【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

15 / 32
第十四話 【剛牙連突の嵐 成す術無し】

「一気に……四頭……」

「流石に無茶ニャ……逃げ――――――」

 

 ナルガが言い終わる前にドスファンゴが散り散りになり、狩人の二人を囲む形に移動した。

エリア2に進む道も、3に進む道も、9に進む道も、拠点に戻る道もそれぞれ一頭ずつ、完全に阻まれた。

どこか一箇所に集中的に攻撃して突破しようとすれば当然他の三頭が黙っちゃいないだろう。

かといって同時に四頭共相手にするなんて絶対に不可能だ。

こやし玉でもあれば・・・と、ジャックは自分の不注意を今更ながら悔やむ。

こやし玉はモンスターの糞から作られる、破裂すると強烈な臭いを放出する拳大のボールで、体に当てられたモンスターはあまりの臭さにそのエリアから離れ、消臭を試みる。

そして、残った狩人とモンスターで正々堂々一対一で戦えるという「同時狩猟」時の必需品である。

 

 もう一つ、けむり玉という単純極まりない道具も使うタイミングを逃した。

文字通り衝撃を与えると白い煙を噴出すボールである。

が、これは敵モンスターに見つかる前じゃないと何の効果も示さない。

この場に居る全員に直視されてしまっている時点でコイツを使っても役に立たない。

ジャックはポーチの中で指の関節が白くなる程堅く煙玉を握って、歯軋りした。

 

 道具に頼って形勢逆転ってのぁ、無理か。

ならやはり正々堂々――――――うおっ!!

 

「ブオオオオ!! 」

 

 一頭が水に沈んだ地面を蹴り飛ばし、猛烈な突進を仕掛けてきた。

ジャックとの数mの距離は一瞬で詰まり、反射的にハンマーを振り上げた瞬間、堅固な物同士がぶつかり合った。

ジャックのハンマーからは破片が飛び散ったものの、砕けはしなかった。

そこでホッとしたのも束の間、ハンマーに激突した牙が振るいあげられ、腕ごと上に弾き飛ばされた。

「あっ」と小さく声を上げる前に、後方から突進の準備音が聞こえる。ヤバイ・・・・

 

「うっ! 」

 

 生命の危機を感じたジャックが水上を滑り、スライディングの形でその場から少し離れた。

直後、目の前に居た巨体と同じものが後ろからもう一つ飛んできた。間一髪。

―――――――が、二つの突進を避けて水面近くに顔をよせるジャックの視界には、これまた同じ巨体が映っていた。

 

「ブオオオオオッ!! 」

「旦那ぁっ!! 」

「ッ!? 」

 

 突如銃声が轟き、同時にジャックの目前に迫る巨体の勢いが完全に殺された。

胴体の横から貫通弾レベル2を打ち込まれたドスファンゴは大きく体を仰け反らせ、そのまま横転した。

 

すぐにジャックは起き上がろうとするが、上から四本の棒が邪魔をした。

 

「ぐぅっ!! っつ……」

 

 ドスファンゴ一頭分、大の大人3人分の体重を背中で受け止めたジャックは、再度地面に叩きつけられた。口の中で鉄の味がする。起き上がれない……

そこでまたしても救世主の銃口が火を吹き、ジャックの上の塊は爆発して地面に落ちる。

徹甲留弾をもう二発顔面に叩き込まれ、一頭のドスファンゴの意識が朦朧とし始める。

チャンスとばかりに急いで起き上がって、ナルガの元に向かうジャック。

が、真横からまたしても突進。

もう一度ハンマーを両手で構え、受け止める。そして――腕力だけで弾く。ドスファンゴの牙が変な方向を向き、つられて体も同じ方向へ向かう。結果体勢を崩し、転倒。

 

「くっ……」

 

 あまりにも力を加えすぎた為か、包帯でグルグル巻きの手から血が滲み出した。

苦痛を堪えながらもジャックはナルガの元になんとか辿りつく。そして視線を上げると、当然のようにドスファンゴ四頭全員が立ち上がり、恨めしげにこちらを見ていた。

徹甲留弾ぶちこまれたり貫通されたり転んだりとそれなりの攻撃を受けてはいるものの、行動に何ら支障は無さそうに見える。向こうはまだまだ健全だ。

それに比べてジャックは100㎏以上を乗せられた背中がズキズキと痛むし、無理に使った手からは絶えず血が流れ出している。

どちらが有利かは火を見るより明らかだ。

が、この攻防のおかげで四頭のドスファンゴが一箇所に集まり、他エリアへ続く道が開けた。

これで一時撤退は可能という訳だ。

 

「……で、ここで撤退したとして何ができんだっつぅの」

「ニャア! 」

 

 ナルガが手持ちの閃光玉を投げた。

怪物共の目の前で破裂したボールから凄まじい光が飛び出し、一瞬でドスファンゴ全員の目を潰す。

しかしこれも一時的なもの。数十秒で彼等は開放される。

 

 すぐさまジャックは飛び出し、視界真っ暗で行動不能の怪物に単身で突っ込んでいった。

そして抜槌と同時に上から振り下ろし、一頭のドスファンゴの脳天を突き落とす。

水に沈みこんだドスファンゴの顔をそこから横殴り。そして腕を大きく撓(しな)らせて下から顎をぶん殴り、足を蹴っ飛ばして再度転ばせ、またそこから連撃。どうやら一頭ずつ正確に倒していく算段らしい。

ジャックの意思を汲み取ったナルガもジャックが集中攻撃しているドスファンゴに照準を合わせ、ジャックに当たらないように繊細な注意を払いながら、射撃。射撃。射撃。

 

「……旦那! 」

「(コクッ!)」

 

 ナルガの声に頷き、ジャックは引き下がる。閃光玉の効果が切れる時間だ。

やはり、そのタイミングで猪達が意識を取り戻したかのような身振りをし、敵を睨み付けた。

四頭の内一頭にかなりのダメージを与えたものの、まだ動けるらしい。なんてタフさ。

火炎弾を何十発も喰らい、尚且つ一撃一撃が重いハンマーでの攻撃を五、六回受けたというのに、余裕の雰囲気を放っている。ジャック達が二人同時に舌打ちをした。

 

 そして、一瞬誰も動かなかったが刹那、全員一斉に動き出した。

向こうの四頭は完全に揃った動きで突進の構え。片足で地面を蹴って、今にも走り出しそうにしている。

そこに突っ込んでいくジャック。これから突進をするというのなら「牙を振る」攻撃をしない。

なら近接攻撃のジャックには好都合だ。とことん肉薄して黄色く光らせた槌を振るいまくってやる。

 

 既に気を溜めたハンマーが黄色く光り、大気を揺らす。

そして、先程集中的に攻撃したドスファンゴの前で、後ろに両腕をこれ以上無いくらいに伸ばし、関節の全てに力を込める。

 

「……ホォォォォムランゥゥゥゥ!! 」

 

 刹那、オレンジの光に包まれてドスファンゴがぶっ飛んだ。比喩では無く、本当に後ろに数m飛んだ。

下顎を斜め下から思いっきりアッパーされ、猪が気絶。

 

 仲間の一頭がノックアウトされ、今まさに突進の直前だった怪物が一斉にこっちを向いた。

渾身の一撃をかました後のジャックは体勢を直すのに少し時間がかかっていた。

その時、ドスファンゴとジャックの間に一発の銃弾が飛んだ。

それはボスッと音を立てて地面に突き刺さる。

そこに突進する大猪が鼻息荒く、猛スピードでやってきた。

 

 轟く爆音。

地面に突き刺さった銃弾が広範囲爆発を引き起こし、強制的に突進が遮られた。

先頭の一頭が足を取られてすっ転ぶ。その間にジャック退却。後ずさりで距離を取る。

 

 腕が痛い。強く殴りすぎた。出血が酷い。

歯を食いしばって両手を庇っていると、いつの間にか正面にドスファンゴの牙が迫っていた。

――気づけば、ジャックは宙を舞っていた。口から血と数本の歯を吐き出しながら。

 

「あぐぁっ! ……」

「ブオオオオオオっ! 」

 

 そして、着地する前にまた別のドスファンゴからの牙が突き上げられ、ジャックの背中を下から舞い上げた。

声も出せずに、ジャックはまだ宙を舞い続ける。

その間にもナルガの銃弾は四頭に注がれるのだが、彼等はまるで気にもしない。

一方的に攻撃されっぱなしの敵に尚も牙を振るおうと、ジャックの次なる着地地点にまたしても大猪が立った。

 

「……かはっ! ちィッ……!! 」

 

 空中で激痛を堪えながらも、体に鞭打ってジャックが向きを変えた。

落下地点に威風堂々と立つドスファンゴを霞み始める目で睨みながら、ハンマーを握りなおす。

 

「ブオオオオオッ!! 」

「っらあああああ! 」

 

 轟音と共に両者最高の武器がぶつかり合った。

牙と槌。跳ね飛ばされたのは……牙。

 

「ブウオオアアアッ!! ブオオ……」

 

 牙が中間地点から真っ二つになったドスファンゴが悲鳴を上げる。

その場で全身使って暴れる。残った牙が何度も風を切る。そこに水に浸かる寸前のジャック、鮮血を撒き散らす狩人が降って来た。狩人の顎が疼いた。

 

「――――マジですか」

 

 ドスンッ! バッチャアアァァァン!!!!

水没林が震えた。他のドスファンゴを相手していたナルガが振り返った。

 

「ブオオオオオッオオオオオオォォォォォ!! 」

 

 

勝者が叫ぶ。血に染まる水面を踏みしめて。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。