光の軌跡・閃の軌跡   作:raira

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3月31日 特別オリエンテーリング part 3

 不機嫌絶頂のアリサは私の数歩前をつかつかと歩いている。

 先程の部屋を出て以降、何度かアリサの前に出て謝ろうとしても、一瞥され顔を背けられてしまう。

 それでも、この四人の中で一番後ろを歩く私のすぐ前を歩いてくれているのは、アリサの優しさに他ならないと私は思っていた。

 

「ごめんね、そんなに怒らないでよー……」

「私、全然怒ってなんてないけど?」

 

 やっぱりアリサはご機嫌斜めだ。

 その声色とキリッと吊り上がった深紅の瞳がまた冷たい。

 

「絶対怒ってる! ってゆうか、絶対怒らせた!」

「……怒らせた自覚はあるのね……」

 

 呆れたようにアリサは溜息を付く。

 

「でもさ、早く謝った方が絶対にいいよ? きっとこのまま気まずくなったら余計……」

「誰が、誰に、謝るですって?」

「あ、あはは……早く仲直りした方が……だって、あれはアリサを助けようとして――」

 

 そこで私の言葉は、今までと明らかに小さな声に遮られた。

 

「……そんなの知ってるわよ」

「え、知ってたのにぶっ叩いたの!?」

 

 単にアリサはリィンのラッキースケベ的行為に怒っていたのかと思っていたのだが、どうやらリィンが本来は助けようとしていた事を知っていたのは驚きだった。

 

「……だって、あんな事になってたって思ったら恥ずかしくて……その感触とか息遣いとか……」

 

 俯いて呟くアリサは「男の子とあんなに密着するのも初めてだし……」と言い訳なのかぶつぶつ続ける。

 

(そりゃあ、私だってないけども……)

 

「……ってことは、照れ隠し……?」

 

 だが、頬を紅潮させたアリサから返事が返ってくることはなく、彼女はしれっと話題を逸らした。

 

「コホン……そういえば、さ。あなたアイツの知り合いなの?」

「え? アイツってリィ……」

「あの黒髪の不埒な男よ」

 

 どうやらこのお嬢様、今はリィンの名前は口に出したくないし、聞きたくも無い様だ。

 

「……あはは、知り合いっていうか今日の朝駅で会ったばっかりなんだけどね」

「……まさか、あなたもライノの花に見蕩れてアイツの背中に当たって転んだクチ?」

「え、なにそれ?」

 

 少しの間を置いて神妙な面持ちでアリサは尋ねてくる。

 一体なんなのだろう、この微妙にあり得なさそうで、あり得そうなシュチュエーションは。

 

「……ごめん、今のは気にしないで」

「あ! そっか、あの時謝ってたのはそういう理由だったんだ。」

 

 きょうの私は冴えているようだ。あの時、二人がトラブってそうに見えたのはこれが理由だ。

 また怒られないだろうか心配になる位に、もうニヤつきが収まらない。

 

 アリサは慌てながらも、冷静になって何故私がその場面を知っているのかとしつこく問われる。

 結局、朝のリィンとの経緯を長くなりながらもアリサに説明することとなった。

 

「……まさか覗き魔さんがいるとはね」

 

 再びアリサのジト目からの呆れた視線を浴びせられる。

 

「覗き魔とは失礼っ……でも、花に見蕩れてリィンの背中に当たって転ぶだなんて、アリサもただの間抜けじゃんねっ」

「……入学式で居眠りして、ついさっきまでよだれの跡つけてた、貴女には言われたくないわね」

「……ぐっ……勝てない」

 

 なんだろう、売り言葉に買い言葉とはこの事なのだろうか。

 決して小さくない敗北感が突き刺さる。

 ただでさえ、色々と負けてる自覚はあるのに――アリサは私より可愛い。

 童顔は似ているが、髪型やスタイルは絶対負けている。そして認めたくないけど――おおき…い…。

 勝っているのは、背丈だけじゃないか。

 

 

「ふふ、アリサさんとエレナさん、まるでずっと友達だったみたいに打ち解けてますね」

 

 私達二人の前を歩くエマが、こちらを振り返りながらラウラに声をかけた。私達に対して話している訳ではないが、狭い地下空間という音の響きやすい場所柄から、バッチリ聞こえており、私とアリサは思わずお互いに顔を向け合う。

 

 ちょっと、照れくさいかも。

 

 目の前で小さく苦笑いするアリサ。きっと私も同じような顔をしているんだろう。

 

「ああ、少し羨ましいな。しかし、まだいつ魔獣が出てくるか分からないというのに……む。言った傍からか……」

 

ラウラは魔獣の出現の知らせを呼びかけるのであった。

 

 

・・・

 

 

「《ARCUS》駆動――!」

 

 先程決めた作戦通りに私はアーツを駆動させる。

 戦術オーブメント《ARCUS》を取り出し、蓋を開け――今は唯一のクオーツであるオーブメントの中心に填る銀曜石のマスタークオーツを指で触れる。

 戦術導力器の難しい原理は全くもって分からないが、使い方は至って簡単である。私も無事にアーツの駆動モードへ入り、体の周りを帯の様に半径一アージュの範囲で覆う円形の魔法陣が出現する。

 ここから発動までの時間は、駆動を早める効果のあるクオーツや駆動者自身の能力など個人差があり、一定ではない。

 

 駆動中はあまり集中力を切らすことは許されないが、それでも周りの状況は確認しなければならない。

 目の前では魔獣の群れの中に突っ込んだラウラが、凄まじい勢いで大剣を振り下ろし衝撃波で薙ぎ払う。複数の魔獣に致命的なダメージを受け、それをエマがタイミング良く魔導杖を振り、近い距離から止めを刺す。

 

「やあぁぁっ!」

 

 再びラウラの大剣が凄まじい勢いで振り下ろされるが、その型は先程とは違って突き刺すような形で魔獣を串刺しにした。

 

「アリサさん!」

「ええ、《フランベルジュ》!」

 

 エマの声に呼応する形で、アリサの弓から放たれる矢は炎を帯びていた。

 見蕩れる程綺麗な炎の弓矢はラウラの近くにいた《飛び猫》に直撃する。これは致命打になった様で、飛び猫は動かなくなった。

 

(ちょっとアーツ駆動中に戦闘が終わるのだけは――)

 それだけは勘弁して下さいと、心で女神に祈ろうか悩み始めた直後、駆動が終了したのを感じた。

 

「いっくよ! ――《ルミナスレイ》!」

 

 幻属性の眩い白色の光芒が私の前方から一直線に部屋を貫く。

 射線上にいたグラスドローメとコインビートルが一匹ずつ飲み込まれ、大きな手傷を負わせた様子が眩しい光の残光の中からもはっきりと判った。

 ただ一匹だけ、射線沿いの際どい場所に居た《飛び猫》が避けてしまう。

 

(でも、これなら…いけるっ!)

 

 飛び猫は私の故郷でもお馴染みといって良い位の魔獣だ。そして、銃弾への有効的な防御手段は持たない。

 

「――《スナイプショット》!」

 

 銃を構えるとしっかりと飛び猫に狙いを付け、銃弾を叩き込んだ。

 大きな反動が腕に響くが、銃弾は飛び猫の急所を突き抜け、これを確実に仕留める。

 私は少しの間心に満ちる達成感と成功感に酔い、呆然と銃を構えた姿勢のまま立ちつくした。

 

「わぁ、エレナさんお見事です!」

「へぇ、中々やるじゃない!」

 

 アーツも戦技も成功という、少し出来すぎた成果に呆気にとられていた私を現実に戻したのは二人の賞賛だった。

 一番近くにいたアリサがこちらに歩み寄って左手を少し挙げる仕草をするのを見て、私は出来る限り満面の笑みでその手に自分の手を重ねる。

 

「えへへ――」

「もうその緩みきった顔、どうにかしなさいよ……」

 

 ハイタッチしてからというものの、どうしても緩んでしまう顔をアリサに少し呆れた風に指摘されるが、それでも暫くは直りそうにない。

 多分、そこそこ長く銃を扱ってきて今回程上手く決まったのは初めてではないだろうか。

 特に今日は一緒にパーティを組むこの四人の中で最も貢献出来ていなかった自覚もあるので、尚嬉しい。

 先程まで心を満たした達成感は、人の役に仲間の役にたったという充足感に変わっていた。

 

「ふふ、そなたは精密な射撃の方が得意のよう――」

 

 ラウラの感想を遮るかの様に突如、大きな咆哮が響く。

 魔獣なのだろうか、明らかに邪悪な意思に満ちているのを感じた。

 

「ひぃっ」

「な、なに?」

 

 途端に目の前のアリサの顔に怯えの色が混ざる。

 何か腕を掴まれているような気もするが、そういう自分の手も知らず知らずの内にアリサの腕を掴んでいたのでおあいこ様だろうか。

 

「近いな……」

 

 先程とは打って変わって真剣な表情のラウラが、この部屋からの奥へ続く通路を睨む。

 

「……まさか……」

 

 ふとエマが何か小さく呟いた様な気がした。しかし、小さすぎた事もあり誰一人として、周りに聞こえる事はなかった様だ。

 

「先を急ごう。もしかしたらこの先で誰かが襲われてるのかも知れん」

 

 

・・・

 

 

 私たちは急いで咆哮の主の方向へと走った。

 基本的に一本道だったので迷うことなく、走る事数分ですぐにその場所を視界に入れた。

 そこには数アージュはあるであろう翼のある大きな怪物の体躯と、その周りを囲む赤い制服を着た男子達の姿があった。どうやらリィン達の様だ。

 

「あれ、怪物!? なんか悪魔みたいな外見してるし!?」

 

 怪物の姿を見た私の口から、思わず悪魔という言葉が零れた。

 

「手強そうだ……アリサ、エレナ! 後方から牽制と支援を! 私とエマはタイミングを置いて突入する!」

 

 走りながら指示を出すラウラに私以外の二人はそれぞれ頷く。

 

「下がりなさい!」

 

 アリサが掛け声と共に牽制を行う。

 掛け声で射線の空いた前方に向かって、アリサの導力弓から発射された何本もの矢が私の横を勢い良く飛んでゆく。

 私はそれを横目で見ながら怪物のいる部屋に走り込み、狙いを付けて何度も引き金を引く。

 引き金を引くたびに、両腕が数リジュ持ち上がる程の反動を受けながらも秒以下の間隔で素早く連射する。

 

(1、2、3、4、5…)

 丁度六発目を数えたところで、計算通り次弾の装填がされなくなり、手で握る銃のスライドが下がりきる。

 急いで空になったマガジンを出し、ポケットから取り出した新しいマガジンを入れる。

 六発でもラウラとエマの突入を助ける事は十分であり、私の弾切れを合図に動きに隙ができた怪物をラウラが斬り込む。

 それに続き、エマの光の泡を連想させる不思議な魔導杖の攻撃が追い討ちをかけた。

 

「き、君たちは……」

「追いついたか……!」

「助けに来たよ!」

「ふう……どうやら無事みたいね!」

「す、すみません! 遅くなりました!」

「いや助かった……!」

 

 リィン達と合流し、各々言葉を交わす。

 四人は大分疲労の色は見えるが、誰一人大きな手傷を負うこともなく善戦していた模様だ。

 しかし、怪物は再び不快な甲高い咆哮を上げ、私たち四人の連携も怪物にはあまり効果的なダメージは与えられていないようであった。

 

「石の守護者(ガーゴイル)……暗黒時代の魔道の産物か。どうやら凄まじく硬いようだ」

「ああ、しかもダメージを与えても再生される……!」

 

 ダメージを与えても再生なんて嘘のような話だが、ユーシス様の顔に浮かぶ苦い表情から虚言ではないようだ。

 

「だが、この人数なら勝機さえ掴めれば――」

 

 リィンが語った”勝機”は奇しくもすぐに訪れた。

 

「まぁ、仕方ないか」

「よし、間に合ったか」

 

 ガーゴイルを囲んで対峙する私たちの後ろから声がした。振り向くと銀髪の女の子とマキアスが後ろの通路の出口に立っていた。

 

「導力銃のリミットを解除――喰らえ《ブレイクショット》!」

 

 マキアスの大型のショットガンから放たれた拳銃とは比べ物にならない大口径のスラッグショット(一粒弾)がガーゴイルに直撃し、明らかなダメージを与える。

 その隙に、銀髪の女の子が驚異的な身のこなしで、ガーゴイルの至近距離に近づき更なる攻撃を加えた。

 

 この隙を無駄にしてはならない――と脳裏に過る考え。

 

 しかし、それは私の思考ではなかった。

 アリサが弓を構えるのが分かる、リィンが太刀を構え斬り込もうとしているのが、エリオット君が魔導杖を振り下ろそうとするのが――手に取るように、一斉にガーゴイルを攻撃するみんなの動きが見えた。

 

 そして――ラウラがガーゴイルの首を切り落とした。

 切り落とされた頭部と胴体は瞬時に色を失う。それを見ると、今までの戦いは幻であって、この怪物はずっと石像であったかのようだ。

 

 戦闘が終って暫くし、エリオット君がある疑問を投げかけた。

 

「それにしても……最後のあれ、何だったのかな?」

「そういえば……何かに包まれたような」

「ああ、僕も含めた全員が淡い光に包まれていたな」

 

 アリサとマキアスが同じく不思議そうに続ける。

 

「私、みんなの動きが視えた。アリサが炎を纏った矢を撃った所、リィンが斬り込む所……」

 

 私は確信があった。これは事実だ。

 

「……確かに私にもアリサやエレナの動きが視えた……立ち位置は怪物の影になって正確には見えないはずなのだが」

 

 ラウラも不思議そうに語った。

 

「多分、本当に視えたんだと思う」

「ああ、もしかしたらさっきのような力が――」

 

リィンの言おうとした言葉は遮られる。

 

「――そう。《ARCUS》の真価ってワケね。」

 

 拍手をしながら目の前の階段を降ってくるサラ教官。

 

「いや~、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利よね。うんうん。お姉さん感動しちゃったわ。これにて入学式の特別オリエンテーリングは全て終了なんだけど……」

 

 彼女は一旦そこで言葉を切って、私たちを見渡してから続ける。

 

「……なによ君たち。もっと喜んでもいいんじゃない?」

「よ、喜べるわけないでしょう!」

「正直、疑問と不信感しか湧いてこないんですが……」

 

 各々文句は結構あるみたいだ。

 私としても突然ダンジョンへ叩き落とされたあたりと、悪魔の様な怪物が出てきたあたりを特に説明してもらいたいと本気で思う。

 

「単刀直入に問おう――特科クラス《Ⅶ組》……一体何を目的としているんだ?」

 

 ユーシス様の問いは、この場にいる誰もが聞きたいことだろう。サラ教官もそれを理解した上で話し始める。

 

 結局、私達が《Ⅶ組》に選ばれたのは色々な理由があるそうだが、一番判りやすい理由は《ARCUS》だとサラ教官は説明した。

 新型の第五世代型戦術オーブメント。個人用の戦術オーブメントはここ数年頻繁に規格が更新され続けており、オーブメントを扱える人間でも各国の予算で賄われる軍やそれに準じる組織、遊撃士等の職業でもないと、費用的問題から新型の普及は進んでいないのが現状だ。

 私の故郷の人が扱っていたオーブメントは未だにクオーツが六つしか装着出来ないタイプであり、性能は《ARCUS》とは雲泥の差及だろう。

 《ARCUS》は様々なアーツが使えたり通信機能を持っていたりと多彩な機能を秘めているが、その真価は《戦術リンク》――先程私たちが体験した現象にあるとの事だ。

 しかし、戦場において将来革命を起こすかもしれないこの機能、現時点では適性が無ければ使いこなせず、新入生の中で特に高い適正を示したのが私達十人である為に身分や出身に関係のないクラスになったのだと。

 

「さて――約束どおり、文句の方を受け付けてあげる。トールズ士官学院はこの《ARCUS》の適合者として君たち10名を見出した。やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。それを覚悟してもらった上で《Ⅶ組》に参加するかどうか――改めて聞かせてもらいましぉうか?」

 

 一通りサラ教官は説明を終えると、私達に自分の意思で参加を決めるように促した。

 

 皆戸惑っているようで、エリオット君なんかは周りをキョロキョロ見ている。

 一番とはやはり勇気の要るものだろう。しかし最後に残るのもそれはそれで嫌だ。

 やはり最初に言おうと、私は一歩前に出ようとした時、右隣の隣のリィンが既に足を踏み出していた。

 

「リィン・シュバルツァー。参加させてもらいます」

「え……」

「リ、リィン……!?」

 

 驚くアリサとエリオット君。

 でも、私はリィンは必ず参加するだろうと何故かそんな気はしていた。

 リィンは強い。それは武術等の単純な強さではなく、意志の強さも兼ね備えた強さだと思う。

 彼はきっと何があっても”選ばれた”事を放棄はしないだろう。

 

「一番乗りは君か……何か事情があるみたいね?」

「いえ……我侭を言わせて行かせてもらった学院です。自分を高められるのであればどんなクラスでも構いません」

 

(自分を高める……か……)

 高い志なのだろうか。少なくとも自分からは出てこなさそうな言葉だ。

 次は私の番。

 

「はい! 私も参加します!」

 

 ドキドキしながらも一歩前に出る。

 

「あら、元気いいわね。でも、あなたは絶対参加してくれると思ってたのよねー。因みに理由聞いていい?」

「みんな良い人ばかりだからです。ここならやっていけそうっていうか……」

 

 自分で分かる程、最後は声が小さくなってゆく。

 やっぱり後の方にしておくんだった。

 しかし、何が面白かったのだろうか。サラ教官は私の理由を聞いて笑い始めた。

 

「ふふふ、あなたも面白いわね。まだリィン以外は参加するかどうかは決まってないわよ~」

「あっ」

 

 確かにそう言われればそうだ。

 今から一緒のクラスになる人全員の前で恥をかくとは――顔に血が集まるのを、感じる。

 しかし、私が恥ずかしい時間を過ごしたのは、ほんの数秒だった。

 

「ふふ、私は参加させてもらおう。元より修行中の身。此度のような試練は望むところだ」

 

 すぐにラウラが参加を決め、それにガイウスが続く。

 ラウラが私の方を向いて笑ったのは気のせいではないだろう。

 エマ、エリオット君、アリサ、そしてサラ教官にフィーと呼ばれた銀髪の少女も参加を決め、残るは例の二人となった。

 

「これで8名だけど――君たちはどうするつもりなのかしら?」

 

 サラ教官とこれまでに参加を決めた八人の視線がマキアスとユーシスに集まる。

 しかし、マキアスはそんな視線には全く動じず、「すぐ仲良くなれる」と、おちゃらけて言うサラ教官に反発した。

 

「そ、そんな訳ないでしょう!? 帝国には強固な身分制度があり、明らかな搾取の構造がある! その問題を解決しない限り、帝国に未来はありません!」

 

「うーん、そんな事をあたしに言われてもねぇ」、とサラ教官は明らかに面倒そうにするが、マキアスのこの言葉にユーシス様が反応した。

 

「――ならば話は早い。ユーシス・アルバレア《Ⅶ組》への参加を宣言する。」

 

 不思議と私にはユーシス様がマキアスの言葉を聞いて、参加を決めた様に思えた。

 そこからは、参加を決めたユーシス様がマキアスを煽り、彼もまた参加を決める。

 いがみ合っているものの、結局二人共参加する事に私は安堵していた。

 

「はぁ……先が思いやられるな」

「そうね……なんだか相当相性悪いみたいだし」

 

 溜息をついてぼやくリィンに、思わずアリサが同意する。しかし、直後にアリサはリィンに話しかけてしまったことに気づくと、プイッと顔を背けた。

 

「そのまま、仲直りすればよかったのにー」

 

 私は小声でアリサに話しかけた。向こう側ではリィンがエリオットと話しているようだ。

 内容は自ずと想像がつく。

 

「ふ、ふんっ。ま、まだ許してないんだから」

 

 そんな事を言う彼女だが、いつまで持つことやら。

 

「これで10名――全員参加ってことね。それでは、この場をもって特科クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する! この一年、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしてなさい――」

 

 

・・・

 

 

 階段の踊り場の更に上。丁度、出口から直ぐの場所に一部終始を見守る人影があった。

一人は二アージュに及ぶ大柄な体躯を誇る、この学院の最高責任者ヴァンダイク学院長。

 

「やれやれ、まさかここまで異色の顔ぶれが集まるとはのう。これは色々と大変かもしれんな」

「フフ、確かに」

 

 もう一人の声の主の濃い金髪を後ろで結っており、紅色の高貴なコートを着用していた。その人こそエレボニア帝国の皇子であり、この学院の理事長を務めるオリヴァルト・ライゼ・アルノールであった。

 

「――ですがこれも女神の巡り合わせというものでしょう」

 

 この十人を選んだのは彼である。

 その一人一人に選ばれた理由があり――帝国の為に期待するものがある事を否定はしない。間違いなくこれから彼らには重荷を背負わす事になるのだ。

 帝国の国土は広大で、そこに暮らす人々には様々な価値観が存在する。そして、身分や出自、出身地――沢山の要素によってそれぞれ価値観は変わり、時に大きな壁となる。

 しかし、そんな壁を始めとする幾つもの障害を乗り越えて苦楽を共にし、固い絆で結ばれた仲間は、きっと将来何事にも代え難いものとなるだろう。

 それは彼が目を瞑れば瞳の裏に浮かぶもの――異国の地でまるで太陽のように底抜けて明るい少女に出会った。そして、彼女に照らされた、忘れられない旅をした、あの日の自分と仲間達の様に。

 

「ほう……?」

「ひょっとしたら、彼らこそが”光”となるかもしれません。動乱の足音が聞こえる帝国において対立を乗り越えられる唯一の光に――」

 

(――そして帝国のみならず、その外への『光』の架け橋に――)

 




こんばんは、rairaです。
やっと序章部分が終わりました。
先は長いですね…のんびり10月30日を目指してゆきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
楽しんで頂けましたら幸いです。

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