ダイアゴン横丁と夜の横丁
親愛なるフラー
イギリスに来たって聞いて驚いたわ! しかも、知らない間にいい男を捕まえて! あなたから送られてきた彼の写真を見たけど、とっても素敵だわ。それで頭も良いなんて、あなたにピッタリの方ね。絶対結婚式に呼んでほしいわ。
ところで、イギリスの生活には慣れたかしら? 二年前にホグワーツに滞在していた時はフランス料理も振る舞われていたけれど、普通の魔法使いの家だから出てくるのはイギリス料理でしょう? 口に合わないかも知れないけれどしっかり食べるのよ! あなた、ただでさえ細いのだからしっかり食べないと体に悪いわ。それと、彼のご家族とは仲良くね。ちょっと心配だわ……。
とりあえず、今度、絶対に会いましょうね。英語の勉強、頑張って! この夏休みにグリンゴッツからお金をおろしにいく予定があるからその時に会えたら会いましょう。いつも通り、返信、楽しみに待ってるわ。
ノエル・ガーネット
***
親愛なるノエル
ありがとう、ノエル。英語の勉強は大変だわ。ノエルはフランス語がペラペラだから、あなたには伝えたいことをしっかり伝えることができるけど、英語だと上手くいかないのよ……。早くあなたに会いたいわ! 土曜日にダイアゴン横丁に行く予定よ。そこで会えたら会いましょうね。それが無理だったら九月一日に九と四分の三番線で会いましょう。ハリーとか、ハーマイオニーとウィーズリー兄妹の見送りをするの。
フラー・デラクール
***
(土曜日に会えるのね! 本当に久しぶりだわ。去年一年間はずっと文通で一度も会っていなかったもの。ハーマイオニーたちにも会えるわ。楽しみだわ……)
ノエルはそう思いながら手紙を読んだ。しかし、すぐに違うふくろうがやって来た。
「ご苦労様。ホグワーツからね」
ノエルは神妙な面持ちで封を切った。
“ノエル・ウェンディ・ガーネットは次の成績を修めた。
天文学 優
数占い 優
呪文学 優
闇の魔術に対する防衛術 優
古代ルーン文字 優
薬草学 優
魔法史 優
魔法薬学 優
変身術 良”
ノエルは羊皮紙をまじまじと見つめた。ほとんど『優』なのだ。正直、『呪文学』と『闇の魔術に対する防衛』と『変身術』以外は全部、『優』はとれると思っていた。けれど、その三教科までなかなか良い成績をとることができたし、『呪文学』と『闇の魔術に対する防衛』にいたっては『優』だ。
(あぁ! 本当に嬉しいわ! ハリーが教えてくれたおかげで防衛術だけじゃなくて、杖の根本的な使い方のコツがわかってきたのね。……ハリーだけじゃなくて、誘ってくれたハーマイオニーとか一緒に練習してくれたDAのメンバーのおかげよね)
(それに、しつこく質問に言っても丁寧に先生たちは教えてくれたわ。ルーナとかジニーは甘いものを差し入れてくれた。みんな、本当にありがとう)
ノエルは微笑みながらふくろうを撫でた。
「ノエル。昼食にするぞー。で、終わったらダイアゴン横丁に行こう。お兄ちゃんとノエルとシャロンでデートだ」
ルイスがノエルの部屋のドアを開けて言った。フリフリのエプロンも着こなしてしまうルイスだが、いつも通り残念な発言をしていた。
「お兄ちゃん、仕事は?」
「今日は休みだ。上司が家族旅行に行っちゃってやることがないんだ」
「パパとママは社畜の如く働かされているのにいいわねぇ。あと、ダイアゴン横丁には行かないわ。土曜日に行くの」
ノエルが言うと、ルイスは目をパチパチさせた。
「もしや、男か? 男と二人で? 俺、死のうかな」
「違うわよ。やめて。もう、ご飯にしましょう。シャロンが待ってるわ」
***
土曜日の朝、ノエルは父を含む何人かの闇祓いと漏れ鍋で言い争っていた。ハグリッドも一緒だ。
「ダンブルドアがおっしゃっていたでしょう! 彼だけで警護は十分よ。むしろ、あなたたちがいた方が邪魔よ」
「しかしですね、お嬢さん。『例のあの人』が狙っているのは紛れもなくハリー・ポッターであって……」
若い闇祓いが言った。
「『例のあの人』がダイアゴン横丁を歩いているとでも? 本屋で立ち読みでもしているのかしら?」
「ノエル。実際にオリバンダーが居なくなった。子どもにはわからないだろうが何が起こるのかわからないだろう。お前は私たちを邪魔と言ったが、それは遊びの邪魔であって、もしもの時にはロクに呪文を使えない彼の方が役に立たない」
カルヴィンは厳しい声で言った。
「私だって、ハリーが生き延びてくれることが一番だと思うわ。それに、ダイアゴン横丁に死喰い人がうろついてるかもしれない。もし、闇祓いに囲まれて歩いている子どもがいたら、それこそハリーがここに居るって言ってるようなものじゃない」
ノエルは負けじと言った。闇祓いたちは顔を歪ませた。
「もう一度言いますけど、ダンブルドアが言いました。そうでしょう?」
「ああ、そうだ。ダンブルドアが言いなすった」
ハグリッドが頷きながら言った。
「わかった。撤収する」
カルヴィンが言った。
「去年、私たちはダンブルドアの言うことを信じずに痛い目にあった」
闇祓いたちは漏れ鍋を出ていった。それと入れ違いにハリーたちがやって来た。
「ノエル!」
フラーがノエルに飛びついた。
「久しぶりね。会いたかったわ」
フラーはフランス語で言った。
「私もよ。元気そうで良かったわ」
ノエルはフランス語で返した。
「みんなも久しぶり」
ノエルは他のみんなを見た。ハリーにハーマイオニー、シリウス。そして、ウィーズリー夫妻とロンとジニー。そして、長い赤毛のイケメンはビルだろう。
「さあ、行きましょう。あまり時間はないわ。ロンもハリーもハーマイオニーもマダム・マルキンのお店に行く必要があるわ。それと、教科書も必要だわ。ノエルはマダム・マルキンのお店に用事はあるかしら?」
ウィーズリー夫人が聞いた。
「あ、はい。ドレスローブを買わないと。でも教科書は大丈夫です。兄が全部揃えてくれました」
ノエルが答えた。
「それなら、四人はハグリッドと一緒に行って、他の私たちは教科書を買いに行こう。それでいいかね?」
ウィーズリーさんが言うと、夫人は少し迷った顔をした。安全のためには大人数で固まっていたいのだろう。しかし、時間の面を考えて了承した。
***
マダム・マルキンのお店には四人だけで入り、ハグリッドは外で見張りをすることにした。ドアを開けると、プラチナ・ブロンドの青年が採寸をしているところだった。鏡にはハリー、ロン、ハーマイオニーの三人だけが映って、ノエルはほとんど見切れていた。
「母上、『穢れた血』が入ってきましたよ」
ドラコ・マルフォイがいつもの気取った声で言った。しかし、振り向いた瞬間、慌てたようにすぐ、向きを戻した。
「私の店でそんな言葉は使ってほしくありませんね!
杖を引っ張り出すのもお断りです」
ハリーとロンは杖を構えてマルフォイを狙っていた。ロンに至っては口が半開きで、今にも呪文を唱えそうだった。
「やめて。……あいつにそんなことをする価値はないわ」
ハーマイオニーが囁いた。
「学校の外で魔法を使う勇気はないくせに」
マルフォイが笑った。
「あなたもでしょう? 少なくともハリーはここで魔法を使っても絶対に退学処分にはならないわ。魔法省はハリーを保護したいのだから。でも、あなたはどうかしら?」
ノエルが言った。マルフォイは黙ったままで、代わりに口を開いたのはナルシッサ・マルフォイだった。
「それをおしまいなさい。私の息子を攻撃すればどうなるか、わかっていますね」
ナルシッサは落ち着いた高慢な顔で言った。やはり、ブラック家なだけあり、美形だ。
「死喰い人のお友だちと一緒に、僕たちを始末しようと言うわけかい?」
ハリーが言った。まだ、杖をおろしていなかった。
「それなら、やってみたらどうだい? もしかしたら、アズカバンの二人部屋を見つけてもらえるかもしれない」
ハリーがからかいながら言った。マルフォイはハリーに掴みかかろうとしたが、採寸中の長いローブに引っ掛かり転んでしまった。ロンが笑った。
「よくも母上にそんな口の聞き方を!」
「もういいわ。この店からは、もう出ましょう」
ナルシッサがマルフォイを制した。そして、二人は荒々しく店を出ていった。
***
「わあ! すごいわ。こんなにたくさん商品があるのね」
ノエルは感激の声をあげた。ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ(WWW)には、若い二人だけで作り出したとは考えられない量の商品がところ狭しと並んでいた。
「本当ね! それに、どれも素晴らしい魔法だわ」
「よくぞ言った、お二人さん」
二人の背後から声がした。後ろを振り向くと派手な格好をしたフレッドとジョージが立っていた。
「あら、二人とも久しぶりね。とっても大盛況ね。
--えっと、これは何かしら? 惚れ薬?」
ノエルがピンクの瓶を掴んで言った。
「そうだ。一回で最大二十四時間の効果がある」
フレッドが言った。
「僕たちの商品を他の物と偽造して配達するサービスもやっている。惚れ薬はもう、ホグワーツの女子生徒たちから注文され始めている」
「そうなの。悪用しなければ良いのだけど……。って、悪用以外に使い道ないわよね? これ。ノエル!? なんで買っているの!?」
ハーマイオニーが叫んだ。ノエルは二人にお金を渡して、惚れ薬を受け取っていた。
「なぜって、とっても興味深いもの。これ、普通の惚れ薬と材料が違うわ」
ノエルが嬉しそうに言った。
「ありがとな、ノエル。じゃあ、楽しんでいけよ」
双子は他の客の所に向かっていった。
「あなたが嬉しそうなら、それでいいわ」
ハーマイオニーが呟いた。
***
「あれ、マルフォイよね? 一人だわ」
ハーマイオニーが窓を覗いて言った。
「母上を撒いたらしいな」
ロンが言った。
あの、息子を溺愛しているナルシッサがマルフォイを一人で歩かせるわけがない。それに、マルフォイだってもう子どもではない。無邪気な理由でナルシッサから離れたとは思えない。ハリーはそう思い、バックパックから透明マントを取り出した。
「入って。四人も入ったら足が見えるかもしれないけど、こんなに人がいればばれないよ」
四人は透明マントに入ってマルフォイを追いかけた。マルフォイが入っていったのは『夜の横丁』だった。マルフォイはボージン・アンド・バークスと看板に書かれた店に入っていった。見るからに邪悪な物が売られている店だった。
「何を話しているのか聞こえればいいのに!」
ハーマイオニーが言った。すると、ロンはどこからか『伸び耳』を出した。
「『邪魔よけ呪文』はかかってないよ。ほら、聞けよ」
ロンが言った。四人は耳を近づけて耳をすました。マルフォイは店主に何かの修理方法を聞いているようだった。
「マルフォイは何をしに来たんだ? 恥ずかしくて持ち歩けないものってなんだろう?」
ハリーが言った。少し声が大きすぎたようだった。ボージンは不審そうに四人がいる方向を見て、ドアの鍵を閉めてしまった。