ガイウスの差し伸べてくれた手を私は取り、遅れながらも既に集まっていたⅦ組の皆と食卓を囲んだ。
エマとマキアスの同点1位とクラス別平均点1位のお祝いも兼ねて、シャロンさんは少し豪華な料理を用意してくれたようで、そこそこ盛り上がっていた。
正直、何だかんだとつい先程まで沈んでいた私としては――少しぎこちなかったものの皆が多少なりとも盛り上がってくれて助かった、というのが本音だ。気にせずに話しかけてくれた方が、私としても楽だし、何と言っても気が紛れるから。
でも、そんな中においてもラウラとフィーは、テーブルの端と端を占拠してお互い関わりあわないようにしていたりと、未だハッキリと分かる確執を見せていた。まあ、これはすぐに解決できる問題ではないので仕方ない。特別実習では何とか出来ればいいのだけど……気が重いなぁ。
「あ、エレナ様――」
そんな晩ご飯の時間も終わり、食堂を後にしようとした時、私はシャロンさんに呼び止められた。
「はい?」
「エレナ様にお荷物が届いているのですが……お片づけが終わるまで少々この場でお待ち頂いても宜しいでしょうか?」
「あっ、じゃあ――」
お荷物?
いつも、部屋の中に入れてくれているのに?
ただ、私には一つだけ心当たりがあった。
「えっと……アレ、ですか?」
「ええ――エレナ様はお察しが良いので助かりますわ」
荷物の中身に気付いた私に、目の前の紫色の髪のメイドさんは小さく笑みを浮かべる。
「アレって何よ?」
丁度タイミング良く、いやこの場合は悪く、だろう。私の後ろからしたのはアリサの声だった。
「いつもそうだけど、最近何かコソコソしてない? シャロン」
「まあ、アリサお嬢様もお酷いですわ。ですが、確かにお嬢様も無関係という訳でもないですし――エレナ様、お嬢様もご一緒で構いませんか?」
「は、はい……」
これは気不味い。なんといっても視線が怖い。
「あなた達は一体……何を企んでるのかしらね?」
アリサの不機嫌そうな視線にその場でじっと待っているのは気まずくなり、私はシャロンさんの手伝いを申し出た。
「じゃ、じゃあ、私、お片づけ手伝います」
「あら、ありがとうございます。助かりますわ」
彼女の手腕には敵わないものの、少しでも早く終わらせられれば私としてもありがたいし――何より今回の件で計ってもらった便宜は相当なものだ。
「わ、私も手伝うわ!」
「まあ、お嬢様。ありがとうございます。お嬢様が花嫁修行だなんてシャロン感激ですわ」
「だ、誰が花嫁修業よ!?」
その後十分程、私とアリサは二人でシャロンさんのお手伝いをすることになるのだが――慣れないお片づけに何度も食器を落としたアリサは少なからず落ち込んだ様で椅子に座って大人しくなるのであった。
・・・
「そんな事になっていたなんてね……」
「ご、ごめん、今まで話してなくて……」
事情をアリサに説明した後、彼女は少し不機嫌さを取り戻していた。
まあ、その理由は何となく分かるし、今の今までこの件の話をしていなかった私も悪いのだが。
ただ最初から彼女に相談することだけは無かったとは、言い切れる。
「あれはわたくしがトリスタに来た次の日、とても清々しい良い朝でしたわ。皆様をお見送りした後に少しお買い物へと出かけていた所、エレナ様とフィー様が質屋を襲って――」
「襲って?」
「ち、違う!」
アリサのジト目が私とフィーに向けられ、私は首を左右に振る。
少し離れた場所の椅子に座るフィーはつまらなそうに欠伸をした。ちなみに、どうやら彼女には私より先にシャロンさんから話があり、この場に呼ばれていたようだ。まあ、フィーはあの場のやり取りを知っている四人の内の一人であって、私の銃の先生なのだから当然だろう。
「アリサお嬢様のご学友が貧しさから強盗を働いてしまう悲しい出来事を、このシャロンめは見過ごす事は出来ず――」
「違いますっ!」
確かに一歩間違えれば、そんな風に見えたのかもしれない。
だが、明らかに楽しんでいるシャロンさんに、少し怒りながら必死に否定した。
「――ふふ、失礼いたしましたわ。先日、エレナ様がライフルをお探しというお話を伺ったのですが、丁度タイミング良く会長と連絡の取れましたのでお伝えしただけですわ」
「母さまに!?」
「ええ。私が士官学院に来た事をお嬢様がとてもお喜びになっていたとお伝えいたしました」
「シャ、シャロン! あなたねぇ……!」
私は自分からアリサに遊ばれる標的が移った事を感じた。
頬を紅潮させて肩を震わせるアリサを無視してシャロンさんは私の方へと顔を向ける。
「会長からエレナ様への言伝を預かっておりますわ」
「え……アリサのお母さんから……?」
「ええ、”不肖の娘と仲良くしてやってくれて感謝するわ”――との事ですわ」
ラインフォルトグループの会長に感謝されるなんて、本当に身に余る光栄なのだが……うーん、なんなんだろうか、この少しアリサに対して刺があるように思える一言は。
「アリサ、不肖の娘なの?」
と、アリサに聞くのはフィー。
「……ふ、ふん……どうでもいいわ。そんなの。で、私には?」
「はい?」
はて、何でしょう、とでもいうような素振りで首を傾げるシャロンさん。
「はい? じゃないわよ。私には何て? 母さまは」
「えっと、お嬢様には特に何も仰っておられませんでしたが……」
「そ、そう……。べ、別に母さまからなんて期待してないわよ? ふ、ふんっだ!」
今日のアリサさんの不機嫌は当分治りそうにもなかった。
・・・
「これが……」
「へぇ」
少し小さめのライフルケースの中にその姿を収めていたのは、一見するとライフルらしくない見た目の物であった。しかし、ちゃんとその先端には銃口は確認できる。
先日、質屋で手にとった帝国製と共和国製のライフルと比べれば大分全長は短く、形状も直線的かつ細長くいかにも軍用銃といったスタイルも、ずんぐりな流線型というのか曲線的な特徴あるデザインだ。
そして、材質も明らかに違う。
「ちょっとシャロン! 私、こんな銃見たことないわよ!」
シャロンさんがラインフォルト者から手配した銃に一番驚いたのは私やフィーではなく、アリサだったのだろう。
声を荒げるアリサがそれを一番物語っていた。
「あら……でもプロジェクト名だけでしたらお嬢様もお聞きになったこともあるかと――先進戦術歩兵火器計画、通称《ATAR》というものです」
「……ないわね」
思案顔がすぐに諦めの表情を作るアリサ、そんな彼女にシャロンは嬉々とした表情だ。
「あら、それでは僭越ながらこのシャロンがご説明させて頂きますわ」
「ぱちぱち」
「四年前、それまでエプスタイン財団の独占状態であった戦術導力器のライセンス製造が解禁された事はご存知かと思われます。これを受けてラインフォルト社第四開発部では次世代個人戦術導力器開発計画が始動し、この計画はその後――」
「《ARCUS》計画、という訳ね。そこの事情は知っているわ」
やっぱりアリサは《ARCUS》の事を知っていたのか。あの特別オリエンテーリングで一人驚いていたわけだ。
「ふふ、では続けますね。第四開発部では《ARCUS》計画に付属する計画の一つとして、《ARCUS》を既存の個人火器、つまり銃器と統合化した次世代の個人火器の開発を目指しました。これが先程の《ATAR》計画となります」
ARCUSと統合? 銃にARCUSを付けるの?
難しい言葉がスラスラ流れ軽く混乱しそうになる。
「戦闘中の兵士がオーブメントの導力魔法を使う利点は大きく三つあります。攻撃、治癒、そして一時的な補助。これらの効果は戦場でも有効的であり、大陸中の軍隊において個人火器と導力魔法は一般的な戦術として用いられていると言っても過言ではないでしょう」
今度はサラ教官の実践技術の授業でのお話みたいだ。
「コンセプトは”基本的な導力魔法を素早く駆動させることの出来る銃器”といったところでしょうか。そして《ARCUS》の搭載ということは……」
「戦術リンク機能と通信機能も内包するって訳だね。うん、面白いかも」
「導力魔法を銃器単体で高速駆動可能になれば戦術と作戦行動の柔軟性も確保でき、戦術リンク機能と合わせれば敵と同数であれば完全に圧倒することが出来る。そんな”
「とんでもないわね……」
「な、なるほど……」
元猟兵であるフィーから見て『面白い』、アリサから見て『とんでもない』と言わせる武器。そう考えただけで、私は少し身震いしてしまう。
「でもこの銃、オーブメントがついていそうにはないけど」
フィーの言葉通り、私の目の前にあるこの軍用ライフルは形状こそ特徴的だが、シャロンさんが説明してくれた計画の《ARCUS》と思われる部分は見当たらない。ケースから取り出していないので反対側という可能性もあるが。
「確かにそうね……」
「皆様がお持ちの《ARCUS》は帝国独自の第五世代戦術オーブメントとして試験導入段階まで漕ぎ着けることに成功した製品ですが――残念ながら《ATAR》計画で組み込まれる筈だった小型化された《ARCUS》の開発は難航し、現在では計画は凍結中となっています」
「なるほど……通りで私が知らない訳だわ」
「現状ではこれ以上の小型化は技術的問題が多く、戦場で要求される耐久力を満たすことが出来ないというのが大きな理由ですわ。その他にも、本流である《ARCUS》計画に試験導入決定という大きな進展があったので、予算と人的資源を集中させたいという会長の決定もあったのですが」
「母さまの……」
最終的にはアリサのお母さんの決定で中止になったということだ。それにしても凄い計画もあったものだ。ラインフォルト社の様な企業は常に未来を見ているということなのだろう。
「まあ、そんな事情もありまして、第二製作所が開発した新型ライフルの試作品が余ってしまっているのですわ」
「このライフル単独では軍への納入に漕ぎ着けれなかったってこと?」
「正規軍は国防省の予算の割り振りの関係上、未だに旧式ライフルの置き換えが思うように進んでいませんから。第二製作所としては今は正規軍全部隊への現制式ライフル《G2》の配備推進が先決であって、次世代ライフルを軍に提案するのは時期早々という事ですわ」
そういえばこの話、ミヒュトさんのお店でも聞いた気がする。機甲部隊と飛行船へ予算が多く使われているのだっけか。確かに戦車は帝国軍の花型だからなぁ。
「いかがでしょう。正真正銘、ラインフォルト社最新のアサルトライフルですわ」
「計画自体は胡散臭い事この上ないけど、第二製作所なら悪い仕事はしないから一応は安心かしら」
(最新式のライフル……かぁ……)
「あ、あの、この子の名前って何なんですか?」
「……この子?」
「あ、この銃の」
「ラインフォルト社の内部での形式名は《RF-XM1200》。”Fields Dominance”を目指したATAR計画の成れの果て……でしょうか」
「えっと……番号じゃなくて……、ほら《スティンガー》とか、《ニードラー》とか、《ファントム》とか言うじゃないですか?」
三つともラインフォルト社のラインナップでも特に有名な導力銃ブランドの名前だ。
《スティンガー》は元は帝国正規軍で制式採用されていた少し大型の軍用拳銃だが、後にⅡやⅢといった改良モデルが軍用以外にも民間市場でも発売され軍民共に人気なラインフォルトの傑作銃として名高い。今では拳銃以外の他の銃器にも《スティンガー》の名が使われる程だ。そして、私が使っている銃でもある。
《ニードラー》は民間用途の銃のブランドで、護身用の拳銃以外にも猟銃や競技銃など多彩なラインナップを誇っているので有名であり、《ファントム》はラインフォルト社が売り出し中の最新のブランドで静音性重視の設計がなされているらしい。
「試作品だからないんじゃない?」
「私は知らないわよ?」
「……存じておりませんわね。銃自体は第二製作所の領分なのでなんとも……」
「そうですか……」
私の相棒でもある《スティンガー》と違って、この子はとても不運な生まれだと感じた。
《スティンガー》は今では絶対的な名前と信頼を物にしている、謂わば導力銃の世界では帝国製拳銃のヒーローの様な輝く存在。それに対して目の前の特徴的な形状のライフル《XM1200》は、ARCUSという革新的な新機能を搭載する野心的な自動小銃を目指して開発されたものの、色々な事情から日の目を見ることのなくなり、形式名以外の名前が存在しない可哀想な存在だ。
「触らないの?」
と、フィーは不思議そうに私に問いかけてきた。
銃器に対する感想としては少し場違いかもしれない事を考えていた私が、触りたくて迷っている風に見えたのかもしれない。
「えっと、いいんですか?」
「はい。勿論ですわ。是非、そのお手に取ってみてくださいませ」
ケースから特徴的な形状のライフル銃を両手で取ってみる。
(――軽い……?)
そして、金属特有の冷たいひんやり感が無い。どうやらこの銃の素材は金属ではなく合成樹脂の様だ。
「導力ユニットの有効化をすれば何時でも使用できる状態となりますわ。威力調節のレバーを動かしてくださいませ」
シャロンさんの指示通りに小さなレバーを動かすと、何かが変わった気がした。これがオーブメントに導力エネルギーが宿る瞬間なのだろうか。
「どう?」
フィーが上目遣いで聞いてくる。アリサも何も口にはしないが、興味津々といった様子だ。
「いい感じ、かも」
全ての準備が整い、私は腕の中にある銃を食堂の奥の調理場へ向けて構えた。
「ミヒュトさんの所で持ったのより軽いし……短いのがいいのかな、取り回しやすいかも」
次に違う場所、暗い外の映る窓を目掛けて構えてみる。
「なんかしっくりくる感じで、この間のと違うというか……」
「人間工学に基づいたデザインの効果ですわね」
「それで変なデザインなんだ」
人間工学という言葉が何かは私には想像がつかないが、この特徴的な形状が扱い易さの理由だということはわかった。
「ちょっと私にも、持たせて」
色々な場所に銃口を向けて遊んでいると、フィーも気になったのだろう、私は銃の先生に新しい愛銃を手渡す。
ミヒュトさんの質屋で構えたものと比べれば確かに軽いが、それでも拳銃と比べればかなりの重量感だ。
私から銃を受け取ったフィーは私と同じ様に構える。そして、銃本体と一体化しているスコープを覗いた。
「……このスコープ、まさか距離計?」
「ええ、精密射撃用にターゲットまでの距離とそれに合わせた射角を指示する導力式照準器を搭載しておりますわ」
「これは凄いね」
スコープを覗きながら構えるフィーが感心したように呟き、「見てみて」と、私に手渡す。
私がスコープを覗くと、緑色の十字の背景に先程まで見ていた食堂の光景が1.5倍程拡大されている。その狭い視界の上の端に小さな数字が表示されていた、その数字は銃口を左右に動かすとそれに合わせて変化する。
「8.5A……これって、調理場の壁まで8.5アージュってことだよね?」
「うん」
突如としてフィーが現れ、私はぎょっとしてスコープから目を離して銃口を下に降ろす。
「そのまま、私に狙いをつけて」
調理場にポツンと立つフィー。
「いいの?」
銃を扱うとき、真っ先に叩き込まれるのは『自分と人に銃口を向けるな』である。味方に銃口はいかなる場合であっても向けてはならない。
「実弾が入ってないのは確認済み」
「う、うん、わかった」
スコープの中で拡大されたフィーを囲むように緑色の枠と、その枠の中心に向いて視界の下に左に逸れた破線が表示される。
その破線を十字の照準の垂直の線に合わせるように銃口を右に小さく調節する様に動かすと、破線は直線へと変わり、それまで緑色だったフィーを囲む枠と共に赤色へと変わった。
「あっ、枠と線が赤色に変わった」
「うん、このコースなら確実に命中するね」
意味は直感的に分かったが、最新の銃にはこんなものまで取り付けられているとは驚きだ。
「ちょっとシャロン! この銃、射撃管制装置が付いてるの!?」
「ええ、《ATAR》計画に恥じない素晴らしい機能ですわ」
「そうじゃなくて! こんな最新の技術ばかりを使って、一体そのプロジェクトは一丁幾らの銃を作ろうとしてたのよ!? ついでに、これに小型化した《ARCUS》を取っ付けようとしてたのよねぇ!?」
アリサがシャロンさんに噛み付く。確かにこの銃での実弾での射撃は未だだが、取り回しやすくあんな凄い機能まで付いている。アリサの言うとおり一丁辺りの値段は私も気になる所だ。
「何分試作品ですし、この銃自体はあくまで《ARCUS》計画の付属計画の為に第二製作所に開発を依頼した”部品”ですので、本来の完成品が一丁あたり幾らになるかは存じておりませんわ。ただ――」
「ただ……?」
「――《ARCUS》未装着でも、現状は大衆向け導力車位の価値はあるかと」
満面の微笑みを浮かべるシャロンさんだが、言っている事はとんでも無い。
「導力車ってことは……す、すうじゅう……まん……!?」
十数万ではない、数十である。大衆向けといっても高価な導力車を個人的に所有できる人は未だ限られており、一番安い車両であっても70万ミラを下らないような価格だ。つまり、私の腕の中にあるこの子は70万ミラ程度のお値段のする銃――!?
70万ミラとはどの位の価値か。簡単に言うと、実家の酒屋の年間利益の実に半分以上に値する。
「ひゅー」
「そ、そんな武器、わ、私使えない……!」
呑気なフィーの口笛と反対に、私はとても狼狽えた。一丁70万ミラの銃なんて恐れ多くも手が震えてしまう。
「あらあら、エレナ様。皆様が日々お使いになられている《ARCUS》も本来の市販想定価格は20万ミラを超える、れっきとしたラインフォルト社の製品ですわ」
「うぇ!?」
《ARCUS》のしまってある制服のポケットに視線がいく、これ、20万ミラ――。
「まあ、戦術オーブメントは安くないよね。今年発売されたばっかりのエプスタインの《ENIGMA》が十万ミラ以上するから何となく値段は想像はついてたけど」
「今更だけど《ARCUS》ってそんな価格なのね……」
「ふふ、それにエマ様やエリオット様がテスターになってくださってる魔導杖ですと――それこそ一つ100万ミラを超える最先端の導力器になりますわ」
あの魔導杖、安物とは思ってはいなかったが、それ程迄に高価な代物だったなんて。
「……これ、二人には言わない方がいいね……」
「それがいいわね……」
「ん」
三人の意見が一致する。本当の事を話してしまえば、カタカタ震えて魔導杖が持てなくなってしまいそうな二人が脳裏に過る。
「まあ、魔導杖もそうだけど……試作品っていうのはどんな物でも高くなるものよ。ちゃんと軍みたいな大きな顧客から大量発注を貰って、初めてメーカーも量産体制を整えてもっと安い値段でも採算が採れる様になるの。その結果、やっと単価を下げれるのよ。特に武器は開発費が物凄く掛かるから、その銃みたいに曰くつきな試作品は相当高く付くわけ」
「な、なるほど……」
アリサが分かりやすく教えてくれる。流石はラインフォルトのお嬢様だ。
「それに――銃としてもルーレ市の工廠の端で眠っているよりかは、エレナが使っててくれた方がいいでしょ。作った人もきっとそれを望んでるわ」
「そ、そんなものかなぁ……」
「ふふ、流石はアリサお嬢様ですわ。設計や開発に携わった社員の方々の事を思ってのお言葉――このシャロン、感激いたしましたわ……!」
「こ、こらっ……!」
泣き真似がいつもに増してわざとらしいシャロンさん。今日は本当に遊び過ぎなんじゃないかと思うけど、アリサとの掛け合いは不思議な事に見ていて飽きない。
そんな漫才地味た時間が一段落した後、私はシャロンさんからこの銃を使う条件を伝えられた。
「えっと、それだけでいいんですか?」
その条件を聞いた私は、素直にそう思って聞き返すも、シャロンさんは笑顔で頷くだけ。
エマやエリオット君の魔導杖の様に実戦使用でのレポートを月一回提出すれば良いだけ。但し、サラ教官に提出する二人とは違って私は直接シャロンさんに渡して欲しいとの事だった。
そして、彼女の口から放たれた次の一言はもっと衝撃的なものであった。
「そのレポートの提出の前払い報酬として、銃はエレナ様に差し上げます」
「え――いやいやいや!」
いつまでレポートを提出すればいいのか等も決まっていないのにも関わらず『前払い報酬』というのはどう考えてもおかしい。だが、彼女は私の耳元で小さく囁いた。
「これはラインフォルト社の”試験”であり、”投資”なのです。そう会長も望んでおられますわ」
結局、その言葉に私は屈してしまう。本当に、シャロンさんは凄い。
そう思う一方、甘えてしまったという思いも捨てきれなかった。
・・・
翌日、私とフィーは少し遅くの時間までギムナジウム地下の射撃場に篭って、新しい愛銃の試射を行っていた。
命中精度も威力も何もかもが拳銃と一線を画するラインフォルトの最新のアサルトライフルに、私だけではなくフィーも少なからずはしゃいでしまったのもあるが――まあ、そこはご愛嬌。こうして夕食にはちゃんと間に合う様に寮に戻っているだけ上等だろう。
フィーはつまみ食い目当てか、一直線に食堂へと直行していってしまったが、私はそうはいかない。とりあえずは郵便ポストを確認する為に、重いライフルケースを床に置く。ライフル自体はそこまで重くない筈なのに、持ち運ぶのにケースに入れるとかさ張り異様に重く感じるのだ。かといってライフルをそのまま手に持って外に出たりすれば、下手しなくても帝都憲兵のお仕事を無駄に増やす事になってしまうので我慢するしか無いのだが。
ほぼ無償の頂き物に対して贅沢すぎる不満を感じながらポストの扉を開けると、中には一通の白い便箋が入っていた。
「あっ……」
(手紙……! ……なんだ……おばあちゃんか……)
パルム市の郵便の消印があったことに期待を膨らますも、”祖母より”と書かれた封筒の裏の文字に期待が一気に萎む。
お祖母ちゃんには申し訳ないが、期待していた分はやはりがっかりしてしまう。
「はぁーっ」
やっと部屋に辿り着いて荷物を下ろすと、気が抜けたのか途端に大きな溜息が漏れた。一気に疲れが襲って来たような気もする。
ベットに腰掛け、制服の上着を脱いで身軽なTシャツ姿になってから、先程ポストから取った手紙を手にする。
今回もまた『字は綺麗に書きなさい』とか文面には書いてあるのだろうか、それとも夏至祭の準備で忙しい事を書いているのだろうか、未だ見ぬ便箋の文面を思い浮かべながら封筒をペーパーナイフで開封してゆく。
そして、封筒の中の便箋を取り出して私は読み始めた。
「お祖母ちゃんは手紙だとほんとに他人行儀なところがあるんだから――」
いつも通りの事に少し笑いが漏れてしまう。しかし、その次の行に目を走らせた私は――
「――え……嘘……?」
こんばんは、rairaです。
さて、今回は主人公エレナの強化フラグの三回目にして…遂にやっと形となったお話でした。
ええ、シャロえもんが”ラインフォルトポケット”から凄い物を取ってきてくれましたね。
武器自体は凄いのでしょうけど、扱う人がエレナなのが少し残念な所でしょうか。
同時に今回で40話を迎え、この物語の第一部がこのお話で終了となります。そこで、現時点で設定をどこまで明らかにしているか等の私的な整理も兼ねて、オリジナルキャラクターの設定やその他の独自設定をまとめてみました。もし宜しければご覧頂ければと思います。(少し恥ずかしいですが、絵チャっぽい挿絵もあったりします。。)
この話の次話がまとめとなります。
最後まで読んで頂きありがとうございました。楽しんで頂けましたら幸いです。