危ない! ――そんな彼の声と共に目の前でリィンが倒れた。
「リィンさん!?」
「リィン、血が、血がっ!」
地に伏す彼の右肩から腕にかけて大きな傷跡を目の当たりにして、私は動転して悲鳴に近い声を発した。
戦闘中にクラスメートの仲間の血を見ることは特段珍しい事ではない。例を挙げれば、先月の自由行動日での旧校舎地下でもガイウスが魔物の攻撃の直撃を受けている。
だが、今回こんなにも激しくに狼狽したのは他でもなく”戦闘後”という認識であったからだと思う。
安心しきって気が抜けた直後の出来事なだけに、そのショックも大きかった。
もしさっきの魔獣の凶爪が麦穂を刈るように、彼の頸部を狙っていたら?
そんな悪夢を考えると背筋が寒くなり、身震いしそうになる。
考えれる範囲での想定で最悪の場合はあの場で仲間を、クラスメートを一人失っていた事になるのだから。
あの時、ほんの数秒の間の出来事なのだが、私は然程詳しく覚えていない。
戦闘中の戦術リンクの途中断絶というタイミングが悪ければ相当な危険を孕む出来事に、戦闘前までは互いに少なからず歩み寄りを見せていたマキアスもユーシスも激発。
胸倉を掴み合って今にも拳が飛び交いそうな状態の二人へまだ力尽きていなかった魔獣が襲いかかろうとし、それに気付いたリィンが間に飛び込み盾となって庇った。
リィンが倒れる中、真っ先にフィーは危険な魔獣を完全に沈黙させ、エマは迅速にリィンの傷の処置を行った。
私はすぐ目の前を歩くエマとフィーの背中へと目を向ける。
そして、薄っすらとではあるものの彼女達の背中の間を突き抜ける様に濃灰色の細い尖塔の先端部が見えており、目的地が近い事がに判る。
リィンが怪我の為に先頭を外れて班の先頭を変わっているのは彼女達だったのだが、気まずい空気の為か精神的な緊張を明らかに感じているエマと呑気そうにその横を歩くフィーの姿は後ろから見ていても対照的だ。
もっともこう見えても怪我をしているリィンへ無理をさせない為に、二人で歩くペースを落として一定に維持していたりするのだから流石とも言えるだろう。
そして、後ろを振り返るとマキアスとユーシス、そしてリィン。
リィンと目が合うと本当はまだ傷口は結構痛むのにも関わらず、それを微塵も感じさせない様な表情の顔で会釈をしてくれる。
「どうかしたのか?」と、まるで退屈な授業で視線をうろちょろさせている時に目があった時の様に。
幸いにもリィンの傷はそれほど深くなく、エマの素早い応急処置もあって大事には至らなかった。
それでも上着とワイシャツの鋭利な鉤爪で切り裂かれた跡から白色の包帯を覗かせる姿は痛々しい物で、今回の特別実習の間は激しい運動等は難しいかも知れない。
流石にこの事を想定に入れてサラ教官が班分けを決めていたという事はまずあり得ないだろうが、この特別実習のA班は六人で一人欠けても5人――B班よりまだ1人多いのだ。特別実習の続行には支障は無い。
問題は……この二人だったのだが、この二人は二人でリィンの怪我の原因となった負い目からか至って静かだ。色々と落ち込んでいるのかも知れない。
少なくとも私も理由こそ違うだろうが”落ち込んでいる”という面では同じだった。
咄嗟の判断で身を挺して二人を守ったリィン、迅速に危険を排除したフィー、怪我をしたリィンへ素早い処置を行ったエマ。彼らに比べて私は気が動転して何も気が利いた行動を取ることは出来なかった。
(はぁ……)
本日何度目になるか分からない心の溜息をついた時、先程エマ達の背中の光景にうっすらと見えていた濃灰色の尖塔の本体がその姿を露わにしていた。
峡谷道を抜けた先に目に入ったのは巨大な歴史のある古城オーロックス砦――”砦”となっているがその規模は最早”要塞”に近いのではないだろうか。
私はこの立派で堂々とした城郭を見て、やっと一息つける事にほっと胸を撫で下ろした。
この時は、領邦軍兵士への手配魔獣の討伐報告という一息を付く位で本当にすぐそのままバリアハートへ来た道を戻るとは思わず、途中に謎の飛行物体を見るなど不可思議な出来事を目撃こそしたものの、直ぐにそんな物は私の関心から外れてしまっていた。
帰りの道中、余りに重い自らの脚に教会謹製の万能薬として名高い《キュリアの薬》を皆に黙って一つ使っても大丈夫だろうか、等という残念な思考に陥っていたのはご愛嬌である。
・・・
「うわぁ……お風呂広い!」
体中くたくたになりながら今晩の寝床となる《ホテル・エスメラルダ》の自室に帰ってきた私達は、今その浴室に繋がる扉を開いていた。
浴室の扉の目の前には私の間抜け面の映る大きな鏡と装飾の施された洗面台が、そして左手には――。
「三人一緒に入ってもまだ余裕ありそう」
フィーの言葉通り、目の前の浴室の半埋込み式のバスタブは今まで見たこともない大きさであり、このホテルがこの広い帝国内で最高級の格付けにあるホテルであることを思い知らされる。
「あれ? シャワー無いよ?」
あまりに広いバスタブだが、お湯を張るための蛇口はあるものの肝心のシャワーは無い。
「こっちがシャワールームみたいですね」
「バスとシャワーが別なんだ」
エマが浴室の右手のガラスで仕切られた部分に顔を向けながら私の疑問に答え、フィーは不思議そうに眺める。
「こ、これは……お風呂、入りたいね」
寮の自室より広いバスルーム、その豪華な装飾付きの洗面台に置かれるアメニティ類。その中でも特に入浴剤の種類の多さに驚くと共に、今すぐバスタブにお湯を張ってこの疲れた体と棒になりかけた脚をほぐし温まりたい気持ちが湧き上がってくる。
「ですね……でも……」
「流石にね……」
私とエマは自然と顔を向き合わせて溜息を付く。
リィン達男子とは7時位までに準備を終わらせて、その後夕食を食べに出るという予定を交わしていた。
後1時間――極論三人一緒に入れるのだから、確かに――いや髪を乾かす時間やセットする時間を考えれば少々急がなければならないだろうか。
少なくとも、人生でこの機会を逃せばいつ入れるか分からない帝国最高級ホテルのお風呂を楽しむことは出来ない。
「そんなにお風呂っていいもの?」
今この場でお湯に浸かれない事に落胆する私達に不思議そうな表情を浮かべるフィー。
「フィーはお風呂好きじゃないの?」
「あんまり今まで入ったこと無いから。バスタブが無い所も多いし、やっぱり時間かかるから」
私が聞くと、フィーは簡潔に返してきた。
確かに帝国内でもバスタブが無い家やホテルはざらであるし、諸外国ではシャワーのみで済ます入浴習慣が無い国や地域もあるのだという。
文化的なものがあるのは重々承知ではあるが、お風呂の楽しさを知らないのはそれはそれで人生の損だと思った。
「ふふ……それじゃあ、フィーちゃんも今晩は私と一緒に入りましょうか」
このお風呂を使わないのは女の子として損ですよ、と続けてエマはフィーを誘う。
「ん……まあ、いっか。とりあえず、シャワーはどうする?」
エマから少し目線を落として、話題を変えるフィー。少し照れ臭いのだろうか、それとも面倒なのだろうか。
それ程嫌がっている様子ではないのは救いだ。
「フィーからでいいよ。今日一番の功労者だもん」
「そうですね。私は最後でいいので次はエレナさん入ってください」
「わかった。じゃ」
返事をしながらフィーがその場でリボンを外し、赤色の上着と続いてプリーツスカートとブラウスが大理石の床へと落ちる。
一分の半分も経たない内に、目の前の彼女は下着へと手をかけていた。
「ええっ……」
「どしたの?」
まるで男子のような服の脱ぎ方をするフィーに驚いていると、きょとんとする彼女に訝しげに訊ねられた。
「う、ううん……女子同士でもそんなにパパっと服脱がれると、その……」
「意外と恥ずかしがり屋?」
既に完全に一糸纏わぬ姿のフィーに、彼女が男子の前でもこんなことをしているのでは無いかと少し不安に駆られる。
少なくとも、着替える時には他の人とタイミングを同じぐらいに合わせる派の私には絶対に無理だ。
・・・
目の前に並べられた料理を見て、私が恥ずかしながらも感嘆の溜息を漏らしたのも数十分前。
既にテーブルの上のお皿は殆ど空となり、それが皆文句無しにこのレストランの夕食に満足していた証拠だった。
食後の会話は紅茶や珈琲と共に当初はこのレストラン《ソルシエラ》の話題であったのだが、その話題が一段落するとマキアスがそれ程強い口調では無く静かに確認するように”例の件”をユーシスへ直接問い掛けた。
「クロイツェン州での大増税に領邦軍の大規模な軍備増強……まさか関係が無いとは言わせないぞ?」
「別に否定はしない」
「やっぱり……」
ユーシスは悪びれる様子を見せることもなく答えた事に、私も思わず声が漏れた。
出来れば否定して欲しかったのは言うまでも無いが、流石にここで彼が否定してもそれは子供騙しの言い訳にもならないのも確かだ。
「だが問題の根幹は革新派と貴族派の対立にある。今日見た重戦車《アハツェン》など正規軍がどれだけ配備していると思う?」
「そ、それは……」
言葉に詰まるマキアスの代わりに、「100台や200台じゃ無い」とユーシスの問い掛けに答えるフィーの言葉通り、相当数が正規軍へ実戦配備されている。
正確な数は軍の広報や製造元のラインフォルト社に聞くのが一番だろうが、確実に言えるのは正規軍の方が圧倒的に多く保有しているという事だ。
「そう、帝国正規軍は強大だ。大陸でも最大級の戦力を保持していると言えるだろう。その七割を掌握する《革新派》に《貴族連合》が如何に……」
ユーシスの言葉は地方領邦の領民である私には馴染み深いフレーズでもある。
しかし、私はどうしても、お父さんのいる帝国正規軍と各州の治安維持を司る領邦軍との間が対立する様な事は信じたくなくて。
既に心の中では諦めている一縷の望みを、大貴族の中の大貴族《四大名門》の東のアルバレア公爵家のユーシスの口から聞きたくて――気付けば私は椅子から立ち上がって食って掛かるように自分の言葉で続きを止めた。
「で、でも待って! 帝国正規軍は帝国を守る力で、皇帝陛下の軍隊なんだよ!? いくら《革新派》と《貴族派》が対立してても、地方も貴族様も守るべき帝国の――」
「一部、か?」
私の言葉はユーシスの言葉と共に向けられた鋭い視線に遮られた。
「お前だって分かっているだろう、十年前ならいざ知らず今更そんな建前が既に意味をなしていない事を」
「それは……」
反論できなかった。心でどれだけ信じていても、現実というのはそれを簡単に覆せる非情さだ。それに随分前から地元の州の地方紙では既に《革新派》の私兵かの様な扱われ方であるのも事実であるのだ。
「十一年前、それまで《四大名門》を始めとする名門貴族から輩出されていた帝国政府の宰相職に平民として初めて任命された《鉄血宰相》は、まず自らの支持基盤でもあった正規軍の人事に介入し、多くの貴族出身の将官を次々に要職から罷免・更迭していった」
「……確かにオズボーン宰相は汚職撲滅の為に政府や軍の上層部の刷新を図ったが……決して貴族だけを目的としてやったわけではないだろう?」
「建前はどうでもいい。実際、それ以来、帝国政府も正規軍も《革新派》に忠実――いや、そのものではないか」
これにも誰も否定できなかった。
流石に私も今まで自分の知らなかった帝国の歴史の一頁を、この様な説得力の有る形で突付けられて尚、ユーシスに食って掛かる勢いは無く椅子に再び腰を下ろした。
マキアスは苦い顔をしており、隣のリィンやエマも難しい顔をしている。一体今、私はどんな顔をしているのだろうか。
現在において《革新派》という単語は『帝国政府や正規軍内を中心とした帝都に本拠を持つ平民の政治勢力』という認識が正しい。
ユーシスはマキアスの前なので直接言及こそしないが、マキアスの父であるレーグニッツ帝都知事がその地位にあるのもオズボーン宰相による地盤固めと無関係ではない筈だ。
「でも……それでも、正規軍を相手に出来る軍備が必要だから……その為に、大増税だなんて……」
領民を守る領邦軍の増強の為に領民が苦しむなんて、あまりに本末転倒ではないか。
『たとえ地震、雷、火事、親父――は面倒臭えから行きたくねぇな。親父さんの相手以外ならみんなのヒーロー様のパルム市領邦軍詰所のフレール伍長様にお任せくだされ、ってな?』と幼馴染は言っていたではないか。
しかし、私の脳裏に浮かぶ幼馴染の人懐っこい笑顔を掻き消して、ケルディックのあの領邦軍隊長の姿と言葉が思い起こされた。
『我々クロイツェン州領邦軍が各地を維持する上で最も重要なものが分かるかね?それはクロイツェン州を治める領主――アルバレア公爵家の意向に他ならないのだよ』
(そっか……領邦軍って、別に領民を守る軍隊じゃなくて領主の貴族を守る軍隊なのに……いつまで勘違いを信じるつもりだったんだろ……)
子供でも分かるような簡単な事実があまりにも私にとっては受け入れ難く、私の沈みゆく心には《翡翠の公都》と呼ばれる壮麗な街並みの夜景が暗く光を失っていく様な気がした。
「地方の事は帝都庁の管轄外だが、父さんも『帝国経済への悪影響は避けられない愚かな真似』と言っていたぞ。共和国との緊張関係もあるんだ。貴族の都合で帝国の国力を――」
マキアスが”軍備拡張”から”増税”そのものに切り口を換えたのは、それが諸刃の剣となるからであった。しかし、”増税”の影響の”大きな見方”を口にする彼の言葉は私を崖から突き落とすには十分だった。
「経済……じゃないよ……国力なんかじゃないよ……」
「エレナさん?」
「エレナ?」
左耳から心配したようなエマとフィーの声が聞こえた。
しかし、私は止まれなかった。
「経済なんかじゃないよ! 大増税で誰が一番困ると思ってるの!?」
「そ、そんなの決まっているだろう? 僕ら庶民――」
帝国には三つの身分があった。一つ目は七耀教会の聖職者、二つ目は領主、三つ目は領民。
前二つは基本的には納税の義務を課されることのない特権を持っており、二つ目に関しては三つ目への徴税権を持つ身分だ。
現在においてもそれは大きくは変わらない――導力革命以後、急激な導力化による商工業の発展に伴い裕福な平民は増え、相対的に下級貴族の力が弱くなったとは言えるだろうが、未だ《四大名門》を始めとする大貴族は絶大な権勢を誇り巨万の富を持っている。
たしかにこの場にいる六人の内、二人を除けば私を含め他の四人は三つ目だろう。
しかし――三つ目の中に、私はもう一つ区切りがあると思っていた。
「マキアスは庶民っていうけど、ぶっちゃけ帝都の高級官吏のお父さんがいる時点で平均以上だよ! 私からすれば帝都やこの街みたいな大都市に住んでる人の殆どは恵まれてる!」
都市と田舎、中央と地方。
広大な国土を有す帝国においてこの格差は非常に大きく、未だ地方の辺境部では中世さながらの生活をおくっている村落は少なからず有るのだと聞く。
そんな極端な例は置いておいても、導力化の進んだ都市部と地方部ではあらゆる格差が生じており、こと商業面では大きな影響を及ぼしている。
「バリアハートは大都会だから職人通りのお店はまだ値上げで転嫁できるかもしれないけど……! 帝国にはまだ沢山ある私の故郷みたいな小さな村や街は、商取引税が二倍になるような大増税には耐えられないの!」
人口の集約する都市はその規模に比例して市民の購買力も大きくなる。勿論、都市には競合する同業他者との競争はあるだろうが、例え苦しくなっても試行錯誤することによって立て直す余地があるのに対して、地方の村落は独占できたとしても小さ過ぎる上に更に縮まってゆく質の悪いパイが相手であり、試行錯誤する余地は少ない。
赤字を垂れ流して商売できる裕福かつ慈善的な店はなく、皆自らの生計を立てるために商売をしている以上、完全に採算がとれなくなれば店を閉めるという選択肢しか残らない。そうなれば、生きてゆく為には新しい職を探さなくてはならない。
「ただでさえ出稼ぎはずっと増えてて……どんどん人が出て行っちゃってるのに……」
村落の中で新しい職に就くのは簡単なことではなく、現にリフージョの村から出稼ぎに出る人はここ十年で大幅に増え、当初は出稼ぎでも家族を呼び寄せて完全に出てゆく人も少なくない。
それ以前に数少ない若者の多くも職を求めて、近場ではパルムやセントアーク、遠くは帝都やルーレ等行き先は様々だが、都会へと出ているのだ。
何しろ私の父も正規軍の軍人として、幼馴染も領邦軍の兵士として村を離れ、私自身も今は学生としてではあるものの、多分、村には戻らずに軍人となる道を進もうとしている以上、その当事者と言っても差し支えない無い。
「……そういえば……今日街中で会った若いメイドの方もクロイツェン州の辺境からの出稼ぎでしたね……」
思い出したかの様なエマの声に、私は今まで自分が立ち上がって大声で喚いていた事に気付く。
目の前のユーシスが表情を崩さずにその透き通った水色の瞳を向ける。彼には軽蔑されただろうか。
それでも彼には一言だけ続きがあった。
「貴族の領主様だってこんなことしてたら、本当に……」
私を含めて地方領邦の領民は”貴族の領主様の統治の元、その下に自分たち領民がいる”という事を至極当然の事と理解している。私のような子供の世代でも、その親の世代もそのまた親の世代も、特に疑問を抱くこと無く受け入れてきた。
それは数百年以上もの間、当たり前の様に続けられていたこの帝国の社会の在り方であり、それだけに今の帝都が平民の宰相と知事を筆頭に貴族と対立する様は、同じ帝国人として極めて異質に映っていたのは確かだ。
だが、それはあくまで士官学院へ入学する以前の話。
私は帝都近郊のトリスタに来て以来、色々な人との関わりや故郷では経験できないような様々な出来事を体験していた。
士官学院に入学せずに酒屋の手伝いを今でも続けていたら、一生の内にこの東の公都バリアハートの地を踏み、高級ホテルに宿泊し、この様な高級レストランで食事をする事なんてまずあり得なかっただろう。それだけではなく、Ⅶ組のクラスメートの様な多彩な仲間を得ることもなかっただろうし、帝国各地を股にかけた特別実習では依頼を通じてその地の色々な面を知るという旅人も羨む経験もまず無い。
そして、いままで何も疑う事も無く私が信じてきたものが揺らいでいるのを感じる事もなかっただろう。
故郷にいた頃、私は小さな村の中から外の世界を見ていた。確かに都会は魅力的ではあったが、のんびりとした雰囲気の村が好きだった。
つい去年までは、この村でいつか結婚して――子供を産んで――退役したお父さんが村に帰ってきて――店を継いで――いつかお婆ちゃんになって――そんな漠然とした未来をアゼリア海の潮風とレモンの香りと共に描いていたのだ。
しかし、士官学院へ入学し故郷を出て私の視点が変わると故郷の村の姿は一変した。外の世界から見た故郷は本当に小さく、今にも崩れそうな危うい状況が浮き彫りとなり、次第に激しい焦燥感に駆られる様になっていた。
(お祖母ちゃん、お父さん、フレールお兄ちゃん、村のみんな……お母さん……)
「うちの村だって……無くなっちゃうかもしれないのに……」
気づけば目の前にいるクラスメートの顔は歪み、その向こうのシックな作りの街灯の明かりが不規則に煌めく。
頬を水滴が流れ落ちる感覚にやっと私は気づいた。
(……あ……私、今、泣いてるんだ……)
こんばんは、rairaです。
実は先週から急な用事で数日間自宅を離れていたのですが、タイミングの悪い事に出向いた先でインフルエンザを貰って来てしまいました。二十何年振りという大雪が降った翌日に、熱に耐え切れなくなって歩きで病院の緊急窓口へ向かうような経験は、流石に人生で最初で最後にしたいです。苦笑
さて今回は、第2章5月29日の特別実習のオーロックス峡谷道の後編と《ソルシエラ》での夕食後の話となります。
序盤部はマキアスとユーシスのアレの続きなのですが…二人よりリィンと女子組へフォーカスしてみました。因みに、リィンの怪我は原作より少し重めだったという独自設定を付けています。
そして後半部の最初は、主人公エレナがこれまで持っていた綺麗な幻想と理想が、現実という炎に焙られてゆく一幕だと思っています。
その後、彼女はマキアスのマクロ的な言葉が引き金に、爆発というか暴発してしまいますがマキアスは何も悪い事は言っていません。
マキアスの考えというより、帝都知事の考えを口にしただけですので行政機関の上に立つ者としては当然の考え方でしょう。
その点、エレナの爆発は我侭な部分が色濃く残されており、支離滅裂な部分も有ります。
彼女より酷い場所や境遇で育った子だってこの面子の中にいるのですしね。
でも、少なくともⅦ組の面子にはこの爆発は結構効きそうです。皆、優しいですし。
後半部は捏造設定が数多くあります、軌跡世界では導力化の影響があまり言及されてないので、もしかしたら現実世界の工業化の流れとは根本的に違うのかも知れませんが。
我侭娘の大暴走が長引いたせいもありまして、仮面の出番がズルズルと遅れて行っていますね…申し訳ないです。
次回も5月29日の夕食後~深夜となる予定です。
最後まで読んで頂きありがとうございました。楽しんで頂けましたら幸いです。