからの列車もセントアークで乗り換えがあり、待ち時間も長い。

 結局、村からパルム市まで送ってくれた、村の雑貨屋の息子で領邦軍兵士の幼馴染が言うとおり、帝都で一泊という形になってしまった。

 

 本当は目的地の街で宿屋を探すというのも考えたのだが、長旅で疲れてた私は少々浅はかにも、帝都で早めに休んでしまうという甘い誘惑に乗ってしまった。

 

 勿論、帝都の方が宿屋は多いだろうし泊まりやすいのだけど、実際は帝都駅で庶民的な宿への案内を見つけてからが大変だった。

 それこそ、四苦八苦しながら導力トラムという路面鉄道に乗ってこの宿屋まで来たのだが、昨日の夜にこの宿屋の陽気なマスターとチェックインの時に話した時、我ながら本当にバカをしたと痛感することとなった。

 

 目的地である帝都から近郊都市トリスタまでは約三十分、帝都駅からここオスト地区まで導力トラムで三十分。まさか、路面鉄道でここまで来る時間と一緒ぐらいだったなんて、と昨晩は気を落としたものだ。

 

 

 鏡に向かってため息をつきながら、制服をちゃんと着れているか上から下まで一通りチェックをしてみる。

 

 ついでに自分の顔も。

 数日前に切ってもらったばかりの髪は、ナチュラルミディの長さ。

 ごくごくありふれた栗色の髪の毛に、同じ色の瞳。

 

 うーん…大丈夫かなぁ。

 

 栄えある帝国貴族様から言わせれば、『高貴な出自ではない事が一目瞭然だ』と間違いなく言われること間違いなしの容姿の様な気がする。

 まぁ、制服の質以外は何一つ高貴な出自ではないので何とも言えないのだが。

 しかし、今日から行く所はその高貴な方々も居らっしゃる場所でもあり、この制服の色違いの制服にその貴族様も袖を通している……らしい。

 

 元気な田舎娘――とはよく言われたものだが、それでいて良い場所なのか少し不安になる。

 漠然とした不安に包まれながら、先程まで着ていたパジャマと下着を荷物へしまう。

 

 しかし、どんなに不安を感じても、どうする事も出来ない。そして、最早入学式当日である以上は腹を括るしか無い。

 

 だって、二、三時間後には――ベッド脇の少し古めの導力式時計を見て、一気にそんな考えを頭の片隅へ追いやる。

いや、どちらかと言うと時計の針の指す数字を見て、頭の片隅どころか遥か遠くのアイゼンガルド連峰の彼方に飛んでいってしまったと言った方が正しいだろう。

 

「ちょっ……やばっ!」

 

 慌てて、荷物をまとめる。

 無駄に慌てると髪もまた乱れるのだけど……そんな事を気にしている余裕は全く無かった。それに、乱れたら乱れたで髪は列車の中で直せばいい。

 取り敢えず自分の持ち込んだ荷物だけはまとめて、早く下に降りて帝都駅へ向かわないといけないのだから。

 流石に入学式から遅刻なんて以ての外だ。

 

 荷物を手に部屋の扉の前に立ち、昨晩お世話になった部屋を最期に一通り確認する。

 

 

「げっ!」

 

 

 ベッドの上に置いたままの開きっぱなしの三枚綴りの小冊子――

 

 

 

 ”トールズ士官学院 入学式のご案内”

 

 ”1204年3月31日 近郊都市トリスタ トールズ士官学院内講堂”

 

 

――を手に掴み――

 

 

 ”エレナ・アゼリアーノ様”

 

 ”この度はご入学おめでとうございます。”

 

 

――大きなボストンバックの中へ乱雑にしまいこむ。

 

 

 そして、私は慌ただしく部屋を後にした。

 




はじめまして。rairaと申します。

当作品は主に「閃の軌跡」を題材にした軌跡シリーズの二次小説です。
能力も血筋も庶民な普通のオジリナル主人公(女)をⅦ組に入れてみた、というコンセプトです。
その子の視点でⅦ組はどう映るのでしょうか?
基本的に物語の流れを踏襲し、原作の雰囲気を壊さない様に意識しています。

恋愛とかは当分はオリキャラと原作キャラの間ではないと思います。(原作の雰囲気、壊したくないので)

昔、他所で空の軌跡の二次をやっていた関係で「閃の軌跡」プレイ後、突発的に書いてしまった物ですが、お楽しみいただけたら嬉しいです。

文章下手ですが、どうぞ宜しくお願いします。

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