クリスマス休暇が明けた次の日の朝、談話室の掲示板には『姿現わし』の練習コースの告知が貼られていた。
「ノエルも受けるでしょう?」
自分の名前を早速名簿に書いたレイブンクローの同級生がノエルに尋ねた。
「ええ、受けるわよ。でも、試験に合格する気がしないのよね……」
ノエルは絶望的な顔をして呟いた。
***
翌日の『魔法薬学』の授業では『ゴルパロットの第三の法則』についてで、課題の毒薬に対する解毒剤を調合するというものだった。残念ながらハリーの教科書には何も前の持ち主からの書き込みはなく、ロンやアーニーと一緒に苦戦していた。一方でノエルとハーマイオニーは平然とした顔で薬を調合していた。
「でも、これはわざわざ調合しなくても『ベゾアール石』で大丈夫だと思わない?」
ノエルがハーマイオニーに言った。ハリー、ロン、アーニーはとんでもないことになっている大鍋に苦戦していて何も聞いていないようだった。
「そうだわ! 気づかなかった。でも、ベゾアール石はなかなか手に入らないものよ」
ハーマイオニーが薬瓶に薬を分けようと苦戦しながら言った。その少し後、ハリーがいきなり立ち上がり、材料棚に向かった。そして、何かを握りしめて戻ってきた。
「時間だ。やめ!」
スラグホーン先生が合図をして、それぞれの解毒剤を見てまわった。ノエルとハーマイオニーの解毒剤を見て、満足げに頷いた。そして、最後はハリーだった。しかし、ハリーの大鍋には何も入っていなかったし、瓶に分けた様子もなかった。ハリーはいきなり、スラグホーン先生に手を差し出した。手のひらには石が乗っていた。十秒間、沈黙が続いた。
「まさかとは思うけど、これってベゾアー……」
ノエルが小声で言いかけた時、スラグホーン先生は大笑いを始めた。
「まったく、いい度胸だ! このベゾアール石はここにあるすべての魔法薬すべての解毒剤として効く!」
スラグホーン先生は、石をみんなに見えるように掲げた。
「あなたは本当に一人で考えついたのね? そうよね!」
ハーマイオニーは歯軋りしながら聞いた。
「生意気千万に対してグリフィンドールに十点! さあ、荷物をまとめて」
スラグホーン先生は笑いながら自分の机に戻っていった。
「早くした方がいいわよ。私たち、次は『古代ルーン文字』だわ」
ハーマイオニーはさっきのベゾアール石のことについてまだ怒っているのか、イライラした口調で言った。
「先に行っててくれ。僕たちは次は自由時間だから」
ハリーが言った。ハーマイオニーは返事もせずに教室を出ていった。
***
二月になり、『姿現わし』第一回練習が大広間で行われた。ノエルは憂鬱そうな顔で大広間に降りていった。
「あなた、どうしたの? ひどい顔よ!」
パドマがノエルを見て、驚いた様子で言った。
「昨日、不安すぎて眠れなかったのよ。一応、今日は化粧をしてクマくらいは隠そうとしたのだけど無理だったみたい」
ノエルは弱々しく笑った。
魔法省から派遣された『姿現わし』の指導官のもと、練習は始まった。ノエルは心配していたバラけは起きずに安心したが、何も起こらなかった。しかし、何かが起きたのはバラけたスーザン・ボーンズだけだった。
***
三月一日の朝、ノエルが大広間に降りるとハリーにいきなり呼び止められて人気のない階段まで連れていかれた。そこにはぼんやりとした顔をしたロンがいた。
「僕のロミルダ・ベインからのチョコを食べてこうなったんだ」
ハリーはこそこそ言った。
「フレッドとジョージの惚れ薬ね……。私、まだ愛の妙薬は作ったことがないのよ。今は、他の薬を調合しているから。だから、解毒剤なんてもっての他だわ。スラグホーン先生に相談しましょう」
ノエルが言った。
「どうやって?」
ハリーが聞いた。
「私が説得するわ。--おはよう。ロン。良い朝ね」
ノエルがロンに話しかけた。
「あぁ、そうだね。ロミルダ・ベインを見なかったか?」
「えっと、彼女なら『魔法薬学』の特別授業を受けているみたい。さっき、話しているのを聞いたわ」
「僕も一緒に受けられないか頼んでみようかな?」
「それはいいわね」
ノエルとハリーはロンを連れて、スラグホーンの部屋に向かった。
「ウォン-ウォン! どうして先に行っちゃったの?」
ラベンダーがロンを呼び止めた。
「ほっといてくれよ。僕はロミルダ・ベインに会いに行くんだ」
ロンがイライラした口調で言った。ラベンダーはショックを受けたような顔になった。
「後でわかるはずだから! お願い、怒らないで! ほら、速く行きましょう」
三人が行ってしまってもラベンダーは立ちすくんでいた。
***
ハリーがスラグホーンの部屋のドアをノックした。ドアの中からは、まだ部屋着姿のスラグホーンが出てきた。なぜか、いつもハリーに接する態度よりもよそよそしい気がした。理由を聞いたスラグホーンは三人を部屋に入れ、解毒剤の調合を始めた。
「まだ、来てないんだね。今の僕、どう見える?」
ロンが聞いた。
「とても男前だ」
スラグホーンはロンに透明な液体の入ったグラスを渡しながら言った。
「これは、神経強壮剤だ。彼女が来たときに落ち着いていられる」
「すごい」
ロンは疑いもせず、解毒剤を一気に飲み干した。しばらくの間、ロンはニッコリと笑っていたが、やがてそれは引っ込み、打ちのめされたような顔で、肘掛け椅子に倒れ込んでしまった。
「先生、気つけ薬ってありますか?」
ノエルが聞くと、スラグホーンは飲み物でびっしりのテーブルに向かった。
「バタービールもワインもある。オール樽熟成酒は最後の一本だ。--ダンブルドアに贈るつもりだったが、ミスター・ウィーズリーの誕生祝いとしようかね」
スラグホーンはそれぞれにグラスを渡した。そして、すぐにロンはそれを飲んだ。すると、ロンは、グラスをポトリと落とし、手足が激しく痙攣し始めた。口から泡を吹き、両眼は飛び出している。
「先生! なんとかしてください!」
ハリーが叫んだ。しかし、スラグホーンは唖然としていた。
「ハリー! そっちの方で探して! 私はこっちを探すわ」
ノエルは手当たり次第に薬が置いてある棚を漁りだした。ハリーも夢中で魔法薬学キットの材料を引っ張りだした。
「先生! ベゾアール石は使えますか?」
ハリーが聞いた。スラグホーンはまだ唖然とした様子だった。
「大丈夫よ! 口に押し込んで」
代わりに答えたのはノエルだった。ハリーは言われた通りにロンの顎をこじ開け、石を口に押し込んだ。ロンは、静かになった。