【hunter’s bible 《紅鷹の槌》】   作:紅鷹R

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第七話 【燃えるハンマー 決着の一撃】

 ジャックはしきりに顎を掻く。もはや痛くないのかと疑う程激しく。

 

「戦法を変えてみるか……」

「ニャ? 」

 

突然主人の口から零れ落ちた言葉にナルガが反応する。

 

「だからよ、これまで俺等は何も考えずに突っ込んでっただけだろ? あれじゃあ狩りは思うように進まない。結果、俺はこうなった訳だし」

 

 ジャックが腹をさすりながら言う。

ちょっと顔をしかめて言葉を続ける。

 

「人間らしく、『頭を使った狩り』をしようと思うんだが」

「……どういう意味ニャ?」

「要するに、小細工するんだよ。モンスターにはできないような道具を使ったり、策を練ったり。わざわざ今回の狩猟の為に取っておいた――」

「――ちょっと待つニャ」

「なんだ?」

 

 ナルガが口を挟み、ジャックが口を閉じる。

何やらナルガはポーチを開いて中を漁り、見る見る内に顔色が悪くなっていくでは無いか。

 

「……道具、ほとんど忘れたニャ……」

「んなにっ!? 」

 

 ナルガの小声にジャックは驚愕。

道具を? 忘れた? っつーことはつまり……

 

「痺れ罠も、落とし穴もか!? 調合用大タル爆弾も!? 」

「うんニャ……そうですニャ……持ってきたのはボウガンの弾と 何故か油が入ったビンだけ……」

「マジですか……」

 

 ジャックもナルガも顔を膝に埋めた。

普段、彼等は持ち物を分けて狩場に持っていっている。

ジャックは回復薬、生肉、クーラーorホットドリンクなど、主に口に含む物。

ナルガは罠系、爆弾系など、狩りで使う物。

ジャックが飲食物係なのは、これをナルガに預けて忘れられたりしたら命に関わるからだ。

必需品はせっかちな奴に渡せられない。

残った罠や爆弾などはもし無くても「何とか」大丈夫だから、ということでナルガ担当なのだ。

最近はナルガの忘れ物も減ってきていたので安心していたが・・・・まさかここでとは。

想定内だったとはいえ、これは「最悪のパターン」に属する。

対大型モンスター用にと取っておいた高価なブツが肝心なこの時に無い。

ジャックは拳で地面を叩くし、ナルガは申し訳なさそうな目でジャックを見るし。

 

「まあいいか……罠系は次のモンスター戦にとっとくとしよう」

「本当かニャ旦那!! ヤッホイ!! ヒャッハー!! 」

「そうだ……しかぁし!!! 」

 

 耳に入った主人の言葉に、落胆していたナルガが突然歓喜の舞を始めた。

ジャックはその変貌ぶりにかなり引いた。だから一際大きな声で叫んだ。

ビクッと身を震わせたナルガは、歓喜の舞をやめて正座の体勢に戻った。

 

「今回のミスの分、相当頑張ってもらうからな」

「ニャ……承知……」

 

 これで終了。許す代わりに沢山働けという訳である。

本当はジャックがビビりであんまり頑張りたくないから、という押し付けであるが。

内心口実ができて嬉しかったり。

 

「んじゃ……今ある道具だけで策を練るとするか……」

「ンニャッ!!! 」

 

 

 

━ ━ ━

 

 

 

――――渓流エリア7――――

 

「グルルア……」

 

 一時戦闘を休止したアオアシラが、そばに落ちていたハチミツを食い散らかしていた。

数分前まではそこに(たむろ)していた丸鳥(ガーグァ)達も、アオアシラの一声でエリア外に出た。

この広い空間を独り占め、というわけである。

熊の腹部には綺麗な円の形をした痛々しい青痣が見えた。

時々アオアシラが食事を止めて唸る原因である。

やはりジャック渾身の一撃はそれまで溜まっていたダメージに上乗せされたこともあって、相当応えているらしい。

足を引きずるまでに弱ってはいなくとも、もう四五発喰らったらダウンだろう。

 

 口元からハチミツを垂らしながら、不意に気配を感じて振り返った。

まだ周りにはあの憎きハンターは見えないが、この気配は確実に近くに何かがいることを示している。

 

「ガアア!? 」

 

 威嚇。しかし相変わらずの静けさ。

一瞬アオアシラが恐怖を感じた。自分に何かが迫っているのではないか……?

まさにその時、足元から声がした。

 

「ン……ニャアアアアア!!! 」

 

 熊の予感的中であった。

苔の入った地面に何の前触れも無く罅が入り、猫の声と共にその小さな体が飛び出してきたのだ。

――ジャックの剥ぎ取り用ナイフを握り締めて。

 

「グルルアア!? 」

「ンニャオオオ!! 」

 

 ナイフが弧を描く。

反応の遅れたアオアシラの首に深い切り傷が作られると同時に、鮮血が穏やかな渓流に舞った。

激痛にアオアシラは後ずさりしたが、背中に重い衝撃が走った。

 

「いいぞ旦那ァ! 」

「……腹に響く」

 

 アオアシラが無理やり首を後ろに向けると、目の端に顔をしかめたハンターが写っていた。

 

「よォう熊さん。俺の腹をどうしてくれてんのよおい……」

 

 ジャックが声を立てずに笑う。

それに熊が恐怖を感じた瞬間、黒帯ハンマーに力が込められ、アオアシラは前向きに転げた。

そのままうつ伏せとなったアオアシラの後頭部に、燃える銃弾が注ぎ込まれる。

すでにその場を離れ、茂みに隠れたナルガからの猛烈な銃撃であった。

 

「ニャハハ! 火炎弾の味はどうニャ! 」

 

 アオアシラは声も出ない。

立ち上がることもせず、うつ伏せの状態で苦しんでいた。

そして、一方のジャックは何やらハンマーに黄色いドロドロの液体をかけていた。

 

 液体が入っていた瓶、今空になった瓶を投げ捨てると、ナルガにウインクした。

 

「ニャッ! 」

 

 すると、ナルガは何故かボウガンの銃口をジャックに向けた。

否、ジャックの《ハンマー》に向け、引き金を慎重に引いた。

ボウガンの銃口が文字通り火を吹くと同時に、ジャックの握るドロドロのハンマーも業火に包まれた。

 

「う熱っちい!! ひょえぇ……もうちょっと考えるべきだったかな」

 

 ジャックが燃え盛るハンマーの本体を自分から遠ざけ、熱気がこちらに来ないようにした。

これぞ、特性の「火属性ハンマー」である。

何ら特別なことをしていない為、使用者が大変暑苦しいが、仕方が無い。

本当に単純な仕組みである。

ハンマーの鋼鉄の部分に油をかけ、そこに火炎弾をぶつける。

そうすれば当然ハンマーは燃え上がる。

何故ハンマーが燃え、溶けて無くならないのかというと。

黒帯ハンマーの鋼鉄部分の周りには農場での薪と同じく、明鏡石を加工して作られた薄い膜があるのだ。

カラグライト鉱石は火に強い。加工する時だって水圧を利用する。

だから内部の鋼鉄部分は無事という訳だ。

それらを知った上で、ジャックがこの方法を提案したのであった。

 

「うらァ行くぜえ!! 覚悟しやがれ!! 」

 

 ジャックが燃え盛るハンマーを振り上げた。

うつぶせ状態のアオアシラがゆっくり立ち上がり、目が赤くなってきた時に、その真紅のハンマーの光がアオアシラの顔に当たった。

 

「……グルア? 」

「うっらあああああああ!!!」

 

 ジャックのハンマーが思いっきり横に一閃。

高熱のハンマーが熊の脇腹に直撃した。元々痣になっていた部分が横に歪んでいく。

そして、アオアシラに業火が移った。すぐに火は全身に回り、熊は炎に包まれる。

 

「グ……グルアアアアアア!! 」

 

 全身を覆う青い皮が燃え、はがれていく。

アオアシラは苦痛にもがき、水辺に走っていった。足を引きずりながら。時々敵を振り返って。

 

「旦那ァ!!! 」

「……わかってる」

 

 ナルガが旦那を振り返ると、ジャックは腰を屈めてハンマーを自分の後ろで握っていた。

両手に顔を埋め、その鋭い両目だけはしっかり水辺に向かう熊を睨みながら。

掲げられたハンマーにジャックの《気》がこめられて行き、真紅に黄色い光が足されていく。

そして、真紅と黄色の混ざり合ったハンマーが、オレンジに光輝いた。

 

「ここだァッ!!! 」

 

 ジャックが橙に光るハンマーを投げた。

今まさに水に体を入れようとしていたアオアシラがこちらを振り返る。

目の前には、オレンジの塊があった。

 

「……お望みどおり、消火してやるよ」

 

 大地を揺るがす轟音と共にアオアシラの顔にオレンジが激突。

その威力にアオアシラの巨体が後ろに吹き飛び、業火に包まれた状態で小川にドボンと落ちた。

 

「グルルルアアアアアアアアア!!!! 」

 

 最後の吼え声を上げ、アオアシラは水の中で動かなくなった。

水中で絶命。その命は、赤と青に包まれて……消えていった。

 

 

 

 

 燦々と渓流を照らす太陽が、二人の勝者を祝福しているようだった。

少なくとも、ジャックとナルガにはそう感じられた。

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