光の軌跡・閃の軌跡   作:raira

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6月27日 最果ての老紳士

 くすぐったいってばぁ……、もう……。

 人の暖かい温もりに包まれて、そんな甘い声が私の口から漏れてしまう――えっ?

 

「……あ、あれ?」

「おはよ」

 

 ぼやけた視界には綺麗な銀色の髪とまるで橄欖石の様に美しい瞳が。

 あれ、なんでフィーが居るんだろう。それにしても近くないだろうか、まるでこれじゃあキスする直前と言われても何の不自然もない。

 これはどういう状況なのだろう。寝起きの頭はうまく回ってくれない。しかし、何とも言えない感触だけは残る。少しの不快感も混ざるが。

 

「やっと起きてくれた」

 

 何故私はフィーに抱かれて――いや、ちょっとというか、もうどう考えても意味不明なことに、私が自分の両腕で彼女を抱き締めている。

 ああ、私を暖めた温もりはこの彼女の身体の温もりで――。

 

「――っちょっ! フィー、どこさわっ!?」

 

 私の胸に、胸に、手が、手がっ!

 目を落とすと、寝間着のシャツが少しまくられてフィーの腕が入り込んでいる光景。今まで自分自身以外に触れられた事のない部分の感覚が俄に信じられず、私と密着している彼女の顔と自分の胸を交互に二度見してしまう。

 

「エレナが抱きついて離してくれなかったから」

 

 え、嘘。私のせいだというのか、この状況は。

 いやいや、それでもこんな起こし方は想定外というか、論外というか、非常識というか!

 とりあえず、思考が晴れて今の状態が分かってゆくと共に、恥ずかしさから身体に一気に熱せられる。

 

「あ、えっと……いや、だったら揺すったりとか!」

「……まあ、ちょっと確認も兼ねて」

 

 悪怯れることも無くサラッと口にするフィー。

 何の確認だっていうんだ! そう文字通り目の前の彼女に問い詰めようとした直後。

 

「……ひっ……!?」

 

 触れていただけだったフィーの右手が、ほんの少し強く押し付けてきたと思えば、唐突に掴まれて思わず息が漏れてしまう。他人に触られるという初めての、そして、まるで予想出来ない感覚が私に襲いかかった。

 

「うん、勝ってるかも」

 

 もうフィーの言わんとしている意味は分かった。

 そんな訳がある筈がない。絶対、そんな事は私は認めない。

 大体フィーより私の方がちゃんとお姉さんなのだし、背丈だって頭一つ分高いのだ。そんなことが、許されていいのだろうか?

 

 ――否、断じて否だ!

 

 例えドの付く変態のエロ本先輩に見向きもされなくても、アンゼリカ先輩に慎ましいと言われても、お風呂でアリサに同情されるような貧相な体付きでも、Ⅶ組で最も小さなフィーに負ける筈がない。そんな事があってはならない。

 

「絶対、絶対、私、負けてなんかないし!」

「ん……」

 

 私も確認と報復と、自らの誇りの為に、迷わず自由が効く左手をフィーの寝間着の裾から入れ、まだ小さな膨らみに少し強く触れる。

 彼女は瞼を少し細め、少し色っぽいような声を零した。

 

「……はぁ……よっし……!」

 

 我ながら熱いと感じる吐息と共に、心の中でガッツポーズを決める。もっともよくよく考えれば、何とも寒い惨めなガッツポーズの様な気がしなくもないが、勝利は勝利だ。そして、私にとってはこの戦いが負けられない戦いであった以上、”勝利か、さもなくば死あるのみ”。

 首が繋がるような思いとは、今の私が感じている安堵感なのだろう。

 

「……むぅ」

 

 私の腕の中のフィーは頬を染めて恥ずかしそうに顔を逸らしてしまう。

 初めて見る彼女の仕草に、さっきまで少し小憎たらしい感じに思えたフィーがなんだかとても可愛らしく感じてしまう。このままずっと抱き締めてあげたい、そんな気持ちがぽっと浮き出て来たのを、すぐさま頭の中から消し去る。しかし、その様な気持ちが生まれたことの記憶は、消すことは出来ない。

 ……これが、まさか、アンゼリカ先輩の……いやいやいや、まさか、そんな――。

 

「フィー……エレナ……?」

「き、君達は……い、一体……何を……?」

 

 部屋の反対側の壁際でまだ寝ぼけた様子でこちらを向くエリオット君と、その隣で目を見開いて顔を赤らめたマキアス。

 そう、女子と男子で結構な距離はとってるとはいえ、今回は一緒の部屋で雑魚寝だったのだ。

 

「うわあああぁっぅ!」

 

 私は気付けば立ち上がって、二人に向けておもいっきり枕を投げつけていた。

 

(ばかばかばかばか!)

 

 フィーのバカ! 私のバカ! マキアスのバカ! エリオット君のバカ!

 

「何があったのだ……?」

 

 私の視界の端で、たった今大剣を抱えて部屋に戻って来たラウラが困惑していた。

 

 

 ・・・

 

 

「結局、僕達に課題を出すのは軍曹じゃないんですね」

「ああ、昨日も言った通り僕はあくまで案内人だからね」

 

 B班の一応のリーダーであるマキアスとアルマン軍曹のやり取り。

 つい先程、昨晩訪れた酒場で頼んでおいたお昼ご飯を受け取った私達は、今特別実習の課題を受け取りにとある人の居る場所に向けて歩いていた。

 

「はぁ……」

 

 少し前を歩くマキアスとエリオット君の背中を眺めていると、溜息が溢れる。

 フィーとの何とも言えない恥ずかしい戯れを見られてしまったのは、やはり一生の不覚だった。

 勿論、あの後に必死の弁解と枕を投げつけた謝罪によってマキアスとエリオット君の誤解こそ解けたものの、あの状態を見られたという事実がある事には代わりない。

 

 私とフィーについてどんな事を思ったのだろうか。やっぱり、クラスメートの、それも同性同士でそういう関係なのだと勘違いされたのだろうか。一応は、あの弁解を信じてくれているとは思うが、仮に一瞬であってもそんな誤解をされるのは心外だ。

 

(だって……それじゃ、まるで私がアンゼリカ先輩みたいな感じになっちゃうじゃん……)

 

 再び、本日何度目になるか分からない溜息が溢れる。

 

「……やはり、どうかしたのか?」

 

 心配してくれているのだろうか、丁度隣にいたラウラの顔が少し曇っている。

 彼女は朝の素振りの特訓であの場には居なかった為、何があったのかは知らない。ただ、彼女が帰って来た時に丁度私がマキアスとエリオット君に枕を投げつけて騒いでいたので、何かがあった事は知っているのだ。

 それを言っていないので、心配されている。

 

 しかし、ラウラに言えるだろうか。

 

 寝ぼけた私が寝ている間、ずっとフィーに抱きついていた事。

 彼女がどうしても起きない私を起こそうとして胸を触った事。

 起こされた私が彼女の「勝った」という言葉に半ば我を忘れて、同じ事をやり返した事。

 勝利の喜びに思わず大きな声を出したら、同じ部屋で寝ていたマキアスとエリオット君を起こしてしまい決定的瞬間を見られた事。

 

 要約すると「フィーとお互いの胸を触り合っていたのを男子二人に見られました」。そんなこと恥ずかしくて言える訳がない。

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

 そうラウラに返してこの話を打ち切る。心配してくれている彼女に対して酷い仕打ちかも知れないが、上手く朝の経緯を説明する自信がない。私ももっと口が上手ければ良かったのに。

 

 もっとも、そんな原因を作ったフィーは私とは対照的に呑気に口笛を吹きながらみんなの先頭を歩いてるのだが。

 やっぱり小憎たらしい、と心の中で付け加えながら彼女の背中を見ていると、それに気付いたのか隣を歩くラウラが再び口を開いた。

 

「しかし……エレナは仲が良いのだな……」

「え……?」

「朝の鍛錬に出た時、二人が……仲良く寄り添って眠っていたのを見てな」

 

 アレを見られていたなんて。よくよく考えればラウラは私達の中で一番早く起きて外に出たのだから、見ていて当然なのだが……私にとっては頭痛の種がまた一つ増えた。

 特別実習二日目の初っ端から起きた出来事は、私が頭を抱えたくなるような衝動に駆られるのに十分過ぎる程だ。

 

 小さな集落を出て整備された森を通ると、私達は黒色のお洒落な鉄柵を目にすることとなる。鉄柵はまず登ることが出来無さそうに思える程高く、その向こう側には幅の広い道路があった。

 

「道路?」

「立派な道だな」

 

 鉄柵の一部が扉となっており、その扉を鍵を手にした軍曹が開ける。今にして思えば、初めて彼が仕事らしい仕事をしている所を見たかも知れない。

 

「確かに……だが、こんな石畳は……まるで……」

「バリアハートみたいだね」

「そりゃあ、この島のある意味、存在意義とでもいうべきものだからね」

「昨日の夕食の話で出た話ですか?」

 

 昨晩の食後にこの島に関する基本的なお話を、私達はアルマン軍曹から聞いていた。

 

 帝国西部ラマール州の西端であり北端、西の大公爵と名高い《四大名門》カイエン公の領地の最辺境でもあるブリオニア島。

 帝国全土の地図から見れば島はラマール州の本土から幾分か北に離れており、300セルジュ程の狭い海峡を隔てた東側の対岸には帝国の北西部領土がある。

 

 食後のテーブルに広げられた帝国全図に指差しながら説明するアルマン軍曹の説明は多少辿々しいものの、要約すればこんな感じか。

 もっとも彼の広げた地図は相当古い様で、半分以上切れている北西準州は一つの小国と二つの自治州の領土という事になっていたが。

 

「こうして見ると大分北に位置しているのだな」

 

 ラウラが頷きながら、納得したように呟く。

 

 そりゃあ、そうだ。

 地図の中で自分の故郷を探してみる。中心近くに位置する帝都ヘイムダルから伸びる鉄道の線を辿りれば、すぐに地図の南端の方にパルム市を見つけれた。そのすぐ南側に国境の赤線と違う色で塗られているリベール領があるのだから丸わかりだ。そこからアゼリア海に向かって西に辿ると……あまり聞き覚えのない村を経て、海沿いに”Rifugio”という名前が見つかる。

 

 うん、やっぱり優に一万セルジュは超えている。地図の一番下から一番左上端だ。こうして地図上で見ると本当に遠くまで来たことを再確認できる。

 そんな感傷に私が浸っていると、今まで眺めていた帝国全図の上にこれまた少し古そうな地図を上から被せる様に広げられ、そこには先程までいちご程度の大きさしかなかったブリオニア島が大きく描かれていた。今度はブリオニア島自体の話となるのだろう。

 

 ブリオニア島は北島と南島の二つの島と周辺の岩礁から構成され、今私達が居るのは南島の南端にある唯一の集落。島の人口は三百人程度で小さな漁村のある南島が島民の主な生活拠点となっている。やはり村の規模ではリフージョの村と同じぐらいであり、先程此処に来るのに歩いた際に雰囲気が似ていると思ったことも納得出来る。

 ただ、全てが似ているという訳も無く、この後に続いた話は私の故郷とは大きく事情が異なった。

 

「別荘地……ですか?」

 

 この島に似合わないといったら失礼かもしれないが、意外な言葉に思わず私が聞き返してしまうと、アルマン軍曹は「もっとも今となっては殆ど誰も来ていないけどね」と付け加える。

 

「この近海を流れる海流の影響で夏でも涼しいから、元々避暑地として中世の頃にこの島は開拓されたんだよね。だから、この村は貴族様のお世話の為に作られたようなものだったり」

「なるほどな……」

「ふーん」

 

 複雑な顔をしながらも興味深そうに頷くマキアスと、全く興味無さそうに地図を眺めるフィーは対照的だ。

 

「貴族の別荘地ってことは、ラウラの家の別荘とかもあったりするの?」

 

 と、訊ねたのはエリオット君。奇遇な事に、私も少し同じ事を思った。

 

「いや、私が知る限り別荘が有るという話は聞いたことは無いな。我がアルゼイド家は武を重んじる騎士の出であるし、領地も美しいが決して豊かではない辺境の少領だ。別荘を構える様な派手な暮らしは出来ぬ」

 

 仮にこの島にアルゼイド家の別荘があれば皆を招いている、と困ったように笑ってラウラは続けた。

 

 リィンのシュバルツァー男爵家も、言う程貴族らしい生活はしていなかったと言っていたのを思い出す。勿論、リィンやラウラが庶民と同じ生活をしているなんて事はまずあり得ないとは思うのだが、それでもユーシスの実家で《四大名門》の一角であるアルバレア家やこの島に別荘を構えれる程の財力を持つ貴族と比べれば大分見劣りしたりするのかも知れない。

 まあ、私から見ればどちらも雲の上であることは変わりないのだけども。

 

 そういえば――と、この話から話題を変えようとしたのはマキアスだった。

 

「ブリオニア島は古代の巨石文明の遺跡が残ると聞いたのですが」

「ああ、《神々の庭園》か。それは――」

 

 アルマン軍曹の指が今私達がこうやって滞在している南島の真上に位置し、三倍以上の大きさのある北島を指す。

 

「――北島だな」

 

 地図に記された等高線の数から南島とは対照的に険しい場所の多い島のようだった。

 

 

 そんな昨晩の地図を思い出すと良く分かる。地図上の大きさからブリオニア島の本体とでも言うべき北島の威容、あの透き通るような空の下の美しい岩肌の山々は此処からでも望むことが出来た。

 それにしても、ブリオニア島はとても変化に富んだ場所の様だ。大自然の中とはこういう――って、高い鉄柵に囲まれたこんな立派な石畳の道路を歩きながら、”大自然”なんて我ながら少しまだ早い。もうちょっと大自然を感じれる場所に行ってから考えるべきだ、と自分を言い聞かせて納得する。

 

 石畳の道は途中で何度が分岐し、いくつかの小道に通じていた。私達もその内の一つへ進み、森の中の少し小高い丘を登ったその先にあったのは、間違っても貴族らしい別荘とは思えない一軒のログハウスだった。

 

 軍曹は勝手に建物の扉を開け、そのまま階段を登ってゆく。

 流石に人の家に上がり遠慮等の全く感じさせ無い案内人に少し心配になるものの、私達も後に付いて行くしか選択肢は無い。

 

「バロン、彼らを連れてきましたよ」

「もう爵位は息子に移譲しているがね、ウォルフ」

 

 部屋の扉を開けた軍曹に答えたのは老人の声だった。

 そんな老人の声に「僕らにとってはバロンはバロンです」と軍曹は笑いながら返し、私達に部屋に入るように促す。

 

 部屋の奥、飾り気のない執務机の椅子から腰を上げた老紳士。彼は全く衰えを感じさせない上品な雰囲気を纏っており、それは誰が見ても良い意味での貴族らしさを感じさせるものだった。

 

「皆、こんな遠くまでよく来たね。はじめまして、私はモルゲン。昔はレイクロード男爵だなんて呼ばれていたが、今はただの釣り道楽だよ」

「釣り……ああ! レイクロードってあの!」

 

 マキアスが小さく声を上げる。

 

「ほお、君も釣りを嗜むのかね?」

「い、いえ……そういう訳では、帝国随一の釣具メーカーの名前としてだけ……」

 

 歯切れの悪いマキアスの言葉に、私もそんな会社の名前を思い出した。

 ああ、確かにそう言われれば村の店にもそんな釣り竿が置いてあった気もする。興味は無かったけど。

 

「そうかねそうかね。うんうん」

 

 決して良い返事ではなかったのにも関わらず、目の前の老紳士は満足そうに微笑んだ。

 

「レイクロードという名も随分有名になったものだよ。これも趣味にかまけてばかりな私の代わりに、息子達が頑張ってくれたお陰だろう」

「ってことは……あの、モルゲンさんはケネスのお爺さんなんですか?」

「ああ、孫のケネスがお世話になっているのかな? うんうん、私としてもケネスの学友の手伝いになるのならと思いこの役を引き受けたのだ」

 

 と言っても、君たちの学院から預かった封筒を渡すだけの役なのだがね――と付け加えるモルゲンさん。

 

「いっつもあの池で釣りしてるのを見る。よくリィンも居るよね」

「あ、確かに」

 

 結構楽しそうに話しながらリィンとケネスが釣りをしている光景は偶に見かけたりする。

 

「確か、釣り好きの部活だっけ? そんなのに入っているんだよね。リィンがこの間、階級が上がったって話してた」

「ふふ……孫達も同好の者達と仲良くしているみたいで結構なことだ。今では孫達も協力してくれていると思うと本当に釣り人冥利に尽きる」

 

 さて――と見慣れた封筒を机の引き出しから取り出した老紳士は一区切り付けてから続けた。

 

「老人の長話に付き合わせてしまってすまないね。これが私が君達の学院から預かっていた物だよ」

 

 老紳士の手にあるのは士官学院の紋章の入った封筒。

 間違いなくケルディックやバリアハートでも渡された、その中身は特別実習の課題の内容が記された書類だった。

 

 特別実習二日目の課題、初日の昨日はブリオニア島迄の移動で丸一日費やした為、課題という意味合いでの特別実習は一日目ではあるが、まあ細かい事はいいだろう。

 今日の課題は二つ。まず一つ目は必須課題として指定されている課題で、内容は北島での魔獣駆除。手配魔獣の様な特別危険な魔獣の退治という訳ではなく、ただ単に島民がよく入る北島南部の安全を確保する為に魔獣の数を減らすのが依頼の目的だ。

 これは中々に骨が折れる依頼かも知れない。

 そして二つ目に出された課題は、目の前の老紳士からの依頼としか思えないものだった。

 

「川を遡上する魚の生態……ですか……」

「本当は私が釣りに行きたいんだが、足を怪我してしまっていてね。それに、北島は魔獣が多い。老いぼれ一人では難儀な場所だよ」

 

「えっと、でも僕達、釣りは出来ないんですけど……?」

 

 マキアスとエリオット君は都会育ちなので、中々釣りをする機会というのにも恵まれないかも知れない。となると、私を除けば後はラウラとフィーだが……。

 

「私も釣りの経験は無いな。こんな事ならば《アプリコーゼ》の主人に教われば良かったのかもしれん」

 

 私がラウラにの方を気にすると、すぐに彼女は意図を察したように答えた。うん、何となく思った。だって、ラウラが釣り竿を持っている姿があまり想像できない。

 となれば、最後はフィーとなるのだが――。

 

「川を昇る魚ってサモーナだよね? 手で掴むなら多分出来るよ」

「君は……まあ、それはそれで凄いが……」

 

 まるでクマですか、と言いたくなるフィーの言葉に呆れ顔をするマキアス。

 その隣でエリオット君が「リィンが居れば」と零す。そういえば、リィンは今頃どうしているだろう。アリサをまだ鈍感な一言で不機嫌にさせていないだろうか。

 この場に関係ないアリサとリィンについて妬ましい気持ちが浮かんだ所で、考えを戻す。誰も釣りを出来ないとなればここは私がやはり名乗り出るしか無いけど……自信は全くない。

 

「私、海釣りならやった事あるよ」

 

 パッと皆の顔が明るくなり私に集まる。

 

「でも……その、どの場所で釣れるかとか……餌とかは分からないから……」

 

 だって大体横で見ていただけだから、私はすぐ飽きてしまうのだ。子供にとってはあの長い待ち時間は少し苦痛だ。

 話題合わせの為に色々な本を読んだが、今思い返せば釣りの本を読んだ記憶は無い。よっぽど当時は興味が無かったのだろうが、まさか何年も後にこんな機会が訪れるとは思いもよらなかったと、内心苦笑いする。

 

「ふむ、なるほど」

 

 そんな言い訳をした私は、少しの間老紳士に真っ直ぐな視線を向けられる。そして、十歳以上も若く見えそうな笑顔を浮かべたと思えば、先程封筒を取り出したのとは別の引き出しから小さな本を取り出し、嬉しそうに万年筆を取った。

 

「お嬢さん、釣りは嫌いかね?」

 

 小さな本に優雅に何かを書き記してゆく老紳士が私に訊ねた。

 

「嫌いでは……ないですけど……」

「よろしい」

 

 暫くした後、筆を置いた老紳士に一冊の小さな本を渡された。それは、一昔以上前の大きさの手帳。

 まるでブリオニア島から望む外洋と魚の色を連想させる、青地に銀文字で記された少しばかり古臭い表題だった。

 

 ”釣人手帖”、”著 レイクロード社 社長 モルゲン・レイクロード男爵 千百六十年発行”。




こんばんは、rairaです。
そういえばもうすぐ碧Evoの発売日ですね。私もAmazonさんが12日にちゃんと届けてくれるのか少し気掛かりです。

さて前回やっと実習地のブリオニア島へと辿り着き着きましたが…今回はやっと課題を受け取りました。そして、何気にちゃっかりと主人公しか貰うことの出来ない釣り手帳を手に入れてしまいました。
いつかケネスに見せてあげたいですね。腕の方は…相当に疑問符が付きますが。

朝の出来事はエレナ本人的には所謂黒歴史という物になりそうです。

次回は久しぶりの戦闘となりそうです。エレナはラインフォルト社から頂いたライフルで本当に活躍できるのか、そして複雑な思いのラウラにスポットライトが当たりそうです。

最後まで読んで頂きありがとうございました。楽しんで頂けましたら幸いです。

2016年10月6日 最新話との齟齬が生じたジュライ特区・北西準州に関しての表現を一部訂正及び削除いたしました。
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