【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第二十二話 【開戦の合図×2】

「……馬鹿すぎて萎えるニャ」

「るせぇっ!」

 

 村を十五分で一周し、そのままの勢いで渓流へと飛び出したジャック。

気合が入りまくった結果、エリア6まで一分で到着。そして、転ぶ。

エリア6は8割が穏やかな小川であり、そこで転倒したので、当然防具は泥塗れ。打撲も数箇所。戦闘前にとんだ失態である。

転倒というタイムロスのおかげで、ナルガはすぐさまご主人様を発見できて、手間が省けたと言う。今は呆れを通り越して哀れみの視線を投げかけていた。

 

 黒と黄色が散りばめられた濃い青のランポス防具は、これまでで修復を重ねてきたというのに、一瞬でかなりみすぼらしくなった。

出来る限り泥は落としたが、細かい隙間に入り込んだ茶色は取れない。

溜息をつきながらジャックはフードから頭を出すのだった。

 

「水没林の時といい、最近はよく転ぶもんだな……」

「狩りの最中で転んだら笑い事じゃ済まないニャ。ちったぁ気を付けるニャ」

「あいあい了解」

 

 まだギリギリ午前中。太陽はもうすぐ真上に昇る。

渓流の温度は軽く30℃を超え、完全武装の狩人達は湧き出る汗に苦しむ。

空を見上げれば若葉の間から陽光が溢れ、直視すると閃光玉並の威力を発揮している。戦闘中はなるたけ上は見たくない。

背中のアシラハンマーに手を伸ばす。冷ややかな鋼の塊を直接手に感じる。

昨日磨いたばかりなので小さな傷や欠けた部分は無い。万全である。

 

「……よし。それじゃあ、獲物を探すとするか!! 」

「あんまり派手に動いて不意打ち受けるニャよ」

 

 ジャックは片手にハンマーの柄を握り、緑の深くなるエリア5へと歩き出した。

そのすぐ後ろを、両手に漆黒のボウガンを構え、姿勢を低く周囲を警戒しながらナルガがついて行った。

 

 

━ ━ ━

 

 

 ――――一方、カエダ村東門の下。

村長と門番は未だに額をつき合わせている。

現状に対策を打つ為に。

 

「俺は村を離れる訳には行かない。村長としてそれは当然のことだ」

「……なら、今クエストに出ていないハンター達を送るしか……」

「駄目だ。上位に食い込むほどのハンターは今この村には居ない」

「訓練所の教官は? 」

「訓練生達と課外授業。砂漠に出てる」

「…………ジャック達が対応できる可能性は? 」

「無理に決まってる。ドスガアマで手一杯だろ」

「………………」

 

 門番は歯軋りした。

喉の奥から、潰した声で更に提案を繰り返す。

 

「今からジャック達を連れ戻すのは? 」

「説明したら益々やる気になっちまうだろうよ」

「――――なら!! 」

 

 門番は顔を歪め、悔しそうに呻く。そして、苦しげに村長を見た。

サムは、何も言わずに目を瞑り、小さく首肯した。

門番はそれだけ見ると、悲しそうに俯いた。何も言わなかった。

暫くそのまま時が流れた。

 

門番は、自分にしか聞こえない声を絞り出した。

 

「……わかりました」

 

 村長にその声は聞こえなかったが、無言で身を翻した。

門番を一人残して、サムは村に戻っていった。

門番には、自分の声の余韻しか残っていない。

ゆっくり顔を上げた時、もうすでにサムの後姿は無かった。

 

「何で……こんなことに……」

 

 門番は、一度瞬きをした。苦しげな瞳から、薄く、鋭い瞳に変わった。

さっと踵を返し、村を背にして門に向かった。

木に出来たくぼみを巧みに使い、瞬く間に門の上まで登ると、いつも寝転がるあたりに足を進めた。

 

 そこには、小さな小さな、本当にわからないくらい小さな釘が刺さっていた。

門番はそれを摘み、回しながら引き抜く。

完全に釘が門番の掌に移動した途端、ガコッと音がして一部だけ板が外れ、中に落ちた。

門番は、《中》にあるものを見て一瞬戸惑った表情を浮かべた。

が、再び顔を引き締めて、それを握って《中》から出した。

 

 ――――太刀だった。刀身が収められた鞘から柄まで埃を被って薄汚れた太刀だった。

丁度門番の身長と同じくらい長く、刀幅は腕ほどもある。

分厚い埃の層を手で払いのけると、鞘に刺繍された模様が陽光に晒された。

三枚の紅葉が描かれている。一枚一枚違った――斬られ方をしていた。

一番上の一枚は縦に真っ二つ。その下は中心に穴が。更にその下の紅葉は、斬れない刀で何度も切り付けられたように、大量に傷がついている。

 

 門番はその太刀を片手に握ったまま、門を飛び降りた。

着地すると同時に、渓流方面から禍々しい殺気を感じ取った。

見れば、木々の影に黄色く無機質な二つの光が浮かんでいる。

 

「………一匹、進路を変えたのがいたか」

 

 門番の声に反応したか、二つの光は木々の間から出てきた。

縦に開いた瞳孔がはっきりと見える。縦に長いのっぺりした顔も。

汚らしい口から、毒々しい紫色の舌がはみだし、その先から黄色い涎が地面に落ちる。

赤く厚い甲殻から、棘が所々生えだしている。

歪んだ丸い体がのっそりと一歩一歩門番の方に向かってくる。

 

 門番は、無言で鞘から刀を引き抜いた。

放たれた刃は、太陽の下で美しく輝いて、門番とバケモノを映し出す。

鞘を門の方に投げ捨て、刀の刀身を撫でると、何とも言えない音が響いた。

 

「……来いよ」

「グルルルルルルル…………」

 

 

━ ━ ━

 

 

 ジャックとナルガの二人は、エリア5の中心部にあったであろう大樹の切り株に腰掛けていた。

二人とも、何も喋らない。張り詰めた空気が、これから現れる何かを示している。

エリア7に繋がる広い道の先に、小さく敵が見える。

その敵は、ゆっくり闊歩する。足音からは、威厳すら感じられる。

王の風格。気品。美しさ。彼を化物(モンスター)と呼ぶには抵抗がある。

風に揺れる(たてがみ)は光沢を帯び、艶めかしい。

天を突かんとするかのように、その一本角は雄々しく上を向く。

初めて出会った時には《無機質》に見えた青い両眼は、今は《威厳》に感じる。

戦闘前の冷静さ。腰掛ける敵を静かに見据え、自分の存在を蹄の音で表す。

 

 馬竜(ドスガアマ)は立ち止まった。

エリア5の深い緑に入り、その美しい焦げ茶色は益々際立つ。

 

 ジャックとナルガは立ち上がった。

切り株から飛び降りると、馬竜(ドスガアマ)から15mほどの距離に居た。

 

 ドスガアマは上体を持ち上げると、高く(いなな)いた。

 

 

 

 

「クオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!! 」

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