【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第十六話 【捕獲 《殺さない意志》】

「無茶……しすぎだナルガ。今度は俺の番だから、お前は寝てろ。さっさとケリつけてくる」

 

 回復薬10本全てを飲み干したジャック。

起き上がって一瞬呆然としたが、すぐにナルガの所業だということが分かった。

ドスファンゴの亡骸が三つあるのと並んでナルガまで転がっているのを見た時は冷や汗が流れたが、生きていることを確かめて、安堵のため息をついた。

どうやら疲労と軽傷で済んだらしい。恐ろしい奴だ。

 

 まさか本当にやりやがるとは。

歓喜と一緒に感慨深い気持ちにもなった。

自分と同時期に狩人(狩猫?)になったナルガがここまで成長するなんて思っていなかった。

丸っきり抜かされてしまった。戦鬼覚醒の前の時ならともかく、覚醒後の戦闘能力はそこらのハンターの軽く上を行く。

多分、コイツなら単独でアオアシラに挑んでも互角にやりあえるだろうと本気で思う。

――――持ち物を忘れなければ。

 

 ジャックは(きびす)を返すと、ナルガと逆方向に向かった。

エリア2だ。とりあえず全エリアを虱潰しにしていけば見つからないことも無いだろう。

 

「ここで俺が奴を狩れなかったら完全に立場無いな」

 

 乾いた声で笑い、エリア2に踏み込むと、まさかの大当たり。

ドスファンゴ一頭とファンゴ数頭が屯していた。これにも乾いた声で笑った。

 

「……ジですか」

 

 十字の刻まれた顎を掻き、もう一方の手で山吹色の濡れた髪をかきあげ、戦闘態勢に入る。

ハンマーをブルンッと一回転させて水面を叩いて音をたてると、猪共がフゴフゴとこちらを向いた。

―――奇襲は卑怯だもんな。

 

 ジャックが走り出した。単純極まりない戦法だが、相手もそれは同じこと。

両者、突進で攻める。しかし、向こうには護衛がついている。まずは奴等を蹴散らすのがいいだろう。

ジャックは先頭を走るドスファンゴをヒラリとかわすと、後ろにいる三頭のブルファンゴを狙った。

 

「フンッ! 」

 

 オレンジ色の塊を幼体の比較的柔らかい牙に振り下ろす。すると、当然牙は砕け散った。

やっぱりボスたぁ違うな。ジャックはちょっと頬を緩ませる。

 

 両側から突進してくるブルファンゴがいたが、思いっきり上に跳躍してかわす。

足に響いたが、この際気にしない。おかげで二頭同時に撲滅できたのだから。

下を見ると、突進がぶつかりあって、両者気絶しているのが目に入る。

危険かどうかを確かめるためにチラリと後ろを見るも、ドスファンゴは突進をとめられずに岩に激突していた。ふぅ。間抜けな奴でよかった。

 

 そして、再度ハンマーを振るう。

隻牙のブルファンゴが倒れる。命の灯火が一つ吹き消された。

死体に着地して、いつ起き上がるか知れないブルファンゴ二頭にも鉄槌を下す。

 

あっという間にブルファンゴ三頭は力尽きた。

 

「大体戦法はガアマと同じなのな……」

 

 手馴れた小型モンスターなら問題無い。そう呟いてジャックはクエストの最終目的をにらんだ。

ドスファンゴは岩を崩し(「マジですか」)、ようやっとこちらを向いた。

一瞬、両者の間で火花が散る。

 

「……ナルガ、後は任せとけ!! 」

「ブオオオオオオォォォォォォ!!! 」

 

水没林に狩人と怪物の叫びが木霊する。開戦の合図だ。

 

 まず、ドスファンゴがいつも通りの突進で仕掛けてきた。通ったところで水が飛び散る。

今日何度か分からない苦笑を零し、ジャックはハンマーに《気》を溜めていく。

腕に顔を埋め、目だけは向かってくるドスファンゴをしっかりと睨みながら。

見る見る内にハンマーがオレンジに染まっていく――――――ここっ!!!

 

 ドスファンゴの突進はジャックのランポス防具の裾を本体から切り離しただけだった。

そのまま突進が続いて、奥の岩がまたしても崩れる筈だったのだが……

 

「潰れろォッ! 」

 

 走り続けるドスファンゴの背中に、橙に輝く槌が振り下ろされる。

それは、完璧なまでに移動中の背骨にぶち当たり、見事にドスファンゴは潰れた。

両手両足を広げた滑稽な形で。

 

 ――が、そこはやはり大型モンスター。生命力が違う。

自身を押しつぶす槌を気合ではじき返し、立ち上がった。牙を振り乱し、ジャックを無理矢理後退させる。

ドスファンゴとジャックの間にまた距離ができた。

しかし、こちらに隙を与えないつもりなのか、またしても突進の構えに戻る。

――馬鹿の一つ覚えが。

今や見慣れた動きで四肢が駆動し、猪突猛進。一直線にやって来る。

距離があるとは言え、それは10メートルに満たない。

ジャックはすぐに槌を横に大きく振った。

見事なタイミングで横殴りに牙に激突し、大きく捻じ曲がった角が中心からバキバキバキと不吉な音をたてて、折れた。

呆気なくガラン、と分断された先端部分が地面に落ちて転がった。

一方のドスファンゴ本体は、牙をぶん殴られた勢いに負けて、横向きに倒れてフゴフゴ鼻息を荒げてる。

好都合。ポーチを漁る時間がとれる。

 

 お目当てを片手でしっかり握り締めた時、ドスファンゴが慌てて立ち上がり、白い息を吐き出した。怒り状態、か。

でも、遅かったな。

 

 まさに突進の体勢に入ろうとしていたドスファンゴの鼻先に、拳大の球が飛んでいた。

一瞬狩人の方を見ると、顔を手で覆っていた。これは――――

ビカアッ!!閃光玉が炸裂し、目を瞑っていても分かる光が一気に溢れ出した。

 

「いよしっ。こういう倒し方でどうだ? 」

 

 耳は正常な猪に囁くと、ジャックはまたしてもポーチの中に手を送った。

そして、ドスファンゴが暴れてる間に手が出てくる。

握り締めているのは―――――――――痺れ罠。と、閃光玉と同じ形の赤い球。

 

 暴れまくる牙を慎重に避けながら、罠を仕掛ける。

何も見えないドスファンゴはすぐに罠にひっかかり、行動不能。一度罠はどういう効果なのかというのを見ていたドスファンゴでも、何も見えない状態なら引っ掛かるのは当然だ。

 

「フ……フゴ……」

「……お休みなさい♪ 」

 

 ジャックは握り締めた、拳大で赤いボールを二個、猪の頭に投げつけた。

今度球から飛び出したのは光ではなく、薄水色の煙だった。

それを正面からぶっかけられ、一mmも吸わないなんてことは不可能。

――――口一杯に煙を吸い込んだ。すると、痺れ罠の上のドスファンゴは突然コロッと倒れ、寝息をたてはじめた。

 

「捕獲……案外簡単だな」

 

 彼が行ったのは、討伐では無く、《捕獲》。

モンスターを殺すことなく行動不能にさせる便利な狩猟方法だ。

当然、捕獲しても討伐してもクエスト達成となる。

モンスターをある程度弱らせ、罠にかけた後にこの特殊な「捕獲用麻酔玉」を投げると、対象は深い眠りに落ちる。

この眠りは一年くらい続く。

当然、このまま放っとかれる訳ではなく、依頼主が引き取りにくる。護衛をつれて。

ドンドルマの集会所からのクエストであればギルドから送られた隊員が引き取りにくる。

もし捕獲した場所が遠く離れた場所でも、一年もあれば勿論到達するというものだ。

因みにギルドに持ち帰られたモンスターは訓練用に使われる。

 

 ジャックはモンスターを捕獲したことは無かったが、方法は訓練所時代に習った。

捕獲は大型モンスターの時のみ可能。そりゃあ小型モンスターをわざわざ捕獲したって面倒なだけだし。

 

「殺さないってのも……いいな」

 

 ジャックは、痺れ罠の上でわずかに鼻提灯を作り出す猪を見下ろして言った。

殺さずに済むならそれが一番いい。当たり前のことだ。

が、かなりの費用がかかる。

売られる罠は一つ大体1000z。そして捕獲用麻酔玉は一つ600z。一度の捕獲に1600zもかかるのだ。

当然ジャックの財布は三回程クエストを受けたらすっからかんだろう。

しかも、本来なら捕獲はかなり難しいのだ。

今回こそMR(モンスターレベル)1のドスファンゴだったのでいとも容易くできたが、相手するモンスターのレベルが高ければ高いほど難しい。素早いモンスターを前に罠など仕掛けている余裕は無いだろう。

できるだけ捕獲でクエストをクリアしていこうと言ってもやはり色々な問題が生じる。

9:1くらいだろう。討伐と捕獲の比率は。これ以上捕獲の割合が高くなるともう・・・だろう。

 

不意に、後ろから聞きなれた声がやってきた。

 

「……四頭目」

 

その声が少しだけ涙ぐんでいたことに、ジャックは気づくことができた。

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