【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第二十三話 【REVENGE -今度は砕けない-】

「――――オオオオオオオオオ!!! 」

 

 ドスガアマの目に、ほんの僅かな熱が見えた気がした。

――開戦、か。

 

 高い嘶きの声が止まると同時に、ドスガアマはジャックに向かって駆け出した。

強靭な四肢を振るうと、信じ難いスピードが生まれる。

しかし、今はそれに反応できる。ジャックには、ドスガアマの動きがよく見えた。

タイミングを見計らい、ハンマーを精一杯引く。

 

「今度は砕けない……砕けないッ!!! 」

 

 ドスガアマの蹄がジャックの一m先で音を立てると同時に腕を撓らせ、渾身の力でアシラハンマーを振りぬいた。

鋼と角がぶつかりあう轟音すらも、心地が良い。

ハンマーを見てみれば――――砕けていない。ジャックは不敵に笑った。

 

「らぁぁッ!! 」

 

 更に掌に力を込め、ドスガアマを弾く。

瞬間的に勢い負けしたドスガアマはバックステップで距離をとる。

ジャックは殴り飛ばした後すぐに体勢を立て直し、ドスガアマの足が地面につく前に突進した。

重いハンマーを天高く振りかぶり、角を避けるようにして下ろす。

一瞬とらえたか、と思うジャックだったが、手ごたえは無かった。

どうやら馬竜は地面に足がつくと同時に蹄の角度を変え、右に跳んでかわしたようである。

アシラハンマーは虚しく空を切り、地面に落ちた。

 

「……チッ」

 

 一度の跳躍で大きく距離をとったかと思えば。ドスガアマはまたしても突進を始めていた。

槌を持ち上げる時間が無い。

心臓がザワッと大きく脈打った。

 

 ――しかし、ドスガアマは突進途中で横から何かを喰らってぶっ飛んだ。

横っ腹が爆発し、爆風ですっ飛ばされたようだ。

 

「……いきなり大玉使わせんニャよ旦那……」

「徹甲竜弾レベル3だっけか。お前あれ二発しか持ってなかったんだっけ」

 

 エリアの対角線上、隅っこの大樹の根元にナルガが居た。

この数秒の戦闘の中であそこまで移動できることが凄い。そういうところはやはり猫だ。

といっても、元々それほど大きなエリアでは無い。50mも無いか。

恐らくあの木の上から狙い撃ちしたいのだろう。

ドスガアマが木登りできるとも思えないし、ナルガは絶対安全だ。

 

「……いいな、ガンナーは」

 

ジャックがボソッと本音を洩らした。

 

 同時にバキバキッと音がして、ドスガアマが立ち上がった。

まだご立腹の様子には見えない無いが、少なくとも本気でやる気にはなっただろう。

 

「よし、来いよ」

「クヲォ!!! 」

 

 前傾姿勢で前足を横に滑らせ、前進しつつ回転する。

ジャックの視界が艶やかな尾の毛で一杯になった。

反射的に体を“く”の字に曲げると、間一髪で二本の後ろ足を避けきった。

くの字の体勢から横転で少し距離をとり、助走をつけて跳躍。

ドスガアマの目はジャック――空にひきつけられる。

 

「クォ……」

 

 瞬間、ドスガアマが頭を下げて視線を下ろした。

雲ひとつ無い快晴。宙を舞うジャックの真後ろには太陽。

その光の効果は閃光玉には及ばないものの、軽い眩暈を引き起こす。

 

 無防備の首に向かってジャックは力一杯ハンマーを叩きつける。

皮膚が堅い。手が痺れた。手ごたえはあったが、流石に骨は折れなかった。

ジャックはハンマーを起点にして空中でバク転し、ドスガアマの後方に着地。

着地した足でそのまま地面を蹴り、ドスガアマから離れる。

 

「本気で殴ったのかニャ?全然効いて無さそうニャ……」

 

 わりと小さなエリアなので、木の上からのナルガの声が聞こえてくる。

確かに、ドスガアマにダメージがあったようには見えない。

それは槌だからということもある。太刀や大剣といった斬撃系統の武器なら攻撃すると肉が切れて血が吹き出るか弾かれるかの二択なので相手にダメージがあるか分かりやすいが、ハンマーは違う。

叩きつけて体の内部から攻撃するのだ。内臓の器官が破壊されて吐血することもあるが、基本は多少フラつく程度で終わる。はっきりと“効いてる”ことが分からない。

 

 ドスガアマは今フラついてるかどうか分かりづらい。

微妙に足が揺れ動いてると言われればそうかもしれないが、違うと言われれば違うかもしれない。

こういう場合はあとでがっくり来ないように“効いてない”と考える。

 

「……かなり本気(マジ)でぶっ飛ばしたつもりだったがなぁ……骨折るくらいの勢いで」

 

 ドスガアマが振り向くと同時に突進してきた。

突然だったので驚いたジャックは死ぬ気で走ってその突進をよける。

恐ろしい勢いで過ぎていったサラブレッドは脅威の前足で踏み止まって、Uターンして再度ジャックを狙った。

 

「なっ!!! 」

 

 純白の角が怪しく光りながら猛然と迫り来る。

エリア対角線上の樹木の上からナルガの射撃は続いているが、怯む様子は全く見えない。

避けるには時間が足らなすぎた。

慌てて突き出したハンマーと、それを後ろから支えるようにして伸ばした片足に耐え難い衝撃が走る。

角がしっかりと槌の頭にぶつかっていた。

ドスガアマは衝撃にワナワナと震え、目線を下にしたまま角先に力を込める。

 

 両手と片足を使っても堪えきれない。全身の骨に罅が入っているような錯覚を覚えた。

片足の踏ん張りももうすぐ限界が訪れる。

視界の隅に、ドスガアマの後ろ足が片方浮き上がっているのが映った。

これならいける、か?

 

「うんぎぎぎぎぎぎ…………」

 

 ゆっくり、ゆっくりとハンマーを横に滑らせる。

角がそれにつられてゆっくり、ゆっくりと横に滑っていく。

後ろ足片方の力だけで転ばずにいられるのも、数秒ともたない。

自ら槌を弾くか転ぶか。ドスガアマの決断が迫られる。

 

 後ろ足の蹄が地面をグリンッと派手に滑った。

《転んだ!! 》とジャックが思った。

――がしかし、それは違った。

 

「クオオオオオオォォ!!! 」

 

 ドスガアマは後ろ足を二本とも空に浮かせて下半身を持ち上げた。

そして前足にグッと一瞬力を込めると、槌に当たったままの角をギギギッと動かした。

槌の頭を角が滑り(けずり)、槌から離れると同時に下半身が更に高く持ち上がった。

 

「あぁ……? 」

 

 馬が、前足の力だけで跳躍し、空中で回転した。

ジャックは呆然と上を向いて間の抜けた声を出した。

 

 ドスガアマはジャックの真後ろに華麗に着地すると、角を突き出した。

またしても反射的にジャックは首を曲げた。

――その瞬間、ジャックの頭があった場所を純白の角が貫いた。

 

 ジャックはここまで己の反射神経に感謝したことは無かった。

一瞬の差で頭に風穴が空くところだった。

 

「まぁ、痛いけど」

 

 角の先端は少しだけ血に濡れている。

ジャックの首の皮が一部貫かれ、そこから鮮血がツー……と静かに流れ落ち、肩に溜まっていた。

 

 顔の真横に獣の角がある。

ドスガアマはその長い頭をジャックの左肩甲骨あたりに思いっきりぶつけていて、今も尚力を加え続けている。

このままじゃ骨が折れる。

 

ジャックはハンマーを手放し、顔の真横にある堅いものを両手で引っつかんだ。

 

「旦那!? 」

 

 ナルガの驚いた声を聞き流し、ジャックは肩から掌にかけて、全身の力を込める。

防具の下の腕から所々血管が浮きで、筋肉が怒張してピリピリと振動していた。

両足で地を突き刺さんとばかりに踏み込み、周りの空気が震えるほど集中する。

顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。

目は白目になりかけ。

 

 腕が壊れそうだ。

でも、もう少し。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ――――」

「ク……クォォ……?」

 

 ドスガアマ前後ろ全ての足が、地面から離れた。

獣の全体重が肩と腕にかかり、この状態を保っていられない。

ジャックは一瞬だけ、無意識に意識を飛ばした。

正真正銘、“全ての力”を腕に込めた。

 

「――ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!! 」

 

 ――刹那、ドスガアマが反転し、轟音と共に地面に叩きつけられた。

地面に大きな振動が走って歪み、少しだけ地形が変わった。

ドスガアマが青い目をブルブルと震わせ、痛みでのた打ち回っていた。

 

ジャックは赤い顔で息を荒げたまま、ちょっと得意気な顔で言った。

 

 

「どうよ……俺の背負い投げ」

 

 

━ ━ ━

 

 

「――がらぁぁぁぁぁぁ!!!!! 」

 

 白い柔道着を風にはためかせて空中に飛び立ち、回転しながら落下して刀を獣に突き立てる。

元々罅の入っていた燃えるように赤いその甲殻は、その一撃でバラバラに砕け散った。

そして、刀は中の赤黒い肉まで貫いた。

赤甲獣(ラングロトラ)は長い悲鳴を上げる。

 

 門番は残った甲殻に足をつき、容赦なく太刀を横に薙いだ。

バシャアッと派手に血が吹き出て、黄褐色の地面を濡らした。

更にラングロトラは悲鳴を上げて地面に転がった。

門番は急いで刀を抜くと、すぐに振り落とされた。

地面を三転ほどしてさっと立ち上がると、苛立ったようにして叫んだ。

 

「野郎、さっさと立て!! こっちは時間がねぇんだよ!!! 」

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