「……ま、確かに成功すれば狩りはより進みやすくなる」
「ニャア。そうだと思って、村長さんに聞いてるのニャ。できるかニャ? 『三種素材同時調合』」
今、彼等はカエダ村の中心に位置する大きな広場で、真剣な面持ちで何やら話し合っていた。
村長の顔の高さとナルガの顔の高さは同じ。何故か?
村長はベンチに横になった状態で、顔だけナルガに向けているからだ。
こんな失礼極まりない態度はとうに村人に知れ渡っているので、道行く人々が村長を見て顔を顰めたり、なんてことは無かった。
そして、今ナルガと村長という滅多に無い組み合わせがこうして話し合っているのは。
狩りに役立てる為の「三種素材同時調合」というナルガの発想を実現できるか、という持ちかけによって始まったことであった。
「三種素材同時調合」とは文字通り「三種類の素材を同時に調合」することである。
単純に二度やらなければいけないことが一度で早く終わる、という利点の他に、二種同時調合では作れなかった道具も作ることが可能になる、ということもある。
今のところ狩界では二種類以上の素材を同時に調合できた例は無い。
何故か? それは「できない」……いや、「できなかった」からだ。至極単純に。
調合を行う時は一つの大鍋に二種類の素材を放り込み、高温で溶かした後に液体となった素材をかき混ぜ、再度固めるという手法が一つ。
そして、もう一つは片方の素材をそのままに、もう片方の素材を摺りこむ、嵌め込むなどして更に強力な道具にするという簡単な方法。
普通に考えれば前者の方法で、一つの大鍋に三種の素材を放り、以下は同じ手順でやっていけば簡単に可能。
……しかし、そうはいかない。
何故なら、大鍋に二種類以上の素材を放り込み、熱し始めた時点で、素材同士が勝手に反応しあい、本来の目的とは全く異なる代物が完成してしまうからだ。
その上、その出来上がった物は決して需要のあるものではなく、ただのグチャグチャした塊になる。
中には時々光ったり高温を放ったりと、特殊な効果を発揮する場合もあるが、全て不規則なため、ハンターに危険を及ぼす可能性のある「不良品」として、使えない。
要するに、「燃えないゴミ」が出来上がってしまうというわけである。
「今のところ可能とも不可能とも言えんな。だが、やってみる価値はある」
「ニャー……はっきりしないニャ……」
村長の答えにガックリと頭を垂れるナルガ。
ナルガが「三種素材同時調合」で作ろうろしていたのは、ボウガンの弾丸であった。
油+ネンチャク草+はじけクルミを調合して出来上がる(予定の)特殊な弾。
強力な粘着性でモンスターの足をくっつけさせる(予定の)、「ネンチャク弾」である。
これが出来上がればモンスターを縛りつけ、その間にフルボッコにすることでかなり狩りが有利に進む筈だ。
ナルガがこれを思いつき、最初にこの「ネンチャク弾」を作ろうとした時。
最初は、大鍋に三種の素材を放り込み・・・という方法だったが、当然「燃えないゴミ」が出来上がった。
次に行った方法は、まず「ネンチャク草+油」で調合し、それで完成したものと「はじけクルミ」を調合しよう、というものだった。
が、最初に調合してできたものは確かにネバネバしてモンスターの足を縛り付けるのには充分な効果だったものの、はじけクルミと調合する際に、その「ネバネバした液体」を熱すると、すぐさま粘着性が取れてしまったのである。つまり、ただの白い水になってしまったのだ。
これをはじけクルミに詰めたところで、何の役にも立たない。
そこで、三種素材同時調合ができないか村長に持ちかけてみた訳である。
が、その結果がこれだ。
「可能とも不可能とも言えない」。一応希望を持っていられるが、このはっきりしない答え。
「取り敢えず、今俺は忙しい。調合について色々実験している暇はない」
「(ベンチに寝転がって暇を持て余してる奴が何言ってるニャー。単にめんどくさいだけだろうがニャ)」
「……だから、お前が自分で色々研究してみろ」
「……マジかニャ。村長頼りないニャ。何のために聞きにきたのニャ」
「いいから黙ってさっさと研究してろ! 」
「フニャー……」
こんな感じで、ナルガの「三種素材同時調合」可能を目指す研究が始まった。
その日の夜から、頭に鉢巻を巻いたナルガ。「何やってんだコイツ」というジャックの視線に突き刺されながら。
ナルガの小さな部屋は調合に関する書物と実験材料で殆ど埋め尽くされ、さながら博士の研究室のようになった。
使い古しの大鍋にハンターズストアで買い占めた大量のネンチャク草とはじけクルミ。
そして油は食料品売り場から。おかげでナルガの財布はかなり寂しくなった。が、気にしない。
「よぉし、ニャ……研究材料は揃ったことだし、始めるかニャ!! 」
拳を振り上げ、戦場での開戦の合図のように鬨の声を上げた(隣の部屋のジャックが飛び上がった)。
まず、猛烈な勢いで書物を読み漁る。
数十冊。分厚い辞書のような本が膨大な時間をかけ、次から次へと「読み終わった山ニャ」に積み上げられていく。
それでも「まだ読んでない山ニャ」はまだまだ大きく、全て読み終わるには一週間近くかかりそうに見えた。
「調合は微妙な温度の違い、大鍋の厚さや大きさ、そして調合する人間の(ボクは猫ニャ)繊細な技量が問われる。ほんの1mmでも違えば燃えないゴミの出来上がり・・・こういうことより先に三つの素材を調合する方法を教えてもらいたいニャ・・・」
ブツブツと呟きながらページをめくっていく。
それが繰り返されて三時間。隣の部屋の電気が消えた。
四時間。満月が優しく村を照らしている。
五時間。村に灯る明かりはとうとうこの部屋だけとなった。
六時間。外から狼の鳴き声が聞こえる。
七時間。やばい。眠くなってきた。
八時間。この調子で徹夜!!
九時間。っていうかまだ大鍋と買い込んだ材料使ってないニャー。
十時間。瞼が重いニャ……眠るものかニャア!!
十一時間。あと49冊かニャ……
十二時間。朝日が綺麗ニャ……ハッ!集中集中!
━ ━ ━
翌日、ナルガは午後になってようやく瞼を開いた。
午後6時から午前2時まで調合に関する勉強をし続け、読み終えた本の数、97。
それだけの知識を頭に詰め込んだナルガが徹夜翌日の午後、ジャックとサイネリアと村長の前で実際に調合を行ってみることになった。
ジャック宅の一番小さな部屋に三人が肩を並べて体育座り。
そしてその前には大鍋。と、台の上に立って大鍋を見下ろせるようにしたナルガ。
いつの間にやら大鍋は改造されてあった。
円を三等分するようにして、何やらしきりのようなものが取り付けられている。
そして、区切られたそれぞれの部屋にネンチャク草、油、はじけクルミが入っている。
「しきり」は目に見えないほど細かな穴が大量に空けられており、「目茶目茶細かい網」になっている。
「……それじゃ、火をつけるニャ」
ナルガの声に、思わず全員生唾を飲み込む。
成功か失敗か……
一晩かけて叩き込んだ知識をもとに、大鍋を細かく削ったり、練習しまくって調合の腕を極めたり。
ジャック達の期待が高まる。
ナルガが火をつけた。
沈黙。痛いほどの沈黙。
張り詰めた空気。その場にいる人間達は緊張しすぎて呼吸さえ一時停止しているように見える。
そして――――
――――ッボオオオン!!!
……爆音と共に黒煙が立ち込める。
視界の開けた三人の目に写ったのは、煤だらけで立ち尽くすナルガだった。
一斉に、溜息がこぼれる。
どうやらナルガの研究が功を奏すのには、まだまだ時間がかかるようである。