【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第六話 【VSアオアシラ 鮮血舞う渓流】

 「うんニャ……遅いって言われてもニャァ……」

 

 ナルガは困ったように首を傾げながら言う。

そんなお供のいつもの姿を見てジャックはフッと笑うと、立ち上がった。

地面に沈んだハンマーの柄をしっかり握り、力任せに引っ張ると、黒帯ハンマーはボコッと土を突き破って出てきた。

 

 何故か、ナルガが現れたことによってこちらの戦力が何百倍にも膨れ上がった気がした。

実際にはたいしたこともない力でも、ただ「存在」するだけで誰かの気持ちと力を一揆に上昇させるという特別な力をもつ生き物、ナルガ。

本人は自覚していないが、実際のところ彼がいるだけでジャックの力が大分向上しているのだ。

 

 ジャックはハンマー片手に立ち尽くすアオアシラに突っ込んでいった。

無謀に見えるかもしれないが、今行かなければ後でこのようなチャンスは来ない。

ジャックにはそれがわかっているのだ。

熊の腕をしっかり見詰めながら、低く構えたハンマーを走りながら思いっきり振り上げる。

 

「どうだあっ!!! 」

「グオオオオッ!? 」

 

 背中の甲殻を殴った時は傷一つつかなかったジャック渾身の一撃は、アオアシラの棘だらけの腕甲をいとも容易く粉砕した。

黄色く光る棘が数本ジャックの十字刻まれる顎をかすめる。

先程のジャックとは思えないほどの腕力。アオアシラの堅固な甲殻を物ともしないこのパワー。

怯み、驚くアオアシラをよそに、ジャックが不敵な笑みを浮かべて振り上げたハンマーをそのまま横に一閃。胸部に強烈な一撃が入り、熊は転倒した。

 

「ふぅ……ゲームは今始まったんだぜ!? 熊さんよお!!! 」

「ニャ……死にそうだったクセに……」

 

 苦笑しながら呟くナルガ。

小川に転がり、胸を押さえて唸り続けるアオアシラ。

ハンマーをクルッと一回転させて得意気に顎を掻くジャック。

 

 それからハッと我に返り、ボウガンに弾を詰めるナルガ。

自分は主人に加勢する為に来たのだから、アオアシラを攻撃しなければ意味が無い。

銃口をしっかり熊に向け、引き金を引く。引く。引く。

立て続けに銃から発射された通常弾レベル2は一発一発確実に熊の背中に撃ち込まれていく。

先程ジャックがぶん殴るも弾かれた箇所が見る見る穴だらけになっていった。

 

ア オアシラは更なる苦痛に一際大きな唸り声を上げた。

 

「おお? もう終わりか・・・? ってそんな訳ね、ねねねえよなぁやややややっぱ! りりり!!! 」

「旦那。言い終わりのとこ、声震えすぎニャ。果てしなく格好悪い」

 

 一瞬沈黙し、息絶えたかと思われたアオアシラは、小川からゆっくりと立ち上がった。

息が荒くなり、目は充血して真っ赤に染まっている……怒り状態、か。

モンスターに僅かながら備わっている理性の最後の枷が外れ、完全に野生の猛獣と化した状態を、ハンターの世界では俗に『怒り状態』と呼ぶ。

内なる力を引き出したモンスターの力は数倍にも膨れ上がり、これまでのような立ち回りでは確実にやられてしまう。

スピードも滅茶苦茶に速くなり、相手のモンスターが怒り状態になったら一旦エリアを抜けて怒り状態をやり過ごすハンターがいるというのも充分頷ける。

たいてい怒り状態というのは自身に相当なダメージが注ぎ込まれた時になるもの。

今回はジャックのハンマー攻撃を二つ、ナルガの通常弾しか喰らっていないのに怒ってしまうのは、それだけハンターの一撃一撃が重かったからだろう。

 

「グオオオオオオオオ!!! 」

「ひょえ……」

 

 アオアシラの怒号に、思わず二人はその場に蹲る。

実際それほど大きな声では無いのだが、単純に恐怖に打ちち負かされたのだ。

熊は口を閉じると同時に振り返ってまずジャックに襲い掛かった。

左右の腕を大きく広げ、右から左、左から右と連続して引っ掻いてきた。

その動きの速いこと。最初の一発が反応の遅れたジャックのインナーの端を切り裂いた。

 

「うおおっ!!! 」

「グルアアア!! 」

 

 ジャックはよろめくも、すぐ態勢を整え、次の一発を瞬間的にハンマーで受け止めた。

アオアシラの鋭い爪が黒帯ハンマーにぶち当たる。

五本の爪全てを正面から喰らったハンマーの鋼の付け根がミシシ……と音をたてる。

それを見て瞬時に武器崩壊の危険を感じたジャックはありったけの力を込めて、熊の腕を弾き飛ばす。

その反動でジャックの体も後ろに下がる。

 

「っ……」

「旦那! 危ないニャ! 」

 

 ナルガの叫びに気づいて振り向くと、熊の弾かれてない方の腕がこちらに迫っていた。

 

「なっ!? 」

「グルルルアアア!!! 」

 

 そこで間一髪で轟いた銃声と共に、アオアシラの腕に何かが刺さり、一拍遅れて刺さった弾丸が爆発した。アオアシラの腕は爆発の威力に負け、その場でとまる。

 

「徹甲留弾は高いのニャ……できればもう使いたくないニャ」

「ケチが」

「フンニュニャア!! 助けてやっただけありがたいと思うニャ!!! 」

 

 ナルガの構えるボウガンの銃口から煙がモクモクと天に向かっていた。

高威力爆発を巻き起こす少々レアな弾丸、徹甲竜弾である。

もろに爆発を受けたアオアシラの左腕甲はほとんど棘が吹き飛び、血まみれで見るも無残な姿になった。

 

 そこで怯みまくりのアオアシラにジャックが突っ込み、ハンマーを振るう。

顔の下に位置したハンマーを思いっきり振り上げると、顎に激突。

アオアシラの体の内部で衝撃が走り、顎の骨に罅(ひび)が入る。

ジャックはそのままハンマーを掲げた状態で右足でアオアシラの太い足を蹴り上げ、転ばせる。

 

「よし……一発入れてやらぁ!!! 」

「グ……グルア? 」

 

 再度ジャックの足元に仰向けに転がった熊の腹を見据えながら、ジャックがしっかり握ったハンマーを上から下へ、天から地へと一気に振り下ろした。

 

「っらああああ!!! 」

 

 時の声があたりに響くと同時に、黒帯ハンマーがアオアシラの腹にめり込む。

反動がジャックの腕を貫き、ビリビリと骨に直接衝撃が来、自然と表情が歪む。

しかし、アオアシラの表情に比べればたいして酷いことも無いだろう。

口から大量に血を噴出す。腹にくっきりとハンマーの痕が残る。

 

「グ……グオ……」

「ニャ! まだ生きてるんのかニャアア!!!! 」

「まあ、そうだろうな」

 

 地面に横たわるアオアシラにはまだ息があった。

それでも相当強烈な一撃だったようで、体もほとんど動かないように……見えた。

数秒考えて再度ハンマーを振り上げたジャックの腹に突然アオアシラの鋭い爪が飛んだ。

 

「はっ? ――――っぐああああああ!!! 」

 

 漆黒の爪は一瞬でジャックの薄いインナーを破り、皮膚を切り裂いた。

穏やかな渓流に血飛沫が舞う。ナルガの声にならない叫びと共に。

想像を絶するほどの激痛に、意識が薄れていく。自分の腹に目を向けると、ドクドクと大量に流れ出す真っ赤な血と自分の骨がうっすらと見えた。

ジャックの全身から力が抜けていく。しっかり握っていた筈のハンマーも手から滑り落ちて、小川の流れをポチャンと乱した。

 

「旦那ぁ!!!! 」

 

 ナルガが急いで駆け寄った。

その隙にアオアシラは立ち上がり、少し早足でエリア6から池が多いエリア7へと向かっていった。

 

「旦那、旦那……」

 

 ナルガは自分の道具袋からすぐに荒削りの横笛を引っ張り出し、口に当てた。

その間も、虫の息で、白眼を剥くジャックの腹からは血が流れ出していた。

ナルガが横笛に空気を入れ込み、並んだ穴に小さな爪を当てると、奇妙な音が聞こえてきた。

 

ピーピーピーヒャララッラ♪ピーヒャララ♪ピーピーピーヒャララッラ♪ピーヒャララ♪ピーピーピーヒャラ……

 

 甲高く、耳を刺激するその音、メロディと一緒に、ジャックの腹に少しずつゆっくりと新たな皮が張っていく。ナルガが懸命に笛を吹き続け、数分で元の見た目に戻った。

これは、お供が行う「応急処置」である。

特別な素材で作られた笛が奏でる音は聞いた者の脳を一時的に狂わせ、不可思議な指令を体に送ると、驚異的なスピードで傷口に皮が張り、再生していくというものである。

しかし、これはあくまで「見た目」だけを元の姿に戻す回復手段であり、体の内部はほとんど滅茶苦茶なまま。多少は再生するものの、あとは壊滅的な状況で残されている。

 

 完全に皮が再生し、ジャックの目にゆっくりと黒目が戻った。

意識が戻ったのだ。無意識に右手が内部が滅茶苦茶な状態の腹をなでて行く。

涙眼で笛をしまうナルガを尻目に、ジャックが呟く。

 

 

「仕切り直し、か……」

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