【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第二十一話 【再び馬竜へ】

 違和感の正体は、結局ジャックには判らず終いだった。

判らず「終い」とは言っても、何かに監視されているような感覚は未だにヒリヒリと肌で感じている。

突如として現れたあの時ほど寒気がしないまでも、不気味な静けさに物凄い恐怖を感じるようになった。迷惑極まりない。

出来るだけ気にしないように努力はしている。一ヶ月もすれば慣れてしまうだろう、という見込みもあった。

駄目もとでナルガに相談してみると――

 

「……知らんがニャ」

 

 ――とのことである。有難いお言葉だ。

違和感は戦闘にも生活にも大きな支障を来たさない。

だから、着実に迫る馬竜(ドスガアマ)再戦(リベンジ)の時も、万全の状態で戦えると踏んでいた。

もっとも、渓流に彼が現れるのは気まぐれなので、下手をすれば一年などという長い年月を経過したあとで戦うことになるかも――――

 

「――よし、ジャック、嬉しい知らせだ。通りがかりの行商人が渓流で焦げ茶の巨大な馬を見つけたとの情報が入った。同時にそれの討伐依頼もな」

「……マジですか」

 

 ――ということは無いらしい。

いつもどおり、カエダ村の雄々しき村長様はベンチに横になって、更に目を瞑りながらジャックに用件を伝えている。寝起きらしい。呼びつけたくせに。

 

「何だその顔は。喜べ。リベンジの時だぞ」

 

ジャックの顔を見もせずによく言う。喜んだ表情はしていないのは事実だが。

 

「……いや、あまりにも俺得すぎる展開だったもんで」

「まぁ、別にどうでもいいことだがな。それで、ドスガアマ討伐に出かけるのは、今日の正午にして欲しい。“絶対に”それより早くには出るな」

「何で? 」

 

 いやに“絶対に”を強調してくる。

聞き返すと、気のせいかサムは一瞬言葉に詰まったように見えた。

 

「……こっちにも色々事情があってな。気にすんな」

「知りたくなるような言い方すんな」

「ちょっと黙っててもらえるか?」

「……了解」

「黙ってろっつったろ」

 

暫しの沈黙。時間にして一分くらい。

 

「……よし。それじゃあ、言いたいことはもう伝えてあるから、準備に向かえ。早く」

「俺は何のために黙ってたの!? 」

「うっせぇ。行け」

 

 最早理解不能である。この男らしい、という一言で片付けるにも多少抵抗があるくらいだ。

しかし、秘術『うっせぇ』が出るともう議論の余地は無い。従うのみだ。

因みに、『くっせぇ』も同様である。

 

 という訳で、ジャックは不平を道中にばら撒きながら自宅に帰ってきた。

時計を確認すると、午前10時。農場の修行帰りに呼び出されたからこんなもんか。

 

「……あと二時間、か」

 

 充分である。何しろ防具を着込んで槌を担いで腰にポーチぶら下げればいいだけなのだから。

ナルガには村長から前もって伝えられていたらしい。既に渓流前の門の下にいるんだとか。何時間も待つくらい暇すぎるのだろう。研究しろよ。

道具袋(ポーチ)の中はそれなりの具合である。少し整理してみよう。

 

・回復薬×10

・生肉×5

・携帯肉焼きセット×1

・シビレ罠×2

・秘薬×1

 

 物理的にこれが限界である。これ以上詰め込んだら間違いなく革が破れる。

ナルガが持ってく筈のシビレ罠と携帯肉焼きセットがここにあるのには訳がある。

まず、ドスガアマリベンジ戦が大切なので、シビレ罠を忘れる訳にいかない、という理由が一つ。

もう一つは、ナルガのほうのポーチが物凄いことになってるらしく、シビレ罠が入らないそうだからである。携帯肉焼きセットの理由もこちらだ。

 

 本来、ナルガのポーチは財布に比例してかなり乏しい筈なのである。

所持金の話はおいとくとして、彼は基本的にシビレ罠と落とし穴と携帯肉焼きセット、そして各種弾丸しか戦場に持っていかないからだ。

初アオアシラ戦で油を持ってきていた理由は未だに判らない。

最近になって『各種弾丸』はライトボウガンに巻きつける、自身に巻きつけるなどして道具袋には入れてない。

その方が装填に時間がかからないから、らしい。

おかげで最近のジャックのオトモアイルーはかなりの重装備で、さながら人類最後の決戦に挑むかのような風貌になっている。いや、猫類か。

 

 大分話が逸れたが、持ち物はこんな感じでいいとする。

多少漁った程度なので片付ける必要も無い。このままナルガの待つ門に向かうのもいい。

しかし、時間は現在11;00。一時間もの猶予がある。

ナルガを待たせてしまうとかはどうでもいいので、体を慣らす為に村を走り回ることにする。我ながら賢明な判断だ。

 

「ふぅ~……」

 

 深い吐息と一緒に首をゴキゴキ鳴らし、衝動を抑えきれずに十字の顎を掻く。

最近顎を引っ掻きすぎて血が滲み出ることがある。痛い。

さて…………んんんっ!!! 

 

 青い体駆はにこやかに、勢い良く商店街を走り出した。周りから白い眼で見られた。

 

 

━ ━ ━

 

 

「あと……一時間、ニャ」

「いい加減暇してんだろお前」

 

 場所は変わり、カエダ村東正門。

門の上にねっころがる若き門番からは、どことなく村長の影を感じる。

それなりにでかい門の影に隠れたナルガは小型の時計を覗き込む。

時間を確認した後、それを道具袋に詰め込む。戦闘には些か役に立たないのではないか、と思わずにはいられない光景である。

 

 艶やかな純紫色をした毛は、その重武装の間から僅かに覗く。

大小色彩重量様々な弾丸の数々は一本のベルトに纏められ、ナルガの小さな体を螺旋状に丸三周している。

背中には重々しい外見の黒帯ボウガンが装備してあり、銃口は光を浴びずとも怪しげな光を帯びる。

それらの下には、オトモ用に設計された鋼の防具。

模様が一切無い、シンプルな戦闘用防具だ。その名もチェーンシリーズ。

頭用防具は真ん中から縦に開く構造になっていて、今はそれが開ききってナルガの素顔がおもてに出ている。

 

 戦闘の前らしい狩猫の凛々しい表情――であって欲しいところだったが、悲しいかな今は暇を持て余したぐったりとした顔つきであった。

 

 一方の門番は燦々と照りつける太陽を見ないように首をカエダ村のほうに曲げる。

すると、影がこちらに向かって走ってくるのに気が付いた。

 

「……誰だ!? 」

 

 影に向かって叫ぶ。一応はっきりとした用の無い者は村の外に出してはいけないことになっている。

影は叫び声に反応して門番を見上げた。

柔道着の門番は、ようやっと影の正体に気づいた。

 

「――村長!? 」

「降りて来い! 急用だ!! 」

 

 汗を流しながらも無表情の村長は、門番を呼びつけた。言ってる通り、急用の様子。

何かただならないものを感じ取った門番は、門から飛び降りた。

一応それなりの高さはあるのだが、気にしない様子。着地もスムーズである。

そのまま門番は村長のところまで駆けていった。

 

 ナルガは遠すぎて、二人の会話は聞き取れない。

しかし、射撃手だからこそのずば抜けた視力で、門番の顔色が見る見る変わっていくのは判った。

どうも、自分が干渉できるような容易い問題では無さそうである。

 

「……ニャ? 」

 

 二人の後ろからまたしても影が見えた。猛烈な走り方である。

――転んだ。無様だ。確信した。敬愛すべき我がご主人様だ。

開いたポーチから時計を覗き見ると、時間は11;13。まだ早い。

 

「行くぞォォォォォォォォ!!! 」

「は!? 」

 

 起き上がって更にジャックはスピードを上げた。鬼の形相である。

真剣な顔つきの二人の大人を瞬く間に追い越し、門とナルガを通過した。

勢いは止まず、ご主人様は猪の如く渓流に飛び込んでいった。

 

呆然とするナルガだったが、ハッとしてジャックの後を追って走り出した。

 

「待つニャ変人~!!!! 」

 

 門番と村長が渓流方面を向いた時、すでにナルガの姿は消えていた。

二人の顔が更に青くなっていった。

 

「ヤバイぞ――――!!! 」

 

 

――――時刻11;15――――




更新が大幅に遅れたことをお詫び申し上げます。
理由を今言うとかなり「言い訳感」があふれ出てしまいますが、事前にお伝えしてなかった私がいけなかっただけですね、はい。
――簡潔に言わせて頂くと、『旅行』です。
岩手の親戚の家に五日の間居座っておりました。
当然、パソコンを使わせてもらうことも出来ませんで、旅行の報告すら不可能という有様で……
以後こういったことの無いよう善処します。申し訳ありませんでした。

自業自得……やはり、-1400ポイントまで戻ってしまったのは痛かった。
一時的に800まで引き戻すだけで精一杯だったので、回復には手間取るでしょうね(´・ω・`)
それでもお気に入り登録数が9人を維持していたのが、驚くと同時に猛烈に嬉しいです。目指せ10人っ。

いつに無く長い後書きになりました。
今回の長期不在の件はもう一度、深くお詫びさせて頂きます。
これからは切り替えて更新頑張っていこうと思いますので、応援宜しくお願いいたします。
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