【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第十三話 【四つの殺意 突進×突進】

 大型モンスター4頭同時討伐。前代未聞の難関クエストがジャック達に突きつけられた。

ドスファンゴ。別名大猪。ドスジャギィやドスガアマと同じく一つの群れに一頭ずつ君臨する大ボスである。一般に三頭の群れを織り成し、全員で一気に狩人に襲い掛かる猪(ブルファンゴ)の中でも一際巨大、そして堅固な牙を持ち、リーダーの証拠である銀色の髭が頭を横に一直線に突っ切っている、他のモンスター達と比べて、かなり野性的な風貌の獣である。

幼体のブルファンゴにも共通しているその「猪突猛進」は、一度走り出したら中々止まらないという不便なところもあるが、堅い牙が激突すれば初心者用の防具ならば一撃で砕けるという破壊力を誇る。その無敵の突進に貫かれて沈んだハンターは数知れず。

勿論突進だけの攻撃では肉薄してくる狩人に歯が立たないので、牙をその場で大きく振るって寄りかかる狩人共を蹴散らしたりもする。

そして、行動も非常に素早い。つまり、重量感たっぷりの大剣などの武器の扱いを得意とする狩人にとってはかなりの強敵と言えるだろう。

 

 ジャックはドスファンゴ討伐経験が一度も無い。

それもそうだろう。これまでに彼が討伐した大型モンスターはアオアシラ一種きりなのだから。

そんな彼に「同時に四頭」狩猟しろというのだ。これは無茶としか言えない。

 

 流石の無謀人もポカンと口を開いて呆然としていた。

隣のナルガもまるで同じ滑稽な格好で固まっていた。

 

「まさか受けないなんてことは……無いよな? んん? 」

 

 詰め寄る村長。受けさせる気満々である。

もしここで「受けない」と言ったらどうなるのだろうか。想像したくない。

 

「……」

「ん、分かった」

「え? ええ!? 何が!? 」

 

 気づけば一瞬の神業でジャックの判子が村長に奪われ、受注書に――――ペタッ。

受注完了。こうなれば後戻りは絶対にできない。強制的に契約金も払わなければならないことになった。

 

「……くっ……無茶苦茶な……」

「旦那、諦めるニャ」

「うん、いい言葉だナルガ」

 

 そして、受注書をヒラヒラ振って「さよなら」の合図を送られた。こん畜生めが。

今回クエストから帰ってきたら……きたら……。

 

 そして、止むを得ずジャック達は自宅に帰って支度をすることにした。

いつも通りの装備だと心細いので、節約していた閃光玉を一人四個、つまり二人で八個を持っていくことにした。勿論ナルガが道具袋にそれをしまうのをしっかりジャックは確認した。

他にも、調合用大樽爆弾やら罠やらで彼等のポーチはかなり重々しくなり、背負った瞬間、気候までが手助けして汗が溢れ出した。狩場に着く頃には疲労で戦闘なんてできなさそうな・・・うっ。変な想像は止めよう。うん。それがいい。

 

 頭をブルっと振るって考え直した、というよりネガティブ思考を取り払ったジャックはナルガの部屋に呼びにいった。

研究材料で埋もれた四畳半から顔を出したナルガに持ち物を確認させると、早速自宅を離れてった。

因みに、本人曰く「研究も結構進んだニャ!」。

毎晩徹夜して、くまをどんどん濃くしてけばそれは進んでなかったら絶望するだろう。

 

 そして、カエダ村の門。

ジャックとナルガの背中を覆う「行ってらっしゃい」の声と振られる手。

門番の兄ちゃんの昼寝起きで寝癖が酷い顔。

サイネリアの心配顔。

そして、村長の無表情に送られて、ジャック達はカエダから狩場に向かっていった。

 

 

━ ━ ━

 

 

 

「ん……そういや渓流じゃないんだっけか……」

「今更かニャ。そういうことは事前に確認するのが常識の中の常識ニャ」

「ま、そうだけどさ。最近渓流での依頼ばっかで……」

 

 今回のクエストの狩場――――――水没林。

その事実を思い出し、渓流到着の寸前でクルリと方向を変えたのが三時間前。

今現在、彼等はその名の通り「水に没した林」の拠点(ベースキャンプ)に佇んでいた。

 

 水没林は前述の通り、昔ごく普通の林だった処が豪雨や川路の変化などにより大量の水に沈み、その面積の大半が水となった場所である。特有のこの湿ってジメジメした空気や地形などを棲家とするモンスターも多く、多種多様なモンスターが繁殖しやすい。

最近は新種のモンスターも見られるようになり、水没林に赴くハンターが増えてきた。大忙しである。

 

 が、狩人にとってはかなり厳しい狩場だ。

何故なら、地面はいつでも水だから足をとられて転倒しやすい、ということ。

また、地面がグチャグチャとして大変歩きにくく、素早い立ち回りが困難になるということもある。

水没林に長く住み着くモンスターの多くはここの地形で行動しやすくなるように進化していて、孤島や渓流などの普通の地面と殆ど変わらない立ち回りが可能になっている。

 

ハンターが不利な状況で戦うことを強いられる過酷な環境だ。

まぁ気温が異常に高かったり低かったりする火山や凍土などに比べればマシな方なのだが。

 

「取り敢えずエリア全体を一周してみて、地形とか色々覚える必要がありそうだな」

「ニャニャニャ」

 

 そう言ってジャックが足を持ち上げると、水分を大量に吸い込んだ地面がグチャっと音を立て、泥が足の裏に付着した。これは相当歩きづらい。

更にその足を再度地面に押し付けると、ぬかるんだ地面が凹んで、水溜りができた。

今までとは全く違う戦闘をしなければならない。ジャックは舌打ちし、グチャッグチャッと進んでいった。その後をナルガが何の苦も無く走って追いかける。羨ましいことこの上無い。

 

 まずは、エリア1。

地面は一面濁った黄土色の湖。転びそうで怖い。

試しに進んで・・・・予想通り。盛大にずっこけた。

全身から泥と水を撒き散らしながら、爆笑するナルガを睨み付ける。

 

「こりゃぁ……辛いな。こんなんで狩りなんてできんのか? 」

「フニャニャニャハハハ!プギャーッニャッニャッニャァ……はァ、笑いつかれたニャ……ボクはライトボウガン使用で比較的動かないからそれほど心配は無さそうニャ」

 

 ナルガはそう言って早々と漆黒のライトボウガンを構えた。

黒帯ボウガンは相変わらず火力が寂しい感じだが、それぞれの弾の装填数が多い。

更に、同種のライトボウガンの中でも独自に改良を続けた結果、かなりの軽量化ができた。

装備しながらの回避だってこれならかなり楽だろう。

 

 辺りに気になるモンスターの姿は無いかとキョロキョロと首を振るナルガだったが、やがて銃口を下げた。現時点ではこちらを脅(おびや)かせるだけの実力を持った怪物はいないよう。

 

 そして、また重い足を持ち上げ持ち上げ、隣のエリア2に移動しようとした。

が、その時――――

 

「ブオオオオオ!! 」

「くァっ!? 」

 

 エリア2とエリア1の境目に足を乗せる瞬間、前方から雄たけびと共に四つの巨体が猛スピードでやってきた。

危ういところで横転回避して直撃は免れたものの、発生した突風に吹き飛ばされ、数m先の細い木に背中から激突した。

そして、メキッと軋んだ細い木は衝撃に耐えられなく、幹の途中から真っ二つに折れ、ジャックのすぐそばに倒れた。

 

「ニャ……あれは……」

 

 衝撃で気絶しかけのジャックが、焦点の合わない目でナルガ、次にナルガの視線を辿って着いた場所を直視した。途端に絶句する。ショックで逆に意識が一瞬で戻ってきた。

四つの巨体の正体がはっきり分かった。もっとも、薄々気がついていたが。

 

ジャックの頭に隅に置かれたモンスター図鑑が自動でパラパラと捲られ、一つのページが開かれた。

大量の細かい文字に並んで、一つ大きな写真が載せられている。捻じ曲がった巨大な牙が特徴的なそのモンスター。そのページの一番上に書かれている文字、そのページのタイトルを、ジャックは呟いた。

 

「ドスファン……ゴ」

 

 間違いない。あのページに載せられていた写真の中の怪物が、今目の前に居る。

――――それも、四頭。自然と体が固くなる。一頭ならさほど苦しくも無い殺気も、四倍になれば息苦しさを誘うのには充分な材料となる。

 

 並んだ四頭が一斉にこちらを振り返った。

八つのギラつく赤い目が何かを訴えている。

 

 

「……ブオオオオオオオオ!! 」

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