ハリー・ポッターと鷲寮の少女   作:有栖川八重

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ハーマイオニーの憂鬱

 古代ルーン文字の授業だった。その日の課題をすでに終えたハーマイオニーは、同じく終えたノエルに話しかけた。

 

「ケイティは大丈夫かしら? もうクィディッチの初戦が迫っているのに退院の見込みがたっていないのよ」

 

「ケイティはグリフィンドールのチェイサーだったわね。素人の私でもとても良い選手だってわかるもの。グリフィンドールにとっては痛いわね。それに、たまに練習が塔から見えるのだけど、最近の練習はなんだかひどいわ。ハリーがかわいそうよ」

 

「ロンが最近あまり良くないの。ロンもそんなに悪い選手というわけではないのだけどね……。やっぱり精神的に弱いのよ。去年を見たでしょう? 良いときは素晴らしい選手になれるのだけど、悪いときがひどすぎるの」

 

 ハーマイオニーはため息をつきながら言った。

 

「私だってそうよ。自分に自信がない時とかは三年生レベルの呪文もあやしいのよ」

 

「それは相当ヤバイと思うわ……」

 

 ハーマイオニーは呟いた。

 

「ハーマイオニーはそんなにロンのことが心配なの?」

 

 ノエルはクスクス笑いながら言った。

 

「えっ、違うわ! ……そういうわけじゃなくて、ただ単に、グリフィンドールのチームが心配なのよ!」

 

 ハーマイオニーは慌てて言った。

 

「あら、そう? ……正直になればいいのに、私にはバレバレよ」

 

 ノエルは小さい声で言った。

 

「何か言ったかしら?」

 

 ハーマイオニーはキョトンとした顔で聞いた。

 

「何もないわ。忘れて。

 そういえば、スラグホーンのパーティはロンを誘うのでしょう?」

 

 ノエルが聞くと、ハーマイオニーは少し怒ったような、そしてショックを受けたような顔をした。

 

「さっきの時間、ハリーとロンの三人でその話をしたのだけど--ロンは馬鹿馬鹿しいって言ったの。それで--私はマクラーゲンと一緒に行くべきだって言われて……」

 

「マクラーゲンってあの大きな人ね。『スラグ・クラブ』の。確かに好きな人からそんなこと言われたらショックよねー」

 

「そうでしょう……。って違うわ。私、ロンのことなんか……」

 

 ハーマイオニーが言い終わらないうちにチャイムがなった。

 

***

 グリフィンドール対スリザリンの試合は晴れた良い日に行われた。ノエルは獅子の被り物を着けたルーナと一緒にグリフィンドール側のハーマイオニーの隣で観戦していた。

 

「ウィーズリーがセーブしました。ラッキーなこともあるでしょうね」

 

 解説のザカリアス・スミスがメガホンを通して言った。

 

「ラッキーなんて失礼ね。……あれ、ハーマイオニー、怒ってるの?」

 

 ハーマイオニーはイライラした表情で競技を見ていた。

 

「ねえ、フェリックス・フェリシスは試験や競技で使ってよかったのかしら?」

 

「え? もちろんダメよ」

 

「今日のロンはやたらとラッキーよ。ほら、また」

 

 ハーマイオニーが言った。客席には『ウィーズリーはわが王者』のコーラスが響いていた。

 

「でも、フェリックス・フェリシスをもらったのはハリーよ。それに、もし、ロンが作っていたとしてもあの授業からまだ、半年もたってないわ」

 

「でも、そうね。ハリーが今日の朝、ロンの飲み物に何か液体を入れたのは見違えじゃあなかったのかしら?」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「そんなことに、あの貴重な薬を使うかしら? 他の薬じゃないの? 精神安定剤とか」

 

「私、見たの。あれは絶対に授業で見た……」

 

「ハリーがスニッチを見つけたみたい!」

 

 ルーナが指を指して言った。そして、ハリーがスニッチを掴んだ。グリフィンドールの勝ちだ。大歓声の中、ジニーはなぜか解説者の方に突っ込んでいった。ザカリアス・スミスは壊れた演台の下で弱々しく動いていた。

 

***

 試合後、ノエルとルーナは一緒に城まで歩いていた。

 

「良かったわね。グリフィンドールが勝てて」

 

「うん。あれ、ハーマイオニーだ。泣いてる?」

 

 ルーナが見ている方向に目をやると、視力がそこまで良くないノエルには泣いているかはわからなかったが、確かにハーマイオニーがうつむいて歩いていた。

 

「ねえ、どうしたの? ハーマイオニー?」

 

 二人はハーマイオニーに近づいていった。

 

「ノエル、ルーナ……。私、勘違いで、ロンに酷いことを言ってしまったの……。これが初めてじゃないわ……。いつも、私の勘違いとお節介で喧嘩して……」

 

 ハーマイオニーは大粒の涙を落とし続けた。

 

「うん。ハーマイオニー。静かなところに行こう」

 

 ルーナは妙に冷静に言った。

 

「そうね。今日ならどの教室も空いているわ。ほら、こっちよ」

 

 ノエルはハーマイオニーの肩を優しく叩き、ルーナはハーマイオニーの横を歩いた。

 

***

「気のせいって怖いわね。病も気からって言うしね。私も大事な試験の前に誰かがフェリックス・フェリシスを入れたふりをしてくれないかしら……。あ、ごめんね。ハーマイオニー」

 

 ハーマイオニーはまた大泣きを始めた。

 

「でも、早く泣き止まないと。もう、遅いしグリフィンドールの皆が心配するわよ」

 

 ノエルはハーマイオニーの肩を優しく叩いた。三人の頭上には、一瞬落ち着いていたハーマイオニーが作り出した小鳥たちが飛んでいた。

 

「大丈夫だよ。この教室はグリフィンドール塔から一番近いもン。ほら、誰か来てくれたんじゃないかな?足音が聞こえる」

 

 ルーナが小鳥と戯れながら言った。耳を澄ますと確かに足音が聞こえた。

 

「ハーマイオニー?」

 

 足音の正体はハリーだった。

 

「ノエルにルーナも。あ、小鳥……とってもいいよ」

 

 ハリーが言った。

 

「ロンはどうしたの?」

 

 ノエルが聞いた。

 

「ロンは……。えっと、お祝いを楽しんでいるよ」

 

 ハリーは答えにくそうに言った。

 

「私が居ないことなんて気づかずに?」

 

 ハーマイオニーは今にも壊れそうな声で言った。その時、ドアが突然開いた。入ってきたのは糊でベッタリと貼りつけたかのようにひっついている、ロンとラベンダー・ブラウンだった。四人が部屋に居るのに気づいて急停止した。しかし、にやけ顔のままだった。ハーマイオニーはするりと座っていた机から降りた。そして、荒々しい表情でロンに杖を向け、

 

「オパグノ! 襲え!」

 

と鋭い声で言った。小鳥たちは群れになりロンに襲いかかっていった。しかし、ハーマイオニーは教室から出て行ってしまい取り残されたノエル、ルーナ、ハリーは襲われているロンと、それを助けようとするラベンダーをポカンとした表情で眺めていた。そして、教室からハーマイオニーが出ていくときにすすり泣いていたのを三人ははっきりと聞いた。

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