【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第十一話 【満足=敗北】

「そいつぁ多分馬竜、ドスガアマだな」

「痛い! サイネリア痛い! 」

「ニャー。絶対わざとニャー。姉さん酷いニャー」

「うるっさい! 」

 

 乱入者ありのアオアシラクエストに失敗し、負傷して帰ってきたジャック達が真っ先に向かったのは勿論サイネリア宅。

そこには何故か当然のように村長も居座っていて、お決まりの「ジャック、ナルガ、サイネリア、村長」という図になっている。

居間の大きな円卓を囲んで、それぞれ個性的な表情を浮かべている。

ジャックは苦悶の表情。

サイネリアはジャックを心配する心と少し嬉しげな心が交じり合った複雑な表情。

ナルガは傍観者のおっとりした表情。

そして村長は勿論完全なる無表情。呆れるを通り越して尊敬に値する。

 

 円卓の周りにはつり合わない五つの西洋風の椅子がある。

その背もたれに座って、素足を円卓そのものに乗せた形で、村長が座っていた。

背もたれ無しなので非常に危なっかしい。後ろの花瓶が危険だ。

時々ブラブラ揺れる。その度に後ろの壁に手をつく。

もはや礼儀もクソも無い。

 

 その村長に見下されながら、サイネリアがジャックの治療を続けていた。

絶えずジャックが苦痛の叫びをあげる。

 

「痛い! 頼むからもうちょっと優しく…三t年」

「旦那も旦那でうるさいニャ。子供かニャ」

「本当よねぇ……」

「いや『本当よねぇ』じゃないだろてめぇ! 」

 

 見れば、ジャックの手の甲に、サイネリアが相当強く薬草を磨り潰した粉をなすりつけていた。

これでは逆効果では無いか?と村長が危惧していた。

そして、痛々しい手に包帯がきつく巻かれる。更に痛々しくなる。鬼畜だ。

 

「……俺の話聞いてっか? 」

 

 村長がちょっと声を大きくしてみた。

帰って来たものは無し。治療組は何の反応も示さないし、ジャックは悶えるだけ。

この四人という少ない人数で完全に浮くことができるのは村長の特権と言っていいだろう。

 

が、やがて治療が終わると必然的に村長の話を聞くことになり、ジャック達は村長の方に顔を向けた。

「やっと」と言わんばかりに溜息をついた後、説明が始まる。

 

「純白の角、こげ茶色の馬のような巨大体、間違いなくそいつはドスガアマだ」

 

 先程は「多分」と言っていたのが「間違いなく」に変わったのは、より彼らの気をひきつけたくなったからかもしれない。

村長の説明は続く。

 

「図鑑読めば分かると思うが、ドスガアマ、別名馬竜はアオアシラのモンスターレベルを遥かに超える、非常に強力なモンスターだ。お前達も『ガアマ』は見たことがあるんじゃないか?」

 

 《モンスターレベル》とはそのモンスターの強さによってレベルごとに分類する位のこと。

ジャックが初めて狩った大型モンスターのアオアシラは星一つ分、つまりレベル1だ。

村長の元にやってくる多数のクエストは、それぞれ狩猟対象となるモンスターレベルと同じクエストレベルに設定し、そのクエストレベル以下のHR(ハンターランク)を持つ狩人はクエストが受注できないようになっている。

難易度の高いクエストに初心者をバンバン行かせて、狩人がどんどん死んでいくのを防ぐための案。

現在ジャックのHRは当然1なので、まだアオアシラ程度のモンスターしか狩れないということになる。

村の中でのHRを上げるには、村長が次々やってくるクエストの中から丁度の良いものを抜き出して、《緊急クエスト》に設定した特別なクエストを達成しなくてはならない。

達成してようやくHRが一つ上がる訳だ。無論、飛び級は認められない。

 

 因みに、これは「村の中」だけのものであって、カエダ村でのHRをドンドルマのギルドに提示しても「あっそ。でも君はHR1ね」と言われるだけである。

上級者でもしっかり順を追ってHRを上げていくしか無いということだ。

 

『ガアマ』という言葉を聞いたジャックは首を縦に振った。

 

「あの小さな四速歩行の馬みたいな奴だよな? そういや似てるな……」

「ニャ。狩ってみた時は結構苦戦したニャ。ジャギィより全然強かったニャ」

 

 ガアマは孤島から火山まで、幅広い地域に繁殖している小型モンスターである。

最近、何故か渓流では見られなくなったが、前にジャック達が北国に向かう際に何頭か討伐した覚えがある。

生まれた時から黄色い小さな角が生えていて、見かけより堅い。

あれを振り回され、かなり苦戦したという苦い思い出があった。

 

「……つまり、あいつらのボスってことか」

「そうだ。ガアマのリーダー格。群れの長だ。同じくリーダー格のドスジャギィと比べても圧倒的に馬竜の方が強い。乱入モンスターとしては充分すぎる程の怪物だな、まさに」

 

 そう言って村長は苦笑を浮かべた。

アオアシラ戦で追い詰められて一時撤退したところにここまで強力なモンスター。

これでジャックが生きてただけでも驚くべきことだ。

確か・・・馬竜のモンスターレベルは3だったな・・・

 

「ハンマーが砕かれた、っつったな。というより、自分で砕いたのか。何にせよ、その馬竜は同種の中でもかなり強力な個体だったっぽいな」

「……だろうな。まるで敵う気がしなかった」

「ニャ。乱入があるなんて聞いてなかったニャ。今回の依頼主は誰ニャ? 」

「……誰だったかな」

「ニャ……」

 

 ジャックは円卓の下で拳を握り締めた。

改めて自分の無力さを痛感した。丸っきり勝てなかった。

自分の全てが、あそこで砕かれた。これまでの努力、勢い、自信。

アオアシラの時もともかく、思い上がっていた。

あれくらい余裕で倒せるようにもなれないで、何が「ハンター」か。

 

村を守る? これじゃ守られる側じゃねぇか。情けねぇ……

これから先、あいつよりも遥かに強いモンスターが大量に現れる筈だ。

最低限として、「馬竜」くらい狩ってやんねぇと。

 

 ジャックは、椅子から立ち上がった。

今、一つ確かめるために。

 

「ちょっと、農場行って来る」

「ニャ? 分かったニャ」

「話終わってないんだがな」

「あいつ手使う気かしら……? 」

 

 村長やらサイネリアやらが立ち上がった時にはジャックは既に外だった。

慌てて開け放たれた戸から飛び出していったナルガも後を追っていき、サイネリア宅は二人っきりになった。

 

「いきなり何だろうなアイツは……」

 

 そう言って再度苦笑した後、村長も出て行った。

後に残されたサイネリアは、何となく、何も思うこと無しに、治療箱の後片付けを始めたのだった。

 

 

 

━ ━ ━

 

 

 

「フッ……フッ……」

「全く、こっちの都合くらい考えて欲しいもんさね……39」

 

 農場のど真ん中で、ジャックが周りに汗を撒き散らす。

振るう太刀は大分切れ味が消耗されていると思われる。傷だらけだ。

治療されたばかりの両手から少し血が滲み出るが、尚も彼は全身使って太刀を振るう。

目の前の薪は、まだ切れそうにない。明鏡石(カラグライト)の膜はもう少しというところだが。

 

 背な高い黒人女性のキュウクウは溜息交じりに回数を数え続ける。

いきなり農場の入り口に現れて「薪割り」の一言。そしてズカズカと入ってきて太刀を手にするのである。中々ついていけない。全く。コイツは。

 

 ――――数分後、スパッという心地いい音と共に一刀両断された薪が反対方向に転がった。

番付表に新たに書き込まれた数字は……54。一応、上がった。10くらい。

順位は頑なに20台のまま。21位という数字はジャックも想定内だった。

 

「やっぱり……あんまし成長してねぇな、俺……」

 

 呟くと同時に、顎を掻く。

そして、また血塗れの手で太刀を握り締めた。

 

「いくらでも……強く! 」

 

 

 

 その後、彼が自宅に帰ってきたのは朝焼けで空が光り始める頃だった。

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