【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第十八話 【救い合い】

 風に揺れる、微妙に赤みがかった茶色のショートヘア。

そして、大きくパッチリ開いた両碧眼。

筋の通った小鼻。同じく小さな桃色の唇。純白の肌。

端正に整った綺麗……よりも『可愛い』が似合う顔立ち。

2mを超える長薙刀が不釣合いに見えるような愛らしい美少女。

ジャックの目にはそう見えた。

その少女が蒼き竜の口から断続的に放たれる青い(いかずち)の間を縫って飛び回りつつ、華麗に薙刀を振るう。

竜の背中から、尻尾から、頭から大量に血液が撒き散らされ、その体駆を朱色に染めた。

竜の悲鳴をものともせずに、少女は薙刀を一回転させて刃についた血を振り払う。

――誰がどう見ても、少女が圧していた。

 

 ジャックは呆然とその戦いざまを見ていた。

逃げることも忘れ、竜の咆哮に耳を塞ぐことも忘れ、ただ視線を戦場に貼り付けていた。

こんな高レベルな戦闘が存在するのか。

あんな動きが人間に可能なのか。

恐ろしかった。同時に、羨ましかった。憧れた。

ふと、自分がとてつもなく場違いな気がした。

 

「グゥオオオオオオォォォォ!!!? 」

 

 妙に少女の短い吐息がジャックの耳に響いたかと思えば、蒼き竜の刺々(とげとげ)しい尻尾が(くれない)と共に宙を舞っていた。

これまでで一番大きな悲鳴が洞窟を揺らす。

長い悲鳴だった。その悲鳴が終わった時、竜の黄色い目が知らぬ間に炎のように赤々と燃えていた。

 

ジャックが息を呑んだ。胸が苦しくなった。吐き気に襲われた。

 

 禍々しい殺気によってもたされる息苦しさが、突然何倍にも膨れ上がった。

悲鳴の余韻が消え、齎される沈黙は痛い程の緊張感で洞窟を覆いつくす。

少女も顔を強張らせ、ビリビリした雰囲気の中で動けなくなっていた。

竜が鎌首を持ち上げた。

ジャックが咄嗟に水中に潜り込んだ――

 

「――――グアヴャギャアアアアアアアアアアアァァァオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォオォオオオオ!!!!!! 」

 

 咆哮(バインドボイス)だった。

ジャックにとって初めてのそれは、水中でも恐ろしい程耳に突き刺さった。

耳を両手で塞いでも足りない。目を閉じても全然足りない。

湧き上がる恐怖に、水中で体を竦めて子供のように震え上がった。

この場所から猛スピードで逃げ出したいという衝動に駆られた。

がしかし、何故だか体が動かない。目だけが洞窟の自分が来た道へと向けられる。

引きとめるものは一体何か。何がこんなに自分を興奮させるのだろうか。

 

「う゛ッ!! 」

 

 不意に聞こえた。とても苦しい声だった。

急いで水面から顔を出すと、少女が岩盤に叩きつけられて口から赤いものを吐き出している様子が目に映った。

防具の腹部が砕けていた。そこから、朧に赤いものが見えた。

弱弱しく薙刀を掴む手は少女自身の血に濡れ、ピクピクと痙攣している。

懸命に足を動かして立とうとしている姿が痛々しかった。

しかし、立てない。どんなに足を曲げても、少女は立てそうに無かった。

 

 その理由は、竜を見て分かった。

蒼き体駆がバチバチと怪しく輝いている。それが高電力であることは火を見るよりも明らかだった。

体勢を見る限りでは、少女は電気を纏った竜の体当たりで吹き飛ばされたのだろう。

 

 少女の足はずっと痙攣し続けている。どこかが麻痺してしまったのだろう。

それでも、必死に薙刀に縋って立とうとしている。

遠目に少しずつ足の痙攣が治まってきている様子が見えた。

あのままなら、もう少しで立ち上がれる筈だ。

ジャックがホッとした、その瞬間だった。

 

「ヴァギャオオオォォォ!!! 」

 

 大きく開かれた竜の赤黒い口から、薄青く光る球体がとび出した。

それは、ジャックが瞬きをする間もなく――――一瞬で真っ直ぐ少女に当たった。

立ち上がろうとしていた少女は薄青い電撃に包まれて倒れた。

それっきり、狩人は動かなくなった。

 

 ジャックの体が震えた。

恐怖が頭の中を埋め尽くした。

不安定に揺れ動く視界の中に、動かぬ少女に近づく竜がぼんやりと見えた。

のっそりと一歩ずつ、確実に少女に近づいていく。

その距離が、竜が進む時間が、全てが怖かった。

 

 思考するよりも先に、これまで震えるだけだったジャックの体が動き出していた。

最初はゆっくりと水底を踏み進み、やがて早足になって地を駆け、そして全速力で足をフル駆動した。

走りながら、背負う槌の柄をいつの間にか握っていた。

何も考えていなかった。無心だった。

見る見るうちに蒼き恐怖に近づく。比例して、殺気が大きくなってゆく。

竜と少女にはもう距離が無かった。ちっぽけな自分の存在に、竜は気づいていなかった。

 

 全身の筋肉を張って、渾身の力を足に込め、蒼き恐怖を見据えて――跳んだ。

その瞬間少女がピクリと動いた。そんな様子が視界の隅に写った気がした。

同時に、妙に遅い動きで竜の首が回って、空中の自分を向いた。

全てがスローモーションだった。槌の柄を握り、引き抜こうとする自分の手の動きが遅かった。空中を前進する動きが遅かった。竜の醜悪な顔を見て恐怖する心の動きが遅かった。

人間の目と怪物の目が合った。

うっすらと、『俺、死んだかもな』と思った。

槌を天高く振り上げながら、そんなことを思った。

 

「……ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! 」

 

 思いっきり槌を振り下ろした。

両腕の筋肉が悲鳴をあげている。手の甲から血管がゴツゴツ浮き出ている。

槌が竜の頭にめり込んでいるのが見えた。あ、角折れてら。

目だけはまだ生きてる。口から大量の血を吐き出してジャックを染め上げているが、目は生きていた。槌が手から離れた。地面目掛けて落ちてった。

ジャックは空中で全てを失った気がした。目の前の竜が突然恐ろしく怖くなった。

 

――――今度こそ、俺死んだな――――

 

 目を閉じる寸前、竜が口を開いたのが見えた。

閉じた瞼の裏で、何故かナルガの顔が見えた気がした。

 

 

……

……

……

……

……?

 

 ……ゆっくり、目を開けた。

同時に、固い地面に打ち付けられた衝撃が体を襲った。

しかしそんなことは気にも留めず、目だけに集中していた。

ジャックが見上げる蒼く雄雄しい竜は、口を開いたままの格好で固まっていた。

一体何だ、と訝っていると、竜の喉元あたりから、ニュッと何かが飛び出した。

銀色に輝いているそれは、小気味の良いスパッという音と共に横に一閃した。

噴水のように真紅が吹き出して、洞窟の天井、壁、そしてジャックを濡らす。

一拍遅れて竜の頭がグラついた。落ちた。皮一枚で首と繋がった。

――――竜が横向きに倒れた。

 

 

 水に沈んだ亡骸から目を離せずにいると、細くて長いものに肩を突っつかれた。

驚いて顔を正面に向けると、片手に薙刀を握った天使が、ジャックに笑顔を向けていた。

ジャックが口を開くのと同時に、少女も口を開いた。

二人の声は綺麗に重なった。

 

 

「「……ありがとう」」

 




えっと、総合評価“-”2000超えってのは中々居ないんじゃないでしょうか。
(マイナス)って……凄いねっ(´・ω・)
ここからどんどんのびてって最終的には-10000なんてことになっちゃう日もそれほど遠く無いかも。そうなったら逆に嬉しいかも。
プロローグの最初の何文字かだけでも読んで下さって、それから評価して下さった方がそれだけ居るということにはなりませんかね……?

あぁ、自虐的な文章って見てて痛い……
まぁこの文もだけど。自己嫌悪に陥ってます(´・ω・)

――気にせず好きな時に小説は書いていきましょうか。
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