【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第十二話 【息抜き(仮)】

「はぁっ! 」

 

 前に居た焦げ茶色の塊を新調の青熊獣(アシラ)ハンマーによるアッパーで吹き飛ばし、振り上げたハンマーをそのまま自分の背中の方に持っていく。

アッパーの勢いで逆に振り下ろされた形になった蒼き槌は、丁度ジャックに噛み付こうとしていたもう一つの塊の頭蓋骨を粉砕した。

闘技場の赤銅色の地面に直接頭を叩きつけられ、上半身が地面に沈んだガアマは、辛うじてまだ生きていた。

地面の中でジタバタもがく馬に向かってハンマーを横向きに構えたジャック。

 

「……悪く思うなよ」

 

 そして、ドスンッ! という音が天高く響き渡る。

その瞬間、総勢10頭のガアマを単独で討伐したジャックに、闘技場の周りに所狭しと並べられた観客席から盛大な拍手が浴びせられた。その中にはナルガやサイネリアの姿も見えた。

 

「旦那……かなり動きが滑らかになってきたニャ」

 

 観客席で自身の毛の色を模した紫色の旗を掲げながら、ナルガが呟いた。

それに、隣のサイネリアが賛同する。

 

「うん。ハンターについては完全ど素人の私でも、彼の狩りっぷりが確実に上達していることが判るわ」

「……ニャ。何か置いてけぼりみたいで嫌ニャ……ボクも研究と同時進行で狩りの腕も極めなくちゃいけないニャ! 」

「頑張ってね」

 

 闘技場の隅で、一人のお供アイルーが闘志に魂を燃やしていた。

その様子を微笑ましげに眺めながら、サイネリアは思った。

どうやら、頻繁に治療しなきゃいけない狩人さんが一人増えたみたいね……。

これは、心配でも嬉しさでもあった。

ナルガのように表には出さないものの、サイネリアも心の中で「医療の最先端」を目指すと、堅く誓っていた。

 

 

 

━ ━ ━

 

 

 

「ふぅ……疲れた……でもおかげで奴等の立ち回りが大分読めてきた」

 

 サイネリアに渡されたタオルで汗まみれの額を拭い、同時に顎を掻きながらジャックが嬉しげに言った。

闘技場裏の休憩室。特に何のインテリアも無い、ちょっと寂しげな狭い部屋。

照明も不十分で、ジャックの座る位置から隣のサイネリアの美しい顔がぼんやりとしか見えない程だった。

特別にサイネリアは入ることが可能。ジャックの計らいだ。

 

「もう何連戦でしょうね……ちょっとやりすぎじゃない? 」

「なことねぇだろ。実践訓練だ。馬竜戦に向けてな。下準備にやりすぎは無いぜ」

 

 爽やかにそう言ってのける。

もう彼は今日だけでガアマを30頭討伐しているが、まだまだ大丈夫そうに見える。

この調子が続けば、いつかガアマはジャックの手によって絶滅してしまいそうだ。

 

 この闘技場でのガアマ討伐訓練は、ジャックが馬竜に敗れた翌日から始めたことである。

運良く、いいタイミングでドンドルマから訓練用にと届けられたガアマ100頭。

ドスガアマ戦とその後の薪割りで自分の弱さ、敵対する怪物(モンスター)に関する知識の浅さを思い知った彼は、当然そのガアマを「訓練」として利用させてもらうことにしたのだ。

 

 この三日新しい槌を振るい続け、ガアマに対する時の立ち回り方は大体習得した。

それと、攻撃方法とその威力も充分理解した。

……と言っても、これはあくまで「ガアマ」戦だ。奴等のボスの戦法はあまり判っていない。大体同じなのだろうが、群れのボスにまで上り詰めたからには何か必殺技のようなものがあるに違いない。他の奴等とは違う何かが。

 

 モンスター図鑑を読む限りでは、ドスガアマに特殊な付加属性は無いらしい。

まぁ、無かったのなら当然嬉しい。あの常識を遥かに超えた角に何か付加属性がついていたらと思うとゾッとする。

それこそ、人間に勝てる相手じゃないと思ったことだろう。

が、不意に隣のページに載っているモンスターが目に止まって、ジャックは背中に冷や汗が流れた。

……どうやら、ドスガアマには亜種がいるらしい。それも、二種類。

恐ろしくなってすぐに本を閉じてしまったので付加属性が何かは見えなかったが、確かに黄色と水色っぽいものが見えたので、亜種に特殊な属性が備わっていることは殆ど確定だ。

 

 取り敢えず今の目的はドスガアマであって、亜種は関係無い。

と、半ば現実逃避のように事実を忘れようとしたのを覚えている。

 

「で、また行くの? 」

「ん? ああ。今日、最後の狩りになるだろうな」

「じゃ、怪我しないで、気をつけてね」

 

 ジャックがボロボロの角椅子から立ち上がり、再度戦場へ赴く凛々しい表情へと変わった。

重々しい扉を力任せに押し開き、一気に部屋に駆け込んでくる光と音に一瞬怯むも、すぐに外に踏み入った。

 

 前には、最初から10頭のガアマがこちらを向いていた。

10対1。圧倒的に不利な状況に立たされているにも関わらず、余裕の笑みがジャックの口元に溢れた。

 

「よっしゃあ!いくぜぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

━━《一週間後》━━

 

 

「さぁぁ……お待ちかねのクエストが来たぜ」

「マジか!? 」

「ニャ? 」

 

 “非常に珍しく”ベンチに正しい座り方で落ち着いていた村長と、正面に立つジャックとナルガ。

突然、唐突に呼び出された二人(一人と一匹)は、何事かとこの広間に立っていた。

相変わらず無表情の村長から告げられたのは、「お待ちかね」のクエスト依頼の報告。

「お待ちかねクエスト」とは勿論・・・!と考えていたジャック達の顔が興奮一色に染まる。

 

「ドスガアマか!? そうだろ!? よしゃあ腕が高鳴るぜぇぇえ! ひゃっほぉううう!! 」

 

引くぐらいのハイテンション。村長も苦笑を浮かべるばかり。

 

「人の話は最後まで聞け。依頼内容は残念ながら馬竜討伐じゃない」

「……ツマンネーノ。ジャアナンナンダヨオマチカネッテ」

 

 そして、テンションの引き潮が発生。この落胆ぶりは凄い。

ナルガでさえついていけてない。

 

「そう言うな。そもそも馬竜はMR(モンスターレベル)3だ。今のお前じゃ受注できるレベルじゃない。残念ながらな。今回のクエストは緊急クエストだ。ステップだろ? だからお待ちかねだ」

「チッ……」

 

反論できないから舌打ち一発で自分の気持ちを全て表現してるジャックである。

 

「……で? 内容は? 」

 

 誰にでも判るような不機嫌な口調で、ジャックがブスッと尋ねた。

それに怯むことなく、無表情の極みは言葉を続けた。

 

 

 

 

 

「――――息抜き代わりにドスファンゴ四頭の同時狩猟だ」

「よっ四頭ッ!? 」

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