【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第三十話 【大都市への旅の序章】

「え? いや、いいのか? 」

「いいに決まってるだろう。そいつはお前自身が倒した獣からとった素材で出来てるんだからな」

 

 ジャックは驚愕と戸惑いの表情から恍惚の表情へと一変した。

限りなく黒に近い茶色のドスガアマシリーズを日に当てると、胸に埋め込まれた蒼い甲殻が煌いた。

 

「……サンキューな、おっちゃん」

「村長に言え。じゃあな」

 

 そう言い残して、マーカルはまた店の奥へ消えた。

ジャックは防具を舐めるように見たあと、その場で私服を脱いでインナー姿になり、防具を着込んだ。

興奮していたせいか試着に手間取り、完全にその身を鎧で包んだ時には彼は息切れていた。

暑い。強烈な日光を浴びてる時より更に暑い。重厚な鎧で体が溶けそうだ。

しかし、ジャックはそれすらも気にならなかった。

まだ比較的軽いランポス防具しか着たことの無い彼にとって、この防具はかなり重いものに感じた。

が、実際はドスガアマシリーズはその他の防具たちより遥かに軽く設定されており、ジャックが経験不足なだけである。

本来はランポスシリーズももっと重い造りになっている筈なのだが、マーカルはハンターズギルドが発行した《防具一覧》に載っている防具を見るなり「けっ」と呟き、それと全く違った防具を造った。

装飾なども随分自分好みに変えた為、ジャックは全身真っ青のセンスに欠ける防具を身に纏って戦場を駆けることになってしまった。

しかし、そんな痴態もここまでである。

ドスガアマシリーズが大変格好いいところを見ると、マーカルはハンターズギルド設定の防具に沿って造ってくれたのだろう。とてもありがたい。

 

 そんな考えに耽りつつ、手を伸ばして机の上のハンマーを握った。

丁度良い重みで、よく手に馴染む。軽く振ってみると、ブオンと風を切る音がした。

どうやらアシラハンマーよりも柄が長い分、鉄塊に遠心力がのって威力が増すようだ。

 

「……うむ、これはおっちゃんに礼言っといてよかったぞ。村長にもいつの日か言っとくとしよう」

 

 ジャックは大層上機嫌な様子で帰宅した。

何だか周りの風景が随分美しく見えるようである。気分でここまで変わるものなのか、とジャックは驚いた。

防具を脱いで、槌と一緒に慎重に部屋に置いた。

それでも興奮が収まらず部屋を跳ね回っていたら、机の脚に足の小指をぶつけ、悶絶した。声も出ない。

足を押さえて無言で床を転げまわり、激しい音を出していると、何事かとナルガが駆けつけてきたが、ジャックを一目見るとすぐ部屋に戻っていった。

まっこと平和なジャック宅である。

 

 

━ ━ ━

 

 

 それから数日後、狩人護衛狩人依頼の為にドンドルマへ向かっていた教官が帰ってきた。

カエダ村から驚く程遠い道のりな筈なのに割と早い帰還だったので、ジャック達は驚いた。

最近は移動用の気球に色々と機能が追加され、快適な空の旅が楽しめるようである。スピードも段違いだそうだ。

 

 それで、帰ってきた教官は早速ジャック、サイネリア、ナルガ、そして門番に吉報を伝えた。

どうやらカエダ村の皆様からの慎ましい依頼を受けてくれる御仁が一人、見つかったらしい。

話を聞いてみれば、HR4の下位ハンターらしい。今の彼等からしたら下位の狩人でも心強い。

 

「名前は本人から聞け!! 穏やかな空の旅で我輩はド忘れしてしまったからな!! ガハハハハハハ!! 」

「要するにもう年なんだな」

「鬼畜教官もそろそろ引退かね」

「生憎、認知症の治療法はまだ研究してないのよね……」

「ウンニャ」

 

 スリルのスの字も無いような面白味0の依頼を受注してくださった慈悲深い人の名前くらい覚えておいて欲しいものである。当然ながら、散々な言われ様だ。

クエストの報酬は1000zと、クエスト内容にしては案外高い方である。

旅行は行きに1日、帰りに1日かけて一週間から二日引いて、向こうでの滞在期間は五日間。五日間のドンドルマ案内、護衛をお願いする。

教官の話によれば、掲示板にクエストを貼ってから二日でたった一人しか来なかったようである。

金稼ぎが目的でハンターをやってる者達はもっと破格のものを狙っているとして、いつも荒々しい戦を続けている勇者達の息抜きとしては妥当だと思っていた四人だが、案外そうでもないらしい。

 

「まー、結局見つかったなら良かったじゃない」

「……そうだなぁ。怪我人が旅行に行くこと自体おかしくて、更に怪我が理由で《危険》と勝手に決めて。それの護衛を頼むなんて、俺達随分恥かいたけどな」

「顔写真載せてったんだっけニャ? ボク達がドンドルマ行けるくらい成長した時、どんな目で見られるんニャろうか……」

「ガハハハハハ!! 全部決まってから愚痴を吐くか貴様等!! 死ね」

「今の真顔は迫力あったな……」

 

 

「ともかく、これで色々決まったし。良かったなお前ら」

「綺麗にまとめたな村長」

「一応《(おさ)》の立場だしな」

「能力あるんだったら他の時でも使ってほしい」

 

 

 

 

━ ━ ━

 

 

 時は流れてあれから三日後、四人は村の門の前に立った。

門番は白い柔道着を黒帯で締めたいつもどおりの格好で、自身と同じ程も大きさがある大袈裟なバッグを二つも背負っていた。

サイネリアは淡い水色のワンピースに麦わら帽子を被り、桃色のリュックサックを持っている。

医療セットと着替えくらいしか入っていないので、小さめだ。

そして、ジャックとナルガはと言うと、渾身の狩人装備である。

一新したドスガアマシリーズに身を包み、同じく一新したハンマーを背中のフックにかけている。

戦闘で使用する道具袋(ポーチ)を腰から提げ、狩りに行く“まんま”の出で立ち。

ナルガも似たり寄ったりである。

二人の生活用品は門番が背負ったバッグの片方に詰め込まれている。

門番からすれば傍迷惑な話である。

 

 こうして四人並べてみると、かなり異彩なものだ。村長はしみじみ思った。

旅行に行こうとしてるのはサイネリア一人なのでは、と錯覚してしまう。

 

「まぁ、その、なんだ。気をつけて行って来い」

 

 無表情は貫くが、改めて言ってみると気恥ずかしいものである。年季が入ってるのに何てザマだろう。

四人を代表して、ジャックが防具の中からこもった声で返事をした。

 

「おうよ。一週間の間村頼むぜ」

 

サムは苦笑いした。

 

「元々お前がいなくても大丈夫なんだがな……まぁ、任せとけ」

「ウンニャ、教官含めボク達の他にも数人は狩人がいるからニャー。心配なんてしてないニャ」

「おお、信頼されてるな俺」

「一応《長》だしな」

 

門番が村長に言った。

 

「それじゃ、精々楽しんできます」

「おおよ。行って来い。傷はしっかり治せよ」

 

次に、サイネリアが言った。

 

「もし私がいない間に怪我人が出ても、絶対何もしないでね」

「……はい」

 

そして、ナルガ。

 

「流れ的に何か言わなきゃならないんだけど、別に何も言いたいこと無いニャ」

「お、おお、ふ。そうか」

 

最後にジャックが笑って言った。

 

「そんじゃ、挨拶も済んだところだし、行くか」

「たかが旅行なのに何でこんな長ったらしかったんだろうな。何かのフラグか? 」

 

 

 四人が手を振りながら門を出て行った。

サムも軽く手を振って、彼等を見送った。

すぐに影は見えなくなった。

 

「さて…………うん。そうだな」

 

サムは踵を返し、口笛を吹きながら自宅へと帰っていった。

 

 

 

 ――この時はまだ、彼は“違和感”を知らない。

「監視されているような感覚」がサムに届くまで、もう少し。

 

 

 

 あの砂漠の、あの小屋の、あの男がまたしても言葉を洩らした。

 

「サム・フォーリアス……いや、先にリュウジャ・カルファオンだな……」

 

 小屋の外で、あの竜の、あの咆哮がまたしても轟いた。

前よりもいくらか甲高い声だった。

 

 

 

 

━ ━ ━

 

 

 一方、ジャック達旅行人一行は渓流のど真ん中に居た。

当然、普段の狩りをする一帯からは離れた場所である。

あの一帯は観測上最も大型モンスターの出現率が高い場所なので、避けてきたのだ。

かなり遠回りだが、安全に越したことは無い。

当然の如く非戦闘員のサイネリアはともかく、武器を持たない門番も今は非戦闘員なので、安全に越したことは無い。

更に、戦闘員として数えられているジャックとナルガでさえも、怪我人である。

なるべくデカイのには遭遇したくない。

 

 気づかないままにセッチャクロアリの大群を散り散りにさせながら、ジャックは先頭を歩く門番に声をかけた。

 

「移動用の気球があるのはどこなんだっけ? 」

「ああ、悪い確認してなかったな」

 

 門番は一度言葉を切った。

念のため地図を広げて方向を確認し、改めてジャック達に告げた。

 

「渓流を北上したところに、小さな村がある。そこで気球を借りることになってる」

「村……? 何それ、近くに村があるなんて聞いたことないわ」

 

 サイネリアが首を傾げた。

それには、いばらを避けるのに格闘しながらナルガが答えた。

 

「多分、それって『ピガル村』のことじゃないかニャ? 」

「ご名答」

 

 門番は振り返り、三人に見えるように地図を広げた。

四つの頭に寄り、門番の指が地図上にある小さな赤い点を指した。

 

「まずは目的地はここだ。半日あれば辿り着けるぞ」

「ふぅ~ん。割と遠いのね……ってか、どしたのジャック? 」

 

 赤銅色の動く鎧の方を見ると、何やら首を傾げている。

顎に手をあて、何かを必死に思い出すような仕草をしていた。

表情は見えないが、恐らく顔を顰めているということが予想できる。

 

「ん、何かピガル村って何か聞いたことがあるような気がしてさ……」

 

門番が言った。

 

「半年に一回くらい来るぜ。向こうから商売人が。そんときに聞いたんだろうな」

「どうだかなぁ……うぅん、いつだったか。思い出せそうなんだが……」

 

ナルガが頭をポリポリ掻きながら言った。

 

「確か、ピガル村はキノコ類で有名なんだっけニャア。調合に必要なレアなのは半年に一回纏め買いしてたけど、中々安かったニャ」

 

「むぅ、やっぱり分からんな。まぁ行って見りゃ何か思い出すかな、ピガル村。全速前進だ」

「やっぱそうなるな。少し急ぐか」

 

 

 一行は歩調を速めた。

大都市ドンドルマへの旅。まずは気球を借りる為にピガル村へ。

太陽がいつもより激しく照りつける一週間はまだまだ始まったばかりである。

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